冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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想定外の変態性

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各界の重要人物達がどうだなんて恐ろしい脅しをしておいて、要求は俺を不倫相手にしたいというただそれだけ。それってさ、それってつまりさ……!

「俺のこと好きってことですよね!」

これまで感じてきたヒトへの違和感。ちょっと爬虫類好きを肯定しただけで映画を一緒に観ようと誘ってきたり、執拗にフタの悪口を言いながら自分を上げるような言動をしてきたり、それを嫌がったら過剰に拗ねたり……アレらは全て「ヒトは俺を好き」という単純な真実で片が付く。

「全然気付きませんでした!」

ヒトが俺に惹かれてくれていただなんて想像もしていなかった、妻子持ちのヒトは男に興味がないと、妻帯者は妻以外に魅力を感じないものだと、そう思い込んでいたのだ。だから不器用で露骨なアピールを全てスルーしてしまっていた。

「気付けなくて本っ当にごめんなさい!」

夜這いをして事後の写真を撮って脅迫なんて、そんなことをさせてしまったのは俺の鈍感さだ、俺の責任だ。

「傷付けちゃいましたよね、埋め合わせ頑張ります!」

「………………ぇ、と……OK、ということですよね、私の……不倫相手になるの、は」

「はい! 奥さんとお子さんのことすっごく気になるんですけど、まぁ……ヒトさんあんまり家帰ってないみたいだし、夫のペット勝手に捨てるような人なら……いいかなって。不倫察しても、そんなにショック受けなそうだし……罪悪感そこまで大きくないです」

「…………妻は妻で愛人が居ますよ」

「ならOKです! お子さんめっちゃ可哀想だなって思いますけど!」

「……意外と、悪いことも出来るんですね……鳴雷さん」

ヒトは呆然とした顔のままゆっくりと言葉を紡ぐ。

「俺はバレなければ何をしてもいいと思っているタイプの人間です。学校でヤるし青姦もするし兄弟でヤったりもします」

「そ、そうですか…………学校で? フタ、どうやって入ったんですか?」

「フタさんじゃなくて別の彼氏です」

「昔の話ですか? 意外と爛れてますね……ま、まぁいいでしょう。さて、これからあなたは二股をすることになる訳ですが」

「あっ、二股じゃないです。ヒトさん十四人目なんで」

サキヒコを含むなら十五人目だ。

「……既に、別れた方は……含まないんですよ? こういう場合」

「え? いえいえ、現在進行形で十四股です。ちなみにですけど、フタさんだけじゃなくサンさんとも付き合ってますし、リュウもアキもセイカも彼氏です。セイカ親戚っての嘘です、彼氏です。アキが弟なのはガチですけど、彼氏です」

「…………タイム」

「どうぞ」

ヒトは両手で顔を覆い、大きく息を吐いた。

「……あなたは、何なんですか。そんなに作ってどうしたいんですか? 日替わりでも二週間かかりますよ」

「俺はハーレムを作りたいんです。俺のことが大好きな美少年達だけで作られた理想郷……俺の夢です。数はまぁ……俺この顔なんで、選り好みしてても増えちゃうんですよねぇ~」

「はぁ……」

「でも! 俺の愛情は割り算じゃなくて掛け算です、十四人のうちの一人じゃなくて、大切な恋人が十四人居るんです。ヒトさん、寂しがらせたりしません、不満も解決してみせます! 俺に出来ることならなので……ペットの食欲不振とかはご遠慮いただきたいですけど」

