冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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机の下には

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クリームパンと水を買って、コンビニのイートインスペースでパンを食べるセイカを眺める。ついでにくじを引いてみたが、F賞とE賞しか当たらなかった。やはりくじはボックスで買うべきだ。

「……可愛いな」

俺は何も食べず、パンにかぶりつくセイカを愛でて時間を潰した。

「食べ終わったか? じゃあお薬飲もっか。持ってるんだよな」

「…………やだ」

コンビニに入るまでは飲む気でいたのに……コロコロと考えを変える様子は入院中の彼を思い出させた。

「え?」

「もう飲まなくても大丈夫だと思うんだよ。最初に比べりゃ量も減ってきたし、別に飲まなかったからってどうにかなった訳でもないんだから、いいと思う」

「いい訳ないだろ、薬をどうするか決めるのはお医者さんがすることだ」

「……やだ、飲みたくない」

「心にもない屁理屈捏ねて、結局はそれか? もぉ~……なんでそんなに嫌がるんだよ。薬……ポケットか?」

「あっ、やだっ、やだぁっ! 鳴雷の変態!」

ズボンのポケットをまさぐると薬らしきものを見つけた。飲むところを見たことがあるので、一回一錠だとちゃんと分かっている。

「セイカ、あーん」

「…………」

セイカは死んだ貝のように口を固く閉ざしている。錠剤を唇に擦り付けてみたが、飲んでくれない。

「はぁ……しょうがないなぁ」

俺の言葉に油断した様子のセイカの耳に息を吹きかける。

「ひぁっ!?」

驚いて声を上げ、開いた口にすかさず錠剤を放り込む。

「んっ……!?」

ペットボトルの水を唇に押し付けて強引に飲ませる。多少零れたが、飲み込ませることが出来た。

「げほっ、げほ……強引」

「ふぅ……あは、ちょっと濡れちゃったな」

「…………」

「睨まないの。ほら、買い物行こうな」

ジトっとした目で俺を睨み上げるセイカを連れてスーパーへ。クリームパン分セイカの食事は減らすことを想定しつつ、材料を買っていく。

「子供預かってるんだっけ……じゃあオムライスでいいかな」

車椅子の上で蹲ったセイカからの返事はない。

「子供かぁ……俺子供ってあんまり好きじゃないんだよなー……騒ぐし暴れるし、話通じないだろ? アキも結構ガキっぽいけど、あれくらいなら可愛いんだよな~……何歳だろ。グリーンピースは入れない方がいいかな、セイカはどう? グリンピ。コーンは入れてもいいよね、子供だいたい好きだし」

独り言を話し続けてレジを抜け、袋詰めの最中セイカはゆっくりと顔を上げた。

「…………鳴雷」

「ん?」

「試験……大丈夫かな、俺……」

「……大丈夫だよ、セイカ毎日頑張ってたし。先生も多分受かってるからって注文書くれたんだぞ」

「そっか、そうだよな……鳴雷と一緒に学校行くの楽しみ……いつも寂しかったんだ、平日の昼間。鳴雷居なくて、秋風もサウナ籠ったりするから一人の時間が絶対あって」

「これからは寂しい時間なんかないな」

「……うん」

穏やかな笑みを浮かべて俺からの愛撫を受け入れ、自分から荷物を持つと言ってくれたセイカを見て、俺は薬が効いてきたなと心の中で頷いた。

「オムライスかぁ、楽しみ……俺な、お前が作ってくれたヤツだと卵にケチャップかかってる方が好きなんだ、デミグラスじゃなくて」

買い物袋を膝に乗せて話すセイカは幸せそうに見えた。



帰宅後、俺は先に買い物袋をキッチンに運んでからセイカを立たせ、車椅子を畳んだ。

「ありがとう……」

セイカはすまなさそうに礼を言い、俺の袖をきゅっと掴んだ。俺はその手を離させ、手を繋いでダイニングへ向かった。

「ただいま帰りましたー」

「あ、水月くんセイカくんおかえり。早速なんだけどちょっと助けてくれない?」

そう言って義母は机の下を指差した。まさかゴから始まるこの世で最も忌むべき虫が居るのではと怯えつつ、そっと床に膝をついて覗き込む。

「……!」

するとそこには子供が居た。ふわふわとした金髪のその小さな子供は俺に気付くと驚いて跳ね、テーブルの天板に頭をぶつけて蹲った。

「だ、大丈夫か? 痛くないか? よしよし……泣かなかったな、えらいぞ」

慌てて四つん這いになって机の下に潜り、打った頭を撫でてやる。緩く巻いた髪の触り心地はセイカのパーマを当てた髪とは違う、毛質で言えばアキに似ているが指にゆるゆると巻き付く様子には違った可愛らしさがあった。

