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堂々と、強襲 (水月+フタ・セイカ)
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本屋から家までの短い帰路でフタが俺を殺そうとしていて、説得するための時間を稼いで欲しいことを簡単に説明した。
「フタさんのことですから気を逸らせれば私を殺すこと忘れると思うので、初っ端刺そうとしてきた時に止めてもらえばそれだけでいいんで」
「…………分かった」
「はい………………あの、なんでそんなことになったとか、聞かないんですか?」
何故フタに殺されかけているのか聞かれると思っていたのに、何も言ってこないから逆に不安になって俺から聞いてしまった。
「…………別に。フタさんは、そういう人だ」
「え……? 俺以外にも、なんか……誰か、殺そうとしたことがあるってことですか?」
もしそうならフタの思考回路からしてそれは元カレと呼んでいいレベルの相手じゃないか。妬ましいな。
「…………たまに殴ったりする。かなり強めに、凶器を使って。だいたいは初対面……第一印象でそれを決めるから、確かに……お前みたいにしばらく経ってからの殺意は珍しい」
「え……? 初対面で?」
「…………あぁ、理由は分からない。急に襲いかかるんだ。だから、あの人が何をしたって俺は驚かない」
それが何も聞いてこなかった理由か。しかし今の情報は気になるな、初対面で敵と認定している訳だろ? 彼氏達に会わせるのが不安になってきた。
「…………見覚えのある車だ」
家の前には黒塗りの車が一台停まっていた。
「セイカ、上手くフタさん引き止められてるみたいだな。早く行ってやらないと」
「…………バイクここでいいか」
「あー、うん。多分」
形州が大きな黒いバイクを車庫の前に運んでいる間に俺は玄関の前でセイカに電話をかけた。
「もしもし、セイカ? 今着いた」
『つ、着いた? フタは、今……秋風の部屋で待たせてる。なぁ……木芽の元カレ連れて来てるんだよな、ガタイは申し分ないけど……本当に大丈夫なのか?』
「大丈夫だよ。フタさんはボスに形州を守るように言われてるんだから、形州が居たら殺害計画延期すると思うんだよね。で、俺が話しかければフタさんは一旦計画のことが頭からすっぽ抜ける。また思い付く前にスマホ取って俺を殺しちゃダメだってメモっちゃえば完了!」
『そう上手くいくかな……で、どうする? お前らこっち来る?』
「……いや、危ないからアキとセイカは部屋に居てくれ。俺が帰ってきたから玄関の方回って、ってフタさんに言うだけでいいよ」
『分かった……フタ、おいフタ。鳴雷帰ってきたぞ』
セイカの声が少し遠くなった。スマホを顔から離したのだろう、けれど通話は繋がったままだ。フタが来るタイミングを見ろということだろうか。
『なるかみ? 誰それ』
『は……? 水月だよ』
『みつき? みつきがどうしたの?』
『今帰ってきたって。玄関の方に居るから行ったら会えるぞ、会いたかったんだろ?』
『うん! みつき会いたい!』
フタの声が聞こえてくる。無邪気な声だ、愛おしい。
『玄関に居るって。外出て、ちょっと道細いけど塀と家の隙間通って行った先』
『うん、ありがと。じゃーねカタワくん』
『俺セイカだって…………鳴雷、出てったぞ。気を付けろよ』
電話が切れた。俺はスマホをポケットに戻し、形州の背後に隠れた。形州は不愉快そうに俺を睨み舌打ちしたが、フタが相手なら攻撃されることはないと踏んでいるのか構えもしていない。
「来た……!」
家の影からフタが現れた。スマホを見ながら歩いている。
「フ、フタさーん」
形州の背後から顔だけを出して声をかける。フタは俺を見て、スマホを見て、尻ポケットに入れていたらしいドスを引っ張り出した。鞘を投げ捨て、濡れたように美しい刀身を晒す。凶器を隠す気も、計画を隠す気もナシ。本当に悪気がないんだろうな。
「フタさんっ、あの! 知ってます!? 猫ってヒゲ切るとまっすぐ歩けないんですよ!」
動物雑学を聞かせてフタの脳から殺害計画を追い出す──あれ? フタ、聞いてない? 走ってくる、止まらない。形州が居るのに。
「かっ、形州形州形州ぅうっ!」
「……っ、フタさん! 俺だ!」
自分を視認したはずなのに刃物を下ろさないのは予想外だったのか形州の声も少し焦っている。まずいぞ、コイツには俺を守る理由がない。本当に危なくなったら逃げるんじゃないか?
