冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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義手どうする?

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コツ、コツとピンヒールの音が響く。社長は男性……だよな? 幼げな声と低めの身長は、スレンダーな声が低めの女性らしくもある。

(うーん……体型的には男性っぽいのですが)

マスクの影になって喉はよく見えないし、手袋をはめているから手での判別も付かない。

「言っておくけど、この事業は秘書が手を出しているもので……僕は許可しか出していない。あまり詳しくはないからね」

「はい、今日一日で決める気もありませんから。また後日真尋くんと話させていただきます」

特徴的な足音が消える。母が立ち止まる。

「…………真尋くん?」

「……はい、あなたの秘書の……本名? でしたっけ」

社長は何も言わず、また歩き始めた。母は不思議そうにしながらも何も聞かず、歩みを進める。着いた先は大きな部屋だったが、所狭しと様々な機械や器具が並んでいて狭さを感じる。

「社長!?」
「社長だ! うわ初めて見た……」
「お、おはようございます社長!」

「秘書から連絡があったはずだ。分かってるね?」

「あっ、はい!」

緊張している様子の職員達はガタガタと机に何かを並べた。

《アキ、セイカをこっちに》

アキがセイカの乗った車椅子を机の前に運び、母がセイカからテディベアを取り上げて俺に投げ渡す。

「っと……母さん、乱暴」

セイカが不安げに俺とテディベアを見つめている。俺はテディベアをアキに渡し、セイカの隣に立って左手を握ってやった。少し落ち着いたように見える。

「えー……君が、セイカくん?」

「は、はい」

職員に話しかけられたセイカの手は、俺の手を強く握り締める。

「ひとまず何種類か義手を用意したから、使用感を確かめてくれるかな。細かい調整はまた追追……」

「……え? 義手……?」

「ん……? うん、ウチは研究開発が主で、販売は普段してないんだけど……専務の息子さんとあっちゃねぇ。それに、実際のユーザーの声が生ですぐに聞けるのはありがたい。新しく開発しても、意見を聞くのはいつも同じ人になっちゃってるからねぇ。人によって切断箇所も様々だし……」

ぶつぶつと話しながら職員はセイカの右腕にAと大きく書かれた義手を取り付けていく。

「……母さん、義手注文してたの?」

「これからするのよ」

「え……そっ、そんな、いい、いらないっ、こんな高そうなの……大丈夫、俺片手でも大丈夫だからっ」

「ガキが遠慮すんじゃないの」

額を指で弾かれたセイカは泣きそうな顔になっている。

「義手は用途別に作ってあるみたいだね、その子が一番したいことに合わせてあげるべきじゃないかな」

くぐもった声がそう言うと、母は職員に向き直り並べられた義手の用途を聞き始めた。

《なぁなぁ、それ息出来てんの?》

暇を持て余したアキが社長に何やら話しかけている。

「こ、こらアキ! すいません……!」

何を話しかけたのかは知らないが、声からして社長は不機嫌だ。母の上司の機嫌をこれ以上損ねる訳にはいかない。

「セイカ、両手があったらアンタ何したい? 何に一番使うと思う?」

「両手が……あったら」

セイカは俺を見上げる。俺に関わることなのか?

「…………鳴雷と、一緒に……ゲームしたい」

「ゲームね。ゲーム出来るのどれ?」

「えーと、五本指の、複雑な動きも可能なのは一応ありますけど……」

職員が持ち上げた義手は人間の腕の形をしていた。違いなんて、主な素材がタンパク質だとかではなく金属なだけではないか?

 「筋電義手です。筋肉に発生する微弱な電気を拾って、肉体を動かすのと同じように義体を動かせる技術なんですけど……どうですかね、後天性なんでしたら右手を動かす感覚は分かっているでしょうから、先天性の方よりは早いと思うんですが」

簡単な説明をしながら職員はセイカの右腕に義手を取り付けた。無骨だ、このロボ感には男児心がくすぐられる。

「……セイカ、出来そうか?」

「鳴雷……」

ジトっとした瞳は潤んでいる。俺はセイカの左手を開かせ、人差し指を手のひらの真ん中に置いた。同じように義手の手のひらの中心にも人差し指を置く。

「俺の指、握ってみてくれ。両手で」

セイカは俺と左手と右の義手を見た後、きゅっと俺の指を握った。それから少し遅れて、左手の人差し指は冷たい金属の手にゆっくりと握られた。

《おっ、動いた!》

「わ……! すごいなセイカ!」

「……動き遅くない? 慣れたら早くなるもんなの?」

「実際の肉体ほどの反応速度は出せませんよ。ですからゲームとかは……難しいかと。でも、ずっと快適になると思いますよ」

はしゃぐ俺とアキとは裏腹に、母はあまり納得がいっていないようだった。

「……どうだ? セイカ、使用感は」

俺は大人達の会話から目を逸らし、セイカを見つめることにした。

「右手動かそうとしたら動く……何テンポか遅れてって感じだけど。すごい技術だなぁ、でも……」

「でも?」

値段を気にしているのかな?

