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マナーについて
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みんなラーメンを食べ終えた。俺は当然スープまで完飲し、器の底を見てから罪悪感に襲われた。
「スープまで飲んだのか、そんなに美味かったか? ミフユは嬉しいぞ!」
しかし、ミフユに喜んでもらえたのでカロリーどうこうなんて気にならなくなった。
「おかわりは? 麺を湯掻くだけだからすくに出来るぞ。スープもまだある」
「これ以上は流石に太っちゃうので……」
「そうか。鳥待一年生! 貴様はもう二杯くらい食べるだろう」
「……いらないです」
それだけ言うとシュカは流し台に器を置いて去っていった。寝室に向かったのだろうか。
「む……鳥待一年生が何杯か食べると思ってスープは多めに作ったのにな」
「せ、せんぱぁい……俺、やらかしちゃったっすかね? シュカせんぱい俺が箸の持ち方変って言ってから全然喋らなくなっちゃったっすし、どっか行っちゃったっすし……」
「んー……まぁ大丈夫だろ」
「うむ、箸の持ち方は学生のうちに正しておかねばならんもの。言い方もキツくはなかった、正しい行いだったとミフユは思うぞ」
「そもそもどうして正しい持ち方なんてのがあるんだい? 別にどんな持ち方でもいいじゃないか、食べられるなら」
厳しく躾けられていそうな家柄のネザメがそれを言うか。
「マナーというものですよ、ネザメ様」
「別に他人に迷惑をかけることではないだろう? マナーは気遣いや思いやり……傘を振り回さないとか、そういうことではないのかい?」
「俺の母さんはマナーは細かいことにだけ気付くバカに隙を与えないためのものって言ってました」
「随分だね……」
「鳴雷一年生の母君の言い方はともかく、そういう側面もありますね。コミュニティに溶け込むためのものでもあります。人間は基本的に排斥的ですから」
「身内ネタ使うと仲良くなるのが早い的なことっすね」
その噛み砕き方は合っているのか?
「……まぁ、判子をお辞儀させるとか、そういうものならば反発する気持ちも分かりますが……箸の持ち方くらいは正しくしておくべきでは? 見た目に美しく、機能的でもありますから」
「そうだね」
ネザメの声に心がこもっていない、問答が面倒臭くなったヤツの言い方だ。
「俺悪くないんすよね? よかったぁ……でも意外っすよね、箸の持ち方変そうなのって誰かって言うとリュウせんぱいじゃないっすか?」
「失礼なやっちゃなぁ」
「わっ、聞いてたんすか……」
器を下げに来たリュウがぬっと顔を出し、レイは苦笑いを浮かべる。
「リュウは神社生まれだから割としっかりした家だもんな。金髪で軽くてドMだからその由緒正しさが伝わってこないだけで」
「水月ぃ……」
「チャラいヤツが所作綺麗なのギャップでキュンとくるよ」
「水月ぃ……!」
ぽっと頬を染めてぱぁっと微笑んだ。可愛い。
「へへへ……このめん、それ言うんやったらやな、ピアスまみれ髪ピンク色の自分もなかなか無礼そうやで」
「俺は田舎のちょっといい家っすから箸の持ち方とかは厳しかったんっすよ」
「反動やなぁ……」
「チャラさで言えば一番はハルせんぱいじゃないすか?」
「ハルは京都のいい家だからなぁ」
「みんないい家生まれで恐縮だな……」
皿を下げに来た歌見が深いため息をつきながら言った。
「まぁ、十二薔薇なんで」
「お坊ちゃま学校め。っていうかなぁ木芽、普通の一般家庭でも箸の持ち方の躾くらいされるからな?」
「普通の家じゃ箸の持ち方習わないなんて俺言ってないっすよぉ」
「……俺は普通なんだが、妹はいくら言っても直らなかったからめちゃくちゃ変なんだよな……ミートボールとかうずらの卵とか平気で刺すし」
