冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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夢巡りしようぜ夢巡り

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暗闇の中をしばらく歩くとポツンと立った扉を見つけた。

「あった。誰かの夢だ」

「誰の夢とかは分かんないの?」

「分からない。夢から夢に移動するなんて私も初めてだ。ちゃんと移動出来るかも少し不安だ、出来る気はするんだが」

「ま、昏睡とか精神崩壊みたいなリスクはないんだろ? とりあえず行ってみようよ」

そう言いながらドアノブを握るも、動かない。サキヒコが俺の手の上からドアノブを握ると簡単に開いた。夢の移動には幽霊の不思議パワーが必要らしい。

「眩しっ……な、何ここ」

「……異国の食事処か何かだろうか」

レストラン、いや、ホテルか何かのバイキング形式の食事か何かだろうか。行き交う人々の顔や服は男女二パターンずつのようだ、まるでゲームだな。

「NPCに容量割かないタイプか」

誰も居ない俺の夢よりはまだ現実を再現しようという気概が伺える。

「……ん、ミツキ! あちらに見覚えのある男が」

「どこどこ? あっ、ホントだ。あはは……そっか、バイキングだもんな」

大きな広間の真ん中のテーブルについて食事を楽しんでいる美少年は、見間違えるはずもない俺の彼氏のシュカだ。

「隣で寝てたから夢も近かったのかな」

「かもしれない」

「シュカ! おい、シュカ? シュカ~? セックス寝落ちしたこと怒ってるのか? 怒ってるよな、ごめんな……無視しないでくれよ」

声をかけても、目の前で手を振っても、肩を叩いても無反応だ。ニコニコと食事を続けている。

「……勝手に入ってきたから認識されていないのでは?」

「そんなことになるの?」

「私にとっては慣れた状況だ、こうしてミツキと話せる夢の中こそ希少な時間だ」

「他人の夢の中だと幽霊なのか……同じ夢を見たなってロマンチックな体験出来ないかと思ったんだけど」

「……ぁ。ミツキ、こっちにもミツキが居る」

「えっ!? あっホントだ」

シュカしか見ていなくて気付かなかったが、テーブルにはシュカを入れて四人座っており、そのうちの一人が俺だった。

「シュカ俺の夢見てるのかぁ~、そっかそっかぁ可愛いヤツめ。このツンデレちゃんめ!」

うりうりとシュカの頬をつついたところで反応はない。

「……俺が本物なのにな。なんかムカついてきた。っていうか……他の二人は誰なんだ? 見たことない人だな」

時々「うまか~」と博多弁を漏らしている俺の母親と同い歳くらいの女性と、フォークを握って使っているテーブルマナーのなっていない中学生くらいの男だ。

「誰よその女ァ! 誰よその男ォ! とか言っても聞こえてないんだよなぁ……」

「彼ら同士で会話はしているのだから、聞き耳を立ててみては?」

「二人とも飯が美味いことしか言ってないんだよな。んっ、このエビフライめっちゃ美味い」

「……えびふらい」

サキヒコもつまみ食いを始めた。俺は女性の方に何だか見覚えがある気がして、彼女をじっと見つめた。目元がシュカに似ている。

「んん……? あ、そうだ、シュカの家で会った、っていうか見た、お義母さんだ。シュカのお母さん」

「御母堂と食事をする夢を見ているのか」

「うん……俺が見た時はもっとやつれてたから気付けなかった。そっか、元気だった頃はこんな感じだったんだ」

「病気か?」

「……そんなとこ。シュカは一人で介護とか頑張ってるんだよ」

「そうか、殊勝な子だ」

「…………うん」

邪魔のしようもないのだけれど、邪魔してはいけない気がして、俺はシュカの頭を撫でてその場を離れた。

「いい夢だな、どれもこれも美味しい物ばかりだ。私の知らない物も多い。どうする? 次の夢を見てみるか? このまま食事を楽しむか?」

「んー、もうちょい食べたら次行こっか。他の子のも気になるし」

心の奥底の願望だとかが分かるかもしれない。シュカの願いは俺には叶えてやれないけれど、他の子の願いは俺が叶えてやれることかもしれない。

「ごちそうさま、行こっか」

「こっちだ。手を離すなよ」

サキヒコに先導されて着いたのは、夢と夢の狭間の暗闇よりも暗く、何も見えない場所だった。何も見えなさ過ぎて暗いのか明る過ぎるのかも分からない、目の前が黒なのか白なのかもハッキリ認識出来ない。おかしなことだが、そうとしか言いようのない不思議な景色なんだ。いや景色はない、無だ。

「何ここ……本当に夢なの?」

「そのはずだ。ここは誰かの夢の中だ」

フローリングの床が微かに沈む感触がある。時折紙か何かを踏んで足を滑らせる。絵の具の匂いがする。風鈴の音がする。音と匂いが俺やシュカの夢よりも強い気がする。

「…………まさか、サン? サキヒコくん、サン分かる? めちゃくちゃ髪の長い人。サンの夢かな、だから何も見えないのかな。あ、サン全盲なんだよ、知ってたっけ」

「あの方か。これが彼が普段見ている景色、ということか?」

「かなぁ。これどんな夢なんだろ……せめてサン本人くらい見つけたいんだけど」

「ごめんなさい。私には次の夢に進めそうな方向を感じ取るくらいしか出来なくて……」

「あぁ、いいんだよ。大丈夫。音の反響具合からしてかなり広そうだし、サン見つけても喋れないんだから意味ないよね。もう次行っちゃおっか。遊園地とかの夢見てる子探そ」

「……うん」

サキヒコの手を取り、次の夢へと歩みを進めた。サンの願望だとかは分からなかったけれど、絵の具の匂いはしたから彼が夢に見るほど絵を描くのが好きなのは分かった。好きなことを生業に出来ているということだ、素晴らしいじゃないか。

「んっ……眩しいな」

「う……外? だね。昼間……眩しい」

次の誰かの夢へと移ると眩い太陽に出迎えられた。正確にどこかは分からないけれど、外だ、多分都内だろう。

「こ、これは……街なのか? 身体に憑いて行った際に高い建物を見て驚愕したが……こ、こんな、こんな街まであるとは……日本は凄まじい速さで発展を遂げたのだな」

感動している様子のサキヒコを見てほっこりしていると、車の急ブレーキの音が聞こえた。
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