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どこまで通訳するべきなのか

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プレゼント選びを失敗したかもしれないと落ち込むハルをよそに、アキはイヤリングを着けてセイカに見せている。会話の内容は分からないけど多分「似合う?」「似合う似合う」「棒読みじゃん、真面目に見てよ~」とかそんな感じだろう。

《どうだスェカーチカ、似合うか?》

《おー、似合う似合う。バッチリ似合ってるぜ》

《スェカーチカに褒められちった! えへへへ……逆さ十字、好きなバンドが衣装とかによく使ってんだよな~。推しの概念グッズだなこりゃ》

「……霞染、秋風気に入ってるみたいだからあんまり気にすんなよ」

アキとの会話を中断し、セイカが落ち込むハルにそう声をかけた。

「ホントにっ? ホントのホントのホントにっ? 気遣いとかマジでいらないからね! ホントのこと翻訳してよ? アンタの翻訳なんか文章量少なくて俺疑ってんだからね!」

「ホ、ホントだって……量少ないのは仕方ないだろ、秋風……その、スラングとか下ネタとか酷いんだよ。だいぶ直接的に言うからホントのことでもちょっと、人を傷付ける表現だなーって思うことも多いし、そういうのは削ったりして……」

「……こんな可愛いアキくんがそんな口悪いわけないじゃん」

ハルに見つめられ、アキはイヤリングを指先で撫でながら満面の笑みで何か話し始めた。

《ありがとな、ハル。超嬉しい。嬉しいリアクション取るの慣れてねぇからあんまり喜んでるように見えねぇかもしんねぇけど、即尺してやってもいいくらいに喜んでるぜ》

「……なんて?」

「ありがとう、めちゃくちゃ嬉しい。って」

「ほら絶対おかしい! 明らかに少ないじゃ~ん! 今の内容がホントなんだったら酷い言い回しになりようなくない? サボってんの?」

「ハル……そろそろやめとけよ」

ハルはセイカをよく思っていない。俺やカンナの口添えで攻撃的な態度を取るのはやめたと思っていたけれど、まだまだセイカへの嫌悪感は薄れていないようだ。

「……っ、ありがとう、嬉しい。いい反応見せられなくて、喜んでるのか分からないかもしれないけど、この場で今すぐっ……あのっ、しゃぶってやってもいいくらいに喜んでるんだって言ってて……んなこと言えるか!? こんなめでたい場で! お前らは秋風のこと天使天使言って、可愛い可愛いって言ってるのに! 秋風のイメージ下がるわお前ら嫌な気分になるわいいことないだろ馬鹿正直に通訳したって!」

「俺は興奮する」

「黙ってろ変態!」

「ごめんなさい!」

ちゃんと翻訳しているのかと詰められたセイカの反撃に、ハルは呆然とした顔をしていた。

「……ア、アキくん、そんなこと言うんだ~。あははっ、確かにイメージ違う……で、でもぉ、みっつんの弟だし、あっちの体力もヤバいらしいし……そんなもんなのかな~……って感じもする~…………うん、せーか、ごめん……セーフティ、かけといて」

「あぁ、今後もそうしていくよ」

《スェカーチカ、何の話してたんだ? 妬けるじゃねぇか、俺としか話せねぇようにその口を俺の口で塞いでやってもいいんだぜ? 何、舌の動きと喘ぎ声は言葉よりも雄弁だ、お前がどれだけ俺を愛しているかはちゃんと伝わるから心配するなよ》

《……翻訳、文章量に差があるから正しいのか疑われてた。何とか分かってもらえたよ、お前のそういうとこはみんな知らなくていい》

《本当のお前は俺だけが分かってればいい、ってヤツか? オイオイオイ……オイオイオイオイ…………たまんねぇなぁオイ!》

《いや俺はお前のイメージダウンを気にしてだな……あぁもういいや、もうどうでもいい》

アキに抱きついて頬擦りをされているセイカは呆れたようにため息をついている。どんな会話が行われたのかは知らないけれど、アキからのスキンシップに飢えている俺の前でそんな呆れ顔をするなんて、いい度胸じゃないか。

「アキ! お兄ちゃんにほっぺすりすり!」

「アキくんはでんきタイプか」

「どれかって言うとノーマルかフェアリーっぽいっすけどね」

《秋風、お前の兄貴が頬擦りして欲しいってよ》

どうせセイカから離れないのだろうと思っていたけれど、アキは立ち上がって俺に抱きつき、俺にも頬擦りをしてくれた。

「アッアァ!? カ、カワイ……ヒョエェ……いいんですか? こんな可愛い子、いいんですか!? セ、セイカ、今何言ったんだ? 俺に頬擦りしてきたらキスしてやるとか言ったのか?」

「頬擦りして欲しいって言ってるって言っただけだ。最近ずっと鳴雷と話したり触れ合ったり出来なかったし……秋風も多分、寂しかったんだと思う。変に勘繰るなよ、俺も秋風も一番大好きな本命は……鳴雷、お前だけだ」

「………………うん」

俺はようやくアキを抱き締め返して俺の方からも頬を擦り寄せた。最近ずっと俺に構ってくれなくて、セイカとばかりイチャついていたアキに対して苛立っていた、拗ねていた、疑っていた、妬んでいた。そんな負の感情が全て浄化されていく、アキからの恋慕を確かに感じる。

(……泣きそうでそ)

泣くのはよくない。兄としても、誕生日としても。俺は涙を堪えて顔を上げ「次にプレゼントを渡すのは誰だ?」と無理矢理整えた声色で尋ねた。

「お、俺なんすけど……なんか、渡しにくいっすね」

「ポンと渡してやってくれよ。秋風、次は、レイだぞ」

アキが嬉しそうな顔でレイを見つめる。レイは躊躇いながら恐る恐るプレゼントをアキに渡した。俺や歌見への絵描きチケットではないようだ、包装紙は長方形の箱を包んでいる。

《……んだこれ、ちんぽ?》

包装紙が剥がれ現れた箱にはディルドのイラストがデカデカと載っていた。

「レイ……ディルドプレゼントしたのか?」

「ただのディルドじゃないっす、制作キットっす! 自分のお尻に入れてシンデレラフィットのディルドを作るもよし、彼氏ので型を取らせてもらうもよし、お気に入りのディルドを複製するも、野菜の型を取って安全に野菜オナニーを楽しむもよし、自分の造形センスを信じることだって出来るっす! なんだって出来るんすよこの制作キットは!」

「偽ちんぽ作ることしか出来ないでしょう」

「そんなもんの説明にシンデレラなんて使うな、ガラスの靴のヒール部分で殴られるぞ」

レイの熱弁を丸々翻訳しているのかセイカは先程から長々と話している。レイへのツッコミを終えて振り向いてもまた話していた。

《──ってキットなんだってさ》

《いいねぇ!》

説明を聞き終えたアキは嬉しそうに箱を持ち上げ、俺をじっと見つめた。
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