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俺は善良な人間だ
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今日カフェでチョコレートスイーツを楽しんだ後向かったゲームセンターで過去セイカにあった出来事は、概ね俺の予測通りだった。俺の予想を超えて悪辣なこともたくさんあった、そのうちの一つが──
「まず……売春してたってのは言ったよな。同級生の何人か……お金欲しかったみたいで、おっさんとかに俺売ってて…………その、俺が……おっさんと、セックスしてるとこを、さ、撮ってさ……新規顧客獲得とか、他の学校のヤツらとの話のタネとかに、使ってたらしくて……」
──これだ。まさか写真まで撮られているとは思わなかった。いつか写真で脅されたりするかもしれないし、逆にこっちがヤツらを訴える材料になるかもしれない。覚えておくべき情報だ。
「それで、その……あのゲーセン、そいつらのたまり場でさ、そこで……いつも中学生とか高校生変な目で見てたらしい従業員のおっさんに、さ……俺の、写真? 動画だったかな……どっちでもいいや。とにかくそれ見せたらしくて」
ホムラを連れて行こうとしたヤツだろうな。
「そいつが……俺、買いたいって言ったらしくて、俺……何回もあのゲーセン行かされて、裏の……関係者以外立ち入り禁止みたいなところで…………セックス、した」
ホムラが危なかった件はセイカには伝えない方がいいだろう、無駄な罪悪感を抱かせるだけだ。
「基本五千円なのに……愛想悪いとか、締まり悪いとか、声出さないんじゃ気分乗らないとか言って、しょっちゅう値切られて、そのお金アイツらに渡したらちゃんと金取れとか怒られて殴られたり、俺が勝手に金減らしてるって疑われて裸にされたり……」
「…………うん」
「あのおっさんに会ったらなんか言われるかもって、鳴雷は俺が売春してたの知ってるけど実際昔の客と会ったらすごく嫌な気分になるんじゃないかって、せっかく遊んでるのに鳴雷やな気分になるのやだって、だから、だから俺あの時、ゲーセン出てったんだ……」
「……そっか。ありがとう、話してくれて」
公園で会ったアイツらがセイカに売春を強要していたのだろう。俺も一発くらい殴っておけばよかった、なんて今更強気になる。萎縮して動けなくなっていたくせに。
「鳴雷……ごめんなさい鳴雷、鳴雷とこんな関係になれるなんて想像出来なくて、俺の身体なんかどうでもいいやって……痛くて気持ち悪くて怖かったけど、そのくらいされるのが俺に似合ってるんだって……雑に、売って……ごめんなさい。鳴雷、好きでいてくれたのに……売ってごめんなさいっ、俺鳴雷のものだったのに、勝手に売ってごめんなさいぃっ、鳴雷に初めて渡せなくてごめんなさいっ、ごめんなさい、ごめんなさい……ごめっ、ん…………なる、かみ?」
泣きじゃくって謝り続けるセイカを見ていられなくなって、黙らせようと抱き締めた。けれどセイカは一瞬驚いただけで泣くのも謝るのもやめなかった。
「ごめん、なさい……ごめんなさいっ、ごめんなさいぃ……」
「……セイカ、もういいよ。もういいから……」
「で、もっ……でもぉ……」
「…………謝ったってどうしようもないだろ」
「ぁ……あっ…………ぅあぁああああっ! あああぁあああーっ! ぁあっ、あぁ、ぁ……なんでっ、なんで俺あんなっ、なんでぇっ! ああぁあぁぁ……」
どうして俺は今、冷たい声で突き放すようなことを言ってしまったのだろう。セイカの売春の事実を実感したって、昔の客を見たからって、俺のセイカへの愛は冷めはしないのに。
「ぅ、うっ……ひっく……ぅうぅぅ……」
