冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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元プロ根性

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俺の土下座が効いたのか、数十箇所あった変更点が十箇所以下に減らされた。カンナは不服そうだが、ああいうのはアキにでも踊らせればいいのだ。ネットに上げたらバズるかもな……

「これ、いじょ……けず、のは……やだっ。がんば、て……おど、て」

「あぁ、頑張るよ。ごめんな丸投げしておいて文句言いまくって」

カンナ一人に振り付けを考えるのを任せてしまった俺が悪いのだ、高難易度ダンスを考えてきてしまったカンナには何の落ち度もない。

「じゃ、練習開始ね~。しぐ、前立って踊ってくんない? 俺らまだ覚え切れてないからさ~」

「……物、覚え……悪い、ね」

「えっ?」

「ぼく、前立って、踊ってあげる。左右反転、してあげる……みんな、笑って、踊ってね」

カンナは俺達に背を向けるのではなく、俺達と向かい合うようにして鏡の前に立った。目隠しの布はほどかれ、ファイルの上に置かれている。もう恥ずかしさはないのか? 先程から何だかカンナの様子が変わったような気がする。

(こ、これはまさか……極々稀に見せる、カミアモード!?)

かつて現在のカミアよりも歌もダンスも上手く、かつSっ気の強い俺様系だったと聞く、火傷を負う前のカンナ。カミアという名で呼ばれていた頃の、名前を交換させられる前の、カンナ。

(カミアたんの前でイジワルお兄ちゃんに戻ったり、ビーチバレーの際に運動神経を上げるために自己暗示でカミアを名乗ることで起こっていた、カミアモード……! 希少ですぞ~、目に焼き付けまそ!)

キビキビと動き、ハッキリと喋るカンナというだけで珍しい。永久保存版だ。

「……! セイカ、後で見たいから撮っといてくれないか? スマホ持ってるよな。踊りながら鏡で見るより、撮って後で見た方が反省点分かると思うんだ」

「あ、うん、分かった」

よし、これで脳内だけでなくスマホにも記録される、本当に永久保存可能だ。

「せーくん、音お願い」

「ん。はーい、さん、にー、いち……」

CDプレイヤーから音楽が鳴り始める。カンナの動きを必死に真似る。

「……止めて」

「えっ? う、うん」

踊り始めてから数十秒後、音楽が止められた。ここまでで一区切りなのだろうか。カンナのダンスを真似るのに精一杯で音楽をよく聞けていなかった……と汗を拭っていると、いつの間にかカンナが目の前にツカツカと歩み寄っていた。

「ん……?」

「ちゃんと音聞いてる?」

カンナとは思えないハッキリした発声で、そう詰められた。

「えっ、と、聞けてなかった……です」

「音聞いて。じゃなきゃリズム取れないでしょ」

言い終えるとカンナは俺の隣で踊っていたハルの前へ、またツカツカと普段のカンナからは考えられない大股で歩いた。

「肘と膝、伸ばすとこで曲がってる。手も開くとこで指曲がってるし、握るとこで微妙に開いてる。ちゃんと末端にまで意識配って踊って」

「ひゃわわ推しと同じ声でお叱りぃ……! ひゃい……! がんばりゅましゅっ!」

カミアオタクっぷりを出したハルに何の反応もせず、カンナはシュカの前へ。普段とは様子の違うカンナに流石のシュカも驚いているようだが、それでもキッと睨み返した。

「笑顔」

「……は?」

「ダンス中は、笑顔が基本。真顔でやるのもあるけど、これ違うから。笑顔、やって」

「顔なんてどうでもいいでしょう」

「…………どうでも、いい?」

「まぁまぁまぁまぁまぁ! しぐぅ! 俺には? 俺には何かダメ出しないのん?」

喧嘩の気配を察したらしいリュウが二人の間に割って入る。ナイスだ、流石コミュ力お化けのリュウ。

「……動きが、小さい。背中、曲がってる。たまに、面倒臭そうな顔、する……回転、逆だった。後は、ハルくんと同じ」

「お、おぉ……よぉ見とんなぁ。頑張るわ」

「次、通しでやる、から……今言ったこと、意識して、ね」

ちゃんと音楽を聴いてリズムを意識する……だったな、俺へのダメ出しは。今のカンナは何だか怖いぞ、本気で頑張ろう。

「音」

「ん。はい、さーんにーぃいーち」

セイカへの指示も、そのセイカのカウントも雑になってきている。



一応、踊り切った。カンナからの評価はどうだ?

「リズム、意識出来てた。鈍いけど……何度かやれば、慣れると思う。頑張って」

「……! はい!」

何故だろう、いつものカンナに「がんばって」と応援されるより嬉しいぞ?

「ちゃんと、指先まで力入ってた。笑顔もいい感じ。目線散りがちだから、そこだけ気を付けてね」

「ひゃうん……」

アッ! ハルが推しと同じ声で褒められて腰砕けになっている!

「がんばりましょう、って、感じ……体がついてってない、感、すごい」

「その通りやわ、俺体動かすん苦手やねんなぁ」

「基礎、の、運動神経……鍛えるの、先、かも」

何でもまず身体を動かしてみる体感派っぽい雰囲気を出していながら、リュウは理論派の運動音痴だ。頭では上手くいっているのにと体育の時間いつもボヤいている。

「笑顔」

「……またそれですか」

「また、出来て、ないんだから……またに、決まってる」

「…………顔以外にイチャモンつけるところないんでしょう?」

「うん、ダンス、上手。でも……楽しく、なさそう」

「楽しくありませんもの」

「楽しま、なくて……いいから、楽しそうに、して」

普段はあまり関わりのない二人が、まさか体育祭で披露するダンスという何気ないものでここまで対立するなんて思わなかった。俺はどうすればいいのだろう。

「とりりん作り笑顔得意やんか、いっつもやってるやろ?」

「……踊るのにかなり神経使ってるのに、顔にまでってのはちょっと……それに、必要性が分かりません。参加さえすればいい、出来を評価されることはない、たかが体育祭で……それも、目立ちまくる水月の傍で踊るんです。笑顔に何の意味があるんですか? 意味のないことはしたくありません」

「意味、ある。笑えば、ぼくに……ぐちぐち、言われなくなる」

「お前にぐちぐち言うなって圧かけた方が早そうですよね」

「…………腹で、何考えててもいいから、踊ってる時は、楽しそうにして。それが、そんなに難しいの」

「難しいというか、馬鹿らしいですね」

「……楽しそうにして楽しませるのが仕事だろワガママ言うなカンナっ!」

「は……? カンナは、あなたでしょう?」

「…………え? ぁ……カミ、ア?」

「……私はシュカですよ?」

「しゅ、か……ぼく…………ぼくは、えっと」

「カーンーナっ! 一日目からあんまり根詰めるなよ、まだまだ練習日はいっぱい用意されてるんだから! な!? カンナっ、カンナ、ほら、ちょっと水分補給しようなカンナ、汗かいてるし」

何度も名前を呼びながら俺の水筒を手渡すとカンナは何も言わずこくりと頷いて数口お茶を飲んだ。

「ふぅ…………ん……? ぁ、これ……みぃ、く……の、すいと…………!」

飲み終えてから間接キスに気が付いたカンナは、いつもの彼らしく真っ赤になった。
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