冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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冷たい子

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車でレイをマンションまで送ってもらい、帰宅。母は自室でリモートでの仕事を、義母はすることがないらしくリビングをウロウロしている。

(宿題でもしますかな)

読書感想文、日記、自由研究。俺の苦手な自主性を問われる課題ばかり残ってしまった。日記はレイのアドバイスで骨組みが完成したので、適当に肉付けをすればいい。読書感想文と自由研究は……セイカに頼りつつ彼氏達に電話をかけよう。

《アキ、お父さんのこと……》

《なんだよ》

二人を自室に呼ぶか、俺が宿題を持ってアキの部屋に行くか、セイカに相談しようとしたら義母とアキが話し始めてしまった。

《……まだ、好き? もう会えなくなっちゃうの、寂しい?》

《別に》

《電話はしようって言ってたじゃない。素直に言っていいのよ?》

《親父には二度と会いたくねぇが、親父と話すのは嫌いじゃねぇからな。俺としては完璧な措置だぜ》

何を話しているか分からないのに、セイカの隣で彼に釣られて神妙な顔をしてしまう。

《……そう》

《俺は生まれて以来、今の生活が一番気に入ってるぜ》

《アキは、強い子ね。でも冷たい……まるでお父さんもお母さんも要らないみたい》

セイカが小さく舌打ちをし、ため息をついて額に手を当てる。どうしたのだろう。俺は何もしていないと思うのだが。

《……そうなるように育てられたからな》

《何言ってるのよ、私は優しい子になるよう育てたつもりよ? マキシモはともかく……私はちゃんと、お母さんしてた。マキシモから守れなかったけど、でも……それにしても、冷たいじゃない。あなた》

《そうかい。残念だったな、理想のガキ作れなくてよ。じゃあな、ババア。部屋帰るぞスェカーチカ! どこだ?》

吐き捨てるように何かを言ったアキはセイカを呼ぶと、返事をした彼の居場所を察知してひょいと抱き上げた。

「部屋帰るのか? 俺宿題持ってくから、セイカちょっとアドバイスくれよ」

「う、うん……出来たらな」

「……? セイカなら出来るだろ?」

不思議に思いつつもそれ以上会話はせず、セイカはアキを誘導して部屋へ向かい、俺は課題を取りに部屋へ戻った。日記と読書感想文の原稿用紙と、自由研究とは何かを説明する用紙を持ってアキの部屋へと急いだ。義母は既にリビングには居なかった、母の部屋にでも引っ込んだのだろう。

「お待たせ~」

「……あぁ」

ベッドの上でセイカに抱きついていたアキが飛び起き、両手を広げて俺の方へ向かってくる。目に包帯を巻いたままの彼が上手く抱きつけるよう位置を調整し、彼を抱きとめた。

「っとぉ。ふふ、どうしたアキぃ。お兄ちゃん課題が大変だからあんまり相手はしてやれないぞ~?」

単なるスキンシップか、お誘いか……気軽な返事を後悔させたのは鼻をすする音だった。アキが泣いている。俺は課題と筆記具をクッションの上に投げ、両腕でしっかりとアキを抱き締めた。

「ど、どうしたアキ……お父さんと二度と会えないのやっぱり悲しいのか? それとも会ってたストレスがとうとうキたか?」

「……葉子さんだよ。あの人ほんっと……余計なことしかしないよな。秋風、ぶん殴られてきたにしては親父さんと気軽に話すし、その割には二度と会えなくなっても反応が薄いだろ? 葉子さんにも日頃から態度が悪い。それを、強い子だけど冷たい子って、あの人……はぁ」

再びの小さな舌打ちとため息、そしてセイカは頭を抱える。

「そんな……確かにアキはサッパリしてるけど、冷たくなんかない……すごく優しい子なのに」

日頃セイカと接している彼の姿を義母は全く見ていなかったのか? 俺のように醜い独占欲からセイカの世話を過剰に行うのではなく、セイカが快適に生活出来るようにバランス感覚を鍛えてやったり左手の使い方をレクチャーしたりまでしている様を、全く……? でなければ「冷たい子」なんて言えないし、だとしたら彼女の方がよっぽど冷たいじゃないか。

「…………秋風はサッパリもしてないよ」

「え? そうかな……フタさんぶん殴ったと思ったら懐いたり、今回形州にも反応しなかったし……サッパリしてると思うけど」

「興味の範囲が狭いだけだ。両親はとっくに見放したし、そいつらも「敵か、殺す」から「敵じゃなくなった、ならどうでもいい」になっただけだよ」

「それをサッパリしてる、って言うんじゃないのか?」

セイカはジトっとした目を一瞬見開き「見解の違いだな」と顔を伏せた。

「……俺は興味の対象にする態度こそ性格の表れだと思ってる、鳴雷の考えでは興味の対象外にする態度が性格の表れなんだな」

「それで言うなら俺は両方合わせてって感じで考えてるかなぁ、俺は。アキは優しくて愛情深いいい子だけど、サッパリもしてる。って思ってるよ、俺は」

「…………そうか。人間は二面性あるもんだもんな……お前の考えの方が正解に近いよ、俺は考え改める」

「なんかテツガク的な話になってきてないか?」

「視野と定義の話だろ」

高校一年生のガキの俺の哲学の認識が甘過ぎたようだ、難しい話を何でも「てつがくてき」で誤魔化すのはバカの良くない癖だな。

「そっか、悪い。で、ちなみにセイカはアキの性格をどう見てたんだ? 興味の対象に、ってヤツだっけ」

「あぁ……うん、お前と対して変わらない。優しくて愛情深い…………サッパリなんてしてない、ジメッとしてる。いつも不安でいっぱいって感じ。お前が少し帰ってこないと心配で泣き出すし……冷たい子だって言われると、俺にしつこく聞いてくる」

「……何聞かれたんだ?」

「俺って冷たいか? アイツらにはともかく、スェカーチカと兄貴にはそんな態度取ってないつもりだし、アンタらにそう思われてたらと思うだけで泣きそうだ……冷たいか? 冷たくないよな? って、何回も」

「…………そっか」

「強く見せてるけど芯は脆い、って感じかな。俺の秋風のイメージは」

俺はアキを抱き締めたままベッドに静かに腰を下ろした。アキを膝に乗せ、頭を撫でながら、そっと口を開いた。

「セイカ、翻訳頼むよ」

「あ、あぁ、うん……もちろん」

「……アキ、アキは冷たい子なんかじゃないよ。俺よりずっと優しくて温かい子だ。ほら……たとえばさ、俺はセイカにずっと俺に頼ってて欲しくて義足すらちょっとやだなって思っちゃってた時期あったけど、アキは受け身の取り方教えたり体力つけさせたりしてくれてるだろ?」

「…………鳴雷みたいに愛情深くないからかな、って言ってる」

「違う違う違う! 俺のはただの自分勝手! アキの方が本物の愛情なんだよ、セイカのためを思ってやってることなんだから! ほら、えっと……サンさんのところに何日も泊まっちゃった時とか、アキ泣きながら電話かけてきたろ? 泣かせちゃった罪悪感すごかったけど嬉しかったなぁアレ、泣くほどお兄ちゃんのことが好きなんだなって……そんなに人を好きになれるのは、優しくて温かい子の証拠だよ。他にもな……覚えてるか? あの時……」

俺はずっとアキを抱き締めたまま、延々とアキが優しくて愛情深い温かな性格をしていることを具体的なエピソードと共に力説し続けた。課題のことなんて早々に頭からすっぽり抜け落ちていた。
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