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出来る出来る絶対出来るから!

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ハルは胡座をかいた俺の足の上に座り、俺の手首を掴んで引っ張り、自分を抱き締めさせた。俺も彼の気持ちを汲み、少しずつ腕に力を入れていった。

「……っ、は……」

呼吸が浅い、緊張しているようだ。落ち着かせてやらないと、そう思った俺は彼の耳元で囁いた。

「ハル、だいじょ」

「……っ!? いやぁっ!」

「ぅぶっ!?」

銃を向けられた犯人のように、慌てて両手を上げた。ハルはベッドから転がり落ち、四つん這い未満の姿勢で咳き込み、嘔吐いた。

「ハ、ハル……誰か、ぁ、ミフユさんっ、ミフユさん、お願いします」

「何を言っている、こういう時こそ貴様が……」

「俺じゃダメなんです! 薄らデカい俺じゃっ……小柄で童顔のあなたが一番適任なんですっ、お願いします!」

「わ、分かった……霞染一年生、大丈夫か? どうした?」

ガタガタと震えているハルの背をミフユがさする。俺の腰をトントンと誰かが叩く。

「レイ……?」

振り向くとうつ伏せのまま頭を上げたレイが居た。

「水分補給、大事なんで……お茶、持ってきといたんす。そこにあるんで、あげてくださいっす。俺腰立たないんで……」

先程の俺の発言を聞いてか歌見がそろそろとハルから離れる中、俺もまたそぉっと移動し、ペットボトルをミフユへ投げた。

「霞染一年生、飲め」

ハルは蹲ったままペットボトルを強く握り、吸い、飲んだ。

「……変わった飲み方だねぇ」

「何? 何? 誰がどうしたの?」

どこかボケているネザメと状況が把握出来ていないサンに向かってシーと黙るように合図する。サンは立てた人差し指を唇に当てる仕草は見えていなかったはずだが、音で分かったのか仕草を真似て「これ?」とでも言うように首を傾げた。可愛い。地獄に仏の可愛さだ。

「……っ、ふぅっ、ふぅ……ふぅ……ご、ごめん、ありがとフユさん……もう大丈夫、大丈夫だから…………みっつん、ごめんねっ? 続きしよっ」

吐いてはいなかったようだが、顔色はかなり悪い。

「いや……ダメだろ」

「……大丈夫! 大丈夫だから! 俺みっつんと出来る! みっつんとイチャイチャしてっ、最終的にはっ、セ、セックスするのぉ!」

「でも」

「嫌なのあんな最低な思い出なんかに縛られんのっ! だから後ろから抱き締めてもらったのにぃっ……ダメ、怖い、思い出しちゃう、気持ち悪いよぉ…………水月、水月ぃ……顔、見てしていい? それなら、出来る……絶対出来るから。お願い、もう一回チャンスちょうだい」

「…………分かった」

もう休ませてやりたいが、ここまで言われて断る訳にもいかない。

「レイ、枕今誰か使ってるか?」

「カンナせんぱいが使って……ないっすね、使ってたと思ったんすけど」

「枕から頭落ちたのかな」

なんて会話しつつレイに枕を取ってもらい、大きめのそれを二つ折りにして背もたれとして使い、上体が少し起きた仰向けになった。

「おいで、ハル。これなら俺乱暴なこと絶対出来ないしすぐ逃げられるよ」

「……! ありがと……気ぃ遣わせてばっかで、ホントごめん」

すぐにベッドの上に戻ってきたハルは大した躊躇なく俺に跨った。触られるのには怯えるけれど、触るのは何ともないらしい。

「みっつん……あぁ、みっつんだなぁ……何が怖かったんだろう、なんで嫌だったんだろ……みっつんなのに、みっつんなのにぃ……なんで、お父さん思い出しちゃったのぉ……」

ハルの細いながらに筋のハッキリとした男らしさのちゃんとある手が頬に触れる。俺の顔を見つめて涙を浮かべながら、ハルはぎゅっと歯を食いしばる。

「悔しい……結局、何にもされなかったのに。逃げれたのに……なんで、俺こんなに弱いのぉ」

ハルの男性恐怖症のようなものの原因は、実の父親によるレイプ未遂だそうだ。他人や知人ではなく、父親、その頃既に別居済みだったとはいえ血の繋がった実の父親に襲われるなんて、途中で逃げられてもトラウマになって当然だ。

「……ハルは弱くないよ、トラウマに向き合おうとしてる……すごく強いと思うな」

「みっつんとシたいぃ……みっつんに急に抱きつかれたりっ、後ろからぎゅーってされたい……ちょっと強引に迫られたりもしてみたいのにぃっ」

「…………ハル」

大粒の涙を零しながらゆっくりと身体を倒したハルは、両手で俺の顔を捕まえて唇を重ねた。涙で濡れた唇は冷たくてしょっぱい。

「みっつん……抱き締めて。顔見てればイケる……! と、思うから」

「……ダメだったらすぐ言えよ?」

俺はゆっくりと手を動かし、そっとハルを抱き締めた。ハルは瞬きせず俺の顔を見つめ続け、唐突にふっと笑った。

「大丈夫……大丈夫だったよ、みっつん。うん、やっぱり……みっつんは怖くない」

「本当かっ? こ、こうしたり……しても?」

華奢な肩をさすり、肩甲骨の下を撫でる。ハルはにっこりと微笑んで再び俺にキスをした。嬉しくなった俺は右手を尻に、左手を太腿に移した。

「大丈夫……なんだな?」

今度は頬にキスをされた。俺はただ尻や太腿に手を置いておくのをやめて、恐る恐る揉んでみた。

「……っ、みっつんのえっち」

「本当に大丈夫なのか?」

「うん……お父さんに襲われた時ね、後ろから抱きつかれて、トイレに押し込まれて……ハル、ハルって頭の真後ろでハァハァされてさ……服の中に手突っ込まれて、でも俺暴れたからあんまりガッツリ触られたって感じじゃなくて、逃げる時に肩掴まれて引っ掻き傷ついたくらいで……みっつんが今したみたいなのまでは行かなかったから平気なのかな~? えへへ……よかった、セックス出来そう……かな? 出来そうだよねっ? ねっ? ねっ?」

詳細を聞いたのは初めてだな。だから背後から抱き締めて名前を囁いた時にパニックを起こしたのか、ちゃんと詳細を聞いていたら対策出来ていたかもしれない、やはり話をするのは大切なことだ。

「そうだな、期待で胸が踊るよ」

「も~、えっちぃ……えへへ……あっ、いつまでもこうしてたいけどさ~、りゅーとか色々待たせてるんだよね~……じゃあさ、みっつん。俺このままみっつんのお腹にずりずりしちゃうから~……ちゅーしたり、背中撫でたりぃ、お尻揉んだりして、俺が出しちゃうまでイチャイチャしよっ?」

「……最高にいいアイディアだな」

ハルは誇らしげな笑顔を浮かべた。ようやくハルらしい笑顔が見られた。弱々しい姿も可愛いけれど、やっぱり普段のハルが一番だ。
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