冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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重なる悪条件 (水月+スイ・サキヒコ)

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汚い床に服が触れるのは嫌で、でも立っていられる気分じゃなくて、いつしか俺はしゃがみこんで蹲っていた。変わらない景色を見ず荒凪を説得する言葉を考えながら時が過ぎるのを待っていると、異音がし始めた。

「……っ、な、何、何の音」

答えてくれる者はいない、自分で考えなければ。金属製の何かを力任せに歪めているような、金属製の何かが擦れ合うような、金属を爪で引っ掻くような、その全てが混じった不快な音。

「頭痛くなりそ……」

耳を塞ぎ、異音が止むのを待つ。見つめた扉の隙間から鋭いモノが入ってくる。薄く、長く、鋭い、八つの何か……爪、か?

「ひっ」

怯えた直後、扉が力任せにこじ開けられた。異音と共に開いた扉の外は、半分ほど黒っぽい壁に塞がれていた。どうやら本来止まるべきではないところ、階と階の隙間に止まってしまっているらしい。

「……ナルちゃん? 居る?」

扉の外、上半分。この静止したエレベーターの中から唯一外がちゃんと見える狭いそこから、黒髪長髪の男がこちらを覗く。

「スイさん!? え、どうして……まさか今エレベーターこじ開けたのスイさんですか!?」

「掴まって、引き上げてあげる」

鋭い爪が生え揃った大きな手が差し伸べられたかと思えば、その手の姿がぼんやりと薄まり平均的なサイズの筋張った男の手へと変わった。

「は、はい! あの、映画とかだと中途半端に止まったエレベーターから出ようとするシーンって、急にエレベーターが動き出して首か胴体が切断される展開じゃないですか?」

「あー、見たことある。ゾンビ映画のヤツとか」

「ゾンビ……あぁ! 同名ゲームとストーリー全然違うヤツ……」

「そうそう、ゾンビ映画なのに施設のギミックのが怖いヤツ。賽の目レーザーとかマジでヤバくて……って話してる場合じゃないでしょ。不安なら上押さえといてあげるから早く登って」

スイはもう片方の手で天井を押さえた。人の力でエレベーターの落下を防げるとは思えないが……まぁ、そもそも首チョンパ云々なんて映画の話、実際には起こらないだろう……起こらないよな?

「掴んだ? 引っ張るよー」

スイの手を強く掴み、恐る恐る二階の床によじ登る。挟まることも切断されることもなく、俺は五体満足でエレベーターから出られた。

「ありがとうございます! もう何時間も待たないとって思ってました……!」

「おかっぱくんに呼ばれてね。あの子はなんか、例の人魚くんが逃げたとか言ってすぐ行っちゃったけど」

「サキヒコくんが? そうでしたか……ありがとうございました。そうだ、荒凪くん早く追いかけないとっ」

「手伝ってあげたいけど、ちょっと回復した霊力も今怪力出すので使っちゃったし……アタ、俺! 俺は、役に立たないかな」

 「エレベーターこじ開けたヤツですか? 霊力って腕力増やしたりも出来るんですね、すごい……」

「バフかけられるとかじゃなくて、パワードスーツ着てる感じね。少なくともアタシのは。あっ、俺のは。肉体を覆うから消費が激しくて……ほら、もう片手だけでも透けちゃうようなガワしか作れない」

スイの右手に半透明の大きな手が被って見える。焦点が合っていないのかと目を擦りたくなる光景だ。

「すいません……危ないことさせたばっかなのに、またこんな力仕事させて」

「別にいいけど、ふふ、なんか女の子扱いされてるみたいで気分い~い」

「女の子扱いっていうか……好きな人ですから、大切にって言うか、丁重にって言うか、すいません助けてもらっといてこんなこと言うのおかしいですよね。俺……頑張りたいんですけど、なんか、いつも微妙に……」

仕事を依頼したり助けられたりしたスイに対し、今更男らしさを演出するのは滑稽だ。ひとまず空回りしがちだが健気な歳下キャラとして弱みを見せる、萌えてくれないかな? 萌えてくれなくても、ここで弱く見せたので今後男気を見せればギャップ萌えが期待出来る。

「ナルちゃん、そんなに……うわっ!? びっくりしたぁー……」

突然の轟音。

「何、雷? 結構近いなぁ……落ちたんじゃない?」

「雷っぽいですね……」

スイ、一人称はアタシで固定されているのに驚いた時は「きゃっ」じゃなくて「うわっ」なんだな。根っこまで女子にはなれなかったということか。

「ナルちゃんの苗字、鳴雷だったよね? 今のみたいな感じのことなんじゃない? いいねーカッコイイ」

「如月だって何かカッコイイですよ」

「二月のことよ? ふふ、ありがと。って話してる場合じゃなさそうね、雨も降ってきてる……うわ、すごい、今降り出したのにもう土砂降り。地震といいどうなってんの今日は……早くあの子探さないと、濡れたら人魚に戻っちゃうんでしょ? 見られたらヤバいよ」

「あっ、そうですね。すいません失礼します!」

「はーい。気を付けて~」

土砂降りの雨で濡れた階段を駆け下りる。外へ飛び出し、ひとまず荒凪が逃げた方向へ走る。荒凪もサキヒコもミタマも誰一人としてスマホを持っていない、連絡手段がない、彼らをどう探すべきだ。

「ミツキ!」

「……! サキヒコくん、荒凪くんはっ」

「ミタマ殿が追っている。ヤツの逃走は三次元的でな……私は空から見てミタマ殿に伝えていたんだ」

「そっか、俺見つけて降りて来てくれたんだ? ありがとう、荒凪くん今どこ? 俺も追っかける、教えて」

「うん。これを追ってくれ」

サキヒコはどこからともなく現れた青白い炎の玉を指した。

「……人魂?」

「最近編み出した新技だ、もう少し安定してからミツキに披露しようと思っていた。操作中、私はほとんど動けなくなるから使いどころのない一発芸だと思っていたが、空から見下ろし何かの案内をするのにこれほど役に立つものはない。特に今のように視界不良なら尚更、光っていて分かりやすいだろう! ふふふ……褒めてくれてもいいんだぞ?」

「珍しくはしゃいでるね……そりゃそうなるか、すごいよこれ。でも今はごめん、あんまり時間取れない。後でたくさん褒めるのとお礼言うのやるから、とにかく荒凪くんをっ……」

「分かっている。人魂を追いかけてくれ」

サキヒコの姿が消えてから数秒後、青白く発光する人魂が動き出した。姿は見えないがサキヒコは町を見渡す高さに浮上しているのだろう。

「よし……!」

ふよふよと浮かぶ人魂を追って、土砂降りの雨の中走り出した。
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