冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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再現されるキンクマ

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読書感想文を書き終えてハイになった俺の元へ来客だ。

「……よ」

「セイカ! どうした? セックスするか?」

「いや、頼みがあって」

「眠れないから疲れさせてってか? セックスは結構運動になるらしいぞ」

「ぬいぐるみ作ってくれるって言ってたじゃん」

はしゃぎながらのお誘いはスルーされる、と。脳内メモにしっかり書き残しておこう。

「そのモデル……やっと決まって。これ、作って欲しい」

そう言ってセイカが渡してきたのは数枚の写真だった。どの写真にも可愛らしいハムスターが写っている。

「ハムスター? 可愛い、この何とも言えない間抜け面がたまんないよなぁ」

「公助……」

「コースケ? ハムの名前か? 公園の公? ハムすけ?」

公という字はカタカナのハムを縦に積んだような形をしている。まさかと思い聞いてみるとセイカは「よく分かったな」と嬉しそうに頷いた。

「暇な時でいいから……公助、作って」

「分かった。頑張るよ」

「じゃあ……ごめん、邪魔して」

「あぁ待って待って。脱稿したんだよ俺、読書感想文終わったの、情熱的な一夜を過ごそうぜ?」

「脱稿って言うな偉そうに……自由研究あるだろ」

「あー……それは、また明日やるから」

「まだ何も決まってないんだから、色々調べるくらいしとけよな。俺は秋風の部屋に居るから……自由研究関係で何か話があったら、秋風に電話してくれ」

それじゃ、とセイカは去っていった。自由研究関係でと釘を刺された以上、何も思い付かないまま「声が聞きたい」なんて電話をかけてもすぐに切られてしまうだろう。

「はぁ……」

「自由研究とやらもしなければならないのだろう? 早く手をつけておいた方がいい」

「何も思い付かない……一日二日で出来る自由研究って何だろ、研究系は時間が足りない観察系も同じく……うーん」

ため息をつきながら俺はタンスの下段を引っ張り出す。ここには手芸道具がたくさん入れてある。

「色は……これと、これ。後は……目、ドールアイじゃなくて、ぬいぐるみ用の……サイズは……よし」

羊毛フェルトを針で刺す。フェルティングニードルと呼ばれるこの針には返しが付いていて、刺す度に羊毛フェルトは固まっていく。ザクザクザクザク刺していく。

「ミツキ? 何をしているんだ? それは」

ザクザク、ザクザク……

「クリーム色ベースに……鼻はピンク、ちょっとクリーム色被せて……」

「……この写真のネズミを作っているのか?」

「ハムスターだよ」

「はむすたぁ」

「写真じゃ手足よく分からないな~……」

顔はしっかり写っているが、足はよく見えないし手はケージを掴んでいてよく分からない。他の写真は丸まっていたり、餌を齧っていたり……よく分からなかったのでスマホで検索した。

「結構人っぽい手してるね」

「そのようだな」

手足はフェルト生地を使うことにした。指をしっかり作った手足の形に切り、二枚ほど重ねて縫う。羊毛フェルトを被せて色合いと立体感を調整していく。

「爪はレジンでやろう」

白く色を付けたレジンで爪を作り、接着。完成した手足を胴にくっつけていく。

「繋ぎ目が分かりやすいな」

「羊毛ちょっと足してザクザクやれば馴染むんだよ」

「…………本当だ、すごいな」

サキヒコの声が近い。作業を近くで眺めているようだ、よほど興味があるのだろう。

「尻尾はこのくらいかな、ちっちゃいや。薄茶色で植毛を……耳は焦げ茶。ヒゲはテグスで作ろうかな。目打ちで穴作って、アイパーツをボンドでこう……よし。全体に植毛、調整……よしよし」

「ほう……ネズミの顔の違いはよく分からんが」

「ハムスター」

「はむすたぁ、の個体の見分けは私にはおそらく出来ないのだが、このすまほに写っているはむすたぁより、写真のはむすたぁに似ているように見えるぞ」

「ありがとう。飼い主様の目にはどう映るかな」

サキヒコにお褒めいただいた羊毛フェルトのハムスターぬいぐるみを机に置く。

「渡しに行かないのか?」

「こういうのは一晩経ってもう一回見てから完成にするか決めるんだよ。冷静になって見てみたら全然ダメってことあるから」

「よく似ているのに……あ、そうだミツキ、自由研究とやらにはその手先の器用さを活かすべきだ! そうしなければもったいない」

「そ、そうかなぁ……へへ」

手芸か。学校で配られた手紙に書いてあったのは貯金箱などの例だったから、工作の思い込みが強くて針仕事のことを思い付きもしなかった。

「何作ろ……ただ何か作るだけじゃダメなんだよね、肺の形した灰皿みたいに皮肉混ぜたり……何かしら、ピタゴラ的な仕掛け付きの貯金箱的なのだったりって言われてるから……うーん」

「悩む必要はあるようだな」

「うん、でもだいぶ希望見えてきたよ。ありがとうサキヒコくん」

「助けになったのならよかった。当代の学び舎には多大な興味がある、休暇が終わったら私もミツキに憑いて行くぞ」

「ふふっ、うん! 一緒に行こうね」

俺はその晩、タンスの下段の手芸道具を前に悩み続け……夜更け過ぎにアイディアを浮かばせ、手を動かし始めた。

「ミツキ……そろそろ寝るべきではないか?」

「思い付いたの薄れないうちにやっておきたいんだ」

「しかし」

「大丈夫、全然眠くないんだ」

手芸は趣味だ、その上先程の脱稿ハイもまだ残っている。俺は興奮で眠気を吹き飛ばし、作業を進めた。



手芸に没頭していると時間を忘れてしまう。それどころか扉を叩かれているのにも気付けなかった。

「水月!」

ぽこんっ、と頭を叩かれた。

「わっ……!? あ、あぁ……マっ……か、母さん」

ママ上、と呼びそうになってカメラとマイク付きのテディベアの存在を思い出し、慌てて修正する。

「ご飯出来たわよ。早く……ん? アンタ、その服昨日と同じじゃない。まさか、アンタ……寝てない上に風呂入ってないとか言わないでしょうね!」

「ふ、風呂……? あっ、そういえば……材料と道具とにらめっこしてる時に……風呂入れって言われたような」

「アンタ後で入るとか言ってたじゃない。一晩中炊きっぱなし? 嘘でしょもう……」

「ご、ごめんなさい」

「はぁ……もう。今日は出かけるんだから、飯食ったらサッとシャワー浴びて、風呂の湯抜いたりしてね」

「はい……」

作業を止めると途端に眠い。目を擦りながら、母に言われたことを反芻しながら、重だるい身体を動かした。
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