「わぉ」
「む……」
「俺のこと箸で指すし、箸で皿引き寄せるし、魚の骨手で取るし、鳥の骨ずっと齧ってるし……店で靴脱ぐし、ドリンクバー混ぜるし、ストロー噛むし……」
妹への愚痴が止まらないな。歌見の面倒見のよさや懐の深さは彼女が鍛えたといっても過言ではないだろう。
「二度と、二度と外食には連れて行かない……! っていうかもう一生会いたくない」
「お箸の持ち方かぁ……ボクどう?」
皿を下げに来たサンが箸を持った手を俺達の中心に突き出す。至って普通の、正しい持ち方に見える。
「綺麗ですよ、サン殿」
「そ? よかった。見えないと楽だよレイちゃん、目の前でどんなマナー違反されても不愉快になんてならないからね」
「別に不愉快にはなってないんっすけど……」
「クチャラーは盲目貫通する不快さだと思うんですが、どうですか?」
「ナナくんかな? くちゃら……って何?」
「あ、すいません……咀嚼音がうるさい人のことです」
心当たりがあったのか、サンは「あぁ!」と手を叩いた。可愛い仕草だ。
「アレ嫌だよね、ボク結構そういうの敏感でさぁ。フタ兄貴は聞こえないし気にならないって言うんだけどねぇ、ボクはもう嫌になっちゃって……」
「あー……フタさん確かにそういうの鈍そう」
「……髪掴んで机にバーンってしちゃってさ、お皿割っちゃって……アレはお行儀悪かったなぁ」
サンはちょっとした失敗を語っている顔をしている。
「行儀以前の問題では?」
「短気過ぎる」
ミフユと歌見の言う通りだ。
「も、もちろんバーンってする前に言ったんすよね? 注意とか。何回言ってもやめなかったから……っすよね?」
「……あ、そっか、先に言った方がよかったね? 今度また機会があったらそうするよ」
「怖……一見温和で忘れがちっすけど、やっぱりヤクザなんすねぇ」
「ヤクザとかいう問題か? ヤクザってもっと警察につけ込む隙与えないように普段は大人しくするもんじゃないのか?」
サンに暴力的な趣味があればもっと恐ろしいことになっていただろう、短気なだけでよかった。
「スープまで飲んだのか、そんなに美味かったか? ミフユは嬉しいぞ!」
しかし、ミフユに喜んでもらえたのでカロリーどうこうなんて気にならなくなった。
「おかわりは? 麺を湯掻くだけだからすくに出来るぞ。スープもまだある」
「これ以上は流石に太っちゃうので……」
「そうか。鳥待一年生! 貴様はもう二杯くらい食べるだろう」
「……いらないです」
それだけ言うとシュカは流し台に器を置いて去っていった。寝室に向かったのだろうか。
「む……鳥待一年生が何杯か食べると思ってスープは多めに作ったのにな」
「せ、せんぱぁい……俺、やらかしちゃったっすかね? シュカせんぱい俺が箸の持ち方変って言ってから全然喋らなくなっちゃったっすし、どっか行っちゃったっすし……」
「んー……まぁ大丈夫だろ」
「うむ、箸の持ち方は学生のうちに正しておかねばならんもの。言い方もキツくはなかった、正しい行いだったとミフユは思うぞ」
「そもそもどうして正しい持ち方なんてのがあるんだい? 別にどんな持ち方でもいいじゃないか、食べられるなら」
厳しく躾けられていそうな家柄のネザメがそれを言うか。
「マナーというものですよ、ネザメ様」
「別に他人に迷惑をかけることではないだろう? マナーは気遣いや思いやり……傘を振り回さないとか、そういうことではないのかい?」
「俺の母さんはマナーは細かいことにだけ気付くバカに隙を与えないためのものって言ってました」
「随分だね……」
「鳴雷一年生の母君の言い方はともかく、そういう側面もありますね。コミュニティに溶け込むためのものでもあります。人間は基本的に排斥的ですから」
「身内ネタ使うと仲良くなるのが早い的なことっすね」
その噛み砕き方は合っているのか?
