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カフェで食事とかデートっぽい

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シロップをかけたデニッシュパンをフォークで切り取り、スプーンでソフトクリームを盛り付け、口に運ぶ。熱々のデニッシュと冷たいソフトクリームが口の中で混じり合い、シロップが甘さを引き上げる。

「……どう?」

「甘くて美味いよ、コーヒーによく合う。セイカは? 味噌カツどうだ?」

「こっちも甘め。美味しい。サクサクしてる……味噌とパン意外と合う」

「へぇー……」

「美味しいんだけど、一切れでいいかも」

皿の上には三つに切られたサンドイッチが乗っている。

「セイカは少食過ぎるよ」

ハルのように美容目的ならば健康を害さない程度にと注意するに収めるし、単に特徴として少食ならば可愛いと思う。けれど、セイカの少食は彼の意思でも個性でもない。

「ちゃんと食べないとな」

親のせいだ。ろくに食事を与えなかったから胃が縮んでいるんだ。俺は結局セイカの母親に一度も会っていないけれど、よかったと思う、会っていたら絶対殴っていた。

「鳴雷家の基準が多めなんだよ、いつも腹パンパンにされる。ありがたいことなんだけどさ……」

「俺を太らせた前科はあるけど、母さん栄養士だかフードコーディネーターだかの資格持ってるし、信頼していいと思うよ」

母はセイカの分は俺やアキよりも少し減らしているらしい。それは彼の運動量が少ないからでも、彼を憎んでいるからでもない。虐待で縮んだ胃が適量の食事を受け付けず、嘔吐してしまうからだ。
セイカは出されたものを残しては失礼だと全部食べようとするし、頑張って完食しても吐いてしまっては「せっかく作ってくれたのに」と罪悪感と自己嫌悪に襲われて泣いてしまう。
だから、セイカの食事量は今は少なめだ。徐々に増やしていくと前に母が話していた。

「ご飯食べるの嫌いじゃないよな?」

「うん……前まであんまり味とか感じなかったんだけど、なんか、最近ちゃんと分かって……ちょっと楽しい」

「……味感じなかった?」

そういえば、見舞いの際にフルーツゼリーを食べさせても反応が鈍かったことがあったな。紅葉家で出された蜂の巣を食べた時は涎を溢れさせていた。あの差は味覚が育っていっていた証だったのか。

「うん、俺の素人判断なんだけど、亜鉛不足……もしくはストレスが原因だったのかなって。病院食で亜鉛ちゃんと入って、鳴雷に会えるの嬉しかったから、治ったのかな」

「……そうだったんだ。知らなかった……美味いものたくさん食べさせてやるから、好物見つけろよ」

「うん……でも、こうやって食べてるとさ、なんか罪悪感あるんだ」

カロリーが高いものを食べると罪悪感が……なんて話をたまに聞く、ギルティフードなんて言葉もあるそうだ。しかしセイカの言う罪悪感はそれとは違うのだろう。

「なんで?」

「……言ったら、鳴雷多分怒る」

「怒らないよ、約束する。言って」

「………………俺みたいな、生きてる価値のない人間が……何も生産しないくせに、消費だけして……資源の無駄遣いして……生きててごめんなさいって、生きてるだけで俺世界中に迷惑なんだって……美味しいのいっぱい食べると、死にたくなる……」

言い終わるとセイカは味噌カツサンドにはむっと噛み付いたが、泣いてしまって脱力したのか噛み切れずにずっとはむはむ義務的に噛んでいて、とても可愛らしかった。

「あー……セイカ? 昔の俺の体型を思い出してみろよ、アレ以上の迷惑はないぞ? 何人分も飯食って、すぐ息上がって汗だくになるから二酸化炭素もバンバン出す。電車とかでも幅を取る」

「……ふふ」

サンドイッチを咥えたまま笑ってくれた。ようやく噛み切ってサンドイッチを皿に置き、もぐもぐと口を動かし始めたセイカの涙を親指で拭ってやった。

「鳴雷……可愛かったよな、愛想良くてさ。俺、俺な、お前が痩せたら美形になるって気付いてた。痩せたら告白するって言ってきたよな、痩せないで欲しいなって思ってた……痩せたらモテるって分かってたから。鳴雷には俺だけがいいって、あの時は思ってたから……」

「……この超絶美形はお嫌いで?」

「嫌いじゃないけど、別にどうでもいいかな」

「自信あるのになぁー……ネザメさんなんか俺の顔が良過ぎるからろくにスキンシップ取れないんだぞ?」

「ミーハー代表だな。鳴雷のいいとこは顔なんかじゃねぇよ」

むしろ顔以外にいいところなんてないと思っているので、セイカの考えは分かりかねる。まぁ、人間誰しも自分では分からない魅力があるものだ。セイカも可愛いとか優しいとか褒めてもあんまり信用してくれないし。

「あ、一切れずつ交換しようぜ。言うの忘れてた」

「いいけど、お前そんな甘いの食った後に味噌カツサンド食うのか?」

「そんなの気にしてたら巨デブにならないよ」

「……俺はデブでもいいって言ったけどさぁ、セックスで圧殺とか三面記事になるのが嫌ならあんまり太るなよ?」

「そ、そういうこと外であんまり言うなよ」

「聞こえてねぇって、俺声小さいし」

確かに中学時代の巨体ならセイカを圧死させることも可能かもしれない。その場合って殺人? 過失致死? 強姦致死? いや和姦だけどさ……

「ん……? 鳴雷、スマホ鳴ってねぇ?」

「え? あ、ホントだ。電話……ちょっと出ていい?」

「うん」

食事中、デート中、どちらも電話が推奨されない。マナー違反と分かりつつ、罪悪感を抱きつつスマホを耳に当てた。

『あ、みっつん? 今何してる?』

「昼飯……」

『お昼? そっかごめんね。あのさ、みっつん今日は予定なかったよね』

今日のセイカとのデートは急に決まったことだから、スケジュール共有アプリに書き込んでいなかった。お誘いの電話だろうか。

『大丈夫? 家に居るならさ、せーかと一緒だよね』

「えっ……と、どういう意味の大丈夫、かな」

『……みっつんさぁ、せーかと居ると疲れるって言ってたじゃん。お見舞い行きたくないって泣いたこともあったじゃん。昔イジメっ子で今メンヘラとかさぁ……キッツいじゃん?』

「…………そんな言い方やめてくれよ」

『ごめん、でも俺はさっ、みっつんにすり減って欲しくないの。週二のお見舞いであんだけ疲れた顔してたのに、一緒に住むとかさぁっ……すっごい心配なの。家に二人になっちゃう日とかも、疲れたらトイレ行くとか言って俺に電話してくれていいからねっ? いつでも話すから! もちろん他の彼氏でもいいけどさぁ~……俺ほら、みっつん甘やかしたり癒したりするの担当じゃん?』

「……そうだな。うん、今度頼むよ。今はご飯食べてるから、またな」

『あっ、ごめんごめん。またね~』

電話を切り、スマホを置く。両手で持ちたかったのか右手も曲げてサンドイッチに近付けているセイカをじっと見つめる。

(キッツいメンヘラ、か)

俺の視線に気付いたセイカはサンドイッチを頬張ったまま微笑む。

「可愛い」

頬をほのかに赤く染め、よりジトっとした目で俺を睨む。

「……可愛いよ、セイカ。大好き」

主張の弱い喉仏を動かし、サンドイッチを置いて水を飲み、潤んだ目で俺を見つめたかと思えば、俯く。

「おっ、俺も……鳴雷のこと、大好き……」

あぁ、可愛いなぁ。それ以外の感想なんて何も無いや。
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