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子供は寝る時間 (水月+ネイ・ノヴェム・ハル・リュウ・カンナ・アキ・セイカ・レイ・荒凪)
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素直じゃなかったり急に大人しくなったりするセイカから猫を連想したりしつつ、夜店を回って祭りを楽しむ。ノヴェムが動くところをここ十分くらい見ていないけれど、寝たのかな。
「ネイさん、ノヴェムくん寝てます? 代わりますよ、腕痛いでしょう」
「助かります」
「よいしょ……わ、寝てると重い」
眠ってしまったノヴェムを受け取り、ぷるぷると腕を揺らすネイの様子を観察する。フタの殴打を全て受け切った腕で八歳児を抱いていたのだ、相当辛かっただろう。
「水月くん? どうしたんです、そんな情熱的な目で見つめられたら照れてしまいますよ」
「そんなつもりは……手、大丈夫かなって」
「ノヴェムの抱っこを代わってもらえて随分楽になりましたよ」
表情はいつも通り、未亡人の色気たっぷりの穏やかな笑顔。声色も普段と同じで、痛みを堪えている様子はない。
「あれ、みっつんがノヴェムくん抱っこしてるの?」
「ハル、あぁ、ずっと抱っこしてちゃ辛いかと思って」
「優しいお隣さんで嬉しいデス。んーっ……ふぅ……久しぶりの伸び気持ちいですね」
ネイが手を組んで腕を伸ばすと、指や肘、肩などありとあらゆる関節からパキパキと音が鳴った。ネイにとっても予想以上だったのだろう、少し照れくさそうにしている。
「ねっねっ、ノヴェムくん俺に抱っこさせてくれない? 起きてる間は嫌がられちゃったけど、今ならイケる……!」
「大丈夫か? 結構重いぞ?」
「大丈夫だって」
眠っているノヴェムを起こさないように気を付けつつ、ハルに彼を渡す。慎重な受け渡しによってノヴェムは呼吸を乱すことすらなかったが、ハルの細腕ではやはり不安だ。
「……落とすなよ?」
「落とさないよ、俺みっつんが思ってるほど非力じゃないって」
「ええのぅ……はーちゃん、次ワシ抱っこしたい」
「ほな次俺~。しぐも抱っこさせてもらい、してみぃたいんやろ?」
「ぅん……だっこ、したい」
ミタマがノヴェムを抱っこしたがるのは予想通りだったが、カンナまで順番に加わったのは意外だったな。何故かカンナは子供が苦手なものと思い込んでいた。
「お兄ちゃん達にモテモテ嬉しいデスね、ノヴェム」
ハルの腕の中で眠るノヴェムの頭をネイが撫でる。父親なのだから自然な行動なのに、今ノヴェムを抱いているのがハルだから、夫ポジションをネイに取られた気がしてモヤモヤする。
「お祭りの最後には花火あるらしいから、それまで寝だめしないとだねノヴェムくん」
俺の彼氏と擬似家族ごっこをしていいのは俺だけのはずだ。そんな気持ちの悪い思考の元意味もなくノヴェムに話しかけ、髪を撫で、彼の眠りを浅くする。
「んぅ……」
「寝とるんやからそない話しかけたったアカンわ。起きてまうで」
「こういう時は縦揺れがいいんだっけ~? よしよし……こうかなぁ……?」
ノヴェムを起こしかけてしまい慌てて一歩下がる。向かいを見ればネイも同じように一歩下がっていた。何とも情けない男達だ。
「はぁ…………ん? ごめん、ちょっと電話」
彼氏達から一歩離れてスマホを取り出す。画面にはヒトの名前が表示されていた。彼氏達から更に一歩離れ、スマホを耳に当てる。
「もしもし……」
『もしもし、鳴雷さん? 今少々お時間よろしいでしょうか』
「はい、大丈夫です」
『よかった。私今から休憩時間でして……』
「あ、やっと! じゃあお祭りデート出来るんですね、どこで待ち合わせします?」
『今どちらに?』
「お面屋さんの前です」
『分かりました、すぐに行きますのでその辺りに居てください』
通話が切られた。サンやフタが居る時には滅多に聞けない上機嫌な声色だった、俺と居る時にだけ使われる声と言ってもいい。この世の様々に不満を持つ彼の唯一の癒しが俺……まだ付き合い始めて日が浅い方なのに彼氏の中でも屈指の俺への依存度を誇るヒトは、いつも俺に強い優越感を覚えさせてくれる。
「クマのお面あるな……セイカ、つけるか?」
「え、いや、いらない」
「可愛い~、いいじゃんお面。セットでパグのお面も売ってるから買っとこ、先輩につけてやる」
購入したクマのお面を強引にセイカに装着。顔を完全に隠してしまうのではなく、頭の斜め上に乗せるようにつけるのがこだわりポイントだ。
