冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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左足の約束

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義手はいらないとセイカが頭を下げたので、義足だけ注文することになった。今履いている物よりも歩きやすくなるだろうとのことだ。

「じゃあ、来週また来てください」

「明日までに完成させられない? 新学期のお祝いにならないわ」

「無理ですよ……」

「なんでもっと早くに言わなかったの?」

ウサギのマスクの耳が揺れる。俺は社長の言う通りだとうんうん頷いた。

「知らなかったんです、ウチの会社が義肢の研究開発やってるなんて……知ってたらもっと早くから相談してましたよ」

「母さん専務なのに知らない部署とかあっていいの?」

「私が管理してるのは表の部分、一階以上にある部分だけ。地下は全部裏稼業で社長とその秘書、その場で働く者以外は立ち入り禁止……ですよね、社長」

「…………外で話そうか」

義肢の研究開発を行っている職員達に聞かれたくない内容らしい。測定が済んでいないセイカと、セイカから離れないアキを残して俺と母は廊下に出た。

「君の息子は色々憑けてるって聞いたから信じてもらえると願って言うよ、この地下で行っているのは心霊の研究だ」

「……幽霊とか、ですか?」

「そ。詳細は話せないけどね。僕の代までは心霊関係だけで、地下の存在は地上の職員は知ることもなかったんだけど……僕の秘書が興味を持ってコソコソ始める新事業や研究が、たまに地下の余った部屋を使うことがあってね」

「…………秘書って出張したり勝手に事業や研究始めていいんですか? 社長のスケジュール管理とかだけしてるイメージなんですけど」

「おかしいとは僕も思っているよ」

革製のマスクの下で社長はため息をついている。

「つまりオカルト的なことはしていなくて、真尋くんの興味のある採算が取れない研究だとかをやっている地下のチームもある……という訳かしら?」

「いやそれが採算取れるんだよ、めちゃくちゃ……目利きがいいって言うのかな。興味を持つ分野も、連れてくる人間も、上手く儲けられるものばかり。だから自由にさせてるんだ」

「あら……真尋くんにそんな才能があるなんて」

「ここの義肢の研究開発チームも優秀でね、他の会社と提携したりなんかもして……そこそこ利益が出てるんだよ」

「……その利益、会社に入ってます?」

「入ってたら君が知ってるはずだろ。彼のポケットマネーで始めた会社には関係のない事業なんだから、黒字になっても彼のポケットマネーになるんだよ。副業の場所を貸してやってる感じだね」

「…………いいんですかそれ」

「秘書業は疎かにしていないし、僕には一部納めてくれるし、何より楽しそうだから」

意外と緩いな、この会社。世界一との呼び声高い製薬会社の社長がこんなに若くて、こんなに緩い方だとは……それとも、天才を抱えるにはこの程度の度量が必要なのか?

(学校も自称進学校はキツくてガチ進学校は緩かったりしますよな)

あまり質問出来る立場ではないので勝手に予想して勝手に納得しておこう。

「社長もあまり社長らしいことはしていませんものね……よく私に仕事を押し付けてらして」

「僕は地下での仕事の方が性に合っててね。先代が優秀な専務を捕まえてくれて助かったよ」

社長は心霊研究の方に重きを置いているのか。

「……君」

「はっ、はい!」

社長がこちらを向いた。本当にオシャレなマスクだな……ハンドメイドフェスとかで売ってそう。

「付喪神を憑けてると聞いたけど、今どこに居るの?」

「あっ、はい。コンちゃん、居る?」

背後に居るだろうと声をかけるも、ミタマは姿を現さない。

「あれ……? サキヒコくん、コンちゃんは?」

サキヒコからの返事もない。

「す、すいません……なんか、居ないみたいです。いつもは居るんですけど」

「……そう。僕に気付いて逃げたのかな。付喪神は人間に友好的なことが多くて、気に入った人間に生涯取り憑くこともあるから研究は割と進んでいる方なんだけど……妖狐らしく振る舞う付喪神なんて珍しいからね、ちょっと協力して欲しかったんだけど」

「はぁ……」

セイカの義肢の話で来週にはまたここに来るだろうから、その時に一緒に……いや、協力って何だ? 解剖されるような実験ではないよな?

「……ちなみにどんなことをするつもりで?」

「撮影と計測」

「あ、そういう安全なヤツなら今度一緒に来るように言っておきますよ」

「そう、助かるよ」

必死になってミタマを連れてこさせようともしていないし、本当にただ「ついで」に見てみたかっただけなのだろう。危ないことはされなさそうだ。

「その代わりと言っては何ですけど」

「……交換条件?」

「ってほどのことでもないんです、会った時からずっと気になってて……そのマスクなんですけど、聞いてもいいですか?」

「どこにも売ってないよ、秘書の手作りだ」

「あ、いや、欲しいとかじゃなくて……どうして着けてるのかなって」

「……こら」

ぽこん、と母に頭を小突かれる。

「すいません社長……」

カンナのように顔を晒したくない理由でもあったのなら、尋ねたのは失礼だったかな。

「いいよ別に」

「…………すいませんでした」

理由は教えてもらえなかった。最初はほんの好奇心だったけれど、教えてもらえないとなると余計に気になる。

《お待たせ兄貴~! ユノ~!》

「ご、ごめんなさい待たせて……終わっ、終わりました」

「受け取りは来週かしら?」

「……最優先で作らせていただきます」

「ありがと、色つけるから迅速丁寧によろしくね。では社長、失礼致します」

「ついでに仕事していけばいいのに」

《ばいばーい》

俺達三人が頭を下げる中、アキだけは手を振った。

「バイバイ」

無邪気な行動は無礼には取られなかったようで、社長は手を振り返してくれた。
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