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廃墟デート? (〃)
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ほんの数十メートルだったのでフタにはスマホを仕舞わせ、俺が案内することにした。
「着きましたー。フタさん何食べます?」
「アレ」
「牡蠣玉うどんですね。俺はすき焼き釜玉……コンちゃんはきつねうどん?」
「みっちゃんは分かっておるのぅ」
「サブメニューに稲荷寿司もあるよ、好きなだけ取っていいからね」
豊富なサブメニューから俺はイカの天ぷらを、フタは鶏の天ぷらとおにぎりを選んだ。ミタマはやはり稲荷寿司を選ぶようだ。
「おかいけ~? あー、三人まとめてで~」
「えっ、ちょフタさん。俺自分で払えますよ、コンちゃんの分も俺がっ」
「みつきはちっちゃいのにえらいねぇ、いいんだよこれくらい。お小遣い大事にしなね」
「ちっ、ちゃい……!?」
視線を感じる。店員からも客からもだ。どうしようSNSに「高身長イケメンが超高身長イケメンに「ちっちゃい」とか言われてた件」みたいな投稿されたら。
テーブル席に着き、手を合わせ、まずは一すすり。
「久しぶりにこの店来ましたよ俺。近所ですし、フタさんはよく来てたりします?」
「分かんな~い」
「分かんないかぁ~」
やっぱりフタは可愛い人だ。ほっこりしながら麺をすすり、フタが牡蠣を齧るのを眺める。
「んっ……何これ」
「何って?」
「これぇ……今食べたの」
「牡蠣ですけど……あっ、貝ですよ」
「ぐにゅってした……変な味だし、俺これきらい……」
「えっ!? 牡蠣好きで頼んだんじゃ……えぇー……嫌いならなんでそれにしたんですか」
「食べたくない……」
フタは眉をひそめている。可愛らしい顔だ。
「どうしましょう……えっと、あっ、俺のと交換します? まだ一本くらいしか食べてないんで……」
「……みつきの美味しい?」
「まずは一口どうぞ」
肉を一切れと麺を一本レンゲに乗せてフタに食べさせる。
「……! 甘くておいしい。これ食べたい」
「よかった、じゃあ交換ですね」
「……みつき、これでいい? ぐちゅってするよ」
「大丈夫ですよ、牡蠣好きですから」
「みつきすごいねぇ、大人だねぇ」
牡蠣を食べるだけで褒められるなんて不思議な気分だ。俺は褒められた喜びで頬を緩めながらうどんを交換し、卵と牡蠣が入ったうどんをすすった。牡蠣の気分ではなかったのだが、まぁ、美味しいしいいだろう。
「みっちゃんは優しいのぅ。ええこええこ」
「わ……もぉ、急に撫でないでよ~」
「嬉しそうにしおって」
「これめっちゃおいしい」
「フタさん、頼む前にちゃんと何が入ってるか見た方がいいですよ」
「がんばる~」
「頑張る……?」
食事を終え、店を出た俺はスマホを取り出し、マップアプリを開いた。
「えー、廃ビル病院お墓……お墓はともかくビルと病院はどれか分かんないな」
「貸してみぃ」
ひょい、とミタマにスマホを奪われる。肩越しに覗いてみると、彼は探すような手つきでもなく最初から分かっていたかのようにピンを三つマップに刺した。
「……すごいねコンちゃん。そのサーチ力も神通力的な何か?」
「比較的強い霊力を感じる場所を選んだまでじゃ」
「すごいすごい。っていうかコンちゃんスマホ使えるんだね」
「みっちゃんが使うとるのいつも後ろから見とるからのぅ」
「私もミツキの手元をいつも覗いていますが、私には扱える自信がありません。尊敬します」
うんうんと頷きながら、俺は「コイツらいつも俺のスマホ覗いてるのかよ……」と戦慄していた。検索履歴やフォルダは自分だけが知るべきものだ。
「みつきぃ、どこ行くの~?」
「近いところから……ビル、病院、お墓、の順番ですね」
「デートだねぇ」
微笑むフタの頬はほんのりと赤い。
「……そうですね!」
事務所に戻り、フタに車を出してもらった。スマホ片手に道案内をし、雰囲気のある廃ビルに着いた。
「うわぁ……落書きしてるし窓割れてるよ」
スマホのライト機能をオンにし、恐る恐る中に入っていく。
「たくさん居ますね」
「さっちゃんみたいな魂持ちは居らんの。安心して食ってきぃ。みっちゃんの守りはワシに任せぇ」
「ありがとうございますミタマ殿」