「いらないって言ったのに……」
《お、いいじゃんスェカーチカ。俺も欲しい。兄貴なんか選んでくれよ》
「鳴雷、秋風も欲しいって」
「何がいい?」
「鳴雷に選んで欲しいみたいだけど……」
「おっ、嬉しいなぁ。んー……アキ、猫好きだっけ? はちわれ柄とキョンシーどっちがいいかなぁ」
「何その二択」
「キョンシーにしよう」
「よく分かんない方が選ばれたぞ秋風、自分で選んだ方がよかったんじゃないか?」
アキにもお面をつけてやった。自分から欲しいと言い出しただけあって嬉しそうにしている。金魚のオモチャは欲しがらないのにお面は欲しがるとは、相変わらずよく分からない子だな。
「荒凪くんにはチュパカブラ買ってあげたからね~」
「ちゅぴゃ、かぷ……?」
「カンナはやっぱりウサギか?」
「カツ、ラ……変、なっちゃ……から、いい」
「そうか……じゃあハル、何か」
「髪型崩れちゃうからいいや~」
シュカと歌見は視線を向けただけで無言で首を横に振った。この二人はこういうの恥ずかしがるタイプだよな、想定の範囲内だ。
「リュウ」
「いらんわ、恥ずい」
「えぇ~、ノってくれるタイプだと思ったのになぁ。ネイさんはどうです? ラッコとか」
「可愛いですけど、大人はお面恥ずかしデスよ」
案外みんな抵抗があるものなんだなぁ。
「レイはゆめかわ似合うからユニコーンでどうだ?」
「せんぱいが選んでくれたヤツなら何でもつけるっす! せんぱいは何にするんすか?」
「俺バイコーンにしようかな」
「オソロ感あっていいっすね!」
「レイはノリいいし可愛いしもう最高だな」
「えへへ……あ、ノヴェムくんには選んであげないんすか?」
「お面とかお祭り終わったらもう……アレだし、もう寝ちゃったんなら……うん。知らない間につけられてても、なんか、なぁ?」
「そういうとこ冷静になるんすね」
興奮しやすい自覚があるからこそ、冷静さも失わないタイプでありたいと常日頃から思っている。だからレイのその評価は嬉しい。
「ふふ、だろ?」
「別に褒めてはないんすけど……あれ? せんぱい、あのおっきいの……あっ、ヒトさんっすね、びっくりしたぁ……フタさんの方かと一瞬思っちゃったっす」
ヒトが合流するまでの時間潰しのつもりでお面を物色していたのだが、案外熱中してしまってレイが先にヒトを見つけた。少しの敗北感を心の深くに隠し、ヒトに向かって大きく手を振った。
「ネイさん、ノヴェムくん寝てます? 代わりますよ、腕痛いでしょう」
「助かります」
「よいしょ……わ、寝てると重い」
眠ってしまったノヴェムを受け取り、ぷるぷると腕を揺らすネイの様子を観察する。フタの殴打を全て受け切った腕で八歳児を抱いていたのだ、相当辛かっただろう。
「水月くん? どうしたんです、そんな情熱的な目で見つめられたら照れてしまいますよ」
「そんなつもりは……手、大丈夫かなって」
「ノヴェムの抱っこを代わってもらえて随分楽になりましたよ」
表情はいつも通り、未亡人の色気たっぷりの穏やかな笑顔。声色も普段と同じで、痛みを堪えている様子はない。
「あれ、みっつんがノヴェムくん抱っこしてるの?」
「ハル、あぁ、ずっと抱っこしてちゃ辛いかと思って」
「優しいお隣さんで嬉しいデス。んーっ……ふぅ……久しぶりの伸び気持ちいですね」
ネイが手を組んで腕を伸ばすと、指や肘、肩などありとあらゆる関節からパキパキと音が鳴った。ネイにとっても予想以上だったのだろう、少し照れくさそうにしている。
「ねっねっ、ノヴェムくん俺に抱っこさせてくれない? 起きてる間は嫌がられちゃったけど、今ならイケる……!」
「大丈夫か? 結構重いぞ?」
「大丈夫だって」
眠っているノヴェムを起こさないように気を付けつつ、ハルに彼を渡す。慎重な受け渡しによってノヴェムは呼吸を乱すことすらなかったが、ハルの細腕ではやはり不安だ。
「……落とすなよ?」
「落とさないよ、俺みっつんが思ってるほど非力じゃないって」
「ええのぅ……はーちゃん、次ワシ抱っこしたい」
「ほな次俺~。しぐも抱っこさせてもらい、してみぃたいんやろ?」
「ぅん……だっこ、したい」
ミタマがノヴェムを抱っこしたがるのは予想通りだったが、カンナまで順番に加わったのは意外だったな。何故かカンナは子供が苦手なものと思い込んでいた。
「お兄ちゃん達にモテモテ嬉しいデスね、ノヴェム」
