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ごめんなさい!

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食事マナーなどの話で盛り上がり、サンが咀嚼音がうるさいタイプの人間に度が過ぎる制裁を加えた話で盛り下がった。そういえば以前椅子の背もたれを握り割っていたりしたなぁ、と俺は後から思った。

「そうだ、ロシアにはどんなマナーあるの? 聞いてみてよセイくん。セイくんどこ? 居る?」

「ぁ、い、居ますっ……すぐ聞く……」

突然指名を受けたセイカは戸惑いながら、ハルの視線を気にしながらもアキに質問をしてくれた。

「外に出た時は深呼吸をしちゃダメなんだって」

「へぇ……?」

「それは無礼だったり下品だったりするのかな? 僕達の感覚からすると不思議だよ」

「一気に冷たい空気吸うと肺が凍るからだってさ」

「…………それマナーじゃなくない?」

しばらくは口を噤んでいたが、ツッコミをせずにはいられなくなったようでハルが俺も言おうとしていたことを言った。

「でも、秋風が」

「翻訳ミスなんじゃないの? マナーってのは礼儀、作法、行儀とか、そういうのなんだけど?」

間延びしていないハルの話し方はレアだ。けれど萌えより恐怖が勝つ、これは完全にクラスのイケてる女子が陰キャへの苛立ちを露わにしている時の恐怖と同じ種類のものだ。胃がキリキリしてきた。

《……ぁ、秋風っ、箸の持ち方とか……目上の人を先に部屋に入れるとか、部屋の奥に座らせるとか、そういうの……聞きたかったんだって。何かある?》

《礼儀作法っつーのはつまりその場で生き抜くための知恵だろ? 下っ端はお偉いさんをキモチよ~くしなきゃ生きれねぇんだからそりゃ部屋に先に入れたりしなきゃならねぇ訳だ。だが! 俺は向こうじゃ社会から爪弾きにされてたからな、属するもんがねぇ、その場合対応すべきは自然環境……つまり寒さとの付き合い方だ》

「……人付き合いなかったから、自然との付き合い方しか知らない。的なこと言ってる」

「いや今絶対もっと長々と話してたじゃん! ちゃんと全部教えてよ!」

「ハル、セイカはちゃんと分かりやすいように要約もしてくれてるから……」

「本当に? 別のこと言ってる可能性もあるじゃん、今とか長さ全然違ったし! なんでそんな信用出来んの」

「だから要約もしてくれてるから長さが違うんだってば。なんでって……彼氏なんだから信用するに決まってるだろ。それに、翻訳の内容真実から変えて何にになるんだよ、カタコトと身振り手振りでも俺達が矛盾に気付くタイミングは絶対あるわけで……そのリスクを背負ってまでセイカが嘘をつく理由は? ないだろ?」

よし、上手く論理的にセイカへの信用を説明出来たぞ。セイカはこれを聞いて喜んたりしてくれただろうか。

「理由なんか……いらないじゃん、昔……みっつんに酷いことしたヤツなんか、何にも考えずに嘘ついたりもするよ」

「ハル……セイカは今はいい子だ。昔もいい子だった、ただちょっとストレスのはけ口がなかったり俺の無自覚煽りだったり……俺が、セイカをちゃんと見てなかったりしたから、ああなっただけで」

「ストレスとかみっつんには関係ないじゃん! 虐めたヤツが全部悪いの!」

「……ありがとうな、俺の味方してくれて……あの時欲しかった。でもなぁハル、昔昔って言うならお前はどうなんだよ……パパ活ママ活して荒稼ぎしてたんだろ?」

少々心が痛むが、ハルの正義感と愛情由来の攻撃性を下げるにはこれしか思い付かない。

「そっ、それは、言わないでよっ、みっつん受け入れてくれたじゃん……! ホテルとかは行ってないし、ちょっとカフェでお茶とかしてっ、話とかしただけで……!」

「そんな方法で金稼いでたヤツの自分は処女です発言にどれだけの価値があるんだよ」

「……信じてくれてなかったの?」

「信じてるよ、彼氏だもんな。中学生を金で釣って、あわよくば……なんて考える大人が全部悪い! 俺はハルの過去なんて気にしてないよ」

「みっつん……」

「同じだよ、セイカは彼氏だ、俺は信じてる。もう過去はいい……許したんだ、俺にも悪いところがあったから。だからもう、セイカに何も言わないでやってくれよ。被害者の俺がこんなに言ってるのに、加害者にまだ石を投げつけるような真似……優しいハルならしないよな?」

「……昼間なんて、あんなに泣いてたのに」

「…………恥ずかしいからやめてくれ。大丈夫なんだって本当に……そりゃたまにぶり返すことはあるけど、許してるんだよ本当に。ほら、ハルが俺のこと安全だって分かってても怖がっちゃうのと一緒。頭とトラウマは別」

「それ言われちゃうと分かるしかなくなるー……」

「分かってくれたか、俺の克服の邪魔しないでくれよ」

「……分かった」

納得いっていなさそうな表情だが、了承はしてくれた。もうセイカに威嚇したりセイカを叩いたりはしないだろう……しないよな? しないでくれよ? 空気がピリピリしているのが一番疲れるんだから、険悪な雰囲気の旅行なんて最低なんだから。

「まぁ……うん、理由なく嘘つくでしょとかは、酷かったかな~……それは、うん……叩いたのも、あの時は関係なかったし……泣かせたのこのめんだし~」

「そっ、それはそうっすけどぉ、俺はっ……雑談してただけでっ」

「だからぁ~……色々ぉ~………………ごめん、なさ~い……」

謝った!?

《お前そんな寒いとこ住んでたの? ロシアって大陸性気候だろ? 夏はそこそこ暑いよな》

《知らね。とにかく冬場はめちゃくちゃ寒かったぜ》

聞いてない!?

「…………ごーめーんーなーさーい! せーいーかぁーくーん!」

「へっ? あっ……う、うん……別にそんな……俺が、悪いんだし」

《っていうかスェカーチカ微妙に汗臭いぜ、ムラつくから今はそういうアプローチは勘弁して欲しいな。マナーマナー言うならそっち先に気にしろよ》

「へっ!? ごっ、ごめん! すぐお風呂っ……」

アキに何を言われたのか、突然走り出そうとして転びかけたセイカを支える。アキが襟首を掴んだため俺の腕にはほとんど体重がかからなかった。

「……お風呂入りたいのか? そっかぁ! そろそろ行こっか、おいで~」

「へっ? ぁ、わっ……」

しかしアキは俺が腕を突き出したのを見てすぐに手を離したので、俺に支えられるしかなくなった彼を抱き上げた。

《兄貴もスェカーチカも居ねぇとなると……犬……犬? 居ねぇじゃん。ぁー……何しよ、ボンボンに色目使って遊ぶか》

お姫様抱っこにしたセイカを連れて行く最中、アキの退屈そうな呟きを聞いた。
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