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また会う日まで
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プールで遊んで、ダイニングで映画を見て……遊んでいるうちに日は落ちて、母達が帰ってきた。
「…………ほむら」
母と共に遠慮しながらダイニングに入ってきた冴えない男には見覚えがあった。
「父様、お久しぶりです」
ホムラの父親だ、セイカの父親ではないらしい。異父兄弟なのは俺とアキとお揃いだな。
「飯に呼ぶ気はなかったんだけどね、家の前でウロウロしてたから上げざるをえなかったのよ」
「すみません……ありがとうございます」
最後に楽しい夕飯になると思っていたが、その予想は外れた。ただ一人異物が混じるだけで雰囲気はまるで葬式のようになった。
(リュウどの~! リュウどの~! 喋って~……あっいいお顔、美味しいんですなぁ。かわゆい……ってそうじゃなくてこの雰囲気何とかしてくだされ)
頼みの綱のリュウでさえ静かに食事を進めている。俺も美味しい料理に集中しよう──
──した。一言も話さず食事を終えた。
「ごちそうさまでした……ありがとうございます、鳴雷さん。ほむら、行こう」
「荷物をまとめてきます」
ホムラは俺の部屋に置いている勉強道具を初めとした荷物を取りに行き、父親は気まずそうな顔で俺達を見回した。
「……ほむらが、世話になりました」
「アンタの十数年分よりよっぽどね」
「…………」
「もう一人の息子に何か言うことないの?」
「……セイカですか? あれは、連れ子で……私の子では……私の息子はほむらだけです」
母は大きく舌打ちをし「あっそ」と吐き捨てるとコップに注いだ焼酎を飲み干した。セイカはゾッとするほどの無表情で感情を読ませてくれない。
「父様、お待たせしました」
「ぁ……あぁ、行こう。ほむら……」
「……少しお時間をいただけますか?」
父親が頷くのを待ってほむらは俺達に丁寧な礼と別れの挨拶を述べた。どこか機械的なそれには別れとは別種の寂しさを覚える。
「…………兄様」
ホムラはセイカの手を両手で握り、潤んだ瞳で彼を見つめた。
「離れ離れになってしまいますね、兄弟らしさはあまりなかったように思えますが……僕は兄様を慕っております。兄様、僕の兄はあなただけです。また会う日までどうかほむらを忘れないでくださいね」
「……最近どうにも物覚えが悪い、頭が悪くなってる。覚えられてたいなら忘れないうちに顔見せろ」
「兄様……はい! 必ず! では、さようなら」
「…………あぁ、さよなら」
玄関までホムラを見送り、少し寂しくなった家を見回しながらダイニングに戻った。
「寂しくなるわね。あの子何食べさせても美味しい美味しい言うから気に入ってたのに……あっちも欲しかったなぁ。水月、なんであっちも食べちゃわなかったのよ」
義母が寝室に引っ込んでおり、ホムラは先程実父に連れて行かれた、もう母が下ネタを我慢する必要はない。
「好みじゃなかったんだってば。っていうか俺が何してたってほむらくんにはちゃんとお父さん居るんだからこうなるのは決まってたことだよ」
「私マジレスと正論は嫌いよ」
「もぉー……」
「しかし、父親違うのに兄弟そっくりよねアンタら。ふしぎー、お父さんのDNAどこにやったの?」
「へ……? ぉ、俺、ほむらと似てます? 自分では、あんまり……」
同一人物だと間違える程ではないが、一目で血縁者だと分かる程度には似ている。近くに居過ぎる家族には似ているかどうかなんて分からないものなのだろう。
「水月とアキくんもそっくりですやん。男の子は女親似る言いますし、父親ちゃうかっても関係ないんとちゃいます?」
「そうねぇ、水月がもうちょい父親に似てれば父親が誰だか分かったかもしれないけど……分かったところでメリットないし、私そっくりの超絶美形でよかったわよね水月」