ハルの腕の中で眠るノヴェムの頭をネイが撫でる。父親なのだから自然な行動なのに、今ノヴェムを抱いているのがハルだから、夫ポジションをネイに取られた気がしてモヤモヤする。
「お祭りの最後には花火あるらしいから、それまで寝だめしないとだねノヴェムくん」
俺の彼氏と擬似家族ごっこをしていいのは俺だけのはずだ。そんな気持ちの悪い思考の元意味もなくノヴェムに話しかけ、髪を撫で、彼の眠りを浅くする。
「んぅ……」
「寝とるんやからそない話しかけたったアカンわ。起きてまうで」
「こういう時は縦揺れがいいんだっけ~? よしよし……こうかなぁ……?」
ノヴェムを起こしかけてしまい慌てて一歩下がる。向かいを見ればネイも同じように一歩下がっていた。何とも情けない男達だ。
「はぁ…………ん? ごめん、ちょっと電話」
彼氏達から一歩離れてスマホを取り出す。画面にはヒトの名前が表示されていた。彼氏達から更に一歩離れ、スマホを耳に当てる。
「もしもし……」
『もしもし、鳴雷さん? 今少々お時間よろしいでしょうか』
「はい、大丈夫です」
『よかった。私今から休憩時間でして……』
「あ、やっと! じゃあお祭りデート出来るんですね、どこで待ち合わせします?」
『今どちらに?』
「お面屋さんの前です」
『分かりました、すぐに行きますのでその辺りに居てください』
通話が切られた。サンやフタが居る時には滅多に聞けない上機嫌な声色だった、俺と居る時にだけ使われる声と言ってもいい。この世の様々に不満を持つ彼の唯一の癒しが俺……まだ付き合い始めて日が浅い方なのに彼氏の中でも屈指の俺への依存度を誇るヒトは、いつも俺に強い優越感を覚えさせてくれる。
「クマのお面あるな……セイカ、つけるか?」
「え、いや、いらない」
「可愛い~、いいじゃんお面。セットでパグのお面も売ってるから買っとこ、先輩につけてやる」
購入したクマのお面を強引にセイカに装着。顔を完全に隠してしまうのではなく、頭の斜め上に乗せるようにつけるのがこだわりポイントだ。
「いらないって言ったのに……」
《お、いいじゃんスェカーチカ。俺も欲しい。兄貴なんか選んでくれよ》
「鳴雷、秋風も欲しいって」
「何がいい?」
「鳴雷に選んで欲しいみたいだけど……」
「おっ、嬉しいなぁ。んー……アキ、猫好きだっけ? はちわれ柄とキョンシーどっちがいいかなぁ」
「何その二択」
「キョンシーにしよう」
「よく分かんない方が選ばれたぞ秋風、自分で選んだ方がよかったんじゃないか?」
アキにもお面をつけてやった。自分から欲しいと言い出しただけあって嬉しそうにしている。金魚のオモチャは欲しがらないのにお面は欲しがるとは、相変わらずよく分からない子だな。
「荒凪くんにはチュパカブラ買ってあげたからね~」
「ちゅぴゃ、かぷ……?」
「カンナはやっぱりウサギか?」
「カツ、ラ……変、なっちゃ……から、いい」
「そうか……じゃあハル、何か」
「髪型崩れちゃうからいいや~」
シュカと歌見は視線を向けただけで無言で首を横に振った。この二人はこういうの恥ずかしがるタイプだよな、想定の範囲内だ。
「リュウ」
「いらんわ、恥ずい」
「えぇ~、ノってくれるタイプだと思ったのになぁ。ネイさんはどうです? ラッコとか」
「可愛いですけど、大人はお面恥ずかしデスよ」
案外みんな抵抗があるものなんだなぁ。
「レイはゆめかわ似合うからユニコーンでどうだ?」
「せんぱいが選んでくれたヤツなら何でもつけるっす! せんぱいは何にするんすか?」
「俺バイコーンにしようかな」
「オソロ感あっていいっすね!」
「レイはノリいいし可愛いしもう最高だな」
「えへへ……あ、ノヴェムくんには選んであげないんすか?」
「お面とかお祭り終わったらもう……アレだし、もう寝ちゃったんなら……うん。知らない間につけられてても、なんか、なぁ?」
「そういうとこ冷静になるんすね」
興奮しやすい自覚があるからこそ、冷静さも失わないタイプでありたいと常日頃から思っている。だからレイのその評価は嬉しい。
「ふふ、だろ?」
「別に褒めてはないんすけど……あれ? せんぱい、あのおっきいの……あっ、ヒトさんっすね、びっくりしたぁ……フタさんの方かと一瞬思っちゃったっす」
ヒトが合流するまでの時間潰しのつもりでお面を物色していたのだが、案外熱中してしまってレイが先にヒトを見つけた。少しの敗北感を心の深くに隠し、ヒトに向かって大きく手を振った。
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