冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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もはや定番の誤解

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歌見と共に自宅へ帰る途中、スマホが鳴った。

「お、電話だぞ」

「失礼しまっそ」

歌見に断りを入れて電話に出る。

「はい、もしもし。鳴雷です……あっ、ヒトさん! どうされたんですか?」

『あなたの家の庭に祠を建てる件でお電話させていただきました』

「あぁ……コンちゃんの」

『試算が出せましたので、近々事務所に顔を出していただきたいのですが……』

「分かりました! じゃあ、えっと……今度の土曜日、大丈夫ですか?」

『土曜日……はい、空けておきます。あの、お金の話だけではなく……恋人としての時間も欲しいのですが』

「……! もちろん! ヒトさんの時間の許す限り!」

『ありがとうございます……では』

電話が切られた。ヒトとの約束も出来てしまった、夏休みが終わってからいいことばかりだ、いや、夏休み中も相当いいことが多かったな……アキの父親の件とかもあったけど。俺の人生は薔薇色だ、痩せてよかった。

「水月、今のは新しい彼氏か?」

「あー、いえ、まぁ……」

「……? まだ口説けてないのか? ちゃんと落とせたら紹介してくれよ」

ヒトとの関係は不倫だ、秘密にしようと彼と約束した。しかし歌見は嘘と隠し事を嫌う。板挟みだな。

(いや、でも……レイどのの前では普通にわたくしとイチャついてたんですよな、レイどのは大人だから黙っててくれるだろうとか。既婚者だと割れている事務所の人達とかに知られなきゃいいとか言ってたし……パイセンには紹介してもいいんですかな?)

まぁ、しばらくは紹介出来る機会すら巡ってこないだろうし、ゆっくり考えよう。

「水月……? 何考え込んでるんだ?」

「あ、いえ…………あの、パイセン、嘘とか隠し事したら別れるって言ってたじゃないですか。でもその、今の電話の人……秘密にして欲しがっててぇ……」

「……そうか。そんな不安そうな顔するな、怒りゃしないよ。秘密にして欲しがってる人が居るって話してくれただけで、俺としては満足のいく正直さだ。秘密にしてほしがってたんだけどって話してくれるよりよっぽどいい」

「そ、そうですか……? よかった」

「…………まぁ、名前さっき聞いちゃったんだけどな。ヒト……だっけ?」

顔から血の気が引いていくのが感覚で分かった。

「そう青ざめるな、俺も秘密にしておくよ。ヒトって……あだ名かな? その人が水月と付き合ってるってのは誰にも言わない。顔合わせても、その人が自分で話してくれるまで、何も知らないフリをしとく。それでいいか?」

「は、はい……すいません……私、ほんと迂闊で……」

「気を付けてやれよ?」

「はい……」

落ち込んで俯いていると、くしゃくしゃと頭を撫で回された。

「そう落ち込むな。お前はそういうところが可愛いんだ、相手もそう思ってるだろうさ」

「そ、そうですかな……なら、いいのですが」

「……しかしそいつムカつくな」

「えっ?」

歌見が誰かにハッキリと嫌悪感を抱くなんて、珍しいこともあるものだ。しかもヒトのことを何も説明していないのに。

「親とかにはまぁ俺も言えない、水月は素晴らしい人間だが男だからな……男同士だと、ほら……分かるだろ? みんながみんな水月の親みたいに受け入れてくれる訳じゃない……」

「……ええ、分かっておりますとも」

「だがそいつは、水月の他の彼氏にまで秘密にしろって言ってるんだろ? 世間の目と戦う仲間とまでとなると、そりゃ腹が立つ。水月と本気で付き合ってるんじゃないんじゃないかってな」

「そんな……ヒトさんは知り合いに知られるの嫌がってるだけで、他にはあんまり……レイどのの前でも普通にイチャついてきましたし」

「…………先に言え。はぁ……なら、いい。俺にも紹介されてくれるだろ。気長に待っとくよ。お前の見る目は確かだな」

呆れた様子でため息をつくと、歌見は俺の頭をぽふぽふと撫でた。



家に着いてすぐ、タタタッと軽い足音が聞こえてきた。ノヴェムだ。今日も遊びに来ていた彼は、まだ靴も脱いでいない俺の足に抱きついた。

《おかえりお兄ちゃん!》

「ただいま、ノヴェムくん」

すぐに屈んで彼を抱き上げてやり、頬を擦り合わせる。

「……水月、お前……それはダメだぞ」

「へっ?」

「子供過ぎるだろ、アキくんでもどうかと俺は思ってたのに……お前、こんな、小さい子に。流石にダメだ、怒るぞ。歯を食いしばれ」

歌見は俺の肩に手を置き、抱き上げたノヴェムを下ろすよう言いながら拳を握った。

「待ってくだされ何を仰っているのでそ! きっと誤解でそ!」

「何が誤解だ! こんな小さな子にまで手を出して! 見境がないとは知っていたつもりだが、酷過ぎる!」

「出してませぇん! 何なんですかどいつもこいつも! あいつもそいつも! みんなわたくしがショタコンだと勘違いしてらしてぇ! こんなちっちゃい子ぉ相手に興奮なんかしませぇん!」

「…………本当に?」

「なんでそんなに疑うんですか!? 偏見でそ、ゲイへの偏見でそこの元ノンケ! ノンケはみんな女児に興奮するんですかぁ!?」

《お兄ちゃん、何怒ってるの? この人だぁれ?》

「主語を大きくするな、ゲイとか関係なく……お前、ストライクゾーンがアホみたいに広いだろ。お前だから心配してるんだ」

「アキきゅん以外は同い歳以上でしょうが!」

《お兄ちゃん、怒らないで》

「どいつもこいつもって言ってたってことは、他の彼氏にも言われたんだろ? みんなお前は子供に手を出しかねないって思ってるってことだ」

「勘違いしたこと素直に謝れやぁ!」

《お兄ちゃん……お兄ちゃん、怒らないでぇ……ぅええぇん……》

「ほわっ!? おわわ……!」

俺が大声を上げていたからか、ノヴェムが泣き出してしまった。咄嗟にかける言葉が思い付かず、俺は慌てるばかりだった。
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