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羨ましい弟 (水月+歌見・セイカ・アキ・ミフユ・ハル・サン・リュウ)
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滑らかなホイップクリームの甘さは、一言で言えばちょうどいい。甘過ぎずしつこくない、けれど主役を張れるほどの心地よい甘さ。このちょうどいいホイップクリームを作れる職人は、全パティシエの何パーセントだろう。
ふわふわとしたスポンジの微かな甘み、イチゴの酸味も素晴らしい。何より個人的に好きなのは、スポンジの底面がしっかりと焼かれていることだ。焦げ目がある方が好きなのだ、俺は。
「少し余ったな……欲しい者は居るか?」
「はーい! はいはいは~い!」
「自分ダイエットしとるんとちゃうんか、飯もバクバク食いよってからに」
「甘いものは別腹なの!」
「ボクも欲しいな~。兄貴ももらおっ、ケーキ好きだろ?」
俺も欲しいけれど、カロリーが気になる。我慢しよう。皿を持ってケーキへと向かうハルやアキ、サン達を見送り、俺も席を立った。
「セイカ、ちょっといいか?」
「ん?」
アキが座っていた席に腰を下ろし、まだ一つ目のケーキを食べている最中のセイカに話しかけた。
「……なんだ?」
話しかけておいて何も言わない俺にセイカは不審そうな目を向ける。
「えっとな……」
歌見と話していてセイカへの恨みや恐怖が少しぶり返した。それだけじゃない、アキとばかり一緒に居ることに不満もあった。
「……なんか、話しにくいこと?」
「いや、そういう訳じゃ……ない、ことも、ないかな? その、ほら、今日アキとばっか話してるだろ? 俺とも話して欲しいなぁって」
「…………なんか怒ってる?」
「違う違う違う! えっと……あー、上手い言い方見つからないんだけどさ……その、他の子は日本語で話してるから、彼氏同士で話してても何話してるか分かるんだけど……お前ら分かんないから、気になって」
「……? 今日は、何が美味いとか……アレ食べてみようとか、もう一回取ってこようとか、そんな話だけだけど」
「そっ、か。まぁそうだよな、今日は……」
《兄貴? 来たのか》
ケーキ片手にアキが戻ってきた。早くどかなければと思ったが、アキは俺が立ち上がる前に俺の膝にどっかりと腰を下ろした。
《俺の椅子になりたかったのか、殊勝な兄貴だぜ。太腿で感じる俺のケツの感触は感涙ものだろ?》
「アキ……お兄ちゃんここに居てもいいかな? セイカと二人がいい?」
「……鳴雷、なんか今日変だぞ。さっきなんか泣いてたっぽいし」
見られていたのか。
「いや、アレはカンナとカミアが可愛過ぎただけなんだけど……」
「はぁ? はぁ……そういうヤツだったなお前は。まぁ、とにかく、気が向いたんならしばらくここに居てやれよ。秋風はお前が構ってくれねぇの寂しいから俺にベタベタしてんだから」
俺よりセイカを優先することもあるから、それは違うと思う。セイカの思考が自虐的なだけだ。
(……わたくしも結構自虐的かもしれませんな。お膝に乗ってニコニコ話しかけてくれたんですから、セイカ様と二人がいいからあっち行けなんてそんなことアキきゅんが考えてるはずないでそ)
そういえば、俺の膝に座りながら何か言っていたな。
「なぁセイカ、アキさっき何言ってたんだ? ほら、俺に座る時。聞いてた? 覚えてたら教えっ、ん? む……なに……」
口に冷たい物が押し付けられ、驚いて顔を引いてみると赤色が見えた。イチゴだ。
「にーにぃ、あーん」
「……くれるのか?」
「いるしないです?」
「もらうよ、ありがとう。あーん……」
差し出されたイチゴを一口で食べる。甘酸っぱい美味を味わいながらアキを見る。アキは満面の笑顔で俺を眺めていた。
「あの……鳴雷、さっき秋風はな? ふ、太腿で……お尻の、感触……味わえて、嬉しいだろ? 的なことを……言ってた、けど」
「…………でゅふふふふ分かってますなぁアキたん!」
想像以上にくだらないし、えっちで可愛い。グダグダ悩んでたのがバカみたいだ。俺はアキの腹に腕を回し、彼を強く抱き締めた。
《んっ……物食ってる時に腹押さえるバカがあるかよ》