「ん? どったのイチ、ニィ、サキくんと行くの~? ミィは? あはは、俺と居るぅ? よしよし、可愛いねぇ」
フタは肩の上に手をやっている。猫を撫でているのだろうか、俺には何も見えない。サキヒコは猫の霊二匹を連れてもう行ってしまったようだ、話しかけても返事がない。
「……コンちゃん、フタさんとこの猫ちゃん達ってサキヒコくんより強い霊なんだよね? なんで俺見えないの?」
「強くなったら誰にでも視えるようになるのではなく、視えん者にも視せられるようになるのじゃ。この違い、分かるのぅ?」
「猫ちゃん達は俺に見られる気がないってことね……」
「そういうことじゃ」
別に猫好きというほどでもないから見させてもらえないことを嘆きまではしないのだけれど、猫と戯れるフタの可愛さは堪能したい。猫が見えないとフタはパントマイムが上手い人になってしまうのだ。
「……みつきぃ、ここ立ってるだけでいいの~?」
「え、まぁ……サキヒコくんが俺から離れられる範囲的には、ここに居ればビル全体行けるみたいなんで」
「ふーん……?」
よく分かっていない顔だ。フタはデートのつもりなのだから、入り口で待つだけではフタが納得しないのは当然だな。
「……サキヒコくんしばらくかかるでしょうし、肝試ししましょっか!」
「うん」
「一階ぐるっと回るだけですよ? 怖いので」
フタの腕を抱き、数メートル先を照らし、歩いていく。夜中に廃墟を探索するにはスマホのライトは心もとない。
「あ、こんばんは~」
「フタさん、誰に挨拶を……?」
「え? あそこのおじさん。あれ、よく見ると大怪我してる。病院呼んだ方がいいかなぁ」
「呼ぶのはお坊さんですかね……」
俺には見えないが、居るらしい。ゾクゾクと背筋に悪寒が走り、鳥肌が立つ。フタの腕をより強く抱き締めると、彼は機嫌良さげに笑った。
「みつき暗いのこわい? 可愛いねぇみつきは」
「暗いのもおじさんも落書きの主も全部怖いです……」
歩き回るだけではつまらなかったのか、フタは何気なく錆びた扉を開けた。俺は鼻を啜りながら扉の内側、部屋の中を照らす。
「……え」
浮かび上がる人影、こちらを睨む目。
「…………うわぁああーっ!? 廃墟で巨人がシコってるぅーっ!?」
俺の絶叫はビル全体に響き渡った。
「着きましたー。フタさん何食べます?」
「アレ」
「牡蠣玉うどんですね。俺はすき焼き釜玉……コンちゃんはきつねうどん?」
「みっちゃんは分かっておるのぅ」
「サブメニューに稲荷寿司もあるよ、好きなだけ取っていいからね」
豊富なサブメニューから俺はイカの天ぷらを、フタは鶏の天ぷらとおにぎりを選んだ。ミタマはやはり稲荷寿司を選ぶようだ。
「おかいけ~? あー、三人まとめてで~」
「えっ、ちょフタさん。俺自分で払えますよ、コンちゃんの分も俺がっ」
「みつきはちっちゃいのにえらいねぇ、いいんだよこれくらい。お小遣い大事にしなね」
「ちっ、ちゃい……!?」
視線を感じる。店員からも客からもだ。どうしようSNSに「高身長イケメンが超高身長イケメンに「ちっちゃい」とか言われてた件」みたいな投稿されたら。
テーブル席に着き、手を合わせ、まずは一すすり。
「久しぶりにこの店来ましたよ俺。近所ですし、フタさんはよく来てたりします?」
「分かんな~い」
「分かんないかぁ~」
やっぱりフタは可愛い人だ。ほっこりしながら麺をすすり、フタが牡蠣を齧るのを眺める。
「んっ……何これ」
「何って?」
「これぇ……今食べたの」
「牡蠣ですけど……あっ、貝ですよ」
「ぐにゅってした……変な味だし、俺これきらい……」
「えっ!? 牡蠣好きで頼んだんじゃ……えぇー……嫌いならなんでそれにしたんですか」
「食べたくない……」
フタは眉をひそめている。可愛らしい顔だ。
「どうしましょう……えっと、あっ、俺のと交換します? まだ一本くらいしか食べてないんで……」
「……みつきの美味しい?」
「まずは一口どうぞ」
肉を一切れと麺を一本レンゲに乗せてフタに食べさせる。
「……! 甘くておいしい。これ食べたい」
「よかった、じゃあ交換ですね」
「……みつき、これでいい? ぐちゅってするよ」
「大丈夫ですよ、牡蠣好きですから」
「みつきすごいねぇ、大人だねぇ」