「ごめんな、驚かせて」

俺が嫌う叫んで走り回るような騒がしいクソガキではなく、大人しくて静かな子のようだ。ひとまず安堵し、子供の顔を見つめる。

「……お名前は?」

カンナのように髪で顔をガッチリ隠している訳ではないようだが、前髪が長くて目が隠れてしまっている。邪魔だろうからどかしてやろうと手を伸ばすも、子供は素早く俺の懐に潜り込んで抱きついた。

「…………流石水月くん!」

机の下から這い出た俺の腹に抱きついたままの子供を見て、義母は手を叩いて喜んだ。

「はぁ……あの、この子……外国の子ですか? 髪真っ金金……リュウみたいに生え際黒かったりもしないし」

「そうそう、その子のお父様すっごいイケメンだったのよ~。金髪碧眼で、まるでおとぎ話の王子様! 今度ゆっくりお話したいなぁ~」

「…………白人男性フェチ?」

セイカは俺も思い付いたが言わなかったことを口に出した。

「生まれついての金髪のイケメンに憧れない女は居ないのよ、セイカくん」

「そ、そうですか……?」

「そして金髪の男児……! 女はみんな可愛らしい金髪男児を養育したいと思っているの」

「そう……ですかね」

そろそろ義母は女性全体に頭を下げるべきだと思う。

「と、いうわけで上手くいかなかった育児をやり直したいとその子に構ってみたんだけど……人見知りみたいで机の下に入っちゃってたのよ、出してくれてありがとうね水月くん。返して」

言葉の節々で苛立たせてくるなぁこの人。悪意はなさそうなのが余計タチが悪い、だから職が見つからないんだろうな。

「おいで~、ママですよ~」

「それは違うと思いますけど……まぁ、俺今から昼飯作るんで、お願いします」

子供を引き剥がそうと、細過ぎて不安になる二の腕をそっと掴む。しかし全く離れようとしない、むしろ強くしがみついてくる。

「……なぁ、ぼくぅ? お兄ちゃんご飯作らなきゃなんだけど」

ダメだ、離さない。やっぱり子供は苦手だ。

「…………もしかして英語しか通じないとかじゃないですか?」

「セイカくんご名答。私は英語はすっかり忘れて出来ないから、頑張って現役学生達!」

「俺英検四級なんですけど……」

「私一級よ、もう何も覚えてないけど。言語って使わないとすぐダメになっちゃうのよね」

もう黙っててくれないかなこの人。

《……なぁ、そいつはこれから美味い昼飯を作ろうとしてるんだ。離してやってくれないか? もちろんお前の分も作る、オムライスらしいぞ》

「…………おむらいす?」

セイカが英語で話しかけた直後、子供が顔を上げた。

「あー……イエス。あい、めいく、オムライス。ので……りーぶ、する。お願い……お願いは、えー……ふゅーちゃー……?」

「お前よく十二薔薇受かったな」

「筆記と実技は違うんですぅ~!」

オムライスを作るということは分かってくれたようで、子供は俺に抱きつくのはやめた。しかし離れず、キッチンまで着いてきた。

「あー……デンジャラスだから、リーブ……ぁ、プリーズ! プリーズだ思い出した。リーブプリーズ」

「あいる、へるぷゆー」

「ヘルプ!? ど、どこか痛いのか? セイカ、どこが痛いのか聞いて……な、何その顔」

「十二薔薇が実践的な英語を教えられていないことに対する失望と、こんなヤツが入れてるなら俺余裕で合格だなっていう安心の顔」

「色々言いたいことはあるけど今はとにかくこの子が何を助けて欲しがってるのかを……!」

「ヘルプミーならそう思うのはいいけど、ユーなんだからお前のことだよ。アイル……アイ、ウィル、ヘルプ、ユー……私はあなたを助けます。つまり手伝いますってことだな」

「はぇー……」

ごくごく簡単な短文すらも聞き取り理解出来なかった自分に危機感を覚えた。
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