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飛び出し水月
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レイは俺を嫌いになってなんていなかった、元カレに脅されて俺を守るために俺と別れようとしていた。あんなにも嫌悪し、怯えていた元カレの傍へ戻る決意をするなんて、レイはとても強い。未だにレイを取り返せずにいる俺とは大違いだ。
(飛び出したって無駄、飛び出したって無駄、飛び出したって無駄……焦っちゃいけませんぞわたくし、我慢するのでそ、わたくしはとても弱いのです、喧嘩なんてとても出来ません)
184センチの高身長と、そこそこの筋肉を持っているのに? 恋人一人真正面から取り返せないのか? 何のために鍛えたんだ。
(見た目を整えるために鍛えたんでそ! この筋肉は見せ筋、実用性は皆無なのでそ! そもそも高身長っつったって、元カレさん二メートル超えじゃないですか!)
顔も肉体も恵まれているのに、心だけが貧弱なクズ。
(分かってますぞ、超絶美形に見合った心を持たなければならないことくらい! でも今すぐ変わることなんて出来ません、ですから弱いままでも出来る「隙をつく」という方法でレイどのを助けようとしてるんじゃないですか!)
顔で釣るだけ釣っておいて、守ることも出来ないなんて、俺の彼氏達は可哀想だな。
(……っ、腕っ節で守るなんざ紀元前の発想でそ)
今まさに恐怖に晒されているのに見て見ぬフリをして、ヤツが目を離した隙に盗むように取り返すなんて、そんなことでレイは喜ぶか? 惚れ直すか? 男なら真正面から戦いを挑めよ。
(レイどのなら喜んでくれまそ! 負けると分かっている戦いに挑むのはバカのすること、そんなんじゃレイどのは救えません!)
コソコソ盗んでどうするんだ? また隠れさせるのか? レイは一体いつまでアイツの影に脅えて過ごさなければならないんだ?
(ですから、二メートル超え筋骨隆々の不良なんてどうしようもないんでそ! 軍隊が必要なレベルでそ! あんなもんと関係持っちゃったレイどのが悪いのでそぉ!)
とうとうレイに責任転嫁か、救えないな。
自問自答が止まらない。高圧的な自虐に苦しめられていると、クローゼットの外の景色に動きがあった。どうやら昼食が届いたようで、元カレが受け取りに向かった。
「はぁ…………せんぱい、せんぱいぃ……ぅう……ぐすっ……せんぱい、ごめんなさいせんぱい……せんぱい……」
蹲ってすすり泣き始めたレイに何かをしてやりたくて、俺はスマホを持った。レイにメッセージを送った、元カレがレイのスマホを持っている可能性も考慮して「もう一度話したい」という当たり障りのない内容だ。
「ひっく……ひっく……せんぱい?」
スマホはレイが持っていた。彼は元カレがまだ戻ってきていないことを注意深く確認してから俺のメッセージを見て更に大粒の涙を流した。
『レイ、落ち着いて読んで欲しい。声や態度には出さないで』
『今朝俺はレイの家を訪ねたんだ。レイの態度が変だなって思って、直接話したくて。そしたら鍵がかかってなかった、つい入っちゃったんだ』
『今も居る』
『クローゼットの中だよ』
俺はキモオタなので文章を打つ速度には自信がある。
『事情は全部分かった。一緒に逃げよう。アイツを一人で出かけさせたり、寝かしつけたり、風呂に入らせたりは出来ないか?』
『彼氏達にも協力してもらって、母さんにも話して、どうにかしてもらう。自分が犠牲になろうなんて考えないでくれ』
寝室のドアノブが傾いた。ここまでだ。レイはスマホをポケットに戻した、俺が送信した文章を全て読むのは間に合っただろうか。
「……お前は相変わらずのり弁が好きだな」
「は、はい……くーちゃんは、からあげ好き?」
「…………この弁当屋の中なら一番腹に溜まる」
「そう、かな……? 男子高校生っぽくていい、ね」
声が裏返りまくっている。先程のメッセージで混乱させてしまっただろうか、でも突然俺がクローゼットから出てきたら驚くだろうから先に伝えておいたのはいい選択だったと思う。冷静になれ、俺自身に煽られるな俺、俺は弱い、元カレには勝てない、冷静になるんだ。
「……今は、夏休みだ。学校には行っていない」
