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一緒に寝たいのに (水月+荒凪・ミタマ・サキヒコ・レイ)

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風呂上がり、歯磨きも終えて自室に戻った。レイから贈られたカメラとマイク付きテディベアの位置を整えたりしていると、扉が開いた。

「みつきー、ねるー?」

「うん、もう寝るよ」

寝間着を着た荒凪は目をぱっちり開いている、ちっとも眠くなさそうだ。そういえば瞬きをしているところを見たことがない、瞬きの必要がないのだろうか。

「いしょに、ねる」

うん、と返事をしそうになって、ミタマの話を思い出す。荒凪の傍に居ればそれだけで体調を崩す、ミタマが補填するのにも限度がある、せめて今日は一緒に寝るな……と。

「あー、ごめん。荒凪くん、今日は一緒に寝れない」

「……? みつき、僕達、いしょにねる……ずと、いしょにねた」

「うん、いつもはね。でも今日はダメ」

人間の姿の荒凪の表情と声色には感情が宿らない。寂しがっているだけなのか、怒っているのか、戸惑っているのか、何も分からない。体調が悪くなるからと正直に言えば荒凪が傷付いてしまう、どう説明したものかと目を閉じて頭を悩ませていると胸ぐらを掴まれた。

「……っ!?」

見れば、荒凪の頭の横から腕が伸びていた。生えているのはおそらく肩甲骨辺りだ。

(天津飯あるいは参号機スタイルッッ!?)

襟ぐりの広いシャツを着せているとはいえ腕が二本も飛び出ていたら首が詰まって不快なのだろう、荒凪は普段からずっと生えている方の手でシャツを引っ張っている。

「きゅ~……くび、やだ」
「何故」

喉の奥から響いてくる声は普段より低い。怒っている声色だ、こっちの声は感情が読める。喉の奥にある口は人魚の姿の時と変わらないからだろうか。

「うで、べつのとこ……だして。くび……」
「何故、ダメだ」

性格違うよな~、喉の奥の口の方が気が強いよな~、なんて考えながら胸ぐらを掴まれてぶんぶん揺らされる。

「やめい荒凪」

荒凪の二対目の腕がするりとシャツの中に戻り、肩甲骨辺りにあった膨らみが消える。俺の背後からミタマが現れる。

「今日はプールで寝たらどうじゃ? ワシも魚かヌシに化けて一緒に寝てやろう。水月でなくては不満か?」

「僕達は……いいけど、俺達は…………水月と……」

「見れば分かると思うがみっちゃんのベッドは狭い、みっちゃんは無駄にデカい。二人は狭いのじゃ」

俺のベッドは至って普通のシングルだ。あと俺のデカさは無駄じゃない。

「みっちゃんは抱き合って寝るのが好きじゃが、たまには一人でのびのび寝たいのじゃよ。汲んでくれんかのぅ。あーちゃんも元の姿で広いところで寝てみたくはないか?」

「………………わかった」
「きゅるるる……」

「よし、では行こう。ではな、みっちゃん」

「あ、うん……ありがとう。コンちゃんは大丈夫? 俺より影響出やすいって……」

「問題あったらこんな提案せん、ええから気にせず休め」

呆れ顔でそう言い、扉を閉じた。

「心配する必要はないぞ水月、ミタマ殿なら大丈夫だ」

「そう……だよ、ね。うん。明日いなり寿司買おうかな。あ、サキヒコくん一緒に寝る?」

「……褥を共にしよう、という意味か?」

褥、は確か布団のことだよな。古文で見かけた気がする。サキヒコはそこまで昔の人間じゃないだろうに……名家は言葉遣いが古めかしかったりするものなのか?

(一緒に寝るかと聞いたのですから、布団を一緒に使うという意味かと聞くのはおかしい……つまり褥を共にするとは、ベッドインのお誘いかという意味!)

もっと直接的表現を使うならばサキヒコは、私とセックスしたがっているのか? と聞いているのだ!

