冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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トライバルな愛

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レイがこのマンションの住所を告げると、母からの電話が切れた。

「唯乃こっちに来るって? 百人力ね! 唯乃、喧嘩は別に強くないけど、他の色んなところが最強なのよ」

義母は一人呑気にキャッキャとはしゃいでいる。

「……その母さんが早退してくるくらいヤバい事態ってことなんですよ」

「俺がくーちゃんに連絡したこと隠して欲しいんす! なんか、コンビニとかでたまたま会って、世間話とかでアキくんの一件知った的な感じでお兄さんに説明して欲しくてっ……え? いや、だからぁ!」

レイは元カレと電話で口裏合わせを行っているが、苦戦しているようだ。

「なぁ、セイカ……もしもの話なんだけどさ、俺と形州の立場が逆で、セイカが形州のお兄さんだったとしたら……セイカは俺に怪我をさせたアキパパに加えて、俺に協力を頼んだヤツにまで報復を考えるかな?」

「え、うーん……どうだろ。俺は……ほら、俺が一番鳴雷を傷付けたから……鳴雷が傷付けられたからって、怒って恨んで復讐したりするのは、なんか……自分を棚に上げてって感じがして、ストッパーかかっちゃうと思う……もちろん鳴雷が傷付けられるのはやなんだけど、でも……俺、昔……したから、さぁ……なんか」

「ぁ……あぁ、ごめん。単なるたとえ話のつもりで……お兄さんが俺まで恨むかどうか考えたかっただけなんだ、ごめんな」

「……お前はどうなんだ? よく知らないヤツが秋風に助けてって言って、それで秋風が怪我したら……そのよく知らないヤツを、どうする?」

「うーん……アキが助けたいと思ったってことはアキにとって大切なんだろうし、せっかくアキが助けたのに俺がそいつに何かしたらアキの頑張りが無駄になっちゃうから、何も聞かずに何かするってことはないと思うけど」

「鳴雷みたいに優しい人だといいけど」

「うぅん……」

焼肉屋で会った時は、それなりに話が合うし意外と優しいし常識人だと感じたのだが、それはその前に目付きや肌の色がよく似た元カレと争った直後だったから無意識のうちに比較してそう感じたのかもしれない。ヤクザのボスがまともな人間の訳はないのだ。

「お兄さん、穂張事務所に一旦行くみたいだし……そっちに行って正直に謝るべきかな」

「えっ、俺今くーちゃんと架空の相談現場を相談してるんすけど」

「下手に隠して後でバレたら余計ヤバそうな気がするしなぁ、隠し切れる自信あるか? あるならいいけど」

「くーちゃんはあるって言ってるっす」

アイツの演技力を信じていいのか? 確かに表情が乏しく、ボソボソと話すから感情が読みにくくはあるが、それも俺が他人だからかもしれないし……

「唯乃こっちに来てるんだから、どう動くにしても唯乃来てからにしましょ?」

「……です、ね。じゃあ一旦、小休憩を」

しかし何もしないのは落ち着かない。だからといって今やるべきこともない。いや、俺の今一番やるべきことは夏休みの課題なのだけれど。

「あ、じゃあ、俺がせんぱいの家行った一番の理由をちょっと発表させてもらうっす」

「レイはよく家来てたから別に疑問なかったけど、何か特別な理由あったのか? 悪いな、ゴタゴタしちゃって」

「本当ならもっといい雰囲気の時にせんぱいだけに見せたかったんすけど、見せたい欲が高まっちゃって雰囲気待てないんで、見るだけ見てもらっていいっすか?」

了承するとレイはシャツを捲り上げて後ろを向き、俺達に背中側の脇腹側を見せ付けた。

「見えるっすかね? 俺からはちょっと見にくいんすけど、ちゃんと分かります?」

「これ……」

レイの白い肌に黒い模様が描かれている。月と、月から滴り落ちる液体の絵だ。

「タトゥーっす! 前から入れようと思ってたんすけど、入れてしばらくはその部位安静にさせた方がいいらしくて……せんぱい旅行に行くんならちょうどいいやって、入れたんす!」

トライバルというジャンルに属するタトゥーらしい。

「タトゥーってお前、本当に入れたのかよ。しかもこんな……俺感のすごい」

「えへへ……ちなみにっすけどぉ、ここ」

レイは床に膝をついて後ろ髪を持ち上げ、俺にうなじを見せてくれた。首の骨が通っている真ん中からややズレて左側に黒い文字が見える。

「まさかこれもタトゥーか? 文字……英語か? 何て……えー……Mitsuki…………お前なぁ」

「せんぱいの所有物ってサインっす!」

頑張れ俺、ドン引き顔を引っ込めろ。表情を整えろ。

「これで俺、もうせんぱい以外のものになれなくなっちゃったっす……せんぱい、せんぱい、責任取ってくださいっす。一生一緒に居て欲しいっす」

二人きりで雰囲気が完成していれば抱き締めて押し倒してそのままセックスになだれ込むのだが、義母の手前そういう訳にはいかないし、状況が状況だからかそんな気になれない。

「……あぁ、元からそのつもりだよ。ったく、こんなもん彫って……痛かったろ?」

「せんぱいへの愛を示すためっす!」

「もぉ……可愛いなぁ」

「水月くんもレイちゃんの名前彫ったりするの? 名前イメージの絵とか……レイちゃんの名前……お化けの絵?」

「俺のレイは綺麗の麗って字なんすけど!」

俺が彼氏の名前を彫っていったら耳なし芳一のようになってしまうだろう。そもそも俺みたいなキモオタがタトゥーを彫っていいと思うか? クリーチャーがペディキュア塗ってるくらい不自然だろ。

「…………な、鳴雷……俺も、なんか彫った方がいい?」

「いいよいいよ無理にやらなくて!」

「そうっすよ、せーかくんは痩せてるしまだ高校生だし、今彫ったら太ったり背伸びたりで肌の面積が増えて絵がおかしくなるっす」

「いやそういう問題じゃ……」

《俺彫るなら日本風のがいい! 桜とか龍とか。カッコよかったなぁ~、フタとかサンの背中のヤツ》

「秋風は和彫りがいいって」

「なんでみんなそんなタトゥー彫りたがるの! 痛いし模様変えらんないし色んなとこ入れなくなるんだぞ!? レイくらいの覚悟がないとダメだ! ちょっと高めの服買おうとかノリでとかじゃダメだからな!」

「せんぱい……えへへ、俺の覚悟分かってくれてるんすね?」

「レイは前から言ってたし……言動よりちゃんと考えられる大人だって分かってるから。タトゥーの有無が影響するタイプの仕事してないし」

レイはうんうんと嬉しそうに頷いている。

「……恋人の名前のタトゥーとか、今まで割とバカにしてたんだけど……結構、グッときた。大切にする……生涯かけて愛していくよ」

「せ、せんぱい……えへへっ、嬉しい……もう無茶しちゃダメっすからね、俺と一緒に長生きするんす! んっ……? 誰か来たっすね」

インターホンが鳴り響いている。少し遅れて俺のスマホに母から「着いた」「開けて」とメッセージが入った。

「母さんだ、開けてくるよ」

「念のために覗き窓確認するんすよ~」

言われるまでもなくそのつもりだ。覗き窓で母であることを確認し、汗だくの彼女を迎え入れた。
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