「國坊……」
お? 気付いたか? 目に入っていなかったのか? 形州は俺の前に居たのに?
「邪魔。イチニィミィ、金縛り」
金縛り。以前俺もやられた身体が動かなくなるアレだ。まずい、フィジカルを活かして形州にフタの隙を作ってもらうことも出来なくなる。
「ひっ……」
俺の考えが甘かったんだと後悔しながら、形州の横をすり抜け俺の首を狙うフタの眼光の鋭さと刃物の輝きに怯えて目を閉じる──ドンッ、と鈍い音がした。
「………………?」
恐る恐る目を開けると刃物を持った腕を捻り上げられ、地面に伏したフタが居た。彼を取り押さえているのは形州だ。
「…………押さえたぞ。まさか俺の横を抜けようとするとはな……お前以外目に入ってなかったと見える。流石だな、男前」
「え……? お前、金縛りは……」
「…………? 何言ってる、さっさと説得したらどうだ」
「あっ……は、はい! フタさん、えっと、こんばんは!」
取り押さえられたフタの前に屈む。
「こんばんはぁ、みつき。みつき、痛っ……な、なんか腕痛いし……重い。何されてんの? 俺……」
「……フタさん、今何しようとしてました?」
「え? 今? 今……? みつきが、えーっと、みつき居て……えっと……みつきが、しゃがんで、俺になんか言った?」
「こんばんはって言いました」
よし、何故か形州に金縛りが効かず取り押さえられた衝撃もあってかあっさり俺の殺害計画を忘れてくれたみたいだな。
「フタさんのことですから気を逸らせれば私を殺すこと忘れると思うので、初っ端刺そうとしてきた時に止めてもらえばそれだけでいいんで」
「…………分かった」
「はい………………あの、なんでそんなことになったとか、聞かないんですか?」
何故フタに殺されかけているのか聞かれると思っていたのに、何も言ってこないから逆に不安になって俺から聞いてしまった。
「…………別に。フタさんは、そういう人だ」
「え……? 俺以外にも、なんか……誰か、殺そうとしたことがあるってことですか?」
もしそうならフタの思考回路からしてそれは元カレと呼んでいいレベルの相手じゃないか。妬ましいな。
「…………たまに殴ったりする。かなり強めに、凶器を使って。だいたいは初対面……第一印象でそれを決めるから、確かに……お前みたいにしばらく経ってからの殺意は珍しい」
「え……? 初対面で?」
「…………あぁ、理由は分からない。急に襲いかかるんだ。だから、あの人が何をしたって俺は驚かない」
それが何も聞いてこなかった理由か。しかし今の情報は気になるな、初対面で敵と認定している訳だろ? 彼氏達に会わせるのが不安になってきた。
「…………見覚えのある車だ」
家の前には黒塗りの車が一台停まっていた。
「セイカ、上手くフタさん引き止められてるみたいだな。早く行ってやらないと」
「…………バイクここでいいか」
「あー、うん。多分」
形州が大きな黒いバイクを車庫の前に運んでいる間に俺は玄関の前でセイカに電話をかけた。
「もしもし、セイカ? 今着いた」
『つ、着いた? フタは、今……秋風の部屋で待たせてる。なぁ……木芽の元カレ連れて来てるんだよな、ガタイは申し分ないけど……本当に大丈夫なのか?』
「大丈夫だよ。フタさんはボスに形州を守るように言われてるんだから、形州が居たら殺害計画延期すると思うんだよね。で、俺が話しかければフタさんは一旦計画のことが頭からすっぽ抜ける。また思い付く前にスマホ取って俺を殺しちゃダメだってメモっちゃえば完了!」