「あ、あれ? なんか怒ってる?」
「物食ってる時に腹押さえるなバカだってさ」
「仰る通りじゃんごめんね!? お兄ちゃんバカです!」
セイカに翻訳された俺の言葉を聞いたアキはくすくすと笑い、ケーキを一口俺に食べさせてくれた。自分で食べた時よりも美味しい気がするなんてデレデレ笑顔でセイカに惚気けていると、肩をポンポンと叩かれた。振り返れば歌見。
「先輩? どうしました」
「……交換しよう。マジで。アキくんと俺の妹」
「嫌ですよ! アキは俺のです!」
「羨ましいよぉ……なんだその可愛い弟ふざけんなよお前。あぁ? なんなんだお前、顔はいいスタイルはいい通ってんのは都内有数のお坊ちゃま高校、体臭もグッドスメルと来たもんだ。そろそろぶん殴られても文句言えないところにこんな可愛い弟だと? はぁーっ……」
普段俺に呆れた時に吐くものよりもずっと深いため息だ。
「…………逆に、お前何持ってないんだ?」
「人望」
「あるよ! 俺クラス委員長だよ!?」
「理性」
「あるって! セイカの体調悪い時は無理に抱いたりしないじゃん!」
「体幹」
「アキがあり過ぎるだけで俺体幹悪くはないんだよ!?」
セイカに三連発を食らってしまった。人望も理性も体幹もそれなりにあるつもりだ、セイカにそう思われていなかったことがショックだ。
「……セイカは人望も理性も体感もない男が好きなのか?」
「俺が好きなのはそういう表面的なもんじゃないから。俺は他のミーハー共とは違う」
人望と理性と体幹って表面か? 内面寄りじゃない?
「じゃあセイカは俺の何が……」
《スェカーチカ、何話してんだ?》
《歌見は自分の妹あんまり好きじゃないらしくて、可愛い弟のお前が居る鳴雷が羨ましくて仕方ないんだってさ。弟妹交換しよとか言ってる》
《はははっ! マジかよナナ。ウケる。悪ぃが俺は切った爪の一欠片まで兄貴のもんだ。てめぇにゃやれねぇな。けど哀れだからケーキは一口分けてやんよ》
上機嫌に笑い、長々と何か話したかと思えば、アキは歌見にケーキを一口差し出した。
「兄弟盃ならぬ兄弟ケーキか?」
「いい加減アキきゅん諦めてくだされ! やりませんから!」
「歌見んとこには行かないけど哀れだから一口あげるってさ」
「あ、哀れ…………そう、か」
哀れまれたことが相当ショックだったのか、ケーキを一口食べると歌見はトボトボと席に戻ってしまった。
ふわふわとしたスポンジの微かな甘み、イチゴの酸味も素晴らしい。何より個人的に好きなのは、スポンジの底面がしっかりと焼かれていることだ。焦げ目がある方が好きなのだ、俺は。
「少し余ったな……欲しい者は居るか?」
「はーい! はいはいは~い!」
「自分ダイエットしとるんとちゃうんか、飯もバクバク食いよってからに」
「甘いものは別腹なの!」
「ボクも欲しいな~。兄貴ももらおっ、ケーキ好きだろ?」
俺も欲しいけれど、カロリーが気になる。我慢しよう。皿を持ってケーキへと向かうハルやアキ、サン達を見送り、俺も席を立った。
「セイカ、ちょっといいか?」
「ん?」
アキが座っていた席に腰を下ろし、まだ一つ目のケーキを食べている最中のセイカに話しかけた。
「……なんだ?」
話しかけておいて何も言わない俺にセイカは不審そうな目を向ける。
「えっとな……」
歌見と話していてセイカへの恨みや恐怖が少しぶり返した。それだけじゃない、アキとばかり一緒に居ることに不満もあった。
「……なんか、話しにくいこと?」
「いや、そういう訳じゃ……ない、ことも、ないかな? その、ほら、今日アキとばっか話してるだろ? 俺とも話して欲しいなぁって」
「…………なんか怒ってる?」
「違う違う違う! えっと……あー、上手い言い方見つからないんだけどさ……その、他の子は日本語で話してるから、彼氏同士で話してても何話してるか分かるんだけど……お前ら分かんないから、気になって」
「……? 今日は、何が美味いとか……アレ食べてみようとか、もう一回取ってこようとか、そんな話だけだけど」
「そっ、か。まぁそうだよな、今日は……」
《兄貴? 来たのか》
ケーキ片手にアキが戻ってきた。早くどかなければと思ったが、アキは俺が立ち上がる前に俺の膝にどっかりと腰を下ろした。
《俺の椅子になりたかったのか、殊勝な兄貴だぜ。太腿で感じる俺のケツの感触は感涙ものだろ?》
