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子供とオムライス

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幼い子供に火や包丁は使わせられない、手伝うと張り切っている子供に何もさせないのはよくない、安全でやりごたえのある仕事を任せなくては。

「エッグ、ブレイク、ボウルイン、マゼマーゼ」

「鳴雷、翻訳してやるから普通に話せ」

「三ヶ国語イケるなんて流石セイカ様……すげぇや」

セイカによる翻訳を受けた子供にまず手を洗わせ、ボウルを渡して卵を割るように言った。

「えっぐ」

《そう、卵。割るんだ。殻が入ったら都度取り出せ。全部割ったら混ぜる》

床に座り込んだ子供は目の前に置いたボウルに卵をコンコンと叩き付け、首を傾げた。

《もう少し強く叩かないと割れないぞ》

セイカに何やらアドバイスを受けた子供は頷いて再び卵を叩き、割った。綺麗に半分に割れた卵の中身をボウルに入れる様子を見て俺は安堵し、フライパンにベーコンとコーンを投入した。

「そういえば、その子名前は?」

「…………ノヴェム、って言ってる」

「のべむ……うーん日本人には難しい発音」

子供改めノヴェムは順調に卵を割っていっている。俺が想定していたクソガキよりもずっと賢い、俺の小学生時代とはまるで違う。

《お兄ちゃんなんでおててないの?》

《……悪いことしたから》

《お兄ちゃん悪い人なの?》

《今は無害。性格は悪いけど、悪いことは出来ないぞ。出来ないように腕がなくなったんだ》

そういえば何歳なんだろう。

「なぁなぁ、ノヴェムくんいくつー?」

「……八歳だってさ」

「八? へー……小二か。ちっちゃいのに英語上手いなぁ……」

「ふざけてんのか本気か分かりにくい」

炊き終えた米をフライパンに落としていき、ケチャップを混ぜていく。

《まざった》

「鳴雷、卵混ざったら次は?」

「ちょっと待って。白だしを……このくらいかな?」

隠し味を少量入れ、また混ぜるように言ってフライパンに戻る。しかしノヴェムはすぐに次の仕事を欲しがる。

「じゃあお皿用意してくれるか? 五枚出して、スプーンも準備してくれ」

セイカが食器棚から皿を取り出し、ノヴェムが並べていく。俺がそこにケチャップライスを等分していく。

「このくらいかな……?」

セイカとノヴェムの分は0.7人前くらいに減らしておいた。

「飲み物用意しておいてくれ。コップに氷を入れて、机に運んで、このペットボトルの中身を零さずに入れていくんだ。出来るかな?」

《まかせて!》

「任せてってさ」

「可愛いなぁ~。これくらい話通じる素直で賢い子なら苦手じゃないよ」

話が通じているのはセイカのおかげだけれど。

「……? セイカ?」

セイカがジトーっと俺を睨んでいる。嫉妬だろうか。

「お前……こんな小さい子にまで手ぇ出すつもりか……? 流石に引くわ……」

「そんなつもり微塵もないけど!? なんでそうなるんだよ! あっ、可愛いって言ったからか? 違うよ、種類が違う。純度百パーセントの「可愛い」なんだよ、セイカに向けてる可愛いとは違うんだ」

「……俺に向けてるのの純度低いの?」

「性欲が混入してるから……」

「……! ばか! 変態! まぁ、逮捕はされなさそうでよかった……年積とか平気で抱いてるから、てっきり」

「ミフユさんは歳上だよ」

確かにミフユと同時に法も犯している感覚にはなるけれど、ミフユは背が低くて童顔で声が高いだけで歳上なのだ。

《おわった!》

「ぁ、帰ってきた……終わったってさ」

日本語が分からないとしてもこんな下卑た会話を子供に聞かせるべきではない。俺とセイカは揃って会話を中断し、仕事をやり遂げたノヴェムを褒めた。

「ありがとうノヴェムくん。じゃあ最後のお仕事だ、向こうの離れに居る俺の弟を呼んできてくれるか? セイカと一緒にな」

セイカの翻訳を聞いてこくりと頷いたノヴェムはセイカの服の裾を掴み、アキの部屋へと駆けていった。俺は皿に出しておいたケチャップライスを薄く焼いた卵で巻き、オムライスを完成させていく。

「わー……ラグビーボールみたい。すごーい水月くん、やっぱり唯乃の子だけあって何でも出来るのね。私オムライス作ったら卵和えチキンライスになっちゃうのよ」

「卵で包むの難しいですもんね。俺もこんなに連続で成功するのは……よっと、初めてです。やった、五個全部綺麗に巻けました。新記録です」

嘘だ。俺は卵で包む最終工程を難しいとはあまり思えないし、初めて作った時くらいにしか失敗していない。

「そうなの。やっぱり難しいよねー、オムライス」

義母の機嫌を保つことはアキのためになる、嘘も時には正義となるのだ。

「にーに、おかえりなさいです」

セイカとノヴェムに呼ばれたアキがやってきた。

「お、アキ。ただいま、お昼出来てるぞ。ノヴェムくん、ケチャップでお絵描きするか?」

俺は自分の分のオムライスに自分の名前を書いた。その後ろに笑顔のマークも描いた。

《……! する!》

何度も頷いたノヴェムはケチャップを握り締め、オムライスの上にぶちまけた。

《あーぁーやっちまったな》

「……アートだな! 富の偏りを示したいい風刺作品だと思うぞ」

「無理があるだろ」

俺のフォローがセイカに潰された直後、ノヴェムが泣き出した。

「ふっ……ぅ、うぇええんっ」

「うわ……い、行け! 鳴雷!」

「ナ、ナルナルー!」

鳴き声を上げながら慌ててノヴェムの元へ。

「よしよしよし大丈夫だぞ、どうにでもなるからこんなもん。ほらスプーンで隣のに移しちゃえば、な?」

左手で頭を撫でつつ右手でスプーンを持ち、大量のケチャップを隣のオムライスに移していく。

「……ぁ、私火が通ってないケチャップ苦手だからかけないでくれる?」

義母に若干の苛立ちを覚えつつ、零れたケチャップを全て移した。ケチャップの蓋を締め直し、再びノヴェムに渡す。

「あと一個あるからやってみたらどうだ?」

《兄貴それ俺の……》

「俺の弟のなんだ、アキって言うんだけど……どうかな?」

ノヴェムは遠慮していたが、断りはせず恐る恐る文字を書いた。今度は零さず、綺麗に書けた。

「よく書けたな! 上手上手……えーっと、brother……?」

《なんて書いてんのこれ、何語?》

《英語で兄弟》

俺の弟だと言ったからだろうか。名前も教えたのに……まぁいいか、満足そうだし。

文字数ケチャップ多くね?》

《我慢しろよ、ガキのすることなんだから》

《えー……》

アキは不満そうだ。ケチャップの量が多過ぎるのだろうか。

「……ノヴェムくん、よく書けてるからこれ俺がもらってもいいかな? brotherなら別に上下の決まりないしいいだろ? アキ、ケチャップ多いの嫌なら俺の食べな」

「鳴雷が食べていいってさ。秋風もありがたがってる」

「よかった」

《なんて書いてんのこれ》

《ミツキ》

《兄貴を食えるのか……興奮してきたぜ》

全員が満足する結果になったかな? 俺は少々ケチャップが濃いオムライスを食べることになってしまったが、まぁ、これはこれで美味い。元デブに美味しく味わえないものなどないのだ。
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