「………………そうですか」

反応が鈍い。元々大きなリアクションをする人でもなかったけれど、ここまで静かだと不安になる。

「あ、あの……やっぱり嫌ですか? 俺と……付き合うの」

「え……? ゃ、違う……違い、ます」

「本当っ? よかったぁ……えへへ、よろしくお願いしますねっ、ヒトさん」

「………………はい」

「キスしていいですか?」

フタにもサンにも似た瞳が見開かれる。ヒトは瞳だけを俺から逸らし、こくんと頷いた。

「ちょっと屈んでくれないと届きません……」

ヒトは黙ったまま背を曲げ、俺のキスに応えてくれた。俺はヒトの首にぶら下がるように腕を絡め、舌を精一杯伸ばして彼の口の中を堪能した。

「んっ、んん…………はぁっ、ふふふ……ヒトさんとフタさんって歯並びもかなり似てますね。味はやっぱり違いますけど」

「…………そうですか」

「……な、なんか……反応薄いって言うか、大人しいって言うか……それ、素ですか?」

「ぁ、いえ……あなたが想像とあまりにも違うもので、まだ驚いていて」

「…………失望しちゃいました?」

「いえ、そんなことは……! 待ってください、言葉が思い付かなくて……失望とか、嫌とかじゃないんです、とりあえずそれだけは……」

「はい、待ちます。嫌な方じゃないって分かって安心しました」

不安そうに焦った表情を見て、俺は声色を更に柔らかく変えた。ちゃんと言葉が思い付くまで待つと、負の感情を俺に抱いたのだと勘違いしてはいないことを、しっかり言葉として伝えた。

「ぁ…………は、い、もう少し……待って……」

ヒトは安心したように何度か頷き、壁にもたれて項垂れた。

「…………そんなふうに、喜んでもらえると……思わなかったんです。私と不倫なんて嫌がると……だから、脅迫すれば……拒否はされないと、だから、私…………私、は……」

「……はい」

「私、を……寂しがらせないとか、不満を解決するとか……そんな、そんなこと……言われたの、初めてで……その、どう反応すればいいか……分からなくて」

ぽつぽつと思いを語るヒトの前で両腕を広げても、彼は俺を見ただけで動こうとはしない。俺の方から抱き締めると──ヒトの方が身長が高いから俺が抱きついているみたいだけれど──壁ではなく俺に体重を少し預けてくれた。

「…………フタが、羨ましかった」

俺に体重をかけ始めてしばらくすると、小さな声でそう呟いた。

「嫌なことがあっても覚えていなくて……私が認めて欲しい人に認められて……私の部下共からの人望もあって…………フタが、羨ましくて……だから髪も、ずっと同じ長さにしていて」

「…………そうだったんですか」

「うん……恋人が出来たと聞いた時は、どうでもよかったけど……その恋人が、あなたが……フタを庇って、フタをもう殴らないでと私に直談判しに来て…………フタのためにそんなに頑張る恋人が、フタをそんなに愛している恋人が、フタに出来たのが許せなくて……羨ましくて、羨ましくてっ…………欲し、くて。似たようなのじゃ嫌で……フタが持ってるものが欲しくて、あなたが、欲しくて……」

「……ごめんなさい気付けなくて。ヒトさんは俺になんか興味ないと思ってたんです。ヒトさんみたいな魅力的な人が俺を求めてくれてすごく嬉しい……幸せにしてみせます。もう寂しがらせませんよ」

いつの間にかヒトの手は俺の背に回っていた。抱き締めるような姿勢なのに、縋りつかれているように感じる。

「………………私を、捨てたら……フタを殺して死んでやる」

「もう……脅迫は癖ですか? そんなことしなくても捨てたりなんて絶対しませんよ」

「…………」

「俺をすぐには信用出来ないでしょうけど、脅して要求通してたら……俺が恐怖や損得で従ってるのか、ヒトさんが好きだからお願い叶えているのか、どっちか分からなくなっちゃうでしょう? これからゆっくり練習しましょうね、脅さなくても俺には要求は通るって覚えてください」

「……………………背中、叩いてください」

「こうですか?」

子供を寝かしつけるように背中をぽんぽんと叩く。

「……頭、撫でて」

「はい。ヒトさん背ぇ高いですよね~、ふふ、カッコいい」

背伸びをし、ヒトの頭をぽふぽふと撫でる。

「…………キス、を」

「はい。屈んでください」

俺は舌を入れるつもりだったけれど、唇が少し触れ合っただけでヒトが顔を上げてしまった。

「………………胸が、熱くて……苦しい」

ヒトはまた、縋りつくように俺を抱き締めた。
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