冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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肝試しの合間に (〃)

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バシッ、と顔にぶつけられたのは雑誌だ。ゲイ向けのアダルト雑誌。それを投げ付けた大柄な人影は舌打ちをしながらベルトを鳴らした、ズボンを履き直しているようだ。

「…………見覚えのある顔だな」

手元の懐中電灯を俺に向けた彼は深いため息と共にそう言った。

「……お前が俺のセフレを奪ったから俺は一人寂しく自分を慰めていた訳だが、まさかそれまで邪魔するのか? 性格の悪いヤツだ、玉が破裂して死んだらダイイングメッセージにはお前の名前を書こう」

「何やってんだよ形州!」

そう、形州だ。廃墟で懐中電灯を使ってエロ本読みながらシコってやがったのは形州、レイの元カレ。よく部屋を見てみれば他にもアダルト雑誌が何冊か積んであるし、マットが敷いてあるし、オナホやコンドームの箱もころがっている。それだけでなく未開封のジュースの缶やお菓子もある。

「…………自慰を知らないのか。まぁ、十人も居れば右手は暇になるだろうな」

「十六人だよ! 何をやっていたのか聞きたかったんじゃなくて、なんでこんなとこでシコってんのって聞きたかったの!」

「……ならそう言え、現国赤点か? お前」

「現国だけはいい点とってるわ! で? なんで? なんか……お菓子とかもあるし。お前も肝試しに来たのか? 友達は?」

「…………ここは俺の寝床の一つだ」

「え……い、家は?」

「……………………今ちょっと帰りたくない」

「あ……そ、そうなんだ」

「……こういうところを寝床にしていると、お前みたいに肝試しに来たヤツから小遣いを得られる。案外悪くはないぞ」

血まみれのおっさん居るらしいよ、なんて言っても無駄なんだろうな。コイツ霊感ないみたいだし。

「…………ほら、出せ。小遣い。ジャンプしてみろ」

「俺今マジで財布持ってないのよ。持ち物スマホオンリー、電子マネー万歳」

「……送金しろ」

「新感覚のカツアゲ……お前は二メートルかもしれないけどな、フタさんは192だぞ! やっちゃってくださいフタさん!」

「やっほー國坊~、寝るとこないならウチの仮眠室使えばいいのに~……蛾に食べられるよ~?」

「蚊に刺される、ですよフタさん」

「……他人が居ると出来ないタイプでな。まぁ……お前らのせいでそんな気分でもなくなった、そうするよフタさん」

フタにはさん付けなんだ……

「ミツキ、戻ったぞ。かなり力が強まったように思える、まだ実体化は難しそうだが」

「あっおかえりサキヒコくん。じゃあ戻ろっか。フタさん、車戻りましょ」

フタの腕を抱き、引き返していく。帰りにはフタは何にも話しかけなかった、この廃ビルの霊は全て片付けられたのだろう。

「うわ……よく見ればバイクあるじゃん」

フタが車を停めたほど近く、物陰に隠されてはいるが形州が乗っている大型バイクがチラリと見えた。

「病院と墓には誰も居ませんように……」

助手席でそう祈った。祈りは通じず、病院跡の入り口付近には多くのバイクが並んでいた。

「……ごめんサキヒコくん、一人で行ってきてくれる?」

「生者が多いようだな。それがミツキの苦手な連中なのか?」

「うん……」

「次はワシがさっちゃんに着いていこう。ついでに悪ガキ共にイタズラもしてやるかのぅ」

「え……コンちゃん、ダメだよ関わっちゃ。危ないから見つからないように透けて行くんだよ」

「心配性じゃのう。行ってきます、みっちゃん」

俺の頬にキスをするとミタマの姿が透け、消えていった。呼びかけても返事がない、もう車から出ていったのだろう。

「……雰囲気あるなぁ。よくこんなとこたまり場にするよ……不良共の考えることって分かんないな」

窓を開け病院跡を見上げてため息をつく。俺が住んでいる町にはこんな廃墟はないはずだ、引きこもりの俺は知らないだけかもしれないけれど。廃ビルが多く、病院跡まであるこの町は、俺の想像以上に治安の悪い廃れた町なのかもしれない。

「みぃーつきぃ~」

病院跡を眺めていた俺をフタのたくましい腕が絡め取る。

「フタさん、どうしました?」

「ひま」

「暇って……じゃあ俺とイチャイチャしましょ」

「なにそれ」

「ちゅーしたり、ぎゅーしたり、恋人っぽいことするんです」

墨で飾られた腕の中で反転し、フタの首に腕を回して唇を重ねる。肝試しに来てイチャつくカップルは無惨に死ぬのがホラー映画のお約束だが、俺達はまだ病院内には入っていないのでセーフだと思いたい。

「んっ……フタさん舌までおっきい」

「そう? 嫌?」

「逆ですよ。おっきいの俺好きです」

繰り返し唇を重ね、舌を絡めて楽しむ俺の耳に、醜い絶叫が届いた。複数重なって聞こえたから多分、病院跡をたまり場にしている不良達のものだ。

「んだようるっせぇな……」

「こらみつき、ヒト兄ぃみたいなこと言わないの」

めっ、と額をつつかれ、萌える。

「フタさぁん、そんな可愛い叱り方するなんて……! 俺もう止まれなくなっちゃいますよ」

「ただいま~、なーのじゃ。みっちゃんみっちゃん聞いとくれ、血まみれ骨バキバキ四つん這い女に化けて出ていってみたら……! 腰抜かして驚いとった! くふふふふ……カカカカカッ! 思い出すだけでも笑けてくるのぅ」

突然後部座席に現れたミタマは楽しげに病院跡であったことを話した。

「いいとこだったのに……やっぱりコンちゃんが何かしたんだ、すごい叫び声聞こえてきたよ。ってかそれ怖過ぎ! 誰でも叫ぶよそりゃ」

「戻ったぞミツキ。いい調子だ、後少しでミツキに姿を見せられる」

「ほんとっ? わぁ……! 楽しみ!」

「ふーちゃん、次はお墓じゃ。行ってくれるかの」

「ん。道案内お願~い」

「すまんのぅ、みっちゃんとええ雰囲気じゃったろうに……しかしあのままほっとくとみっちゃんおっぱじめよるからのぅ、ますます帰る機会を失うてしまうじゃろうし……仕方なかったんじゃよ」

空気を読まずに帰ってきたのはわざとだったのか。いや、恨むまい、悪いのは俺の性欲の強さだ。とはいえこれは生まれつきのようなもの、努力して弱まるものではない。鍛えるべきは理性だ。
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