大好きだから泣いていて欲しくなかった。胸が苦しくなるから謝るのをやめて欲しかった。謝ることなんてないんだよと、セイカは悪くないんだよと、言ってやるべきだった。
「…………セイカぁ、謝ったら俺が許すと思った? 俺がセイカのこと大好きだから、泣いて謝ったら大丈夫って思ったの? 違う……よな、ごめん、セイカはそんな計算もう出来ないよな……違う、違うんだよ、俺……ちゃんと優しくしたいのに、頭の中ではシュミレート出来てるのに……」
セイカが謝っていたのは処女でいられなかったことへの謝罪だ、彼は的外れな罪悪感を抱えている。ちゃんと分かっていたのに俺はセイカの謝罪を聞いて「俺にあんな酷いことをしたくせに泣いて謝るだけで済まそうと思ってるのか?」と苛立ってしまった。イジメの件で謝っているのではないと頭では分かっていたのに、感情には追いつけなかった。
「泣かないで、セイカ……お願い。泣かないで……」
イジメへの贖罪なんて今更求めていないはずなのに、憎しみと恨みは簡単には消えてくれないらしい。
濡らしたタオルを絞って部屋に持ち帰り、セイカの目に当てた。
「…………冷たくて気持ちぃ。ありがと……」
「……セイカ」
「ん……?」
「…………本当にな、いいんだよ。俺に初めてあげらんなかったとか思わなくたって……最初の男になることに執着するタイプに見えるか?」
「……割と」
勘がいいな。セイカを買った男を全員消してしまえば繰り上がりで俺がセイカの最初の男になるのでは、なんて一瞬本気で考えてしまっていた。
「な、なにぃ? そんな目はこうだ!」
「わっ……ぁ……圧迫も気持ちぃ……」
シュカの舎弟共も四人ずつ並べたら消えたりしないかなと考えたことがあるし、レイの元カレなんてこの手で去勢してやりたい気持ちが湧いてはあの圧倒的な生物としての強さの差を見せつけられて萎んだりしている。未遂に終わったらしいハルの父親だって殴り殺したい。
俺はそういう男なんだ。
「……そろそろぬるくなってきたな。目大丈夫そうか?」
「うん……ありがとう、鳴雷…………なぁ、鳴雷」
でも、したいなぁって思うだけで、する度胸がないのは自分で分かっていて、計画を立てることすらしていないのだから、犯罪者予備軍でもなんでもないだろう?
「なんだ? セイカ」
「……大好き」
この控えめな笑顔を向けられるに相応しい善人だろ?
「まず……売春してたってのは言ったよな。同級生の何人か……お金欲しかったみたいで、おっさんとかに俺売ってて…………その、俺が……おっさんと、セックスしてるとこを、さ、撮ってさ……新規顧客獲得とか、他の学校のヤツらとの話のタネとかに、使ってたらしくて……」
──これだ。まさか写真まで撮られているとは思わなかった。いつか写真で脅されたりするかもしれないし、逆にこっちがヤツらを訴える材料になるかもしれない。覚えておくべき情報だ。
「それで、その……あのゲーセン、そいつらのたまり場でさ、そこで……いつも中学生とか高校生変な目で見てたらしい従業員のおっさんに、さ……俺の、写真? 動画だったかな……どっちでもいいや。とにかくそれ見せたらしくて」
ホムラを連れて行こうとしたヤツだろうな。
「そいつが……俺、買いたいって言ったらしくて、俺……何回もあのゲーセン行かされて、裏の……関係者以外立ち入り禁止みたいなところで…………セックス、した」
ホムラが危なかった件はセイカには伝えない方がいいだろう、無駄な罪悪感を抱かせるだけだ。
「基本五千円なのに……愛想悪いとか、締まり悪いとか、声出さないんじゃ気分乗らないとか言って、しょっちゅう値切られて、そのお金アイツらに渡したらちゃんと金取れとか怒られて殴られたり、俺が勝手に金減らしてるって疑われて裸にされたり……」
「…………うん」
