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大層な興味のない話 (水月+ネイ・ミタマ・サキヒコ)

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ネイは姿勢を正し、今までより刺激の強い話とやらを話し始めた。

「日本神秘の会……残念ながらこの組織の情報はほとんど手に入れていません。本当です。情報を狙っている最中なんです」

信用してもいいだろう。ただの男子高校生の俺に接触してきたくらい、どこから調べるかを迷っているんだ。

「……ほとんど分からないなら刺激の強い話も何もないんじゃ?」

「私の予想が少し過激なんですよ。日本神秘の会は表向きは単なる新興宗教です、今のところそれほど悪質性も高くありません。洗脳や監禁、高額献金などの情報は掴めていない……という意味です。実際やってるのかもしれません」

「表向きはってことは……裏の顔はなんか、麻薬売ってたりとかそういう感じですか?」

「分かりません。麻薬も扱っているかもしれませんね。何も分からないんです、私達も少し前まで単なる新興宗教としか捉えていなかった……けれど、猟犬共が動き出したんです。ヤツらを敵視している。戸鳴町のことでもないのに猟犬の頭……あの秘書が動くということは、オカルト関係か……もしくは、子供が…………食い物に、されているか」

子供が……そういえば秘書は彼自身に何のメリットもないのに虐待とも呼べる訓練をアキに施したアキの父親を殺そうとしていたな。

「彼はこれまで行政が取りこぼしてしまった子供達を救ってきました。いい意味で子供好きのようです。その善性だけは、私は信用しています。だから私は真っ先に動きました。私にとって真に大切なのは今はノヴェムだけですが……だからこそ、同じくらいの子供が酷い目に遭っているのなら放っておけません」

秘書は子供を大切に思って救っているのではなく、子供を大切にしない親が嫌いで殺して回っている……といった感じだったような。まぁ、直接彼から思いを聞いた俺と、彼の行動をふわっと掴んでいるだけのネイとでは、多少の認識の違いはあって当然か。

「穂張組には超優秀なハッカーや、私以上の諜報員が居ます」

ネイ、諜報員の素質ないよ。多分。

「神秘の会の情報を何か掴んでいるんじゃないかと考え、尻尾を掴ませない神秘の会を闇雲に追うより穂張組から情報を得た方が近道なのではと、情報を得る方法を探って辿り着いた答えが、鳴雷 唯乃でした。彼女は若神子製薬専務であり、穂張組に仕事を頼む仲……秘書の側近か何かではと考えたのです」

見当違いだな。母は秘書の人脈を利用はするが、それだけだ。

「なので近所に越してきて、仲良くなってみました。酒の席なら何か漏らさないかと飲みに誘いましたが断られ、ならばまずは好意を持たせようかと誘惑してみたのですが…………はぁ……子持ちの彼女がレズビアンだとは思いませんでした」

「バイですよ、一応。男に愛想が尽きただけで」

「あぁ、女好き寄りのバイ……私とお揃いですね。ふふ……それで、何度も出入りして少しずつ仕掛けた盗聴器などからあなたが穂張組の者と交際していることを知り……あなたに標的を変えました」

心臓が締め付けられているみたいに胸が痛い。

「俺のこと、惚れさせようとした……ってこと、ですよね。あんな……何度もキスするなんて、工夫もクソもないっ、単純な手で!」

「……思春期の男の子ならアレで十分だと思ったんです。あなたは彼氏をたくさん作っていたので、来る者拒まずなんだろうと……意外と勘がよくて身持ちが固くて驚きました」

「酷いですよ! 俺は……ちょっと、本当に好きに……なりかけて…………本格的に落としにかかられる前から、優しい人だないい人だなって、ノヴェムくんと居る時なんてもうこれ聖母子像か何かかなってレベルで俺! 俺……! 憧れて、好きで…………嘘つきなんて、そんなのであって欲しくなかった」

「…………本当に、ごめんなさい」

「高潔な心持ちで法律さえ飛び越える正義感の持ち主で、子煩悩。結構なことですよ。この先もどうぞ己の正義に従って、ノヴェムくんと世間様の安寧とやらのために頑張ってください。ご立派なお仕事のために一人の男子高校生のちゃっちぃ恋心踏み躙ったことなんか、さっさと忘れるがいいです」

「ミツキ……」

「よい、サキヒコ。これくらい言わせてやれ」

「……はい」

丸めた背をサキヒコの小さな手が撫でてくれる。

「たくさん恋人が居るなら傷付くことはないと思っていたんですが……私の考えが甘かったみたいですね」

「ネイさんはいつも考え甘いっぽいですよね」

「…………そんなに、私を……と、思うと、少しクるものがありますね。人間は単純だ……好意を向けられれば、自然と返したく──」

「英寧、ワシから今少し聞きたいことがある。もう少し話してもらえるな?」

ぽふ、ぽふ、と尻尾が俺の背を撫でている。

「……本名までバレているとは」

「何故、こんな回りくどい手を取る。秘書とやらが掴んでいるであろう情報が欲しいのなら、その秘書に直接聞きに行けばよかろう」

「出来るならそうしていますよ」

「……秘書がヌシの情報をゆーちゃんに話した。つまり、秘書はヌシもしくはヌシの上層などと繋がりがある……違うか?」

「国家の基盤が整うよりも昔から、怪異の対処は専門家だけのものでした。本来なら警察内部に怪異への対応部署を作るべきところが、その専門家連中からの圧力で出来なかった。視える者にしか視えないモノというのも大きな問題だった。故にほとんどの国民がオカルトをフィクションだと思ったままだ。神秘の会だって……オカルト絡みならそちらに任せておけという態度を上は取っている。けれど、暴れた怪異をぶっ叩くことしかしてこなかったような連中が、組織犯罪にどこまで対処出来る? 怪異は討伐すればそれでよくても、組織犯罪なら人間を罰しなければ繰り返すだけだ! 組織の人間の虐殺なんてできっこないし、やらせない、全員捕まえる……!」

「…………なるほどのぅ。ヌシは神秘の会とやらがオカルト系のものではないと上に示しつつ、ヤツらが犯しているはずのオカルト無関係の犯罪の証拠を集めたい……そういうことじゃな?」

「ええ……あの秘書の上と私の上は通じている。あの秘書と接触したことはすぐに伝わるでしょう、そうすれば上は神秘の会はオカルト絡みと気付き私を引かせます」

「人間は大変じゃのぅ」

「ネイさん、俺に協力して欲しいとかさっき言ってましたけど……それって、俺が秘書さんに神秘の会とかいうのの話聞くだけでいいんですか?」

「いえ、彼にとってあなたは表の顔の部下の息子に過ぎませんから、聞かれても何も話さないと思います。いくらあなたが二体も憑けているとはいえ。あなたにどう情報を掴んできてもらうかはまた考えておきますから、私と通じていることがバレないようしばらくは大人しくしておいてください」

「……分かりました」

何だか大層な話になってきたな。入れられた情報が多過ぎて頭が痛い。さっさと眠りたい。

「もう、帰っていいですよね。帰ります……おやすみなさい」

「……おやすみなさい、水月くん」

ネイはソファから立ち上がることなく俺に手を振った。今までの彼ならキスでもしてくれたんだろうなと、幻想だったネイの笑顔を思い浮かべて深く息を吐いた。
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