「アキ……お兄ちゃんここに居てもいいかな? セイカと二人がいい?」
「……鳴雷、なんか今日変だぞ。さっきなんか泣いてたっぽいし」
見られていたのか。
「いや、アレはカンナとカミアが可愛過ぎただけなんだけど……」
「はぁ? はぁ……そういうヤツだったなお前は。まぁ、とにかく、気が向いたんならしばらくここに居てやれよ。秋風はお前が構ってくれねぇの寂しいから俺にベタベタしてんだから」
俺よりセイカを優先することもあるから、それは違うと思う。セイカの思考が自虐的なだけだ。
(……わたくしも結構自虐的かもしれませんな。お膝に乗ってニコニコ話しかけてくれたんですから、セイカ様と二人がいいからあっち行けなんてそんなことアキきゅんが考えてるはずないでそ)
そういえば、俺の膝に座りながら何か言っていたな。
「なぁセイカ、アキさっき何言ってたんだ? ほら、俺に座る時。聞いてた? 覚えてたら教えっ、ん? む……なに……」
口に冷たい物が押し付けられ、驚いて顔を引いてみると赤色が見えた。イチゴだ。
「にーにぃ、あーん」
「……くれるのか?」
「いるしないです?」
「もらうよ、ありがとう。あーん……」
差し出されたイチゴを一口で食べる。甘酸っぱい美味を味わいながらアキを見る。アキは満面の笑顔で俺を眺めていた。
「あの……鳴雷、さっき秋風はな? ふ、太腿で……お尻の、感触……味わえて、嬉しいだろ? 的なことを……言ってた、けど」
「…………でゅふふふふ分かってますなぁアキたん!」
想像以上にくだらないし、えっちで可愛い。グダグダ悩んでたのがバカみたいだ。俺はアキの腹に腕を回し、彼を強く抱き締めた。
《んっ……物食ってる時に腹押さえるバカがあるかよ》
「あ、あれ? なんか怒ってる?」
「物食ってる時に腹押さえるなバカだってさ」
「仰る通りじゃんごめんね!? お兄ちゃんバカです!」
セイカに翻訳された俺の言葉を聞いたアキはくすくすと笑い、ケーキを一口俺に食べさせてくれた。自分で食べた時よりも美味しい気がするなんてデレデレ笑顔でセイカに惚気けていると、肩をポンポンと叩かれた。振り返れば歌見。
「先輩? どうしました」
「……交換しよう。マジで。アキくんと俺の妹」
「嫌ですよ! アキは俺のです!」
「羨ましいよぉ……なんだその可愛い弟ふざけんなよお前。あぁ? なんなんだお前、顔はいいスタイルはいい通ってんのは都内有数のお坊ちゃま高校、体臭もグッドスメルと来たもんだ。そろそろぶん殴られても文句言えないところにこんな可愛い弟だと? はぁーっ……」
普段俺に呆れた時に吐くものよりもずっと深いため息だ。
「…………逆に、お前何持ってないんだ?」
「人望」
「あるよ! 俺クラス委員長だよ!?」
「理性」
「あるって! セイカの体調悪い時は無理に抱いたりしないじゃん!」
「体幹」
「アキがあり過ぎるだけで俺体幹悪くはないんだよ!?」
セイカに三連発を食らってしまった。人望も理性も体幹もそれなりにあるつもりだ、セイカにそう思われていなかったことがショックだ。
「……セイカは人望も理性も体感もない男が好きなのか?」
「俺が好きなのはそういう表面的なもんじゃないから。俺は他のミーハー共とは違う」
人望と理性と体幹って表面か? 内面寄りじゃない?
「じゃあセイカは俺の何が……」
《スェカーチカ、何話してんだ?》
《歌見は自分の妹あんまり好きじゃないらしくて、可愛い弟のお前が居る鳴雷が羨ましくて仕方ないんだってさ。弟妹交換しよとか言ってる》
《はははっ! マジかよナナ。ウケる。悪ぃが俺は切った爪の一欠片まで兄貴のもんだ。てめぇにゃやれねぇな。けど哀れだからケーキは一口分けてやんよ》
上機嫌に笑い、長々と何か話したかと思えば、アキは歌見にケーキを一口差し出した。
「兄弟盃ならぬ兄弟ケーキか?」
「いい加減アキきゅん諦めてくだされ! やりませんから!」
「歌見んとこには行かないけど哀れだから一口あげるってさ」
「あ、哀れ…………そう、か」
哀れまれたことが相当ショックだったのか、ケーキを一口食べると歌見はトボトボと席に戻ってしまった。
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