冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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丑三つ時の夜這い

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ボーン、ボーンと時計が鳴る。

「うわ、もう日付け変わってもうたやないの。俺もう寝んで、後は自分でツマミ炒るなり酒注ぐなりしてや」

「夏休みなんやからええやないかちょっとくらい夜更かししたって」

「嫌や、肌荒れるやん」

「肌荒れて! 女子かお前は!」

「絡み酒やめぇ。リュウ、寝るんやったらさっさと寝てまい。あぁ……水月くん! 水月くんももう寝ぇや」

リュウの祖父はこう言ってくれたが、俺の足は床に縫い付けられたかのように動かない。ヒトとフタの頭の単純な重みだけでなく、血行不良による痺れもあるのだ。

「水月寝るの? おやすみ~」

「う、うん……サン、この二人何とかならない?」

「え? あー……りゅーくん、今日貸してくれる部屋まで案内してくれる?」

「ぉん……ハナからそのつもりやけど」

サンは膝立ちになってぺたぺたとフタを触ったかと思えば、彼と肩を組むようにして起き上がらせて彼と一緒に立ち、おんぶの体勢に移行した。

「よっ、と」

「だ、大丈夫?」

「平気平気。ヒト兄貴も運ぶから水月もうちょっと我慢しててね」

「うん……」

リュウに案内され、フタを背負ったサンは部屋を出ていった。俺は大人達に背を向けたまま、ヒトの寝顔を眺めた。サンやフタと同じ、幼さの残る寝顔……サンの話を全て信用するとしたら、きっと一番幼いのはヒトなのだろう。

(……信用するとしたらとか言ったらサンさん信用してないみたいですな。違いますぞ、サンさんの信用度は別で、サンさんヒトさん嫌いだから補正みたいなもんがかかってるかもとか、そういう理由で話の信用度が下がってるんでそ)

と、誰に言うでもない言い訳をしているうちにリュウとサンが戻ってきた。サンはフタと同じようにヒトをおぶり、俺はリュウの手を借りて立ち上がった。

「痛たた……」

「歩けよる?」

「ん? うん、大丈夫」

リュウが先頭に立ち、サンがその後に続き、俺が最後尾を務める。そうやって寝室として貸してもらえる部屋に向かっていると、サンに背負われていたヒトがもぞもぞと動いた。

「んっ……え、何……」

「わっ、サン! ストップ! ヒトさん起きちゃった」

「下ろすの?」

「あー……うん! ゆっくりね」

下ろされたヒトは不思議そうな顔で辺りを見回した後、額を押さえた。

「痛っ……何、何か痛い……」

「大丈夫ですか? ヒトさん酔って頭ぶつけちゃったんですよ」

「酔って……? 俺は水しか……」

「きっと間違えて飲んじゃったんですよ、透明なお酒もいっぱいありましたから。俺はもうヒトさんが酔った後で部屋に行ったんで、詳しくは分かりませんけど……吐き気とかありませんか? 大丈夫ならもう寝てください、今からお部屋に案内しますから」

「…………寝る前にシャワーを浴びさせてくれませんか?」

「あ、そうですね。寝てしもうたフタさんはしゃあないけど、起きはったんやったら入ったらええわ。こっちです……ぁ、先お部屋案内しましょか」

「荷物を置かせていただいた部屋ですよね? 分かりますから大丈夫ですよ。それでは、サン、鳴雷さん、おやすみなさい」

ヒトは覚束ない足取りでリュウを追っていった。

「……じゃあボクまだ飲みたいから」

「お酒あんまり好きじゃないんじゃなかったの?」

「味がいいのは普通に好きだよ、水月も好きなジュースはいっぱい飲みたいでしょ。おつまみも美味しいし、もう少し大阪の話聞いておきたい」

「そっか……まぁ、サンはお酒強いみたいだけどさ、やっぱりあんまり飲まない方がいいものだとは思うから……気を付けなね?」

「…………ふふふふ」

目を丸くし、すぐに細めて微笑んだかと思えば、サンは俺を抱き締めた。

「ボクのこと心配してくれるの? 嬉しいなぁ、ふふ……あぁ、水月……ずぅ~っと手元に置いておきたいなぁ~」

抱擁は数秒で終わり、今度は顔を撫で回される時間がやってきた。

「水月……ボクと出会ってくれてありがとうね。ふふっ、ちょっと恥ずかしい……また明日、水月」

指を緩く搦めて手を振り、サンと別れて部屋に戻った。アキの筋トレは既に終えたようで、三つ並んだ布団の左端で二人は抱き合って眠っていた。同じ石鹸の匂いを漂わせながら。

