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コンロ前から見物

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コンロの上の肉は分厚いものが多く、片時も目を離せないという訳ではない。火の近くだから暑くてクラクラするけれど、彼氏達の様子を眺めるのにはいい位置だ。

「しぐしぐさぁ、他の髪型試す気な~い? 顔隠せればいいんだよね? 後ろとかは伸ばして三つ編み~とかよくな~い?」

「ぅ、ん……でも、これ……カツラ、だから」

「あっ、そうなの……でもさ! カツラなら余計自由効くじゃん、美容師さん位置で髪型弄れるもんね。ロングヘアのも買ってみるとかどぉ?」

「カツラ……結構、高いよ……」

「そうなの~? 姉ちゃんコスプレ用に何個も持ってるからそうでもないと思ってた~」

「ピン、キリ……」

ハルとカンナは順調に仲良くなっているようで何よりだ。しかし前から思っていたが、ハルの姉の一人……結構なオタクじゃないか? まぁハル自身オタクだから不自然ではないが。俺に迫ってくるような女じゃなきゃオタトーク出来たかもしれないのになぁ。

(さて次は誰の様子を見ますかな。シュカたまは飯盒に向き合ってらっしゃいますので、リュウどの……おっ、レイどのと話してますな)

リュウとレイはクーラーボックスの前に居た。耳を澄ませば会話は問題なく盗み聞き出来る距離だ。

「このめん何飲んどるん? ジュース?」

「うっ……バレちゃったっすか。チューハイっすよ、紅葉さんに事前に頼んでおいたんす。酒なしで肉とかっ、酒なしで何日も過ごすとかっ、考えられないっす……!」

「最近まで同い年くらいや思とったから酒飲んどるん不自然やわぁ……おとんも酒好きやけど、そない美味いもんなん酒って」

「…………美味いかどうかって聞かれると困るんすよね、美味しさならどう考えてもこのお高いジュースのが上っすから」

「美味ないん?」

「強いて言うなら度数9パーっていう情報が美味いっす」

アイツまた酒飲んでやがる! まぁ、バーベキューは飲みたくなるイベントらしいし、大目に見てやるか。

「レイ~! 三本までだぞ~!」

「ひょわっ……せんぱいにもバレてたっす」

「アルコールの匂いがするね!」

「おわわっ、サンさんっ……」

レイとリュウの元にサンがひょっこりと顔を見せた。サンは彼らの顔を軽く撫でた後、レイのチューハイを奪った。

「んっ……甘っ! 甘いお酒は酔いやすいらしいから気を付けなよ~?」

一口飲んで返した。そういえばサンは最年長だったな、彼も飲んでもいい歳か。サンが酒が好きかどうかはまだ知らない、このまま盗み聞きしていよう。

「手っ取り早く酔えるからチューハイ飲んでるんすよ~」

「……あんまよう分からんけどこのめんってアカンタイプの大人なんやな。サンちゃんは酒飲むん? 芸術家さんってあんまり酒とかやらんイメージあんねんけど」

「前職は飲まなきゃダメでさ~、日本酒とかはだいぶ飲んだね。チューハイとか甘い系は全然経験ないよ」

「あー、ヤクザ屋さんは飲んどるイメージありますわ」

「組長が飲まないのはちょっとね。兄貴達は二人とも下戸で、フタ兄貴は即吐くしヒト兄貴なんかこっそり水にすり替えてるってんだから情けない話だよ」

サンも飲むタイプなのか? 今後はレイだけでなくサンの飲酒量にも気を付けなければならないな。

「一人で飲むの寂しいっすよ~、成人三人しか居ないのに歌見先輩飲む気ないとか言うんすから、サンさん責任持って付き合ってくださいっす!」

「え~、ボクあんまりお酒好きじゃないんだよね~」

「そんなこと言わずに!」

「やめぇやこのめん無理に誘ったアカンって」

「サンさんもお兄さん達と同じで酒弱いんすか?」

「逆、ワクってヤツ。いくらでも飲めるよ」

「じゃあいいじゃないっすか!」

「やだ~、ボク飲んでも飲んでも酔わないんだもん。誰かと一緒に飲むと相手だけ酔っ払って楽しそうでつまんないの。だからやだ」

「うぉお……! 巨乳女子が肩こるんだよね~って言うのがムカつく女子の気持ちが今分かったっす!」

それはなんか違くない?

