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ジャングル風レストラン

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フリーフォールの次に選んだアトラクションはバイキングと呼ばれる、振り子のようなものだった。

「水生の恐竜に襲われて揺れる船をイメージした、か。水生の恐竜……? 絵はプレシオサウルスとかその辺っぽいけど、首長竜って何か温厚なイメージありますよね」

「……キリンの仲間?」

「全部爬虫類なのでトカゲの仲間ですよ。恐竜は鳥に進化したって話ですけどね」

フタは首を傾げている。俺だって分類や進化についてはちゃんと理解している訳ではないのだ、他人に噛み砕いて説明するなんて芸当出来やしない。

「遠心力かかるんだろうなぁ……楽しそう」

今度は酔いませんように、そう願って船を模したアトラクションに乗り込んだ。だが、願い虚しくアトラクションを降りた後俺はその場に座り込んでしまうほど弱ってしまった。

「ぅう……」

「みつきやばくねー? びょーいん近くにあるかなぁ」

フタに肩を借りてアトラクションから離れ、運行の邪魔にはならないように気を付けた。

「病院なんて大袈裟な……大丈夫ですよ」

「そっかぁ、んじゃ次行こっか」

しまった。フタは素直なんだった。態度や顔色がどんなものであろうとフタは大丈夫だと聞いたら大丈夫なんだなと素直に受け止めてしまうのだ。

「は、はい……」

まぁ、そんなに重症ではないから歩くくらいなんてことないし、次のアトラクションに乗るために並んでいる間に回復しきるだろうから、問題はあんまりないけど。

(大丈夫って言ってるけど大丈夫じゃないの! 察してよ! なんて面倒臭いこと言うつもりはありませんが……大丈夫って言ったら即そっかぁと信用され、その後一切体調を気遣われないというのは、なんだかなぁって感じでそ)

複雑な思いを抱えたまま次のアトラクションに向かって歩いていると、フタのスマホが鳴った。

「電話ですか? アラーム?」

「昼飯の時間……飯食わなきゃ」

朝、昼、晩、全て時間を決めてアラームを設定してあるのだろうか。意外とマメな人だな。

「お腹空きました? じゃ、レストラン行きましょっか」

「腹は減ってねぇけど……」

「そうですか? じゃあまた後でいいですかね」

「んゃ、食べる」

「じゃあ行きましょ」

チュロスやポップコーンを売っている屋台はあるが、ちゃんと食事が出来るレストランは園内に一つしかない。迷わなくていいな。

「なんかごちゃごちゃしてる……」

「恐竜居そうですね」

ジャングル風の内装が気分を盛り上げてくれる。

「何食べます?」

「これ」

「早……俺は、んー……ハンバーグにしようかな」

「押していい?」

「何を……あぁ、呼び出しベルですか。はい、どうぞ」

フタはチキンステーキ、俺は卵が乗ったハンバーグを注文し、しばらく待った。待っている間フタは内装を気にしているようだったが、一言も発さなかった。

(黙ってても怒ってたり退屈がってる訳じゃないとサンさんから聞いてはいますが、不安ですなぁ)

サンいわくフタはあまり会話を楽しむタイプではないらしい。じゃあどうやって楽しませればいいんだ? 部屋の素っ気なさを見た後では物を喜ぶタイプでもないと分かるし、ファッションにも無頓着と来たものだ。今回のような体感型の施設へのデートが一番なのだろうか。

(……セックスめっちゃ好きとかないですかな)

味の薄いハンバーグを食べながら、美味そうにチキンステーキを食べるフタを眺める。じっと見つめていたら他の彼氏なら「何?」と聞いてきたり照れたりするものだけれど、フタは俺の視線に気付くと何も言わずに見つめ返してきた。

(フタさんの髪は外ハネがすごいですよな、サンさんも毛先だけはくりんっと外側に巻いてますが……フタさんももう少し伸ばせば巻くんでしょうか。兄弟で前髪の白メッシュお揃いってのが可愛いですよな。ヒトさんもお揃いなのは意外と言うか……仲悪いんじゃないの? と疑問に思ってしまいますな)

もぐもぐと口を動かしているけれど、今は頬は痛くないのだろうか。頬に貼ったガーゼはいつの傷を手当したものなのだろう、やはりヒトに殴られたのだろうか。腕の包帯も痛々しい、指の骨折の調子はどうだろう、見えないところにも傷があるのだろうか。気になることばかりだ。

「……フタさん、じっと見てても何も言わないんですね。普通気になると思うんですけど……見られてるの、気になりません?」

あまりにも見つめ合う時間が長いので、つい尋ねてしまった。

「えー? だってさぁ、みつきと俺は恋人だろ?」

「はい……」

「恋人はさぁ、好き同士なんだからー……好きなもんって見てたくなるもんだからぁー、こういうのが、何? その、アレ、さほー? ってヤツかなって。デートの。デートのさほー」

食事中に見つめ合うのはデートの作法? あぁ、なんて可愛らしい考え方だろう。

「いいですね! その作法すごくいいと思います。食べながら喋るの行儀悪いですし、可愛くて見てるだけなのに何ーとか聞かれても困りますしね。不思議そうな顔とか照れた顔も可愛いんですけど」

「……? ふーん。俺デート初めてだからさぁー……分かんないんだよね色々」

「俺もまだまだ分からないことだらけですよ、人によっても変わりますし」

「へぇー……?」

興味なさげな、退屈そうな返事に聞こえてしまうけれど、そんなことはないのだろうか? やっぱりよく分からない。

「……あの、最初から気になってたんですけど……ほっぺた、大丈夫ですか?」

「ほっぺた……?」

「顔の、ここの……怪我。やっぱりヒトさんですか?」

自分の頬をつつきながら言うと、フタは自分の頬に触れてガーゼを見つけた。

「…………何だっけこれ」

「えぇー……ヒトさんに殴られたんじゃないんですか?」

「うーん……どうだったっけ。ちょっと見て」

「えっ、ちょ、剥がしちゃダメっ……」

俺の静止は遅く、ガーゼはべりっと剥がされてその下の傷が顕になった。蚯蚓脹れらしき細長い傷だ。

「血ぃ止まってる?」

「は、はい……」

「んじゃもういいや」

フタはガーゼをポケットに突っ込んだ。

「……痛みは?」

「んー、ないかな」

どうやって付けられたものなのだろう。ヒトは殴るだけじゃなく、引っ掻きもするのか……ん? 引っ掻く?

「あの、フタさん。猫ちゃん達に引っ掻かれたりします?」

「ん? たまにー……かな?」

引っ掻くと言えば猫だ。まだヒトへの疑いが消えた訳ではないが、頬の傷は猫によるものという可能性が大きいだろう。
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