冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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恋人らしいこと禁止 (水月+ヒト・アキ・セイカ・歌見・荒凪・サン・シュカ)

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大きく手を振ってみると、こちらへ歩いてきていたヒトが早足になってくれた。

「鳴雷さん、お待たせ致しました」

「ヒトさん! はい、すっ……ごく楽しみに待ってました、お祭り始まった時からずーっとヒトさんの休憩時間待ってました!」

素直に好意を伝えるのが効果的なのは分かっているが、子供っぽい振る舞いはどうだろう? 昨日のネザメの誕生日パーティで彼氏達と積極的に関わっていたことから、子供嫌いのイメージは間違ったものだ。しかし恋人の子供っぽさを好むかどうかはまた別だ、反応をしっかり見なければ。

「……! 鳴雷さん……いけませんよ、そんな、そんなこと言われたら、私……嬉しくてどうにかなってしまいます」

本心から嬉しそうだ、子供っぽくてもいいからとにかく素直に振る舞うのが刺さるのかな?

「一緒に回りましょ、何食べます?」

ようやくヒトと祭りを楽しめる。はしゃいだ俺は彼の腕を抱き、ほんのりと赤らんだ顔を見上げた。

「鳴雷さん……その、スキンシップは嬉しいのですが、組員の目が多いので」

「あっ、ご、ごめんなさい」

慌ててヒトの腕を離す。祭りで浮かれてヒトとの関係は秘密なのだということを失念していた。

「いえ。気にしないでください、鳴雷さん。焼き鳥を買ってきました、一緒に食べましょう。たくさんあるので皆さんもどうぞ」

「ありがとうございます、いただきます」

ヒトが言い切るが早いかシュカが距離を詰めてきた。ヒトが差し出した焼き鳥を取ると即座に齧りつき、優等生の仮面では取り繕えない食欲を見せつけた。

「活きのいい子ですね」

シュカの態度をヒトは意地汚いと嫌うと考えていたが、案外好感触だ。取り繕っているだけかな?

「荒凪くん、焼き鳥もらうか?」

「……はじめまして、ですね? ヒトと申します、穂張事務所の社長を務めさせていただいております」

「はじえ、ぁして」

「ヒトさん、荒凪くんはマっ……ぁ、や、母の会社の方から預かってる子なんです」

危ない危ない、ママ上なんて言ってしまったら幻滅される。きっとヒトはそういうのに過敏なタイプだ。

「へぇ……? 夏休みが終わってからなんて変わってますね」

「ほら荒凪くん、彼が焼き鳥くれたヒトさんだぞ。ありがとう言わないとな」

「ひとさん、ありぁとー」

「どういたしまして。あの、鳴雷さん……日本語がおぼつかないように思えますが、彼も外国育ちですか?」

「あー、はい。そんな感じです。でも話すのが苦手なだけで聞くのは問題ないので、アキと違ってゆっくり話さなくても大丈夫です。子供扱いし過ぎないであげてください」

本当の姿が人魚で、今はただ人間に化けているだけ。人間の身体を動かすのに慣れていないから言葉が拙いだけ。そんな荒凪はきっとアキよりもずっと早く言葉が上達する。拙さを可愛がれるのは今だけだ、撮っておいた方がいいかもな。

《秋風、ヒトさんが焼き鳥くれるってよ》

《マジ? やった》

焼き鳥に釣られたのかアキが寄ってきた。セイカを片腕で抱いたまま、特に辛そうな様子も疲れた様子もない。流石の怪力と体力だ、羨ましい。

「こんばんは、秋風さん」

「こんばんわぁ」

「ヒトお兄ちゃんですよ」

またか。昨晩も見た光景だが実の兄である俺からすると、ヒトがアキに自身を兄として慕わせようとするのは複雑な気分だ。仲良くしてくれるのは嬉しいけれどアキの兄は俺だけでありたい。

「ひとー、にーちゃ」

アキの兄は俺だけなのに、アキはねだられれば簡単に他人を兄と呼んで笑顔を見せる。セイカからはアレは愛想笑いだと聞いているが、それでも妬ましい。

「可愛い……! ワンパック持っていきなさい」

「ありがとー、です。ひと、にーちゃん」

「これこそが弟……見ていますか、サン」

「なんにも見えませ~ん」

サンはべーっと舌を出し、呆れ混じりにヒトを嘲る。

「一切血の繋がりがない自分の半分の歳の子に「お兄ちゃん」って呼ばせてんのどう思う? キッッツくない? ねぇ?」

「えっ、いやぁ……はは」

歌見の肩に腕を置き、強引に同意を求めて彼を困らせている。穂張兄弟は三人とも別種の厄介さを持っている、特にヒトとサンは仲が悪いから揃うと面倒だ。

「……サンには焼き鳥あげません」

「拗ねたの? ガキっぽぉ~」

「…………人前だろうと態度を変えず私を挑発してばかりのあなたの方がよほど幼稚だと思いますけどね。そう思うでしょう鳴雷さん」

「えっ、えぇ……いや……そんな」

他人に同意を求めて困らせる悪癖は遺伝か? やめてくれ。

「ボクは弟だから多少はいいよねぇ」

「俺に聞かないでくれ……」

「アンタもお兄ちゃんだろ? 妹居るんだってね。ボクも上っ面気にしてばっかの兄貴より、可愛い弟や妹が欲しかったな~」

「いや妹は最悪だぞ、絶対いらない」

兄弟の話題は避けたい、家族や弟というワードで荒凪の様子はおかしくなるのだ。今は焼き鳥に夢中なのか聞いていないみたいだからギリギリセーフだが……

「歌見先輩! そろそろ車椅子押すの代わりますよ、疲れたでしょう」

とにかくまずは距離を取ろう。歌見から強引に車椅子のハンドルを奪い、少し早歩き。サンから離れたいのかヒトは何も言わず足を早めて俺に着いてきた。

「荒凪くん、もうお腹いっぱい? まだ何か食べる?」

「まだ、たべたい」

「ずっと本部に居たので私もお腹が空いているんですよ、一緒に食べましょう」

「うん」

「ごめんなさいヒトさん、二人きりの時間取れなくて……」

「いえ、どうせ私のワガママで……らしいことは出来ませんから。それなら、あなたの周りの子からの点数上げでもした方が効率的でしょう? ふふっ」

身勝手な人だと思っていたけれど、冗談めかした気遣いなんて大人らしさも見せてくれるんだな。今は恋人らしいことが出来ないのに、ときめいてしまうじゃないか。

《なんか奢ってくれそうだしヒトに張り付くか。魚なんかにゃ可愛がられる歳下の座は譲らねぇぜ》

《……母語ロシア語でよかったな、お前。本性知られてたら絶対可愛がられねぇよ》

俺がわざと距離を取ったことを察しているのか他の彼氏達は追いかけてこない。けれどそんな中、アキだけは追いついてきた。俺から離れたくないとか、セイカがそう言ってねだったとか、可愛い動機を想像したいところだけれど、案外ヒトからの奢り狙いなんて現金な理由だったりしてな。
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