冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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限界御曹司

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ミフユに膝枕をされ、うちわで扇いでもらっているネザメを眺め、悔しさを噛み締める。実の弟に嫉妬するなんて情けない話だが、俺よりもアキに尽くしたがり、アキのちょっとした行動で照れて倒れるネザメが悪いのだ。こんなの浮気じゃないか。

(わたくしのことは知り合う前から観察して慣れたとか言ってましたけど、アキきゅんにもそろそろ慣れてくれてよくないですか? ネザメちゃまが好きなのって……本当にわたくしなんですか?)

ネザメとはまだ身体を重ねられていないこともあり、アキばかり見ている彼に不安と不満が募る。

「誰かそろそろ交代してくれないかー?」

思い立ったらすぐ行動すべきだ。ネザメを誘惑してみよう、俺にも照れることを確認して自信を取り戻すのだ。アキにイタズラされた時よりも彼の反応が薄かったらどうしよう……

「ボクが代わってあげる」

ネザメを惚れさせた顔も今は腫れたりアザがあったりで無惨なものだ、湿布などを貼ってもらったから今朝よりはマシだけれど、こんな顔に誘惑されて照れてくれるのだろうか。不安だ。

「……肉って焼けたかどうかどうやって判断するの?」

「つついた時の弾力とかもありっすけど、基本は目視っすよ。俺がやるんで貸してくださいっす」

「え~ボクこれやりた~い、レイちゃんボクの目やってよ」

「トングで掴んでひっくり返すのってそんなに面白くないと思うっすけどねぇ……」

サンとレイが肉焼き役を代わってくれた、まだ特に何もしていないがリュウも傍に居る。そういえばシュカは……アイツ飯盒から直接米食ってやがる! みんなと分け合う気はないのか?

「ミフユさん、ネザメさん大丈夫ですか?」

「む、鳴雷一年生。ネザメ様は貴様の弟にやられてしまったぞ。ネザメ様を意図的にからかうような行為は控えさせて欲しい」

「すいません……お詫びに俺に介抱させてくれませんか? ミフユさんも大変でしょうし」

「ふむ……そうだな、ミフユにはやるべきことがある。ではネザメ様を頼むぞ、鳴雷一年生」

そう言うとミフユはネザメの肩を軽く揺すった。俺に手招きをし、傍に屈むように指示した。

「ネザメ様、ネザメ様、申し訳ありません、少し頭を浮かせてはもらえませんか?」

「ん……?」

ネザメは目を閉じたまま頭を浮かせ、その隙にミフユはネザメの頭の下から足を抜いて立ち上がり、俺をそこに座らせた。

「もうよろしいですよ。ではな、鳴雷一年生」

ネザメの頭が太腿に乗る。ミフユがシュカの元へと走る。太腿に感じる微かな重さは「独り占めするとは何事か」とシュカを叱るミフユの怒声を遠いものにした。

「ミフユ、なんだか高いよ、寝にくっ……!?」

俺の太腿の上で頭をころころ動かし、何度も姿勢を直していたが、やはり高さが気に入らなかったようでネザメは身体を起こし、俺を見上げた。

「……水月、くん?」

「はい、さっき代わってもらいました。ミフユさんやりたいことがあるみたいでしたし、何より俺があなたのことが心配で……大丈夫ですか? ネザメさん。暑さにやられちゃったんですかね」

何があったのか知らないフリをして、ネザメの頬に手の甲を触れさせる。

「ほら……お顔も熱いですし」

ミフユから受け取っておいたうちわで扇いでみる。

「ゆっくり休んでください。俺の足じゃ寝心地悪いかもしれませんけど……あっ、そうだ! ちょっとすいませんネザメさん」

ネザメの頭の下から足を抜き、彼の隣に寝転がって彼の頭の下に腕を差し入れる。

「これなら高さちょうどいいんじゃないですか?」

向かい合う俺とネザメの距離は数センチ、サンに「高そう」と言わしめたネザメの上品な顔がどんどん赤くなっていく。儚げで耽美な彼の表情を俗なものに変えるのは、優越感に似た何かを膨らませる。

「……っ、そ、そう……だねっ」

「…………なんだか更にお顔が熱くなった気がします」

再びネザメの頬に触れる。

「大丈夫ですか? 本当に熱中症とかじゃ……」

「……っ、うわぁぁぁあんっ! みふゆっ、ミフユぅ! ミフユ!」

ガバッと飛び起きたネザメはキッチンに向かっていたミフユに抱きついた。そしてずるずると崩れ落ちて地面に膝をつき、ミフユの腹に顔を埋めた。

「ど、どうされたのですかネザメ様」

「おうちかえる……」

「はぁ……? 来たばかりではないですか。それにネザメ様は此度の旅行をとても楽しみにしていらっしゃったじゃありませんか。鳴雷一年生とちゃんと恋人らしいことがしたいと……秋風ともっと仲良くなりたいと、他にも美しい者ばかりに囲まれて夏を過ごせるなんて最高だと……あんなにも楽しみにしていらっしゃったのに、どうして帰るなんて言うんです?」

「むり、もぉむり、しんぞ……はれつ、する」

「……鳴雷一年生! 貴様ネザメ様に何をした!」

後を追ったはいいものの、声をかけるタイミングを失ってモジモジしているとミフユに怒鳴られた。

「はっ、はい! 俺の太腿は枕としては高過ぎたようなので腕枕に変更し、顔が赤かったので熱中症等を疑い頬や額に触れて熱の有無を確認しました!」

「やり過ぎだ馬鹿者! 邪魔な大人の居ない、時間制限もないこの別荘地で貴様と過ごせるというだけでネザメ様はもういっぱいいっぱいなのだぞ! これ以上ネザメ様をときめかせるな! ネザメ様が死んでしまうだろうが!」

「そ、そんなこと言われても……俺は普通に……っていうか、前はキスや手コキくらいなら出来たのに……」

「仕方ないだろう、愛情の深さとは共に過ごす時間に比例するものだ。貴様の顔以外の良さも分かってきてしまったネザメ様にはもう、貴様と顔を合わせて話すだけでも辛いのだ」

「そんなぁ……それじゃネザメさんといつまで経ってもスキンシップ出来ませんよ」

「うむ、冷たい水に浸かりながらなら頭を冷やしながら接触出来るとミフユは考える。ネザメ様には海水浴中に構ってくれ、それ以外は悪いが……あまり近寄らないでくれ」

ネザメが限界を迎えてしまう理由はそんな物理的な発熱ではないと思うのだが……ミフユも案外ポンコツだな。
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