「……まぁ、判子をお辞儀させるとか、そういうものならば反発する気持ちも分かりますが……箸の持ち方くらいは正しくしておくべきでは? 見た目に美しく、機能的でもありますから」
「そうだね」
ネザメの声に心がこもっていない、問答が面倒臭くなったヤツの言い方だ。
「俺悪くないんすよね? よかったぁ……でも意外っすよね、箸の持ち方変そうなのって誰かって言うとリュウせんぱいじゃないっすか?」
「失礼なやっちゃなぁ」
「わっ、聞いてたんすか……」
器を下げに来たリュウがぬっと顔を出し、レイは苦笑いを浮かべる。
「リュウは神社生まれだから割としっかりした家だもんな。金髪で軽くてドMだからその由緒正しさが伝わってこないだけで」
「水月ぃ……」
「チャラいヤツが所作綺麗なのギャップでキュンとくるよ」
「水月ぃ……!」
ぽっと頬を染めてぱぁっと微笑んだ。可愛い。
「へへへ……このめん、それ言うんやったらやな、ピアスまみれ髪ピンク色の自分もなかなか無礼そうやで」
「俺は田舎のちょっといい家っすから箸の持ち方とかは厳しかったんっすよ」
「反動やなぁ……」
「チャラさで言えば一番はハルせんぱいじゃないすか?」
「ハルは京都のいい家だからなぁ」
「みんないい家生まれで恐縮だな……」
皿を下げに来た歌見が深いため息をつきながら言った。
「まぁ、十二薔薇なんで」
「お坊ちゃま学校め。っていうかなぁ木芽、普通の一般家庭でも箸の持ち方の躾くらいされるからな?」
「普通の家じゃ箸の持ち方習わないなんて俺言ってないっすよぉ」
「……俺は普通なんだが、妹はいくら言っても直らなかったからめちゃくちゃ変なんだよな……ミートボールとかうずらの卵とか平気で刺すし」
「わぉ」
「む……」
「俺のこと箸で指すし、箸で皿引き寄せるし、魚の骨手で取るし、鳥の骨ずっと齧ってるし……店で靴脱ぐし、ドリンクバー混ぜるし、ストロー噛むし……」
妹への愚痴が止まらないな。歌見の面倒見のよさや懐の深さは彼女が鍛えたといっても過言ではないだろう。
「二度と、二度と外食には連れて行かない……! っていうかもう一生会いたくない」
「お箸の持ち方かぁ……ボクどう?」
皿を下げに来たサンが箸を持った手を俺達の中心に突き出す。至って普通の、正しい持ち方に見える。
「綺麗ですよ、サン殿」
「そ? よかった。見えないと楽だよレイちゃん、目の前でどんなマナー違反されても不愉快になんてならないからね」
「別に不愉快にはなってないんっすけど……」
「クチャラーは盲目貫通する不快さだと思うんですが、どうですか?」
「ナナくんかな? くちゃら……って何?」
「あ、すいません……咀嚼音がうるさい人のことです」
心当たりがあったのか、サンは「あぁ!」と手を叩いた。可愛い仕草だ。
「アレ嫌だよね、ボク結構そういうの敏感でさぁ。フタ兄貴は聞こえないし気にならないって言うんだけどねぇ、ボクはもう嫌になっちゃって……」
「あー……フタさん確かにそういうの鈍そう」
「……髪掴んで机にバーンってしちゃってさ、お皿割っちゃって……アレはお行儀悪かったなぁ」
サンはちょっとした失敗を語っている顔をしている。
「行儀以前の問題では?」
「短気過ぎる」
ミフユと歌見の言う通りだ。
「も、もちろんバーンってする前に言ったんすよね? 注意とか。何回言ってもやめなかったから……っすよね?」
「……あ、そっか、先に言った方がよかったね? 今度また機会があったらそうするよ」
「怖……一見温和で忘れがちっすけど、やっぱりヤクザなんすねぇ」
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