「う、うん? でも……高校生は高校生、っすよ」
特徴的な語尾が戻ってきた、取り繕う余裕が出来たという解釈でいいのだろうか。
「…………暇がある、ということだ。遊園地にでも行くか?」
「へ……?」
「……行きたがってたろ」
「で、でも、くーちゃん面倒臭いって」
「………………逃げられたり浮気されたりするのに比べたらずっとマシだ」
「そ、う……?」
レイは先程からチラチラとこちらを──クローゼットの方を見ている。そんなに視線を送っては元カレに気付かれる、いや、気付かないか、こんなところに人が居るなんて想像もしないし、レイが今挙動不審でも不思議なことは何もない。
「ぁ……あのさっ、くーちゃん、汗かいてないっすか? お風呂入らないっすか?」
「……かいてない。今から飯だろ?」
「そ、そうっすそっか。ぁ、じゃあ、お昼寝しないっすか? 膝枕してあげるっすよ」
寝かしつけられないかとは聞いたが、膝枕じゃレイは逃げられないじゃないか。
「…………なんだ、風呂に入れと言ったり寝ろと言ったり……飯の前なのに」
不審に思われたか?
「………………誘ってるのか?」
男はみんなバカでスケベ!
「ちっ、違うっすよ! お昼寝すると生産性がアップするんす、勉強捗るし絵も上達するっすよ」
「……仕方ない。少しだけだぞ、腹が減ってるんだ」
元カレはため息をついて寝転がり、レイの太腿に頭を乗せた。
「…………前に比べて肉付きが少しよくなったな」
「そうっすか? まぁ、ちゃんとご飯食べてたんで……前よりは太ったかもしれないっす」
俺も膝枕してもらって確かめよう。
「……昔のお前はもっとガリガリだったな。腹なんて両手なら包めるくらいで……こんな細い腹で俺のを受け止めてるんだと思うと、もう…………思い出したらヤりたくなってきた。レイ、下だけ脱げ。フードを被って髪を見せるな」
むくりと起き上がった元カレはレイのパーカーのフードを勝手にレイに被せながら、身勝手にそう言った。
「へっ? か、髪染めるまで俺抱かないんじゃ」
「……だから髪を見せるなと言ってるんだ。この後ろ髪もパーカーの中に入れておけ」
「ま、待って、待って欲しいっす」
レイの視線はもうほぼずっとクローゼットに向いている。
「俺今日はダメな日なんす! えっと、ほら、危険日ってヤツ……ぅうう嘘っす、冗談っすよ、えと……あの、星占いでセックス厳禁って、くーちゃん、やだ、くーちゃんっ、やめて! 今日はダメ、今日だけはダメなんす!」
「……具体的な理由がないならヤる」
「そんなめちゃくちゃな……レイプっすよこんなの!」
「…………だった何だ? お前の了承が必要なのか? お前は俺の何だ、恋人じゃないんだろ? オナホだ、お前は俺のものだ。逆らうな」
乱暴にベッドに押し倒されたレイを見て体が跳ねる。でも、ダメだ、まだ待たないと。そうだ、セックスの後ならシャワーを浴びに行くかもしれない。深刻な精神ダメージを受けることになるけれど、レイと元カレのセックスをクローゼットから眺める決断をするべきだ。
「ぃ、やっ、嫌っ! 嫌っすぅ! やだっ、離して! 触らないでぇっ! 嫌! 嫌ぁっ! やだやだやだっ! 離して! やだぁっ! 俺物なんかじゃない、俺せんぱいに好きになってもらったの、もぉ俺にはせんぱいしか触っちゃダメなのぉっ! やだ……! やだぁっ! 助けてせんぱぁいっ!」
頭を鷲掴みにされて押さえ付けられ、スキニーデニムを脱がされようとしているレイを見て、彼の悲痛な叫び声を聞いて、身体が勝手に動いてしまった。レイが襲われるのをじっと眺めて待つべきだったのに、行為の後こそがレイを取り返す好機だったのに、負けると分かっていながら、負けることなんて意識せず、ただ怒りと使命感に任せて拳を握った。
(飛び出したって無駄、飛び出したって無駄、飛び出したって無駄……焦っちゃいけませんぞわたくし、我慢するのでそ、わたくしはとても弱いのです、喧嘩なんてとても出来ません)
184センチの高身長と、そこそこの筋肉を持っているのに? 恋人一人真正面から取り返せないのか? 何のために鍛えたんだ。
(見た目を整えるために鍛えたんでそ! この筋肉は見せ筋、実用性は皆無なのでそ! そもそも高身長っつったって、元カレさん二メートル超えじゃないですか!)