「これはキマシタワー」

アキは両手でセイカを包み込み、セイカは短い腕もしっかり使ってアキに抱きついている。その密着具合、寝顔の美しさ、足まで絡み合っているところ、全てを加味した結果の言葉が自然と声になっていた。

「撮っとこ……」

シャッター音が響く。赤い瞳が開き、頭の上まで毛布を被る。

「…………ご、ごめんな?」

アキを起こしてしまったようだ。申し訳ない。寝支度は出来るだけ静かに行おう。

(これ……傍に置いといた方がいいんでしょうか)

リュウに作ってもらった身代わり人形は念の為枕元に置いた。真ん中の布団に横になり、二人が俺を誘ってくれたり混ざってきてくれることを期待して、三人同じ布団で目を覚ます朝を夢見て、目を閉じる。



草木も眠る丑三つ時、そんなふうに呼ばれる深夜。顔の前で手を広げても見えはしない、そんな暗闇。

「んっ……?」

俺は誰かに触れられた気がして目を覚ました。

(……なんか顔触られてますな。これ、夢……じゃありませんよな? わたくし起きてますよな)

髪を指に絡め、頬を手の甲で愛で、首筋を辿り、毛布に触れるとそれをそっと捲り、寝間着の上から俺の身体の形を探った。

(サンさん? いえ、サンさんはもっと手際よく形確認してきまっそ。両手揃ってるのでセイカ様ではなく、アキきゅんやリュウどのにしては手が大き過ぎる……フタさんですな!)

俺に触れている腕を掴み、引っ張る。上に倒れ込んできた身体の重みは確かにフタのものだ、彼はよく俺に飛びついてくるから分かる。念の為髪も確認しておこう、サンなら長さで分かる。

(直毛なら目やうなじが隠れそうな長さですな、しかしこのぴょこぴょこした激しい外ハネのおかげで目は無事という……ふむふむ。この我の強い髪はフタさんですな!)

彼の首に腕を回し、頬に頬擦りをして耳に唇を触れさせる。

「夜這いですか?」

「……っ」

吐息だけで囁くと彼は驚いたのか身を引こうとした。俺は慌てて彼を抱き締める腕の力を強める。

「あっ……行かないで、フタさん。せっかく来てくれたんですから……ちゃんとおもてなししますよ」

「…………」

大人しくなった。俺を起こすつもりはなかったのかな? 一緒に寝たかっただけとか? 可愛い。

「ただ……アキとセイカは寝ているので、静かに……ね。あっちの布団行きます? 右端の方」

「……………………水月」

初めて声が聞けた。俺と同じく本当に微かな、吐息だけの声だったけれど確かに聞こえた、俺の名前を呼んでくれた。

「はい、静かに、ゆっくり……フタさんが下になります? 気持ちよくしてあげますよ」

「…………うん」

布擦れの音にすら気を配りながら布団を移り、上下を逆転させ、彼に覆い被さった俺は彼の唇を探り、口付けた。

「ん…………んっ? なんか……前と味違いますね」

「……っ、は……歯磨き、さっき……した、から」

「あぁ……なるほど? 確かにミント風味……匂いも……ふふ、石鹸の香りがします。体調はもういいんですか? 心配してたんですよ」

「…………平気」

「……? そうですか、よかった」

何となく違和感がある。普段より大人しいというか……まぁ、多少体調がよくなっただけでまだ万全ではないのだろう。無理はさせないようにしないとな。
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