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高過ぎる難易度
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俺達のグループがダンスルームを使う番が回ってきた。運動場での練習に区切りを付け、体育館近くに建てられた小さいながらも新しく綺麗なダンスルームに入る。
「……この壁一面の鏡って誰が磨いてんのかな」
「ダンス部じゃない? よだれも指紋もダメだよみっつん」
「指紋はともかくよだれは絶対ないだろ」
「え~? みっつんなら「昨日美少年が映っていた鏡ハフハフペロペロ」とかやりそうじゃ~ん」
「俺にどんなイメージ持ってんだよ!」
「分かんでハル」
「やりそうですよね」
「絶対やる」
「リュウ、シュカ、セイカ……! お前らぁっ……! カ、カンナ! カンナは違うよなっ?」
「みぃ、くん……そ、な……汚な、こと……しな、もん」
「天使ぃ!」
ガバッとカンナに抱きつく。彼は照れながらも震える手を俺の背に回してくれた。
「しぐしぐ~、みっつんは汚くても可愛い男が関わる物ならなんでもいいんだって~。幻想抱くのやめな~?」
「カンナたんの俺への正しいイメージを幻想言うな! 触った物や着てた物ならともかく、映ってただけの鏡舐めたりなんか絶対しない。さ、カンナ。振り付け考えてきてくれたんだよな、俺達に教えてくれ」
カンナは下駄箱に小さなファイルを置いていたらしく、今彼の手にはそれがある。
「CD準備しておきますね」
「みっつん今なんかサラッとキモいこと言わなかった?」
「ぅ、ん。振り付け……これ、かいて、ばん」
「改訂版か。どれどれ」
ファイルには数枚の紙が入っていた。棒人間がたくさん描かれている。ダンスの振り付けをメモしたものなのだろう。
(……わ、分かんねぇ~でそ!)
よく分からないのは俺がダンス素人だからなのか?
「ど、ぉ? 前より……ぃい?」
「見せて見せて~、わっ可愛い棒人間~! しぐしぐ絵ぇ可愛い~!」
「えっと……ちょっと一旦踊って見せてくれないか? 俺ダンスど素人だからさ……」
「……ぅん。とりくん……しー、でぃ……」
「ちょっと待ってください、今セイカさんにCDプレイヤーの使い方を教えているので」
セイカは体育祭不参加だ、来賓席での待機が決まっている。ダンスも当然不参加なので、今日はCDプレイヤーの操作係を担当してもらっている。
「……んな、に……見られ、の……恥ず……し、から…………めか、し……して、い……?」
「目隠し? 危なくないか?」
ファイルの中にはサテン生地の黒い目隠し用の細長い布が挟まっている。
「ぅん、だい……じょ、ぶ」
「……そっか」
「顔、見えちゃ……かも、だか……みぃく、隠し……て」
「あぁ、みんなちょっと後ろ向いててくれー!」
はーい、と素直な返事と共に彼氏達は俺達に背を向けた。
「……ぁり、と」
カンナは照れくさそうに礼を言い、布を目元に巻いた。カッチリとしたメカクレヘアは目隠しになっていないのだろうか、目隠しをしてダンスなんて本当に大丈夫なのだろうか、転びかけたらすぐ支えられるよう近くに立っておかなければ。
「この、へ……で、いい?」
「あぁ、お手本頼むよカンナ」
「ぅん。せー、くん。しー、でぃ、おねが……ぃ」
「はーい」
セイカがCDプレイヤーの再生ボタンを押す。前奏が始まるとカンナは猫背と俯き加減をやめてダンスを始めた。
夏休み前にカンナが考えてくれたダンスとは違う点が多かった。大まかな流れは同じだけれど、難易度が格段に上がっている。
「ふぅ…………ど、ぉ? 前より、い……よね」
「カッコよくなってるし~、いいんだけど~……」
「曲の雰囲気にも合うてる感じするわ、せやけど……」
「要所要所でピタピタ止まる振り付け、すごくカッコイイと思います」
「ぁ……ロック、て、言うの……かだ、きょく……合う、かな、て……入れて、みたっ」
「へぇ、ロック。見ている分には好きですし、すごくいいとは思うんですけど……」
「あぁ、カンナ……悪いけど、みんなの意見は同じだと思う。これ素人に踊れる難易度じゃないよ! ダンス部が一年かけて大会に向けて極めていくヤツだよ! 一ヶ月足らずで出来るもんじゃないよ! ごめん! 無理! 難易度下げてください!」
カンナに見えていないのは分かっていたけれど、俺は頭を下げた。
「…………そ、なに……むずか……かった?」
「むっずいわ! 右手左手バラバラに動かすんでギリやねんこっちは!」
「ごめんねしぐ~! 俺もこれはちょっとキツいかなって感じ~! 振り付け自体はすごくカッコイイんだけどね、俺達前のでもついていくのギリギリだったから~……」
「そんなに難しくないと思うぞ」
「結構筋力のいるポーズで止まる……ロック、が入るんですよね。それだけでも私や水月はともかくコイツらにはキツいのでは?」
三者三様とはならず、三者一致の「難易度高過ぎ」コール……ん? 肯定派いなかった?
