冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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使ったものは戻らない

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俺は延々とアキの優しさ、愛情深さ、温かさについて具体的なエピソードと共に力説し続けた。長年オタクをやってきた俺にとって、推しを語る研鑽を積んできた俺にとって、それは息をするよりも簡単なことだった。

《あのババア俺を見る目がねぇんだよ! つーか俺が見限ってやってるから冷たく見えたんだろうけどな! ハンッ!》

アキはすっかり不安を払拭し、俺とセイカの膝の上に寝転がって甘えている。

《あぁしっかし学習しねぇなぁ俺も! あんなババアの言うこと気にするこたねぇのによぉ! 俺の家族はアンタらだけでいいってのに……ぁ、唯乃も欲しいかな……とにかくあのババアは要らねぇってのによぉ! なんで気にしちまうんだよ……そうだよ俺は強ぇけど冷たくなんかねぇ! シベリアも南国に変えられる熱いハートの持ち主だっつーの!》

「……なんか、愚痴っぽいなぁ」

「よく分かったな」

「あぁやっぱりそうなんだ……ほんっと困った人だよなぁー、余計なことしかしねぇんだからもう何も言わず何もしないで欲しい」

「それお前のママ上も言ってたぞ、大人しくしてりゃ愛でるだけで済むのに動き回るしお喋りだから嫌いなところが増えていくって頭抱えてた」

義母を溺愛していそうな母ですらそうなのか、なら俺が嫌悪感を顕にした愚痴を言ってもセイカに引かれることはなさそうだな。

「恋した相手との同棲して、失望せずに済んでるのは幸運なんだぞって頭つつかれた……」

「はは……一緒に住むとなれば価値観の違いとか色々ありそうだもんなぁ。鼻かむ時に使うティッシュの枚数で揉めたり、風呂上がりのタオルの使い方で揉めたりするってどっかで聞いたよ」

「…………俺は幸運だけで生きてるような人間だからなぁ」

「確かにな。轢かれて命があったのも、飛び降りた時にアキが居たのも、ラッキーそのものだもんな」

ぽんぽん、とセイカの頭を撫でる。するとアキの手が反対側の俺の手を掴み、自分の頭へ引っ張った。可愛い行動に俺はくすくす笑いながら二人の頭を撫で回した。

「……俺は、より裕福な家に移ったから、価値観の違いとかもいい方でしかないし……鳴雷のキモいとこ前から割と好きだったから、失望するとこなんかないし…………弟に手ぇ出してんのは流石に引いたけど」

「異父兄弟ってセーフな感じしない?」

「…………鳴雷はさ、どうなの……同棲、っていうか……居候だけど。俺に……し、失望、した?」

「正直に言うけど落ち込むなよ?」

「……! う、うん……」

既に落ち込んでいるように見える。嘘をついて取り繕うべきだったか? いや、もう後悔しても仕方ない、宣言通り正直に言おう。

「虐められた時に底を見た感じだから、今更セイカに失望することはないと思うよ」

「…………すげぇ納得」

「だろ?」

「底を見た、か……なんでお前が俺のこと好きなのか、また改めて分かんなくなってきたな」

「おっ、分からセックスいくか?」

「ウキウキすんな。勃たねぇくせに」

《セックスって聞き取れたぜ! ヤんのか兄貴、スェカーチカ、もちろん3Pだろうな》

アキがガバッと起き上がった。何を言ったのかセイカに翻訳してもらい、返事として俺の陰茎が明日まで使い物にならないことを伝えてもらうと、アキは心底からのため息をついた。

《……じゃあ2Pでいいや、ヤろうぜスェカーチカ》

「なんて?」

「二人でいいからヤろう、って。俺に」

「えぇえダメダメ、セイカは俺の課題にアドバイスくれるって大事な役目があるんだから……だよなっ、セイカ」

「……出来たらって言ったよな、俺」

「セイカ!? そ、そんな、いつもセックスに乗り気じゃなくて流されてくれる感じのセイカがそんなっ」

「お前らほど強くないってだけで俺にも性欲はあるにはあるんだ。旅行中は秋風も控えてたし、ちょっと溜まってんだよ」

「明日まで待ってよぉ! 明日には回復するからぁ!」

「鳴雷……」

「セイカ……!」

「……お前どうせ今日中に課題終わらねぇし明日以降クラスメイトの連中に頼った先でヤったりするだろ」

言い終えるとセイカはアキに何かを言い、それを聞いたアキは楽しそうに服を脱ぎ始めた。もう止まらない、止められない。

「コンちゃん俺のちんちん返して!」

「取っとらん」

「うお居たんだ。姿消してた方が燃費いいの……? あぁ今はいいや、吸った精力返してよ、いい稲荷寿司食べたならパワー有り余ってるでしょ?」

「……みっちゃん、一度使った燃料は取り戻せんのじゃよ」

「精力から神通力にはなるのに神通力から精力にはならないってこと!?」

「ならん。織物が繭に戻るか?」

「サステナブルッ!」

「何じゃそれ」

「聞き覚えのある言葉言っただけの奇声だ、気にするな。鳴雷、ほら……課題、向こうのがしやすいから」

ベッドからやんわりと追い出された俺は課題を拾いながらぐすぐすと嘘泣きをした。流石に涙は出なかった、俺はそこまでヤワじゃない。

「織物をさぁ、ほどいて糸に戻してさぁ、クルクルっとすりゃあそれはもう繭なんじゃないのかなぁ……」

「繭の形に戻しても茹で殺した蚕の命は戻らんのじゃよ」

「ふぇえん蚕さんごめんなさい……ウチにシルクみてぇな高級品ねぇよぉ!」

「情緒不安定じゃのう」

「ミツキ、早く課題とやらに手をつけろ」

甘い吐息の聞こえるベッドの方を向いたまま、俺は拾い集めた課題を抱いてスマホを弄った。

「ミツキ! 怒るぞ!」

何も遊んでいる訳じゃない、クラスメイトの彼氏達に課題の進み具合を聞くためにメッセージアプリを開いているんだ。アドバイスよりも他人の実物を見た方がインスピレーションが湧くはずだ。

「待て待てさっちゃん、みっちゃんは他の者に助けを求めるつもりのようじゃぞ」

「そうでしたか……ミツキ、大声を出してすまない…………いや、長期休暇を遊びに使い、終わりが近付いて焦り出して他者を頼るなど愚の骨頂では?」

「やらんよりマシじゃろ」

背後の俺を評する会話と、目の前からの嬌声に挟まれたまま、俺は翌日彼氏達と図書館に集まる約束を取り付けた。
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