冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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未成年のヤケ酒

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寝ぼけたバカみたいになってしまったけれど、セイカを悪夢から救ったのは事実だ。事実か? サキヒコとの夢巡りも丸ごと俺の夢だったのでは?

「ぐっ……!? な、なな……何、何っ、痛ぁ……」

悩みながら寝室の扉を開いた瞬間、腹部に強い衝撃を受けて廊下に崩れ落ちる。驚きが先に来て、その後から痛みが追いかけてきた。

「てめぇ……ヤってる最中に寝落ちしたの、分かってるな?」

見上げると、こちらを睨むシュカが居た。

「……あっ、あぁ、うん……ごめん」

「それは俺は許してやった。昼間から体調悪そうで、最中も頭がグラつくだの言ってやがったからな」

「ありがと……ぐっ! ゔ……つ、潰れる、潰れるってぇっ!」

シュカの足が股間を踏み付ける。容赦のない体重のかけ方に恐怖を感じて太腿を閉じ、シュカの足首を掴む。

「体調悪いって分かってたのに誘ったのは俺だ、許してやった、起こさないでやった、掃除もしてやった、一人でシャワーも浴びてきた。それで、帰ってきて、寝てたら……急にてめぇが飛び起きて、出てった」

「ご、ごめんっ……ほんとに、ごめっ……痛い、つぶれるっ……」

「…………私とのセックスは途中で寝るほどつまらないものでしたか。他の男への睦言は睡眠を中断しても構わないものでしたか」

それまでの怒りが滲んだ荒い口調とは違う、怒りを孕みながらも落ち着いた口調で話し始めたシュカは、俺の股間から足を引いた。

「……………………とても、惨めでした」

そう呟いてシュカは俺から離れていく。ドアノブに緩く手をかけて、部屋に入って、振り向く。

「一人で寝ます」

バタン! と勢いよく扉が閉められた。

「……しゅ、か」

怒らせた。やっぱり怒ってた。でも思ってたのと違った。寝落ちの件でボコボコにされるんじゃないかと思っていた、その予想に反して寝落ちしたことは許してくれていた、俺の体調不良を鑑みて起こそうともしていなかったらしい。シュカは優しい、何がボコボコにされるだ、何が殺されるだ、俺はシュカの優しさを分かってなかった。

「ま、待って、待ってシュカ……」

セックス中の寝落ちだけでも深く傷付いただろうに、そんな俺が飛び起きて他の男に愛の言葉を囁きに……というか、叫びに行ったら、そのショックは如何程のものか。せめて俺が起きてすぐシュカに謝罪をしていたら、埋め合わせの約束くらい出来ていたら、セイカへの愛の言葉がシュカに聞こえるほど大声でなかったのなら、何か違ったのかもしれない。でも、そうはならなかった、俺がしなかった、もしもの話はこれでお終い、リアルに戻って頭を回せ。

「シュカっ! シュカ、ごめんシュカ……ごめん、ごめんなさい」

扉を開けてベッドの横に膝をつく。メガネをかけたまま寝転がったシュカの顔が目の前にある。

「……るせぇ、オレぁ一人で寝る」

シュカは寝返りを打ち、反対を向いてしまった。もう後頭部しか見えない。

「き、聞いてシュカ……ごめんなさい。寝落ちしたこと、よく分かってなくて……あの、夢で、セイカが……その、酷い目に遭ってて、だからその、寝ぼけて……行っちゃったってだけで、シュカのこと軽んじてるとか、シュカとのセックスつまんないとかじゃなくて……」

シュカが起き上がり、頭を引っ掻きながらため息をついた。明らかな不機嫌に俺は萎縮してしまって、言葉が出てこなくなった。

「……オレとヤりながら寝たのに、他の男の夢見たのか」

「ぁ……! ち、違……」

「違う? 今てめぇがその口でそう言ったんだろうが、それとも何か、言い訳間違えましたってか。要らねぇんだよ言い訳も謝罪も。オレが勝手にイラついてるだけだ、その原因はてめぇだがてめぇは何とかしなくていい。とにかく、今は、オレの目の前から消えろ!」

