冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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脱稿だ!

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ノヴェムとキスをしているところをミタマに見られてしまった。いや違う、ノヴェムにキスをされたんだ、ノヴェムとキスをしていたんじゃない!

「くふふふふ……罪な男じゃのぅ」

「ち、違う! ノヴェムくんの方から……! 不意打ちで、避けられなくてっ」

「分かっとる分かっとる、このような幼子までをも惚れさせるとは罪深い男じゃな……と言っておるんじゃ」

「……やっぱりノヴェムくん俺に惚れてるのかぁ。いやぁ俺ってば初恋泥棒初恋泥棒……とか言ってられるレベルじゃないのかな、もう」

「さぁのぅ、くふふふふふ……」

ミタマは笑いながらスゥッと姿を消した。サキヒコと話すのだろうか。

「はぁ……地獄道から天道まで経験してきましたみたいな笑い方しやがって。コンちゃん大笑いしてる時も変な笑い方してたけど……含み笑いも変だな」

《お兄ちゃん、ごはん!》

「はいはいはい行くよ行くって。不意打ちキスもうしちゃダメだよ? ノヴェムくん……」

ノヴェムに手を引かれてダイニングへ。みんな既に席に着いている。

「いただきます」

「いただきまーす」

手を合わせ、食事を始める。ノヴェムに箸の扱いを教えてやったり、焼き魚の骨の外し方を教えてやったり、お兄ちゃんぶらせてもらった。

《……俺も箸の扱い下手ならよかったのかな》

《お前には俺に教えるって役目があるだろ、左手で箸持つコツ教えてくれ。未だにちっちゃいのとか濡れてるのは辛いんだよ》

《だからこうだって》

《見せられてもなぁ……》

穏やかな食卓だった。アキにノヴェムのお守りを頼み、ノヴェムにアキのお守りを頼み、一人で皿洗いをやり遂げた後、俺は残り数ページの本を開いた。



読み切った。とうとう読み切った。

「はぁー……登場人物の関係性を無理矢理BLに変換して萌えを補給しながら何とか読み切ったけど、話はつまんなかったな」

内容を忘れないうちに読書感想文を……おや? インターホンが鳴った。ネイがノヴェムを迎えに来たのだろう。

「ネイさんかな? ノヴェムくん、お父さんだよ。パパ、ダディ、ダッド……」

「だでぃ!」

「水月くん! 待って、大丈夫? 窓からノヴェムくんだけ外にぽいっと出しちゃったら? 一人で玄関まで回ってもらってさぁ」

「そんなこと出来ませんよ……まだこんなに小さいのに」

「でもアイツ乱暴だし……」

「気を付けますから大丈夫です。葉子さんは下がっててください」

義母を下がらせ、ノヴェムを連れて玄関へ。覗き窓を見れば予想通りネイが立っていた。扉を開け、彼を迎える。

「お疲れ様です、ネイさん」

「Goodevening……水月くん」

「だでぃ!」

「ノヴェム……お父さん今日も頑張りましてよ」

疲れた様子のネイはその場に屈むとノヴェムを抱き締めた。柔らかな金髪に頬擦りをしている彼が目を閉じると、その目の下のクマが目立つ。

「……本当にお疲れみたいですね、クマ……すごいですよ」

「え? あぁ……爪、人間の指くらいありマス。ひとたまりもないデスね」

「………………それ熊ですね。分かるまで時間かかっちゃった……目の下のクマですよ、眠れてますか?」

「早寝、特技デス。布団に入る、眠るまで三秒かかりませんデスよ」

それは入眠ではなく失神では?

「睡眠時間の方はどうですか? せめて六時間くらいは取らないと」

「六時間満点? 半分取れていれば赤点回避デース」

「三時間くらいなんですか!? 大赤点ですよ留年確定です! なんでそんなことに、会社変えた方がいいんじゃ……」

「全然ダイジョーブ!」

ネイの笑顔はどこか痛々しい。そう感じるのは俺が悪い方へばかり考える頭を持っているからだろうか。

「……助けになれることあったら何でも言ってくださいね」

「…………ありがとうございます水月くん。昼間ノヴェムを見ていてくれるだけで、とても助かっていますよ。それじゃあ、また今度」

《ばいばい、お兄ちゃん》

「……はい、また今度……ノヴェムくんも、またね」

日本社会を生き抜く鎧であるおふざけをやめて、丁寧でペラペラの日本語で礼を言ってくれたネイに、俺は何故か拒絶されたような気がした。

「ただのご近所さんだしなぁ……」

それも俺は高校生のガキ、まともな大人のネイが相談相手に選ぶ訳もない。ため息をつきながらダイニングへ戻った。

「水月くん! 大丈夫?」

「あぁ、はい。すいません俺これから勉強するんで部屋戻ります」

ダイニングに置いておいた本を取る。筋張っていない、何の魅力もない頼りない手が俺の腕を掴む。

「待って、どうしたの。何か元気ない……何かされたの?」

「なにも」

「嘘、なんか不機嫌じゃない。ネイのヤツに何かされるか言われるかしたんでしょ」

ネイに頼ってもらえず拗ねていたところに、アンタがしつこく絡んでくるからだ。なんて正直には言えないし、このまま八つ当たりを続けるほどバカじゃない。

「やっぱり子供預かったりするべきじゃなかったのよ、そもそも自分が殴った子が居る家に預けるってどういう思考回路してんのよアイツ! あぁもうまた腹立ってきた、王子様みたいな見た目してるからって調子に乗りやがって!」

「……俺は、大丈夫です。何もされてないんですよ本当に……離してください」

やや強引に義母の手を剥がして自室へ戻った。

「はぁ……本当、嫌いだ」

「そのようだな、見ていて感じ取れる。分かりやすい態度は取らない方がいいぞ。まぁ……私から見てもあまり関わりたくない系統の人間だ、気持ちは分からんでもないがな」

「あの人悪意はないんだけどね、だからこそタチが悪いんだよ。どうしようもない……」

「…………ミツキ、読書感想文とやら……書かないのか?」

「書く~……」

サキヒコは愚痴を聞くだけでなく課題をやることを促してもくれた。そんな彼に感謝しながら原稿用紙を広げる。

「……やや助長ではないか?」

「文字数稼ぎだよ」

「小賢しいな」

そういえば、レイには俺が独り言を話しているように見えるのかな……と机の上のテディベアを何気なくつつく。まぁ、レイはサキヒコの存在を知っているはずだから気味悪がりはしないだろうけど、独り言を話しているように見えてしまうことがもう既に嫌なんだ。

「レイ……」

レイの顔を思い出したら恋しくなってきた。いけないいけない、読書感想文に集中しなければ。

「……言い回しを変えただけで、こことここは同じことを言っていないか?」

「リフレインっていう技法だよ」

「私が当代のことに疎いからと適当に言っていないか?」

「まさか」

毎年読書感想文を書かされてきた九年間で培った、文字数稼ぎ技術をフル活用。本を読むのには随分時間がかかったのに、感想文はあっさり書けた。

「脱稿! サキヒコくん褒めて! 称えて! 崇め奉って!」

「えらいぞ」

「その褒め言葉だけで五百年生きれる!」

四文字の褒め言葉が脱稿ハイに重なって俺の興奮を更に高める。

「んっ……?」

興奮のままに尻を叩きながらベッドを上り下りしようとしたその時、部屋の扉が叩かれた。俺はズボンを履き直し、扉を開けて出迎えた。
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