冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

文字の大きさ
1,340 / 2,304

義手どうする?

しおりを挟む
コツ、コツとピンヒールの音が響く。社長は男性……だよな? 幼げな声と低めの身長は、スレンダーな声が低めの女性らしくもある。

(うーん……体型的には男性っぽいのですが)

マスクの影になって喉はよく見えないし、手袋をはめているから手での判別も付かない。

「言っておくけど、この事業は秘書が手を出しているもので……僕は許可しか出していない。あまり詳しくはないからね」

「はい、今日一日で決める気もありませんから。また後日真尋くんと話させていただきます」

特徴的な足音が消える。母が立ち止まる。

「…………真尋くん?」

「……はい、あなたの秘書の……本名? でしたっけ」

社長は何も言わず、また歩き始めた。母は不思議そうにしながらも何も聞かず、歩みを進める。着いた先は大きな部屋だったが、所狭しと様々な機械や器具が並んでいて狭さを感じる。

「社長!?」
「社長だ! うわ初めて見た……」
「お、おはようございます社長!」

「秘書から連絡があったはずだ。分かってるね?」

「あっ、はい!」

緊張している様子の職員達はガタガタと机に何かを並べた。

《アキ、セイカをこっちに》

アキがセイカの乗った車椅子を机の前に運び、母がセイカからテディベアを取り上げて俺に投げ渡す。

「っと……母さん、乱暴」

セイカが不安げに俺とテディベアを見つめている。俺はテディベアをアキに渡し、セイカの隣に立って左手を握ってやった。少し落ち着いたように見える。

「えー……君が、セイカくん?」

「は、はい」

職員に話しかけられたセイカの手は、俺の手を強く握り締める。

「ひとまず何種類か義手を用意したから、使用感を確かめてくれるかな。細かい調整はまた追追……」

「……え? 義手……?」

「ん……? うん、ウチは研究開発が主で、販売は普段してないんだけど……専務の息子さんとあっちゃねぇ。それに、実際のユーザーの声が生ですぐに聞けるのはありがたい。新しく開発しても、意見を聞くのはいつも同じ人になっちゃってるからねぇ。人によって切断箇所も様々だし……」

ぶつぶつと話しながら職員はセイカの右腕にAと大きく書かれた義手を取り付けていく。

「……母さん、義手注文してたの?」

「これからするのよ」

「え……そっ、そんな、いい、いらないっ、こんな高そうなの……大丈夫、俺片手でも大丈夫だからっ」

「ガキが遠慮すんじゃないの」

額を指で弾かれたセイカは泣きそうな顔になっている。

「義手は用途別に作ってあるみたいだね、その子が一番したいことに合わせてあげるべきじゃないかな」

くぐもった声がそう言うと、母は職員に向き直り並べられた義手の用途を聞き始めた。

《なぁなぁ、それ息出来てんの?》

暇を持て余したアキが社長に何やら話しかけている。

「こ、こらアキ! すいません……!」

何を話しかけたのかは知らないが、声からして社長は不機嫌だ。母の上司の機嫌をこれ以上損ねる訳にはいかない。

「セイカ、両手があったらアンタ何したい? 何に一番使うと思う?」

「両手が……あったら」

セイカは俺を見上げる。俺に関わることなのか?

「…………鳴雷と、一緒に……ゲームしたい」

「ゲームね。ゲーム出来るのどれ?」

「えーと、五本指の、複雑な動きも可能なのは一応ありますけど……」

職員が持ち上げた義手は人間の腕の形をしていた。違いなんて、主な素材がタンパク質だとかではなく金属なだけではないか?

 「筋電義手です。筋肉に発生する微弱な電気を拾って、肉体を動かすのと同じように義体を動かせる技術なんですけど……どうですかね、後天性なんでしたら右手を動かす感覚は分かっているでしょうから、先天性の方よりは早いと思うんですが」

簡単な説明をしながら職員はセイカの右腕に義手を取り付けた。無骨だ、このロボ感には男児心がくすぐられる。

「……セイカ、出来そうか?」

「鳴雷……」

ジトっとした瞳は潤んでいる。俺はセイカの左手を開かせ、人差し指を手のひらの真ん中に置いた。同じように義手の手のひらの中心にも人差し指を置く。

「俺の指、握ってみてくれ。両手で」

セイカは俺と左手と右の義手を見た後、きゅっと俺の指を握った。それから少し遅れて、左手の人差し指は冷たい金属の手にゆっくりと握られた。

《おっ、動いた!》

「わ……! すごいなセイカ!」

「……動き遅くない? 慣れたら早くなるもんなの?」

「実際の肉体ほどの反応速度は出せませんよ。ですからゲームとかは……難しいかと。でも、ずっと快適になると思いますよ」

はしゃぐ俺とアキとは裏腹に、母はあまり納得がいっていないようだった。

「……どうだ? セイカ、使用感は」

俺は大人達の会話から目を逸らし、セイカを見つめることにした。

「右手動かそうとしたら動く……何テンポか遅れてって感じだけど。すごい技術だなぁ、でも……」

「でも?」

値段を気にしているのかな?