(サンさんは飲む気なさそうで安心ですな。パイセンも飲みたがってないらしいですし……そんなパイセンはいずこ?)

歌見を探すとセイカの隣に発見出来た。妹がアレだから面倒見がいいのか何なのか、歌見はよくセイカに構っている。

「騒いでるなー……歌見ももう酒飲めるんだろ? いいのか、もらってこなくて」

「初飲酒で失敗したのが軽くトラウマでな……慣れようとも思うんだが、どうにも」

「ふぅん……」

「……この中でサンの次にガタイがいいのは俺だろ? だからお前を運んだりする役は俺なんだ、酔っ払うとお前を落としたりしそうで危ないから……って木芽にはお前を言い訳にさせてもらったぞ。謝っとく、ごめんな」

「そうなんだ……まぁ、うん、いいけど。実際神社行く時運んでもらったし」

「どうだった? 俺の背中は。水月とかと比べて」

俺もそれ聞きたい。俺が乗り心地一番であって欲しい。

「……デカかった」

「それは……安心感があったってことか? デカ過ぎてしがみつきにくかったってことか?」

「安心感、あったって方。ゆっくり歩いてくれたし……鳴雷はいい匂いするからいいけど、よく尻とか揉むしそのせいでずり落ちかけたりするし……秋風は安定感すごいけど、走ったりするから怖い」

鳴雷水月、二度と抱っこ中おんぶ中に尻を触らないとここに誓います!

「そっか。じゃあ今後も俺を頼ってくれ」

「…………迷惑じゃない?」

「あぁ、最近気付いたんだが俺は頼られるのが結構好きらしい。お前はなんか健気で可愛いしな、存分に甘えてくれ」

「ありがとう……」

俺の気のせいではなければ、セイカは段々と「ごめん」よりも「ありがとう」をよく言うようになってきている。指摘して褒めれば以後セイカの謝罪や礼がぎこちないものになりそうだから、俺の中に留めているが。

(……セイカ様がもっと自然に過ごせるようになると時が来ますように。いえ、わたくしが作ってみせます)

そんなセイカに日頃べったりのアキはセイカをほっぽって今どこで何をしているんだ?

「あーん、です」

「……あっ、あーん」

ネザメが用意したパラソルの下でネザメにサイコロステーキを食べさせていた。

「……ネザメ様、そろそろ限界とお見受けします。一旦引きましょう、体制を立て直すのです」

「い、嫌だ……狭雲くんや水月くんが傍に居らず、一人で居るんだよ? しかもとても機嫌が良くて僕にあーんまでしてくれるんだっ、この好機を逃すことは出来ないっ」

《食わせるだけで照れてくのウケる。ホント俺好きだなぁアンタ、面白ぇわー……スェカーチカ取りに行こうと思ってたけど、もうちょい暇潰せそうだな》

「……!? ま、また狭雲くんのところに行ってしまうのかい秋風くんっ。確かに彼とは君に馴染んだ言葉で話せて楽かもしれない、僕と過ごすのはあまり楽しくないのかもしれないっ……けれど、僕は美しい君の瞳にこのまま見つめられていたいよ。身勝手な僕を許して欲しい、僕の天使……」

《食う?》

「また食べさせてくれるのかいっ?」

真っ赤な顔をしていたネザメは嬉しそうに頬を緩め、口を開けた。しかしアキはネザメの口に入る直前で手首を返し、サイコロステーキを自らの口に入れた。

「……っ、小悪魔……むり」

美味しそうに口を動かしながらイタズラっ子な微笑みを向けられ、限界を迎えたネザメは再び倒れた。

「ネザメ様ぁああーっ!」

《超ウケる》

晴天にミフユの絶叫が虚しく響いた。
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