俺を蹴り飛ばし、シュカは部屋を出ていった。俺はもう半分泣きながらシュカの後を追った。よたよたと歩いて行った先は灯りが点いたダイニングだ。シュカは大きな冷蔵庫から日本酒を取り出した、数時間前サンが飲んでいた残りだ。

「シュカ……シュカっ!?」

シュカはその日本酒をラッパ飲みし始めた。俺は慌てて走り、酒瓶を取り上げる。

「なっ、何してんだよ! お酒なんか飲んじゃダメだ! しかもそんなっ、そんな飲み方! どうするんだよ急性アルコール中毒とかになったら! は、吐くか、吐けばいいかなっ、俺……俺後ろからみぞおちグッてやるから」

「やめろ鬱陶しい。はぁ……久々のアルコール効くわぁ……受験勉強のために禁酒禁煙して……何ヶ月ぶりだ。ハッ……やっぱ美味ぇな」

「……昔から飲んでたのか?」

「飲んでねぇと思ってたかよ優等生」

車の運転も経験がある様子だったし、一度は飲酒喫煙をしたことがあってもおかしくはないと思ってはいたけれど、常飲していたような口ぶりで話すほどだとは思わなかった。

「……返せ」

呆然とする俺から酒を奪い取り、最後の三口ほどを一気に飲み切ると、酒瓶を握って俺を睨み付けた。

「割ってよぉ、武器にするって……ドラマとかでよく見るだろ。上手く刺さる形に割れることなんざ滅多にねぇからよ、鈍器として使った方がいいぜ」

そう言いながら酒瓶を机に置いた。よかった、アレで俺を殴るほど酔ってはいないようだ。

「…………来いバカ」

手首を掴まれて引っ張られ、リビングのソファに押し倒される。仰向けの俺に寝転がったシュカはにんまりと笑って俺の頬をつまみ、思い切り引っ張った。

「痛たたたたたっ!? ちぎえうちぎえうちぎえうぅ! ちぎえうっへぇっ!」

口が歪んで「ちぎれる」の発声すらままならない。

「……へへっ、ばーか」

「痛た……シュカ様、酔ってらっしゃる?」

「酔ってねぇよばぁーか、あほ水月」

酔っ払いの常套句じゃないか。

「……ごめんな? でも、俺本当に……シュカのこと、軽んじたり……した、のかな。シュカは強いし、いっぱいセックスさせてくれるし……無意識にちょっとくらい雑に扱っても大丈夫って甘えてたのかも。ごめん……ごめんなさい。惨めな気持ちにさせて……で、でも、でもっ、愛情が薄れたりとかは本当にしてないんだっ、付き合いが長いから油断してたって言うか、ホント甘えちゃってたって言うか……シュカ、ごめん。色々言ったけど、ごめんしか言うことない」

「…………水月」

「は、はいっ!」

「……水月は、私のこと……忘れないで」

「え……? あっ、あぁ、もちろん、忘れるもんか」

「…………水月は、刺されて死んだりしないで」

「刺さ……? し、しないよ……そんな死に方」

「……それだけで、いいんです。私の機嫌なんか取らなくていい……忘れずに、死なずに……ちょくちょく私のこと抱いてくれたら、それでいい。私……狭雲さんみたいに身も心も弱くないので、甘い言葉とか、愛の囁きとか、要りません。ただ……健康で居て。ずっと、ずっと……健康、で」

ぐらりとシュカが倒れてくる。そっと受け止めて、俺の上でうつ伏せになった彼を抱き締める。

「みつき……」

涙声で俺の名前を呼ぶシュカは既に寝息を立てていた。酔ったら寝るタイプだ。

「……わたし、の……名前、よん……で……」

「………………おやすみ、シュカ」

寝言に返事をしてはいけないという話を思い出しつつも、俺はシュカの寝言のおねだりを叶えた。俺が傷付けてしまった大切な彼氏を抱き締めて、眠れないまま朝を待った。
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