牡蠣を食べるだけで褒められるなんて不思議な気分だ。俺は褒められた喜びで頬を緩めながらうどんを交換し、卵と牡蠣が入ったうどんをすすった。牡蠣の気分ではなかったのだが、まぁ、美味しいしいいだろう。
「みっちゃんは優しいのぅ。ええこええこ」
「わ……もぉ、急に撫でないでよ~」
「嬉しそうにしおって」
「これめっちゃおいしい」
「フタさん、頼む前にちゃんと何が入ってるか見た方がいいですよ」
「がんばる~」
「頑張る……?」
食事を終え、店を出た俺はスマホを取り出し、マップアプリを開いた。
「えー、廃ビル病院お墓……お墓はともかくビルと病院はどれか分かんないな」
「貸してみぃ」
ひょい、とミタマにスマホを奪われる。肩越しに覗いてみると、彼は探すような手つきでもなく最初から分かっていたかのようにピンを三つマップに刺した。
「……すごいねコンちゃん。そのサーチ力も神通力的な何か?」
「比較的強い霊力を感じる場所を選んだまでじゃ」
「すごいすごい。っていうかコンちゃんスマホ使えるんだね」
「みっちゃんが使うとるのいつも後ろから見とるからのぅ」
「私もミツキの手元をいつも覗いていますが、私には扱える自信がありません。尊敬します」
うんうんと頷きながら、俺は「コイツらいつも俺のスマホ覗いてるのかよ……」と戦慄していた。検索履歴やフォルダは自分だけが知るべきものだ。
「みつきぃ、どこ行くの~?」
「近いところから……ビル、病院、お墓、の順番ですね」
「デートだねぇ」
微笑むフタの頬はほんのりと赤い。
「……そうですね!」
事務所に戻り、フタに車を出してもらった。スマホ片手に道案内をし、雰囲気のある廃ビルに着いた。
「うわぁ……落書きしてるし窓割れてるよ」
スマホのライト機能をオンにし、恐る恐る中に入っていく。
「たくさん居ますね」
「さっちゃんみたいな魂持ちは居らんの。安心して食ってきぃ。みっちゃんの守りはワシに任せぇ」
「ありがとうございますミタマ殿」
「ん? どったのイチ、ニィ、サキくんと行くの~? ミィは? あはは、俺と居るぅ? よしよし、可愛いねぇ」
フタは肩の上に手をやっている。猫を撫でているのだろうか、俺には何も見えない。サキヒコは猫の霊二匹を連れてもう行ってしまったようだ、話しかけても返事がない。
「……コンちゃん、フタさんとこの猫ちゃん達ってサキヒコくんより強い霊なんだよね? なんで俺見えないの?」
「強くなったら誰にでも視えるようになるのではなく、視えん者にも視せられるようになるのじゃ。この違い、分かるのぅ?」
「猫ちゃん達は俺に見られる気がないってことね……」
「そういうことじゃ」
別に猫好きというほどでもないから見させてもらえないことを嘆きまではしないのだけれど、猫と戯れるフタの可愛さは堪能したい。猫が見えないとフタはパントマイムが上手い人になってしまうのだ。
「……みつきぃ、ここ立ってるだけでいいの~?」
「え、まぁ……サキヒコくんが俺から離れられる範囲的には、ここに居ればビル全体行けるみたいなんで」
「ふーん……?」
よく分かっていない顔だ。フタはデートのつもりなのだから、入り口で待つだけではフタが納得しないのは当然だな。
「……サキヒコくんしばらくかかるでしょうし、肝試ししましょっか!」
「うん」
「一階ぐるっと回るだけですよ? 怖いので」
フタの腕を抱き、数メートル先を照らし、歩いていく。夜中に廃墟を探索するにはスマホのライトは心もとない。
「あ、こんばんは~」
「フタさん、誰に挨拶を……?」
「え? あそこのおじさん。あれ、よく見ると大怪我してる。病院呼んだ方がいいかなぁ」
「呼ぶのはお坊さんですかね……」
俺には見えないが、居るらしい。ゾクゾクと背筋に悪寒が走り、鳥肌が立つ。フタの腕をより強く抱き締めると、彼は機嫌良さげに笑った。
「みつき暗いのこわい? 可愛いねぇみつきは」
「暗いのもおじさんも落書きの主も全部怖いです……」
歩き回るだけではつまらなかったのか、フタは何気なく錆びた扉を開けた。俺は鼻を啜りながら扉の内側、部屋の中を照らす。
「……え」
浮かび上がる人影、こちらを睨む目。
「…………うわぁああーっ!? 廃墟で巨人がシコってるぅーっ!?」
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