冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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遵法精神は他人の視線に依存する

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ぽすん、ぽすんっ、とサキヒコの拳が胸や腹に当たる。

「うぅん……やはり先程のような不可思議な衝撃波は出ない。一体何だったんだ?」

「……よく考えたらポルターガイストって物が動いたり音がしたりすることで、人間が吹っ飛ばされるのはなんか違うと思うんだよね」

「この性欲異常者、この性欲異常者……言葉は関係ない。感情が必要なのか? ミツキに向こうへ行って欲しいという感情……今のところない。ミツキ、もう一度私の身体をまさぐってみてくれ」

「サキヒコくんのその探究心好きだけど背中めっちゃ痛かったからやだ」

「痛かったのか!? それならそうと言え! 痛そうにしていなかったから、夢の中だから痛くないのかと……私を救い、私をこの世に留めると誓ってくれた大恩人に私は何ということを…………ごめんなさい」

「びっくりして痛み忘れてたんだよ……後から痛がるのもアレだし」

深々と頭を下げたサキヒコの頭を撫でる。今度こそ健全な触れ合いだ、落ち込んで俯いた彼のおかっぱ頭は撫で甲斐がある。

「俺こそごめんね、変な触り方して」

「ミツキは私と恋仲なのだろう? それなら、多少は……」

顔を上げてくれたけれど、またすぐに俯いてしまった。多少は……の続きは聞こえなかった、言わなかったのかもしれない。

「サキヒコくんは……さ、いいの? 俺と恋人になって。俺が死体見つけたからとか、そういう恩義はなしにしてさ……俺、男だし、ちょっと変態だし、浮気者だし……こんな俺と恋人なんて、嫌じゃない?」

「…………男色の趣味は、私にはなかった。しかし……自分を殺そうとした私を許し、痛みと寂しさを消してくれたミツキと……単なる友人でいるのは、その、言葉にするのは難しいのだが、嫌なんだ、ただ話をするだけ、遊ぶだけでは……物足りない。ミツキの温もりが欲しい……触れ合いたい」

「……恋人で居てくれる?」

サキヒコは小さく頷いて俺の腕に抱きついてきた。ミフユと同じサイズ感だ。細い腕や小さな手が愛らしい。ビバ合法ショタ。

「でも、あんなふうに触るのは」

えっちな触り方はまだしないで、かな。男同士の恋仲についてなんて今まで考えてもこなかったみたいだし、いきなりシュカとのガッツリしたセックスを見せられて困惑もしているだろう。あれ、そういえば俺セックス中に寝落ちしてね? シュカに殺されるのでは? 殺されているのでは?

