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ヒが言えない (水月+荒凪・アキ・ミタマ・サキヒコ・)
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ぽん、ぽん、と優しく背を叩く。ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、泣き疲れたセイカは眠りについた。頭を撫で、腕枕をやめ、起き上がってベッドに腰かけた。
アキを愛でようと手を上げると彼の方から頬を擦り寄せてきた。手のひらに感じる頬の柔らかさ、肌の滑らかさ……親指でそっと瞼に触れると彼は片目を閉じてくすくす笑いながら、俺に全幅の信頼を寄せて俺に瞼越しの目玉の感触を教えてくれた。
「…………」
この目は一度傷付いた。実の父親に蹴り飛ばされ、サングラスが割れて瞼を切った、傷を縫った。
「………………アイツも」
アキと二度と会わないと約束させたし、アキは今でも時々通話をしているから、アイツに何かあったらアキは悲しむかもしれない。でも、それでも、俺はやっぱりアイツも憎い。許せない。
「みっちゃん、大丈夫か?」
「…………うん」
「みっちゃん、ワシが以前話したことを覚えておるか? ほれ、女形が女よりも女らしく振る舞わなければならぬように、ワシは狐よりも狐らしくあろうとしてしまうと……ヌシの願いを叶えてしまうと、どんな願いだろうと叶えようとしてしまうと……そう言ったじゃろう。ワシを悪しき狐にするなと、ワシもみっちゃんも罪に穢れるなと」
「覚えてるよ」
アキを愛でる左手はそのままに、右手をミタマに伸ばす。彼も俺の手に頭を擦り寄せた。寝かせた狐耳の撫で心地を教えてくれている。
「可愛いコンちゃんが話してくれたこと、俺が忘れるわけないよ」
「人を呪わば穴二つじゃ」
「……聞いたことあるよ」
「幸せだけを見てゆこう、今が幸せならそれでいいじゃろう。のぅ? 今せっちゃんの親御さんをどうこうしたところで、せっちゃんの今の苦しみが薄れる訳でもないじゃろうて」
「うん……分かってる。大丈夫、俺は俺とみんなの幸せだけ願って生きてくから」
ミタマはホッとした様子で深い息を吐いた。
「コンちゃん、ひとついい?」
「なんじゃ?」
「親御さんなんて言い方しなくていいよ。あの女を親なんて呼んだら全国のまともな親御さんに失礼だと思わない?」
「…………はぁ~……分かった分かった、気ぃ付ける…………本当に大丈夫かのぅ……危ういわぁ……」
ミタマは先程とは違ったニュアンスの深い息を吐きながらその場に座り込み、ベッドを背もたれにした。三本の尾のうち一本は俺の足に絡んでいる。暑いけれど、可愛い。
「……ん? なぁに、荒凪くん」
今の今まで正座を続けていた荒凪が四つん這いでベッドに近寄った。眠るセイカの顔を一目見ると、彼はミタマの隣にミタマ同様ベッドを背もたれにして座った。
「水月、傍がいい」
「そっかぁ。荒凪くんも可愛いなぁ~」
ベッドに腰掛けてベッドから垂らした俺の足に尾を絡めているミタマの隣とはつまり、俺の足の間のことだ。すっぽり収まった彼は首を反らして俺を見上げている。
「サキヒコくん、おいで」
「あっ、あぁ……失礼する」
一人部屋の真ん中にポツンと佇んでいたサキヒコを膝の上に呼ぶ。すると、アキがもう片方の膝の上に腰を下ろした。これで家に居る彼氏は全員俺に身体のどこかが接している。幸せな空間だ。
「サキヒコくん、遠慮せずもっと深く座っていいんだよ?」
「お、重くないかっ? わ……ミツキの体温が濃いっ……! ぅう……私には刺激が強いぞ……」
ウブで可愛い。こんなにも可愛らしい男の子が何十年も孤独と苦痛を味わっていたと思うと涙が出てくる。でも、自分勝手に考えるのなら、サキヒコが死んだのが数十年前でよかった。
「さきぃこ、軽い。みつききっとだいじょうぶ」
「まぁ、アラナギに比べれば三分の一程度ではあるが……それはアラナギが、いや、なんでもない」
もしサキヒコが数年前に殺されて、霊として出会ったり……生きたサキヒコと出会った後に彼が殺されたりしていたら、俺はきっと犯人を殺した。ミタマに、荒凪に頼み込んで、俺の何を代償としてでも犯人達にサキヒコが味わった以上の苦痛を与えて殺した。
「……なぁ、ミツキ。サキヒコとはそんなに呼び辛い名前だろうか、弟君も「さきーこ」と呼ぶし……アラナギもそうだ。ヒは難しいのか?」
「キ、ヒ……うーん、まぁちょっと難しいかも? でも何度も呼んでれば言えるようになるよ。気長に待ってあげて」
「そうだな。アラナギ、アキカゼ、私の名前はサキヒコだぞ、サーキーヒーコ」