顔も肉体も恵まれているのに、心だけが貧弱なクズ。
(分かってますぞ、超絶美形に見合った心を持たなければならないことくらい! でも今すぐ変わることなんて出来ません、ですから弱いままでも出来る「隙をつく」という方法でレイどのを助けようとしてるんじゃないですか!)
顔で釣るだけ釣っておいて、守ることも出来ないなんて、俺の彼氏達は可哀想だな。
(……っ、腕っ節で守るなんざ紀元前の発想でそ)
今まさに恐怖に晒されているのに見て見ぬフリをして、ヤツが目を離した隙に盗むように取り返すなんて、そんなことでレイは喜ぶか? 惚れ直すか? 男なら真正面から戦いを挑めよ。
(レイどのなら喜んでくれまそ! 負けると分かっている戦いに挑むのはバカのすること、そんなんじゃレイどのは救えません!)
コソコソ盗んでどうするんだ? また隠れさせるのか? レイは一体いつまでアイツの影に脅えて過ごさなければならないんだ?
(ですから、二メートル超え筋骨隆々の不良なんてどうしようもないんでそ! 軍隊が必要なレベルでそ! あんなもんと関係持っちゃったレイどのが悪いのでそぉ!)
とうとうレイに責任転嫁か、救えないな。
自問自答が止まらない。高圧的な自虐に苦しめられていると、クローゼットの外の景色に動きがあった。どうやら昼食が届いたようで、元カレが受け取りに向かった。
「はぁ…………せんぱい、せんぱいぃ……ぅう……ぐすっ……せんぱい、ごめんなさいせんぱい……せんぱい……」
蹲ってすすり泣き始めたレイに何かをしてやりたくて、俺はスマホを持った。レイにメッセージを送った、元カレがレイのスマホを持っている可能性も考慮して「もう一度話したい」という当たり障りのない内容だ。
「ひっく……ひっく……せんぱい?」
スマホはレイが持っていた。彼は元カレがまだ戻ってきていないことを注意深く確認してから俺のメッセージを見て更に大粒の涙を流した。
『レイ、落ち着いて読んで欲しい。声や態度には出さないで』
『今朝俺はレイの家を訪ねたんだ。レイの態度が変だなって思って、直接話したくて。そしたら鍵がかかってなかった、つい入っちゃったんだ』
『今も居る』
『クローゼットの中だよ』
俺はキモオタなので文章を打つ速度には自信がある。
『事情は全部分かった。一緒に逃げよう。アイツを一人で出かけさせたり、寝かしつけたり、風呂に入らせたりは出来ないか?』
『彼氏達にも協力してもらって、母さんにも話して、どうにかしてもらう。自分が犠牲になろうなんて考えないでくれ』
寝室のドアノブが傾いた。ここまでだ。レイはスマホをポケットに戻した、俺が送信した文章を全て読むのは間に合っただろうか。
「……お前は相変わらずのり弁が好きだな」
「は、はい……くーちゃんは、からあげ好き?」
「…………この弁当屋の中なら一番腹に溜まる」
「そう、かな……? 男子高校生っぽくていい、ね」
声が裏返りまくっている。先程のメッセージで混乱させてしまっただろうか、でも突然俺がクローゼットから出てきたら驚くだろうから先に伝えておいたのはいい選択だったと思う。冷静になれ、俺自身に煽られるな俺、俺は弱い、元カレには勝てない、冷静になるんだ。
「……今は、夏休みだ。学校には行っていない」
「う、うん? でも……高校生は高校生、っすよ」
特徴的な語尾が戻ってきた、取り繕う余裕が出来たという解釈でいいのだろうか。
「…………暇がある、ということだ。遊園地にでも行くか?」
「へ……?」
「……行きたがってたろ」
「で、でも、くーちゃん面倒臭いって」
「………………逃げられたり浮気されたりするのに比べたらずっとマシだ」
「そ、う……?」
レイは先程からチラチラとこちらを──クローゼットの方を見ている。そんなに視線を送っては元カレに気付かれる、いや、気付かないか、こんなところに人が居るなんて想像もしないし、レイが今挙動不審でも不思議なことは何もない。
「ぁ……あのさっ、くーちゃん、汗かいてないっすか? お風呂入らないっすか?」
「……かいてない。今から飯だろ?」
「そ、そうっすそっか。ぁ、じゃあ、お昼寝しないっすか? 膝枕してあげるっすよ」
寝かしつけられないかとは聞いたが、膝枕じゃレイは逃げられないじゃないか。
「…………なんだ、風呂に入れと言ったり寝ろと言ったり……飯の前なのに」
不審に思われたか?