「あのおっさんに会ったらなんか言われるかもって、鳴雷は俺が売春してたの知ってるけど実際昔の客と会ったらすごく嫌な気分になるんじゃないかって、せっかく遊んでるのに鳴雷やな気分になるのやだって、だから、だから俺あの時、ゲーセン出てったんだ……」
「……そっか。ありがとう、話してくれて」
公園で会ったアイツらがセイカに売春を強要していたのだろう。俺も一発くらい殴っておけばよかった、なんて今更強気になる。萎縮して動けなくなっていたくせに。
「鳴雷……ごめんなさい鳴雷、鳴雷とこんな関係になれるなんて想像出来なくて、俺の身体なんかどうでもいいやって……痛くて気持ち悪くて怖かったけど、そのくらいされるのが俺に似合ってるんだって……雑に、売って……ごめんなさい。鳴雷、好きでいてくれたのに……売ってごめんなさいっ、俺鳴雷のものだったのに、勝手に売ってごめんなさいぃっ、鳴雷に初めて渡せなくてごめんなさいっ、ごめんなさい、ごめんなさい……ごめっ、ん…………なる、かみ?」
泣きじゃくって謝り続けるセイカを見ていられなくなって、黙らせようと抱き締めた。けれどセイカは一瞬驚いただけで泣くのも謝るのもやめなかった。
「ごめん、なさい……ごめんなさいっ、ごめんなさいぃ……」
「……セイカ、もういいよ。もういいから……」
「で、もっ……でもぉ……」
「…………謝ったってどうしようもないだろ」
「ぁ……あっ…………ぅあぁああああっ! あああぁあああーっ! ぁあっ、あぁ、ぁ……なんでっ、なんで俺あんなっ、なんでぇっ! ああぁあぁぁ……」
どうして俺は今、冷たい声で突き放すようなことを言ってしまったのだろう。セイカの売春の事実を実感したって、昔の客を見たからって、俺のセイカへの愛は冷めはしないのに。
「ぅ、うっ……ひっく……ぅうぅぅ……」
大好きだから泣いていて欲しくなかった。胸が苦しくなるから謝るのをやめて欲しかった。謝ることなんてないんだよと、セイカは悪くないんだよと、言ってやるべきだった。
「…………セイカぁ、謝ったら俺が許すと思った? 俺がセイカのこと大好きだから、泣いて謝ったら大丈夫って思ったの? 違う……よな、ごめん、セイカはそんな計算もう出来ないよな……違う、違うんだよ、俺……ちゃんと優しくしたいのに、頭の中ではシュミレート出来てるのに……」
セイカが謝っていたのは処女でいられなかったことへの謝罪だ、彼は的外れな罪悪感を抱えている。ちゃんと分かっていたのに俺はセイカの謝罪を聞いて「俺にあんな酷いことをしたくせに泣いて謝るだけで済まそうと思ってるのか?」と苛立ってしまった。イジメの件で謝っているのではないと頭では分かっていたのに、感情には追いつけなかった。
「泣かないで、セイカ……お願い。泣かないで……」
イジメへの贖罪なんて今更求めていないはずなのに、憎しみと恨みは簡単には消えてくれないらしい。
濡らしたタオルを絞って部屋に持ち帰り、セイカの目に当てた。
「…………冷たくて気持ちぃ。ありがと……」
「……セイカ」
「ん……?」
「…………本当にな、いいんだよ。俺に初めてあげらんなかったとか思わなくたって……最初の男になることに執着するタイプに見えるか?」
「……割と」
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「……そろそろぬるくなってきたな。目大丈夫そうか?」
「うん……ありがとう、鳴雷…………なぁ、鳴雷」
でも、したいなぁって思うだけで、する度胸がないのは自分で分かっていて、計画を立てることすらしていないのだから、犯罪者予備軍でもなんでもないだろう?
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