冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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子供だましの贈り物

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休憩のつもりで入ったお化け屋敷が思ったよりハードだったので、少し待ち時間の長いアトラクションに並びながら息を整えることにした。

「はぁー……怖かった、恥ずかしかったでだいぶ上書きされたけど……」

フタにカッコイイところを見せたかったのに、腰を抜かして抱えられるなんて……と、落ち込む。

「あんまり怖がってるように見えませんでしたけど、フタさん怖くなかったんですか? ラプトル……映画見てないと怖さ半減なんですかね」

「何が?」

「ラプトル……」

「らぷ……? 何……?」

「さっきの、血まみれのトカゲ!」

「あぁ! ゃ、覚えてた覚えてた、ラプトルラプトル、へへ……」

ラプトルの名前は忘れていたようだが、お化け屋敷の内容は流石にまだ覚えているよな? そこまで忘れっぽくないよな?

「こわかったね」

よかった。まだ覚えているみたいだ。

「怖かったんですか? あんまりそうは見えませんでしたけど」

「んー、まぁ偽モンって分かってるしぃー……」

「俺も頭では分かってましたよ」

「んふふ、だってねぇ、あんだけ血ぃ出てんのに匂いしないんだもん。こわいの見ちゃっても、ほんのーてき? に分かっちゃうよねー」

多量の出血があった際の匂いを知っているということか? サンからフタは何度か交通事故に遭ったと聞いているから、それだろうか。それともヤクザらしく人を──

「みつきこわかった? かわいー」

──いや、穂張組はもうヤクザらしいことなんてしていない、単なる建設会社だ。こういう考え方はもうやめよう、失礼だ。

「こ、怖かったですよそりゃ……ちょ、頭撫でないでください! 子供扱いしないで!」

「子供じゃん」

「俺は確かに未成年ですけどぉ! でも、子供って歳でも……ないし、童貞でもないし……」

こんなふうに駄々を捏ねていたら余計子供っぽい、そのことに途中で気付いてしまって声量も勢いも尻すぼみになっていく。

「……みつき? みつきぃ、やだ? 俺やなこと言った?」

「え……ぁ、ち、違います。そんなんじゃなくて……えっと、あの……えっと」

拗ねるな、落ち込むな、デート中なんだから。

「…………」

言葉が出てこない。なんて言えばいいのか分からない。男同士で、しかも成人と未成年の組み合わせ、そうでなければ人前でだって抱きついたりキスをねだったりしてもいいかもしれない。ここは遊園地で、デート中のカップルなんて他にも山ほど居るんだし、誰も気にしないはずだ。男女の同い歳くらいの二人なら。

「俺……」

「楽しくない?」

「へっ? い、いえそんなっ、楽しいです! すごく!」

「そ? よかったぁ」

安心したようなフタの笑顔は幼くて、サンと少し似ていた。そんなふうに笑いかけられたらときめいてしまう、惚れてしまう、好きになってしまうじゃないか。このデートで終わる関係かもしれないのに。



アトラクションを幾つも巡るうち、耐性がついてきたのか俺は次第に吐き気を覚えなくなっていった。それからはただただ楽しくて、空が赤くなるまで遊び続けた。

「そろそろ暗くなっちゃいますね、お土産屋さん寄って帰ります?」

「そだねぇ」

売っているのはやはり恐竜グッズばかりだ。クッキーにまで恐竜がプリントされている。

(彼氏達全員にそれぞれマグカップだのぬいぐるみだの買ってたら破産しちゃいまそ……シャーペンでいいですかな)

それぞれ違う恐竜のストラップが付いたシャーペン1ダースをカゴに入れた。十二本ならピッタリだ。アキ、レイ、サンはシャーペンなんて使わなさそうだけれど、まぁ、その辺に飾ってもらえば……いや、サンには触れて楽しめる物の方がいいかな?

「ぬいぐるみ? リアル造形フィギュア……いや、ティッシュケースとかの実用性ちょっとある物の方が……?」

悩む。フタは何を買うんだろう。

「フタさーん、フタさんお土産何にします? ってか誰にあげます?」

「ヒト兄ぃとサンちゃんに服とぉ、組のヤツらにクッキー」

意外と無難だな、という俺の感想はフタの持っている服を見て即座に撤回された。

「さ、刺さってる……」

トリケラトプスが刺さっている。いや、正確に言おう。トリケラトプスのあみぐるみの上半身が前側に、下半身が後ろ側に縫い付けられたセーターだ。意味が分からない。

「これサンちゃんのでぇ、こっちがヒト兄ぃの……あれ、逆だっけ?」

もう一方はティラノサウルスだ。フタがヒトにボコボコにされる未来が見える、止めなくては。

「あ、あのっ! やめた方がいいと思います、別のにしましょっ? 恐竜の絵とか化石の写真のプリントTシャツとかあるじゃないですか、せめてあっちに!」

「えー、もう買っちゃったし。サンちゃんプリントじゃ分かんないもん」

「で、でも……」

「もうお金ないしぃ」

「…………俺もヒトさんにお土産買います。ぁ……恐竜柄ジッポカッコよ可愛い。フタさん、ヒトさんって煙草吸います?」

「どーだっけ。見たことねぇ」

俺も見た覚えがない。以前会った時は煙草の匂いはしなかったような……非喫煙者にライターなんて贈っても仕方ないな。

「ヒト兄ぃ爬虫類好きだぜ、毛ぇなくてキモいのに」

「爬虫類セクシーで可愛いじゃないですか……じゃあ恐竜グッズでも割と喜んでくれるのかなぁ。このリアルフィギュアとか……ぅ、結構する。まぁいいか……ヒトさんの機嫌取らないとフタさんボコボコにされちゃうし、こんだけ高けりゃ気に入らなくても売っ払って機嫌良くなるだろ……」

ついでにティッシュケースとぬいぐるみ、パジャマも買った。残高が随分減ってしまった、夏休み中はバイト入れていないからなぁ……とアプリ画面を眺める。

「みつき、みつき」

支払い後、スマホを弄っていたフタに肩をつつかれる。

「はい?」

「手ぇ出して」

スマホをポケットに入れて右手を差し出すと、フタはスマホを確認した後俺の左手を引っ張った。

「こっちでしたか、すいません」

眉尻を下げて微笑む俺の左手の薬指に、銀色の指輪がはめられた。ディフォルメされたティラノサウルスが宝石を抱いている可愛らしいデザインのものだ。

「…………フタさん」

淡い赤色の宝石はイミテーションだろう、ガラスか何かかな。千円もしないくらいの子供向けの品だ。

「ありがとうございます……!」

値段なんてどうでもいいし、デザインが子供っぽいから何だ? 左手薬指に指輪をはめてくれたということは、フタはこのデートに満足していて、俺が危惧していた俺がフラれる展開なんて訪れないということだ!

「すっごく嬉しいです!」

「マジ? よかった~」

しきりにスマホを確認していたから、誰かに勧められたかネットで仕入れたデートの小技だったんだろう。でもフタが思い付いたものでなかったっていい、他人の考えでもそれを実行したのはフタだ、この指輪はフタの意思だ。

「大切にしますね」

傷が入ったり宝石が外れたりしないよう、家に帰ったらレジンか何かでコーティングでもしようかな……
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