「……めちゃくちゃ、重たい。机とか、肘置きに置いてたら何とかなるけど……腕上げるのもっ、キツい」

「そうなのか? どれどれ……あー、確かにちょっと重いな」

《激カッケー腕に何か問題でも?》

《重たい》

《どれどれ……そうか?》

俺に代わってアキも義手を少し持ち上げたが、鍛えている彼には大した重さではないのか首を傾げている。

《腕にぶら下がってるの想像しろよ》

《やだな》

《だろ》

「……重いって言ってるけど」

「これ以上の軽量化は現在の技術力では無理ですよ」

母はため息をついて義手を見下ろす。

「重たくて、机に置きでもしなきゃ使えない……動作は遅くてゲームは出来ないし、パソコンの操作も……片手より時間がかかりそうね。利き手って言っても、もう左手にも慣れたでしょうし……義手って思ったより役に立たないのね」

「そんな、母さん……あった方がいいに決まってるよ」

「仕事してるならまだしもアンタらはまだ学生でしょ。ノート書くか、パソコン触るかしかないじゃない。授業なんて……重くて動かしにくいなら体育では使えないし、楽器の演奏とかもゲームとかと同じ理由でダメでしょ?」

「……でも」

両手が必要な作業は山ほどある。しかし重たくてぶら下げておくのも辛く、机などに置いてでなければ使いにくい重さとなると、途端に両手を使った作業が思い付かなくなる。セイカなら思い付きそうなものだが、彼は遠慮しているのか何も言わない。

「とりあえず義足だけにしときましょうか。これ仮付けみたいなヤツだもんね。すぐには完成しないから、土曜日にちょくちょくここ来ましょうか。いい義手があったらそっちもその時考えるとして……」

「じゃあセイカくん、足の長さ測らせてもらうね。立てる?」

「あ、はい……秋風」

アキに立たせてもらったセイカは股下の長さや、右足の各部の長さ、体重のかけ方の癖までもを計測された。

「今日はこんなとこかしらね……」

「母さん、義手って普通動くのじゃなくてさ、手がないってパッと見じゃ分からないようにつけとく物じゃないの?」

「そういうのが多いわよね。セイカ、誤魔化すヤツいる?」

「見た目だけの義手なら軽いから、ずっとつけていられると思うよ」

セイカは目立つのを嫌っている。少しでも目立たないようにと長袖長ズボンを好むほどだ。見た目だけでも義手を欲しがるだろう。

「……いい。動かないなら……いらない、です」

「そう?」

「えっ……い、いいのかセイカ、嫌がってたろ? 人に見られるの……」

「……いい。せっかく……鳴雷が気に入ってくれた、俺の個性がなくなっちゃう」

「なくなりゃしないよ。これから毎日登校していくんだぞ? 電車とかで見られるの嫌だろお前、学校着けば同級生だっていっぱい居るし、見られたり……話しかけられたりだってするかも」

「いいってば! いい……義手、いらない。見た目だけのじゃなくて、動くやつも……いい。いらない……ごめんなさい、休みの日なのに……無駄なことさせて」

セイカは深々と頭を下げてバランスを崩し、転びかけてアキに支えられた。

「……分かったわ。気が変わったらいつでも言いなさい。とりあえずは義足だけね。もっと動きやすいの作らせるわ」

そう言い切ると母はセイカから数歩離れ、頭を抱えてため息をついた。母なりの転入祝いのつもりだったのだろうか、セイカを喜ばせたかったのだろうか、だとしたら……

《スェカーチカ? なんか落ち込んでないか? さっきまで機嫌よかったのに……ったく困ったお姫様だぜ》

この問題に関しては、俺に出来ることは何もない。極力普段通りに過ごしてセイカを安心させてやろう。
しおりを挟む
感想 530

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
毎日AM2時10分投稿 【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸に、末っ子クリスは過保護な兄たちに溺愛されながら、大好きな四男と幸せに暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスが目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。  巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過剰なまでにかわいがられて溺愛されていく──  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな軽い気持ちで始まった新たな人生はコミカル&シリアス。だけどほのぼのとしたハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。 ⚠️若干の謎解き要素を含んでいますが、オマケ程度です!

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 1000 Thank_You!!

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

処理中です...