「うん!!!」

「……! たわけ! 私の初めてはもっとこう……ぅうぅ…………何を言わせるミツキのばかぁっ!」

後頭部に衝撃を受けて振り返ると枕が落ちていた。枕が飛んできたのか? サキヒコは目の前に居たのに……まさかこれはポルターガイスト? なんて困惑と怪奇現象への興奮をしている間にサキヒコの姿は消えた。

「逃げられた……ち、違うんだよサキヒコくん! ヤりたいかヤりたくないかで聞かれたらそりゃヤりたいけどそんな今日即日ヤるつもりは今日はないよ! 初めてに理想のシチュがあるなら可能な限り叶えるし! 手ぇ出さないから戻ってきてよ、なんなら触りもしないよう気を付けるから一緒に寝ようよぉ!」

と大声で叫ぶも、サキヒコは帰ってこない。見えないだけで居るのかもしれないけど、見えないままだ。

「はぁ……ごめんねサキヒコくん、俺素直過ぎて…………おやすみレイ、一人寂しく寝るよ。レイも一人だよな、リモート添い寝しようか」

テディベアを掴み上げる。セイカの巨大テディベアとは違い、抱き締めて眠れるようなサイズではないため、枕の横に置くだけだ。

「おやすみ、レイ」

カミアとの約束の時間にアラームを設定し、テディベア越しにレイに声をかけてから眠りについた。



ぐっすりと眠って、鳴り響くアラームの中目を覚ました。

「ふわぁ……んー…………うぉっ」

欠伸をして寝返りを打つと、こちらを見つめる光のない目と目が合った。

「おはようございますっすせんぱい!」

「……おはよう」

「ガチ添い寝しようと思って来たんすけど、せんぱいベッドのド真ん中で寝てるんすもん……寝顔観察に移りました! せんぱい結構寝返り激しいっすよね、寝苦しいのかと思ってエアコン下げたんすけど、そしたら毛布肩まで被っちゃって」

「俺は寝相悪いんだよ……」

アキにもよく動くとか寝言がうるさいとか言われたなぁ、と思い返しながら起き上がる。

「早起きっすね、デートのためっすか? ってかせんぱい、今日はリアクション悪いすね……いつももっと大声で叫んでびっくりしてるっすよ」

「あぁ……言ったっけ、デートって。うんそうデート…………あれかな、サキヒコくんとかコンちゃんとかが急に出てくるから、びっくり耐性ついてきたかも」

「そうなんすか……せんぱいびっくりさせたい訳じゃないんすけど、なんか悔しいっすね」

「心臓に悪いのは変わりないから寝起きに間近でガン見は控えてくれ。来てくれて悪いんだけど、すぐ用意しないと」

「あっ、そうすね。電車乗るんすか? 駅までお送りするっすよ」

「……いいのか? 寝顔だけ見て帰るとかで。なんか、なんか……えー、何かないかな。おみやげ……ないかな」

以前は毎朝レイの顔を見ていたが、最近はあまり彼が家まで来ることが減っていた。だからせっかく来てくれた彼をすぐに帰すのは躊躇われて、気持ちばかり焦る。

「彼氏の家に来ておみやげとか変っすよ。いいから用意するっす、デートに遅刻は厳禁っすよ」

「余りレジンで作った意味分からんストラップくらいしかない……ごめんな」

こんな物渡せない。引き出しを閉めようとしたが、その手をレイに止められた。

「欲しいっす!」

「え、いやいいよ気ぃ遣わなくて」

「欲しいっすよ、なんかキラキラして綺麗っすし」

「ラメ入りだからな……でもなぁ、余り適当に固めただけだし。レジン製の何か欲しいんなら今度作ってやるから」

「それも欲しいっすけど、これも欲しいっす」

「…………ほんとに? 変わってるなぁ……じゃあちょっと待ってろ、すぐマルカンとストラップ付けるから」

「遅刻するっすよぉ、それくらい俺でも出来るんで急いでくださいっす」

他人とのデートを急かすのはどういう心境なんだろう、と思いつつもデートの準備を急いだ。母に相談しつつ用意した衣装をべた褒めされ、自信満々で家を出た。
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