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口うるさい副会長から逃げるには(水月+シュカ・リュウ・ネザメ・ミフユ・カサネ・歌見)

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大した結論が出ないまま、話し合っているうちに昼休みは終わった。

「今日はヤるつもりだったのに……!」

「……ざまぁ~、ぴろぴろ~、ふぐっ!?」

「こ、こらシュカ! リュウを殴るな! 悪かったよ話すのに夢中になって……リュウに当たるな、ほら拳開いて」

セックス出来ず悔しがるシュカを煽るリュウ、そんなリュウを殴ったシュカを羽交い締めにする。本気ではなさそうなのに力が強く、押さえるのがやっとだ。もう少し鍛えた方がいいかな……

「じゃあ、二年生の教室はこっちだから。また明日、水月くん」

ネザメとミフユと階段で別れる。彼らと同じ二年生のはずのカサネは俺に着いてきている。

「はい、また明日。ネザメさん、ミフユさん」

「うむ……待て繰言二年生! 貴様は私達と同じクラスだろう! その目立つ髪で逃げられると思うな! 全くコロコロと長さと色を変えよって……同じ物を着けてこい!」

ミフユはカサネがカツラを着けていることを知っていたのか。まぁ、よく長さと色が変わるなら知らされなくても分かるよな。

「い、いいじゃん……お、お前らだって分け目変えたりするだろっ」

「そうだよミフユ。色も長さも気分で変えられるなんて素晴らしいじゃないか、それを制限するなんて下着や靴下の色を決めてしまう窮屈な学校と同じになってしまうよ」

「そ、そうでしょうか……うむ、まぁ、髪は今関係なかったな、悪かった繰言二年生、謝罪しよう。さ、一緒に教室に戻るぞ。五時間目は選択授業ではない、同じ教室で同じように受けるはずだが……?」

「……ぁ、お……お腹、痛いから……保健室に」

「そうかそうか腹が痛いか、着いていってやろうな。薬でも毛布でももらってから戻ろう」

「い、いや、ちょっと休んで……よくなったら教室行くから」

「普通に歩けていたではないか、椅子が硬くて嫌ならネザメ様用のクッションの予備を貸してやろう」

ネザメ、椅子にクッション着けてるんだ……

「は、離してぇ……ぁ、たっ、助けて水月くんっ、副会長剥がして!」

「ミフユさん、無理強いはよくないですよ」

「授業に出なければ単位にならんのだぞ! 昼休みに今日初めて顔を見た、今日も休んでいると思っていた、保健室に居るくらいなら少し階段を上って教室まで来い!」

「やだぁ~……水月く~ん……」

「泣くな!」

「ミフユさん……無理させたらまた学校休んじゃいますよ? 来ただけでもえらいじゃないですか、保健室まで来たってことは教室に行こうと思いはしたんですよ。じゃなきゃ家から出ません。ね、先輩」

「……ぇ、いや……お前の顔見に来ただけだけど」

「庇ってあげてるんだから話合わせてくださいよ! あぁもう……ミフユさんすいません!」

シュカは押さえるのがやっとで拳を開かせることは出来なかったけれど、小柄なミフユなら片手で押さえ込めるし繰言の服を掴む手を開かせるのも簡単だ。

「カサネ先輩今のうちに!」

「……! ありがとう水月くん感謝マジ感謝! したっけ~副会長~!」

自由を取り戻したカサネは翠の長髪をたなびかせながら保健室へと走っていった。元気そうだ、めちゃくちゃ。

「待て繰言二年生ぇーっ! 鳴雷一年生っ! きっ、さっ、まぁ~……!」

「ミフユ、早く戻らないと授業に遅れてしまうよ」

「…………鳴雷一年生、覚悟しておけ」

可愛らしい丸っこいツリ目で睨まれても怖くない。けれども怖がっているフリをしつつ謝り、別れ、教室に戻った。



五、六時間目の授業を受けて、放課後。

「ぁ……みつっ、鳴雷くん」

下駄箱の前でカサネに会った。また今朝見た紫に黒メッシュが入ったウェーブショートヘアに戻っている。

「カサネ先輩、髪戻したんですか?」

「長いの鬱陶しくて……鳴雷くん長い方が好き?」

「こっちも可愛いですよ。一緒に帰りましょう」

「昼休みはごめんな、あの後大丈夫だったか?」

「ちょっと睨まれましたけど時間なかったので平気でしたよ、ミフユさん達は帰るの車ですし。ピンチは明日ですね」

翌日まで怒りを持ち越す人間は少ない。だがミフユはその少ない側の人間である気がする。

「休むわ……」

「俺に会いたくないんですか? 俺は会いたいんですけど」

「…………行けたら行く」

「来ないヤツじゃないですか」

「なんでやねん行けたら行く言うとるやんけ。なぁ」

「えっ、うん。行けたら……ね」

カサネはまだ俺の彼氏達に慣れていないようで、話しかけられたり近付かれる度に怯えている。カンナもまだカサネを警戒しているのか、普段より俺の腕を抱く力が強い。

(二人とも俺に引っ付くから、一言も話してないこの二人の距離が一番近いんですけどね)

俺に甘える気弱男子達、最高!

「──って感じなんですよね、最高じゃないですか? 気の弱い顔の可愛い男の子って」

「片っぽ先輩なんだよな?」

バイト終わり、バックヤードで歌見に新しい彼氏の報告ついでに可愛さの布教も行った。

「ゲーマーでカツラいっぱい持ってるカラフルな気弱男子ねぇ……ま、ゲーマーってのは嬉しいな。今度俺とも対戦願いたい」

「カサネたんよくないタイプのキモオタなので「え~エンジョイ勢かぁ、エンジョイ勢用の子育ててないんだよな~」とかいう態度取る上に全然手加減せず勝利して「あーやっぱこの子達じゃ強過ぎたかごめんな~、弱いヤツに気ぃ遣うのは疲れるよホント」とか言いますぞ」

「めっちゃムカつく。プレイヤーが直接ダメージを与え合うバトル開始だな」

「ただの喧嘩じゃないですか!」

なんて話していると、外から裏口の扉がガンッガンッと強く蹴り付けられた。

「なっ、なんだ?」

「あー……来たかな」

「待て待て待て開けるなヤバいヤツ居るって絶対!」

「わたくしが呼び付けたお客様ですよ」

止める歌見を振り切り、扉を開ける。煙草臭さに顔を顰め、頭一つ分上にある三白眼を睨み上げる。

「この店禁煙です……」

「…………ぁ?」

「鞄取ってきますねっ!」

帰宅の準備は終えていたので鞄を持ち、歌見と共に外に出た。

「木芽の元カレじゃないか。えーっと……」

「…………形州だ」

「そうそう形州。何だ? 結局こっちも口説いたのか?」

「違います違います違います!」

「………口説かれたら、歯型ですら照合出来ない顔にしてやってる」

「下顎ぐちゃぐちゃってことですか!? 怖ぁ……」

「違うのか、じゃあ何で……ぁ、悪い、今日夜勤入れてるんだった。もう行かないと。じゃあな、また明日訳聞かせろよ」

歌見は小走りで駅へと向かった。彼は形州をあまり危険視していないのかな。

「………………フタさんの動きちょっと止めて欲しいんだったか」

「あ、はい。一瞬でいいんです。やってくだされば夕飯と寝床ご提供させていただきます」

「…………簡単な仕事だな。ありがたい」

フタよりも背の高い形州は歩幅が広く、俺は早歩きで彼の隣に並んだ。
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