「……めちゃくちゃ、重たい。机とか、肘置きに置いてたら何とかなるけど……腕上げるのもっ、キツい」

「そうなのか? どれどれ……あー、確かにちょっと重いな」

《激カッケー腕に何か問題でも?》

《重たい》

《どれどれ……そうか?》

俺に代わってアキも義手を少し持ち上げたが、鍛えている彼には大した重さではないのか首を傾げている。

《腕にぶら下がってるの想像しろよ》

《やだな》

《だろ》

「……重いって言ってるけど」

「これ以上の軽量化は現在の技術力では無理ですよ」

母はため息をついて義手を見下ろす。

「重たくて、机に置きでもしなきゃ使えない……動作は遅くてゲームは出来ないし、パソコンの操作も……片手より時間がかかりそうね。利き手って言っても、もう左手にも慣れたでしょうし……義手って思ったより役に立たないのね」

「そんな、母さん……あった方がいいに決まってるよ」

「仕事してるならまだしもアンタらはまだ学生でしょ。ノート書くか、パソコン触るかしかないじゃない。授業なんて……重くて動かしにくいなら体育では使えないし、楽器の演奏とかもゲームとかと同じ理由でダメでしょ?」

「……でも」

両手が必要な作業は山ほどある。しかし重たくてぶら下げておくのも辛く、机などに置いてでなければ使いにくい重さとなると、途端に両手を使った作業が思い付かなくなる。セイカなら思い付きそうなものだが、彼は遠慮しているのか何も言わない。

「とりあえず義足だけにしときましょうか。これ仮付けみたいなヤツだもんね。すぐには完成しないから、土曜日にちょくちょくここ来ましょうか。いい義手があったらそっちもその時考えるとして……」

「じゃあセイカくん、足の長さ測らせてもらうね。立てる?」

「あ、はい……秋風」

アキに立たせてもらったセイカは股下の長さや、右足の各部の長さ、体重のかけ方の癖までもを計測された。

「今日はこんなとこかしらね……」

「母さん、義手って普通動くのじゃなくてさ、手がないってパッと見じゃ分からないようにつけとく物じゃないの?」

「そういうのが多いわよね。セイカ、誤魔化すヤツいる?」

「見た目だけの義手なら軽いから、ずっとつけていられると思うよ」

セイカは目立つのを嫌っている。少しでも目立たないようにと長袖長ズボンを好むほどだ。見た目だけでも義手を欲しがるだろう。

「……いい。動かないなら……いらない、です」

「そう?」

「えっ……い、いいのかセイカ、嫌がってたろ? 人に見られるの……」

「……いい。せっかく……鳴雷が気に入ってくれた、俺の個性がなくなっちゃう」

「なくなりゃしないよ。これから毎日登校していくんだぞ? 電車とかで見られるの嫌だろお前、学校着けば同級生だっていっぱい居るし、見られたり……話しかけられたりだってするかも」

「いいってば! いい……義手、いらない。見た目だけのじゃなくて、動くやつも……いい。いらない……ごめんなさい、休みの日なのに……無駄なことさせて」

セイカは深々と頭を下げてバランスを崩し、転びかけてアキに支えられた。

「……分かったわ。気が変わったらいつでも言いなさい。とりあえずは義足だけね。もっと動きやすいの作らせるわ」

そう言い切ると母はセイカから数歩離れ、頭を抱えてため息をついた。母なりの転入祝いのつもりだったのだろうか、セイカを喜ばせたかったのだろうか、だとしたら……

《スェカーチカ? なんか落ち込んでないか? さっきまで機嫌よかったのに……ったく困ったお姫様だぜ》

この問題に関しては、俺に出来ることは何もない。極力普段通りに過ごしてセイカを安心させてやろう。
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