「……触るのは?」

「触る、のなら……雰囲気が欲しい」

「…………ん?」

「情緒や雰囲気が欲しい……劣情剥き出しでは嫌だ。品のある男になって欲しい」

サキヒコは意外にロマンチックなのが好きなのかな。雰囲気重視派と、なるほどな、覚えておかなくては。

「それだけ? 他に何かもっとこう……ないの?」

「着物の脱がし方は自分で身に付けて欲しい。自分で自分を脱がせる方法を説明なんて嫌だからな」

それもまた雰囲気を大切にしたいからこその要望だな。

「分かったよ、着物の脱がせ方は一人で調べるし、品についても改善する」

「そうか……応援しているぞ」

「ありがとう」

俺の恋人になることそのものには大した抵抗がないようで助かった。ひとまず安心した俺は胸を撫で下ろした。

「……ごめんなさい。明日にも消えるかもしれない死霊が、我儘を言って」

「何言ってるの、サキヒコくんは消えないよ。俺の傍に居るんだ。ね?」

「…………うん」

サキヒコは前向きだと尊敬していたが、その実心細かったようだ。俺の腕を強く抱き締めて離そうとしない。

「遊ぼっか。でも、どうやって遊ぼう。ここ学校だから遊ぶとこないんだよね……遊園地とかの夢見られたらよかったんだけど。体育倉庫とか見に行ってみる?」

体育館の体育倉庫からバスケットボールを二つ取り出し、一つサキヒコに渡す。

「こうやってドリブルしてぇ」

「どりぶる……」

「進んで、こう投げるっ」

「どりぶる、しつつ歩く……そして、投げる」

「そうそう。あの網ついた輪っかに入れたら勝ちね」

バスケのルールを省略して教えてみた。サキヒコはスポーツの経験がほとんどないようで、ボールの扱いに苦戦していた。運動場に出てサッカーや野球も軽く教えてあげた。

「当代の遊戯は難しいな。てにすなら一度経験があるのだが」

「テニスしたことあるの? コート一応あるけど俺やったことないんだよね、出来るかなぁ」

テニスは俺が下手くそ過ぎて試合にならなかった。

「はぁ……一通り使って遊んだね。疲れないし、汗かかないし、暑くないし、これならいくらでも運動出来るや。俺運動あんまり好きじゃないんだけどさ、疲労も汗も他人の視線もないと楽しいね」

俺の運動嫌いはやはり生来の怠惰な性格と、周りの嘲笑によって作られたものだったらしい。

「もう学校で出来る遊びはないのか?」

「思い付かないなぁ、開かないドア多いし、本とか中身真っ白だし……校舎の窓割って回る? 現実だと思い付きもしないんだけど、夢だって分かってるとなんかやりたくなるよね」

「物の破壊か……原初の娯楽だな」

校舎に向かって思い切り野球ボールを投げてみる。窓ガラスはまるで砂糖細工で出来ていたかのように派手に粉々に砕け散った。

「実際もうちょっと頑丈だと思うんだけどな」

「割りたいとミツキが思ったからだろう、これはミツキの夢だから」

「だろうね、次バットで行こうか。俺の夢の中なんだしガラスの破片で怪我したりしないっしょ」

「おそらく」

きっと俺は人生で一度も行わないだろう、故意に窓を割るという行為をしこたま行った。一階の窓を全て割り、パソコンや机もいくつか殴り壊した。

「うわぁ~スッとするぅ~! こんなことでスッとする自分めっちゃ嫌~!」

「ミツキ、これいくら叩いても壊れない」

そう言いながらサキヒコがバッドで殴っているのは黒板消しクリーナーだ、凹みもしていない。

「あぁ……俺それが壊れたとこ見たことないから。パソコンは動画とかでたまに叩き割るとこ見るんだけど、それ中身とか俺分かんないから」

「なるほど。ところで……もし今ミツキを殴ったらどうなるんだろう」

「多分めっちゃ痛いからやめて? まぁバッドで殴られたことはないから、人に殴られたくらいの痛みになるのかなぁ。それとも走ってて電柱にぶつかったあの時の痛み……?」

「実際にやる気はないんだ。ただ、ミツキの中身はミツキが想像出来るのだろうかと」

「血が出るくらいかなぁ……やめてね?」

これ以上やっていたら破壊の本能みたいなものがどんどん目覚めていきそうだ。俺はバッドを置き、サキヒコにもバッドを手放させた。

「ふぅ……後何しようかな。学校の外って出れるのかなぁ」

「…………今、出来そうだと感じたことがある」

「なになに?」

「他の者の夢に入れるかもしれない」

「……どゆこと?」

「感じるんだ、今私はミツキの夢の中に居るけれど、この外側に別の夢を感じる。頑張ればそこに行けそうな気がする」

幽霊ってそんな夢魔的な存在だったんだ。

「行ってみるか?」

「……えっ俺も行けるの? 彼氏の夢覗けるってこと? それは流石になんか勝手に頭覗くみたいで気が引けるなぁ~でも好奇心が勝つなぁ! 行こう!」

「よし、では私の手を掴んでいてくれ」

サキヒコは引き戸を閉め、もう一度開いた。あるはずだった廊下は消え、暗闇が広がっていた。

「手を離すなよ、ミツキ」

「……手離したら、昏睡状態になって二度と目が覚めなくなるとか言わないよね?」

「この暗闇の中で手を離したら多分目が覚める」

「行こ~う!」

何のリスクもないようなので、俺はウキウキで暗闇へと足を踏み出した。
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