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クラゲの愛の証

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俺はシュカの優しさを分かっていなかった、シュカの弱さを分かっていなかった、シュカの繊細さを分かっていなかった。全て分かったつもりで彼氏ヅラして隣に居ながら、元ヤンで短気という表面だけ見て頭の中でキャラとして固定化して、シュカの柔らかいところを見えないフリして踏み躙った。

「……ごめんね」

酔って寝て、普段とは比べ物にならないほど深い睡眠に落ちたシュカに謝罪を続ける。

「愛してるんだ……ちゃんと」

ちゅ、ちゅ、ちゅうぅ……と、シュカの唇や頬や首筋に何度も何度もキスをする。

「なのに……見えて、なかった。ごめんね……傷付けて、ごめん。愛してる……この埋め合わせは必ずする、傷付けた分癒したり喜ばせたり頑張るから……」

自分勝手な愛と謝罪を呟きながら、キスをしながら、朝を迎えた。



まずミフユが起きてきて、ソファに寝転がる俺達に真っ先に気付く。

「……貴様らここで寝たのか」

呆れた表情にサキヒコを思い出す。彼は今も俺の傍に居るのだろうか、シュカが乗っていて重くて温かいから身体の重だるさや悪寒が分からない。

「へへ」

「へへじゃない。朝食の手伝いは出来そうか?」

「あ、はい。今シュカ下ろします」

シュカを抱き締めて起き上がると腕の中で「ぅん……」と声がした。ソファに座って、太腿の上にシュカを座らせると、彼は顔を上げて俺を見つめた。

「水月……? もう朝ですか。なんでここで寝て……水月? なんですかその顔」

「い、いや……あの、ごめん、昨日は」

「……いいです。昨日は感情的になり過ぎました。狭雲さんを気遣うのは色々と仕方ないことですし、もう怒ってませんからそんな顔しないでください」

怒りが収まったらしいシュカは俺から降りて立ち上がると俺の頭をぽんぽんと撫でた。

「顔洗ってきます」

「あっ、待っ……あぁ、どうしよう……」

俺はシュカが廊下に出てすぐダイニングの机の下に隠れ、数十秒後聞こえてきた「水月ぃいいっ!」という怒声に耳を塞いだ。

「水月! 水月てめぇ水月ぃっ!」

シュカが走って戻ってきた。ダイニングの背の高い机の下に隠れていた俺は即刻見つかり、引きずり出された。

「てめぇだろコレ何しやがった!」

「さ、昨晩は……虫が多く」

「虫刺されじゃねぇよコレてめぇのキスマークだろうが山ほどつけやがってまるで湿疹じゃねぇかクソが!」

そう、シュカの頬、顎、首などに無数の赤い斑点があるのは俺が一晩ちゅっちゅちゅっちゅしまくったせいだ。罪悪感やら何やらで唇の力加減を間違えて、普段はつけないように気を付けているキスマークをつけてしまったようだ。それに気付いたからシュカが顔を上げた直後から俺の表情は硬直してしまっていたんだ、こうやってシュカに怒られるのが分かっていたから。

「すごいな……確か、鬱血して出来るものだったか? 冷やしたりは無駄だろうか」

「分かりません。皆さんにはクラゲに刺されたとでも言っておきましょうかね」

「水月はクラゲを意味する言葉でもあるしな」

「クラゲって海に月じゃないんですか?」

「辞典によっては水月も載っているぞ」

思わぬところで自分の名前がクラゲの意味を持つことを知らされてしまった。水面に映る月って感じでカッケーとか思ってたのに。

「へぇ……オイ、クラゲ男」

「水月とお呼びくださいぃ……」

「酷ぇ顔にした詫びってもんがあるだろ? オレの朝飯、特に気合い入れて作れや」

「隠し味と愛情盛り盛りにさせていただきますぅん……」

「よし。それでチャラにしてやる。年積さん、鏡持ってます?」

「手鏡でよければ。少し待て」

キッチンに立ち、まず手を洗う。シュカに手鏡を渡したミフユが戻ってくる。

「では役割分担を決めるぞ鳴雷一年生」

「はい」

ミフユに指令を受け、その通りに調理を進めていく。シュカはダイニングの机に肘をつき、手鏡で顎や首をじっくりと確認している。

(はぅう……めっちゃ気にしてらっしゃる。申し訳ないでそ)

昨晩からシュカに対しては失態ばかりだと落ち込んでいる俺の目に、シュカの口角が少し上がるのが見えた。

(……え?)

シュカは仄かに笑みを浮かべたまま俺がつけたキスマークに人差し指をちょんと触れさせ、笑みを深くした。

(えぇ~!?)

まさかキスマークが嬉しいのか? なんて可愛らしいんだ! 萌える、萌え禿げる、髪の毛どころか睫毛まで抜けそうだ。

(かっ、かわゆい~!)

シュカの可愛さに萌えた俺は普段の倍の手際の良さをミフユに見せつけた。

「鳥待一年生に気合いを入れろと言われてはいたが、まさかここまで手際が良くなるとはな……普段の手抜きを疑ってしまうぞ」

「いやぁ」

「もう貴様に任せることはない、休んでいいぞ」

興奮で手が早くなったおかげで時間が出来た。シュカの隣に座ると彼はムスッとした顔を作り、俺を睨んだ。

「何隣に座ってるんです、クラゲ男」

「ごめんってば、シュカが好き過ぎて……」

「アピールですか? 昨日は……寝起きで、感情の制御が緩くなってたんです。もう気にしないでください」

「……緩くなってたってことは本心だろ?」

「言葉の綾です」

「…………傷付けてごめん、シュカ。ごめんな」

シュカの手に手を重ねてぎゅっと握る。彼は視線を逸らし、ため息をついた。

「いいんですって、本当にもう……そもそも狭雲さんに嫉妬するってのが間違いなんですよね。あの人は特別扱いくらいが適量なんでしょう? もう怒りませんよ、大人気ないじゃないですか」

「……セイカは同い年だぞ?」

そんな話をしているとダイニングと廊下を繋ぐ扉が開き、アキが現れた。その腕にはセイカが抱きついている。

「ド深夜にさ、わざわざ俺起こして「愛してる」って、それだけ言って帰ったんだよ。本当困るよなー、眠いのにさぁ、あんな時間に起こすとか非常識だっての」

「嬉しそうやのぉ」

「そう見える? 愚痴のつもりなんだけどなぁ。へへ……あっ、鳴雷、おはよ」

セイカは昨晩の出来事をリュウに自慢しながら下りてきたようだ。アキの腕を離して俺の元まで早足でやってきた彼は、珍しく俺に愛されている自信たっぷりの顔で俺を見上げた。

「おはよう、セイカ。今朝も可愛いな」

この自信を持続させて当然のものにしてしまえば、俺に恨み言を言われる夢なんて見なくなるだろう。シュカの言う通り、特別扱いくらいが適量なのかもしれないな。
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