『そう上手くいくかな……で、どうする? お前らこっち来る?』
「……いや、危ないからアキとセイカは部屋に居てくれ。俺が帰ってきたから玄関の方回って、ってフタさんに言うだけでいいよ」
『分かった……フタ、おいフタ。鳴雷帰ってきたぞ』
セイカの声が少し遠くなった。スマホを顔から離したのだろう、けれど通話は繋がったままだ。フタが来るタイミングを見ろということだろうか。
『なるかみ? 誰それ』
『は……? 水月だよ』
『みつき? みつきがどうしたの?』
『今帰ってきたって。玄関の方に居るから行ったら会えるぞ、会いたかったんだろ?』
『うん! みつき会いたい!』
フタの声が聞こえてくる。無邪気な声だ、愛おしい。
『玄関に居るって。外出て、ちょっと道細いけど塀と家の隙間通って行った先』
『うん、ありがと。じゃーねカタワくん』
『俺セイカだって…………鳴雷、出てったぞ。気を付けろよ』
電話が切れた。俺はスマホをポケットに戻し、形州の背後に隠れた。形州は不愉快そうに俺を睨み舌打ちしたが、フタが相手なら攻撃されることはないと踏んでいるのか構えもしていない。
「来た……!」
家の影からフタが現れた。スマホを見ながら歩いている。
「フ、フタさーん」
形州の背後から顔だけを出して声をかける。フタは俺を見て、スマホを見て、尻ポケットに入れていたらしいドスを引っ張り出した。鞘を投げ捨て、濡れたように美しい刀身を晒す。凶器を隠す気も、計画を隠す気もナシ。本当に悪気がないんだろうな。
「フタさんっ、あの! 知ってます!? 猫ってヒゲ切るとまっすぐ歩けないんですよ!」
動物雑学を聞かせてフタの脳から殺害計画を追い出す──あれ? フタ、聞いてない? 走ってくる、止まらない。形州が居るのに。
「かっ、形州形州形州ぅうっ!」
「……っ、フタさん! 俺だ!」
自分を視認したはずなのに刃物を下ろさないのは予想外だったのか形州の声も少し焦っている。まずいぞ、コイツには俺を守る理由がない。本当に危なくなったら逃げるんじゃないか?
「國坊……」
お? 気付いたか? 目に入っていなかったのか? 形州は俺の前に居たのに?
「邪魔。イチニィミィ、金縛り」
金縛り。以前俺もやられた身体が動かなくなるアレだ。まずい、フィジカルを活かして形州にフタの隙を作ってもらうことも出来なくなる。
「ひっ……」
俺の考えが甘かったんだと後悔しながら、形州の横をすり抜け俺の首を狙うフタの眼光の鋭さと刃物の輝きに怯えて目を閉じる──ドンッ、と鈍い音がした。
「………………?」
恐る恐る目を開けると刃物を持った腕を捻り上げられ、地面に伏したフタが居た。彼を取り押さえているのは形州だ。
「…………押さえたぞ。まさか俺の横を抜けようとするとはな……お前以外目に入ってなかったと見える。流石だな、男前」
「え……? お前、金縛りは……」
「…………? 何言ってる、さっさと説得したらどうだ」
「あっ……は、はい! フタさん、えっと、こんばんは!」
取り押さえられたフタの前に屈む。
「こんばんはぁ、みつき。みつき、痛っ……な、なんか腕痛いし……重い。何されてんの? 俺……」
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「え? 今? 今……? みつきが、えーっと、みつき居て……えっと……みつきが、しゃがんで、俺になんか言った?」
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