「この顔だけで勝ちまくりモテまくり」
「当然よ」
「すごい親子やのぉ……せやお母さん、今日手土産に持ってきたアイスキャンデー冷凍庫に入れときましたんで、気ぃ向いたら食べたってください」
「アイス? やった、ありがと。お風呂上がりに食べるわ」
と話した直後、ちょうどよく風呂が沸いたと音声メッセージが流れた。
「てんしょー、おんせんするです!」
「リュウと一緒に入りたいのか? リュウはお兄ちゃんのだから手ぇ出し過ぎちゃダメだぞ」
アキはリュウの腕に抱きついてぐいぐい引っ張り、浴室へ連れて行こうとしている。俺は一人自室に戻り、リュウに着て欲しいと思っていた部屋着を探した。
「これこれ~。絶対似合うと思うんですよな、リュウどのにはちょっと大きめで萌え袖が期待出来ますぞぐへへ」
「鳴雷、今いいか?」
「デュヌルフフフ……っおぉ! な、なんだ? セイカ」
「……何今の、笑い声? 怖……ゃ、あのさ、今日行ったゲーセンの話……しときたくて」
「…………リュウに着替え渡してからでいいか? 部屋で待っててくれ」
俺はセイカを置いてリュウの元に向かい、着替えを渡した。先に着替えの準備が必要だと思い出したアキは自室に走り、リュウは呆れ顔で彼の帰りを待つ。
「じゃ、俺部屋に居るから出たら声掛けてくれ」
「ほーい」
自室に戻り、ベッドに座っているセイカの隣に腰を下ろす。ベッドの脇には義足が転がっていた。
「…………この話したら、鳴雷嫌な思いするかも……黙ってるべきかもって思うけど、隠し事してるの嫌で……自分勝手でごめん」
「……いいよ。話したくないことなら無理に話さなくていいけど、話したいなら聞きたい。好きな人のことならなんだって知りたいよ」
「好きな人……」
「セイカのことだよ」
「…………ごめんなさい、鳴雷……せっかく好きになってくれたのに、俺……汚れて、て」
ホムラを店の裏に連れて行こうとした従業員の言動から、あのゲームセンターでセイカが何をしていたのかは容易に想像出来た。そのことを話そうとしてくれているのだとも予想出来ている。彼にとっても俺にとっても苦しい話になりそうだ。
「…………ほむら」
母と共に遠慮しながらダイニングに入ってきた冴えない男には見覚えがあった。
「父様、お久しぶりです」
ホムラの父親だ、セイカの父親ではないらしい。異父兄弟なのは俺とアキとお揃いだな。
「飯に呼ぶ気はなかったんだけどね、家の前でウロウロしてたから上げざるをえなかったのよ」
「すみません……ありがとうございます」
最後に楽しい夕飯になると思っていたが、その予想は外れた。ただ一人異物が混じるだけで雰囲気はまるで葬式のようになった。
(リュウどの~! リュウどの~! 喋って~……あっいいお顔、美味しいんですなぁ。かわゆい……ってそうじゃなくてこの雰囲気何とかしてくだされ)
頼みの綱のリュウでさえ静かに食事を進めている。俺も美味しい料理に集中しよう──
──した。一言も話さず食事を終えた。
「ごちそうさまでした……ありがとうございます、鳴雷さん。ほむら、行こう」
「荷物をまとめてきます」
ホムラは俺の部屋に置いている勉強道具を初めとした荷物を取りに行き、父親は気まずそうな顔で俺達を見回した。
「……ほむらが、世話になりました」
「アンタの十数年分よりよっぽどね」
「…………」
「もう一人の息子に何か言うことないの?」
「……セイカですか? あれは、連れ子で……私の子では……私の息子はほむらだけです」
母は大きく舌打ちをし「あっそ」と吐き捨てるとコップに注いだ焼酎を飲み干した。セイカはゾッとするほどの無表情で感情を読ませてくれない。
「父様、お待たせしました」
「ぁ……あぁ、行こう。ほむら……」
「……少しお時間をいただけますか?」
父親が頷くのを待ってほむらは俺達に丁寧な礼と別れの挨拶を述べた。どこか機械的なそれには別れとは別種の寂しさを覚える。
「…………兄様」
ホムラはセイカの手を両手で握り、潤んだ瞳で彼を見つめた。