「………………誘ってるのか?」
男はみんなバカでスケベ!
「ちっ、違うっすよ! お昼寝すると生産性がアップするんす、勉強捗るし絵も上達するっすよ」
「……仕方ない。少しだけだぞ、腹が減ってるんだ」
元カレはため息をついて寝転がり、レイの太腿に頭を乗せた。
「…………前に比べて肉付きが少しよくなったな」
「そうっすか? まぁ、ちゃんとご飯食べてたんで……前よりは太ったかもしれないっす」
俺も膝枕してもらって確かめよう。
「……昔のお前はもっとガリガリだったな。腹なんて両手なら包めるくらいで……こんな細い腹で俺のを受け止めてるんだと思うと、もう…………思い出したらヤりたくなってきた。レイ、下だけ脱げ。フードを被って髪を見せるな」
むくりと起き上がった元カレはレイのパーカーのフードを勝手にレイに被せながら、身勝手にそう言った。
「へっ? か、髪染めるまで俺抱かないんじゃ」
「……だから髪を見せるなと言ってるんだ。この後ろ髪もパーカーの中に入れておけ」
「ま、待って、待って欲しいっす」
レイの視線はもうほぼずっとクローゼットに向いている。
「俺今日はダメな日なんす! えっと、ほら、危険日ってヤツ……ぅうう嘘っす、冗談っすよ、えと……あの、星占いでセックス厳禁って、くーちゃん、やだ、くーちゃんっ、やめて! 今日はダメ、今日だけはダメなんす!」
「……具体的な理由がないならヤる」
「そんなめちゃくちゃな……レイプっすよこんなの!」
「…………だった何だ? お前の了承が必要なのか? お前は俺の何だ、恋人じゃないんだろ? オナホだ、お前は俺のものだ。逆らうな」
乱暴にベッドに押し倒されたレイを見て体が跳ねる。でも、ダメだ、まだ待たないと。そうだ、セックスの後ならシャワーを浴びに行くかもしれない。深刻な精神ダメージを受けることになるけれど、レイと元カレのセックスをクローゼットから眺める決断をするべきだ。
「ぃ、やっ、嫌っ! 嫌っすぅ! やだっ、離して! 触らないでぇっ! 嫌! 嫌ぁっ! やだやだやだっ! 離して! やだぁっ! 俺物なんかじゃない、俺せんぱいに好きになってもらったの、もぉ俺にはせんぱいしか触っちゃダメなのぉっ! やだ……! やだぁっ! 助けてせんぱぁいっ!」
頭を鷲掴みにされて押さえ付けられ、スキニーデニムを脱がされようとしているレイを見て、彼の悲痛な叫び声を聞いて、身体が勝手に動いてしまった。レイが襲われるのをじっと眺めて待つべきだったのに、行為の後こそがレイを取り返す好機だったのに、負けると分かっていながら、負けることなんて意識せず、ただ怒りと使命感に任せて拳を握った。
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