冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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殺気立つ獣

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母がやってきた。タクシーに乗ってきたようだが、何故か息が切れている。それほど焦っていたということだろうか。

「水月、水月っ、アンタ怪我は」

「腕にちょっと擦り傷を」

心配されるので誰にも言っていないし、これからも言う気はないが、背中には多分アザがいっぱい。

「そう……國行くんは?」

「穂張の事務所の方に」

「怪我の度合いよ」

「鼻が折れてるって」

「…………葉子、葉子~」

骨折の報告を聞き、何かを諦めたようにため息をついた母は義母を探しに向かった。共にリビングに入ると、義母は母に抱きついた。俺の帰宅時に飛びついてきたアキにどこか似ている。

「唯乃ぉ! 心細かったぁ~……」

「葉子、マキシモだけど」

「最低なのよアイツぅ!」

「最悪死んでもいい?」

「……は?」

「國行くんの鼻折ったとかもう、無理よ。死ぬわアイツ。いいわね? 色々面倒なことになるから可能な限り回避するつもりだけど、覚悟はしておいてね」

義母はまだポカンとしている。

「……穂張事務所行くわよ。レイちゃんは来てくれる? 水月も……アキもね。葉子は、どうする?」

「い、行くわ!」

「セイカ、アンタは? 危ないかもしれないし来なくてもいいけど」

「……行きます。今度こそ秋風の肉壁くらいにはなってみせます」

「いい心がけね。じゃあみんな来なさい」

ゾロゾロとレイの部屋を出た。母が乗ってきたタクシーに乗るも、席が足りないので二台目を呼んだ。二台のタクシーは縦に並んで走り、ものの数分で穂張興業の事務所に到着した。

「……住んでる街にヤクザ居るのって、怖くない?」

「ヤンキーのが怖いっすよ」

そんな話をしながら降りると、タクシーは慌てた様子で事務所から離れていった。怯えた義母を背に隠し、母は事務所の扉を開いた。



事務所の中は酷く静かだった。いつもガラは悪いが気のいい男達が明るく楽しそうに働いていて騒がしいのに。

「誰か戻ったのか」

静寂を破った仕事場の方からの声。元カレと同じ肌と目をした着物姿の男が現れた。

「きさんらか……」

大人の男の色気に溢れた彼は以前会った時の穏やかさを失っており、恐ろしい目付きで俺達を睨んだ。

「真尋くん! ちょっとまだ話したいことがあるのよ、いいかしら?」

「ボス、どうされました? ぁ……鳴雷さん」

仕事場の入口からひょっこり顔を覗かせたヒトが嬉しそうに頬を緩ませる。可愛い。癒される。真尋、そしてボスと呼ばれた男、母の会社の秘書でありレイの元カレの従兄でもある彼は、舌打ちをして仕事場の中へと戻っていった。

「あんなに態度悪かったこと今までなかったわよ……いつも胡散臭い笑顔で、敬語で、ふざけたことも結構言ってて……誰なのってレベル」

ため息をつく母の背を義母がさする。そんな中、ガリガリと何かを引きずる嫌な音が聞こえてきた。

「ちょっ……! ボス! そんなもん引きずらないでください!」

仕事場の中から再び現れたボスの手には不気味なバールが握られていた。必要以上に大きなそれには奇妙な読めない漢字が書かれた札が山ほど貼られている。

「な、何すかアレ……」

「特級呪物……」

バールを引きずりながら母の目の前に立った彼は、何の感情も感じられない顔のまま唐突にバールを振り上げた。

「ちょっ……!?」

俺は咄嗟に傍に居たレイを抱き締めて庇った、視界の端では俺と同じようにセイカがアキを庇おうとしており、俺は後頭部にむにゅっと柔らかさを感じた。

「い、いきなり何なの!? まずは話そうって言ったでしょ!?」

後頭部に当たったのは俺を庇った母の胸だったようだ。俺がゲイでなかったとしてもラッキースケベには数えられないな。

「キャンッ!?」

へたり込んだり屈んだり、身を縮めた俺達の頭上でバールが振られた。かと思えば、バールに引っ掛けられ弾き飛ばされたように着物姿の金髪の少年が蹴られた犬のような悲鳴を上げながら床に転がった。

「痛たた……な、何じゃいきなり」

「コンちゃん!」

「何で当たっ……ぅおぉっ!?」

振り下ろされるバールをミタマは床を転がって回避し、バールと床がぶつかる鈍い音が響いた。

「な、何っ、誰です!? どうしていきなり!」

「……分野? 何でここに」

《さっきから何だよこのすげぇ音! もう包帯取っていいか? いいだろ? なぁ!》

「もぉやだぁ! 何なのよぉ!」

あのバールに貼られた不気味な札、何故か吹っ飛ばされ姿を現してしまったミタマ、ミタマに向かって振り下ろされたバール……まさか、まさかあの男、タイプか。しかも問答無用で祓うタイプ!

「よぅ分からんがヌシは敵じゃな!」

「分かりやすいキャラ作ってんじゃねぇよ駄狐が」

「人間のくせに、へーこら尻尾振っとる犬の匂いがするのぅ……媚びるか群れるかしか能のない駄犬が生意気な」

「生意気なのはてめぇだ、人様に取り憑いてんじゃねぇよ」

「待ってください!」

俺は母の腕の中から抜け出して走り、ミタマの前で両手を広げて立ちはだかった。

「水月!? 戻りなさい!」

初めて聞く母の悲痛な声を無視し、叫ぶ。

「どっ、同意の上です! サキヒコくんっ、お、おかっぱの子も!」

「…………」

ボスは無表情のままじっと俺とミタマを見つめてい。

「助けて、くれてます……形州くんと逃げられたのも、コンちゃん……ミタマの、おかげで……だ、だから、祓わないで」

「……………………飼い妖か。失礼しました。気が立っていたもので、確認を怠ってしまい……誠に申し訳ございません」

一ミリたりとも心が動いていない顔で謝罪された。

「み、みっちゃん……」

「コンちゃんっ、大丈夫? 当たってない?」

「……怖かったのじゃあ~!」

挑発し、啖呵を切っていた力強さはどこへやら、ミタマはへなへなと膝から崩れ落ち、ぐずるように喚いた。
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