サキヒコは二人に口元に注目させ、必要以上に大きく口を動かして自分の名前を言った。
「……? さきーこ?」
「さきぃこ!」
「ヒ!」
さて、二人が正確に彼の名を呼べるようになるまでどれくらいの時を要するだろう。どちらが先に呼べるようになるだろう。心の中だけでこっそり賭けでもしてみるかな。
アキを愛でようと手を上げると彼の方から頬を擦り寄せてきた。手のひらに感じる頬の柔らかさ、肌の滑らかさ……親指でそっと瞼に触れると彼は片目を閉じてくすくす笑いながら、俺に全幅の信頼を寄せて俺に瞼越しの目玉の感触を教えてくれた。
「…………」
この目は一度傷付いた。実の父親に蹴り飛ばされ、サングラスが割れて瞼を切った、傷を縫った。
「………………アイツも」
アキと二度と会わないと約束させたし、アキは今でも時々通話をしているから、アイツに何かあったらアキは悲しむかもしれない。でも、それでも、俺はやっぱりアイツも憎い。許せない。
「みっちゃん、大丈夫か?」
「…………うん」
「みっちゃん、ワシが以前話したことを覚えておるか? ほれ、女形が女よりも女らしく振る舞わなければならぬように、ワシは狐よりも狐らしくあろうとしてしまうと……ヌシの願いを叶えてしまうと、どんな願いだろうと叶えようとしてしまうと……そう言ったじゃろう。ワシを悪しき狐にするなと、ワシもみっちゃんも罪に穢れるなと」
「覚えてるよ」
アキを愛でる左手はそのままに、右手をミタマに伸ばす。彼も俺の手に頭を擦り寄せた。寝かせた狐耳の撫で心地を教えてくれている。
「可愛いコンちゃんが話してくれたこと、俺が忘れるわけないよ」
「人を呪わば穴二つじゃ」
「……聞いたことあるよ」
「幸せだけを見てゆこう、今が幸せならそれでいいじゃろう。のぅ? 今せっちゃんの親御さんをどうこうしたところで、せっちゃんの今の苦しみが薄れる訳でもないじゃろうて」
「うん……分かってる。大丈夫、俺は俺とみんなの幸せだけ願って生きてくから」
ミタマはホッとした様子で深い息を吐いた。
「コンちゃん、ひとついい?」
「なんじゃ?」
「親御さんなんて言い方しなくていいよ。あの女を親なんて呼んだら全国のまともな親御さんに失礼だと思わない?」
「…………はぁ~……分かった分かった、気ぃ付ける…………本当に大丈夫かのぅ……危ういわぁ……」
ミタマは先程とは違ったニュアンスの深い息を吐きながらその場に座り込み、ベッドを背もたれにした。三本の尾のうち一本は俺の足に絡んでいる。暑いけれど、可愛い。
「……ん? なぁに、荒凪くん」
今の今まで正座を続けていた荒凪が四つん這いでベッドに近寄った。眠るセイカの顔を一目見ると、彼はミタマの隣にミタマ同様ベッドを背もたれにして座った。
「水月、傍がいい」
「そっかぁ。荒凪くんも可愛いなぁ~」
ベッドに腰掛けてベッドから垂らした俺の足に尾を絡めているミタマの隣とはつまり、俺の足の間のことだ。すっぽり収まった彼は首を反らして俺を見上げている。
「サキヒコくん、おいで」
「あっ、あぁ……失礼する」
一人部屋の真ん中にポツンと佇んでいたサキヒコを膝の上に呼ぶ。すると、アキがもう片方の膝の上に腰を下ろした。これで家に居る彼氏は全員俺に身体のどこかが接している。幸せな空間だ。
「サキヒコくん、遠慮せずもっと深く座っていいんだよ?」
「お、重くないかっ? わ……ミツキの体温が濃いっ……! ぅう……私には刺激が強いぞ……」
ウブで可愛い。こんなにも可愛らしい男の子が何十年も孤独と苦痛を味わっていたと思うと涙が出てくる。でも、自分勝手に考えるのなら、サキヒコが死んだのが数十年前でよかった。
「さきぃこ、軽い。みつききっとだいじょうぶ」
「まぁ、アラナギに比べれば三分の一程度ではあるが……それはアラナギが、いや、なんでもない」
もしサキヒコが数年前に殺されて、霊として出会ったり……生きたサキヒコと出会った後に彼が殺されたりしていたら、俺はきっと犯人を殺した。ミタマに、荒凪に頼み込んで、俺の何を代償としてでも犯人達にサキヒコが味わった以上の苦痛を与えて殺した。
「……なぁ、ミツキ。サキヒコとはそんなに呼び辛い名前だろうか、弟君も「さきーこ」と呼ぶし……アラナギもそうだ。ヒは難しいのか?」
「キ、ヒ……うーん、まぁちょっと難しいかも? でも何度も呼んでれば言えるようになるよ。気長に待ってあげて」
「そうだな。アラナギ、アキカゼ、私の名前はサキヒコだぞ、サーキーヒーコ」
サキヒコは二人に口元に注目させ、必要以上に大きく口を動かして自分の名前を言った。
「……? さきーこ?」
「さきぃこ!」
「ヒ!」
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