「ちょっとせーか! アンタ踊んないくせに難しくないとか言ってんじゃない! めっちゃムズいんだからこれぇ!」
「え……だって、しゃがんだまま交互に足上げたり、足頭の上まで上げたりしないし」
「クソっ! セイカは普段コサック見てるから目が肥えてやがる!」
「足、あた、ま……上…………この振りの後、なら……映える、かも……」
「カンナが新たなアイディアを得たぁーっ!」
セイカを除いた全員でカンナに頭を下げ、どうか夏休み前の振り付けから難易度を変えないでくれと懇願した。
「……この壁一面の鏡って誰が磨いてんのかな」
「ダンス部じゃない? よだれも指紋もダメだよみっつん」
「指紋はともかくよだれは絶対ないだろ」
「え~? みっつんなら「昨日美少年が映っていた鏡ハフハフペロペロ」とかやりそうじゃ~ん」
「俺にどんなイメージ持ってんだよ!」
「分かんでハル」
「やりそうですよね」
「絶対やる」
「リュウ、シュカ、セイカ……! お前らぁっ……! カ、カンナ! カンナは違うよなっ?」
「みぃ、くん……そ、な……汚な、こと……しな、もん」
「天使ぃ!」
ガバッとカンナに抱きつく。彼は照れながらも震える手を俺の背に回してくれた。
「しぐしぐ~、みっつんは汚くても可愛い男が関わる物ならなんでもいいんだって~。幻想抱くのやめな~?」
「カンナたんの俺への正しいイメージを幻想言うな! 触った物や着てた物ならともかく、映ってただけの鏡舐めたりなんか絶対しない。さ、カンナ。振り付け考えてきてくれたんだよな、俺達に教えてくれ」
カンナは下駄箱に小さなファイルを置いていたらしく、今彼の手にはそれがある。
「CD準備しておきますね」
「みっつん今なんかサラッとキモいこと言わなかった?」
「ぅ、ん。振り付け……これ、かいて、ばん」
「改訂版か。どれどれ」
ファイルには数枚の紙が入っていた。棒人間がたくさん描かれている。ダンスの振り付けをメモしたものなのだろう。
(……わ、分かんねぇ~でそ!)
よく分からないのは俺がダンス素人だからなのか?
「ど、ぉ? 前より……ぃい?」
「見せて見せて~、わっ可愛い棒人間~! しぐしぐ絵ぇ可愛い~!」
「えっと……ちょっと一旦踊って見せてくれないか? 俺ダンスど素人だからさ……」
「……ぅん。とりくん……しー、でぃ……」
「ちょっと待ってください、今セイカさんにCDプレイヤーの使い方を教えているので」
セイカは体育祭不参加だ、来賓席での待機が決まっている。ダンスも当然不参加なので、今日はCDプレイヤーの操作係を担当してもらっている。
「……んな、に……見られ、の……恥ず……し、から…………めか、し……して、い……?」
「目隠し? 危なくないか?」
ファイルの中にはサテン生地の黒い目隠し用の細長い布が挟まっている。
「ぅん、だい……じょ、ぶ」
「……そっか」
「顔、見えちゃ……かも、だか……みぃく、隠し……て」
「あぁ、みんなちょっと後ろ向いててくれー!」
はーい、と素直な返事と共に彼氏達は俺達に背を向けた。
「……ぁり、と」
カンナは照れくさそうに礼を言い、布を目元に巻いた。カッチリとしたメカクレヘアは目隠しになっていないのだろうか、目隠しをしてダンスなんて本当に大丈夫なのだろうか、転びかけたらすぐ支えられるよう近くに立っておかなければ。
「この、へ……で、いい?」
「あぁ、お手本頼むよカンナ」
「ぅん。せー、くん。しー、でぃ、おねが……ぃ」
「はーい」
セイカがCDプレイヤーの再生ボタンを押す。前奏が始まるとカンナは猫背と俯き加減をやめてダンスを始めた。
夏休み前にカンナが考えてくれたダンスとは違う点が多かった。大まかな流れは同じだけれど、難易度が格段に上がっている。
「ふぅ…………ど、ぉ? 前より、い……よね」
「カッコよくなってるし~、いいんだけど~……」
「曲の雰囲気にも合うてる感じするわ、せやけど……」
「要所要所でピタピタ止まる振り付け、すごくカッコイイと思います」
「ぁ……ロック、て、言うの……かだ、きょく……合う、かな、て……入れて、みたっ」
「へぇ、ロック。見ている分には好きですし、すごくいいとは思うんですけど……」
「あぁ、カンナ……悪いけど、みんなの意見は同じだと思う。これ素人に踊れる難易度じゃないよ! ダンス部が一年かけて大会に向けて極めていくヤツだよ! 一ヶ月足らずで出来るもんじゃないよ! ごめん! 無理! 難易度下げてください!」
カンナに見えていないのは分かっていたけれど、俺は頭を下げた。
「…………そ、なに……むずか……かった?」
「むっずいわ! 右手左手バラバラに動かすんでギリやねんこっちは!」
「ごめんねしぐ~! 俺もこれはちょっとキツいかなって感じ~! 振り付け自体はすごくカッコイイんだけどね、俺達前のでもついていくのギリギリだったから~……」
「そんなに難しくないと思うぞ」
「結構筋力のいるポーズで止まる……ロック、が入るんですよね。それだけでも私や水月はともかくコイツらにはキツいのでは?」
三者三様とはならず、三者一致の「難易度高過ぎ」コール……ん? 肯定派いなかった?
「ちょっとせーか! アンタ踊んないくせに難しくないとか言ってんじゃない! めっちゃムズいんだからこれぇ!」
「え……だって、しゃがんだまま交互に足上げたり、足頭の上まで上げたりしないし」
「クソっ! セイカは普段コサック見てるから目が肥えてやがる!」
「足、あた、ま……上…………この振りの後、なら……映える、かも……」
「カンナが新たなアイディアを得たぁーっ!」
セイカを除いた全員でカンナに頭を下げ、どうか夏休み前の振り付けから難易度を変えないでくれと懇願した。
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