「離れ離れになってしまいますね、兄弟らしさはあまりなかったように思えますが……僕は兄様を慕っております。兄様、僕の兄はあなただけです。また会う日までどうかほむらを忘れないでくださいね」
「……最近どうにも物覚えが悪い、頭が悪くなってる。覚えられてたいなら忘れないうちに顔見せろ」
「兄様……はい! 必ず! では、さようなら」
「…………あぁ、さよなら」
玄関までホムラを見送り、少し寂しくなった家を見回しながらダイニングに戻った。
「寂しくなるわね。あの子何食べさせても美味しい美味しい言うから気に入ってたのに……あっちも欲しかったなぁ。水月、なんであっちも食べちゃわなかったのよ」
義母が寝室に引っ込んでおり、ホムラは先程実父に連れて行かれた、もう母が下ネタを我慢する必要はない。
「好みじゃなかったんだってば。っていうか俺が何してたってほむらくんにはちゃんとお父さん居るんだからこうなるのは決まってたことだよ」
「私マジレスと正論は嫌いよ」
「もぉー……」
「しかし、父親違うのに兄弟そっくりよねアンタら。ふしぎー、お父さんのDNAどこにやったの?」
「へ……? ぉ、俺、ほむらと似てます? 自分では、あんまり……」
同一人物だと間違える程ではないが、一目で血縁者だと分かる程度には似ている。近くに居過ぎる家族には似ているかどうかなんて分からないものなのだろう。
「水月とアキくんもそっくりですやん。男の子は女親似る言いますし、父親ちゃうかっても関係ないんとちゃいます?」
「そうねぇ、水月がもうちょい父親に似てれば父親が誰だか分かったかもしれないけど……分かったところでメリットないし、私そっくりの超絶美形でよかったわよね水月」
「この顔だけで勝ちまくりモテまくり」
「当然よ」
「すごい親子やのぉ……せやお母さん、今日手土産に持ってきたアイスキャンデー冷凍庫に入れときましたんで、気ぃ向いたら食べたってください」
「アイス? やった、ありがと。お風呂上がりに食べるわ」
と話した直後、ちょうどよく風呂が沸いたと音声メッセージが流れた。
「てんしょー、おんせんするです!」
「リュウと一緒に入りたいのか? リュウはお兄ちゃんのだから手ぇ出し過ぎちゃダメだぞ」
アキはリュウの腕に抱きついてぐいぐい引っ張り、浴室へ連れて行こうとしている。俺は一人自室に戻り、リュウに着て欲しいと思っていた部屋着を探した。
「これこれ~。絶対似合うと思うんですよな、リュウどのにはちょっと大きめで萌え袖が期待出来ますぞぐへへ」
「鳴雷、今いいか?」
「デュヌルフフフ……っおぉ! な、なんだ? セイカ」
「……何今の、笑い声? 怖……ゃ、あのさ、今日行ったゲーセンの話……しときたくて」
「…………リュウに着替え渡してからでいいか? 部屋で待っててくれ」
俺はセイカを置いてリュウの元に向かい、着替えを渡した。先に着替えの準備が必要だと思い出したアキは自室に走り、リュウは呆れ顔で彼の帰りを待つ。
「じゃ、俺部屋に居るから出たら声掛けてくれ」
「ほーい」
自室に戻り、ベッドに座っているセイカの隣に腰を下ろす。ベッドの脇には義足が転がっていた。
「…………この話したら、鳴雷嫌な思いするかも……黙ってるべきかもって思うけど、隠し事してるの嫌で……自分勝手でごめん」
「……いいよ。話したくないことなら無理に話さなくていいけど、話したいなら聞きたい。好きな人のことならなんだって知りたいよ」
「好きな人……」
「セイカのことだよ」
「…………ごめんなさい、鳴雷……せっかく好きになってくれたのに、俺……汚れて、て」
ホムラを店の裏に連れて行こうとした従業員の言動から、あのゲームセンターでセイカが何をしていたのかは容易に想像出来た。そのことを話そうとしてくれているのだとも予想出来ている。彼にとっても俺にとっても苦しい話になりそうだ。
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