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決断するのは億劫だ

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セイカの見舞いに行っていた時期の俺が疲労を溜めていたのは理解している。ハルがセイカを嫌ってではなく、俺を大切に想い心配しているから電話をかけてきたことも理解しているし、そんなハルを愛おしく思う。

「…………急に何言うんだよぉ」

「あははっ、ごめんごめん、可愛かったからさぁ。大好きって返してくれて嬉しかったよ」

「大好きだもん……言うよ、そりゃ」

セイカと過ごすと精神的な疲労が溜まるのは確かだ。ハルの思いやりも伝わっている。けれど俺には、目の前の可愛い彼氏の幸せのために全力を尽くす以外の選択肢は見えない。



カフェを出て服屋に向かいながら、車椅子に座るセイカの後頭部に向かって話す。

「まさかお持ち帰りOKなタイプのカフェだとはなぁ」

「パック置いてる店なんてあるんだな」

「アキにお土産が出来たな、出掛けは拗ねてたけど食べ物大好きだからコロッと機嫌直すよ」

「だといいな」

デニッシュにソフトクリームを乗せたものは、ソフトクリームが溶けてしまいそうだったので二人で協力して食べた。パックの中に入っているのは味噌カツサンド一切れだけだが、夕飯前の間食には多過ぎるくらいだろう。

「……なぁ、鳴雷」

「んー? 服屋さんもう少しだぞ」

「俺……昔のこと、お前の彼氏に話したじゃん。お前虐めてたって……アレで俺かなり嫌われただろ?」

「嫌われたって言うか……ゃ、でも、リュウとかはそんな感じじゃなかったし……大丈夫だよ、仲良くなれる……」

みんな態度を変えないとか過去ではなく今のセイカと交流して判断するとか言ってくれたけれど、セイカへの好感度が著しく下がったのは確かだ。

「……そいつらがどうとかって話したいんじゃなくてさ」

「えっ、ぁ、ごめん早とちりして」

「秋風……秋風には、虐めてたとか、伝わってないじゃん?」

「あー、あの時寝てたもんな」

忘れもしない七夕の次の日の朝、セイカが俺へのイジメの過去をカミングアウトしたあの時、アキは気持ちよさそうに惰眠を貪っていた。

「……話そうかな。隠し事してるの嫌になってきたんだ……お前のママ上とか、他の彼氏から伝わるよりは……俺から言った方がマシかもだし。それで、ここからが本題なんだけど──」

ちょうどよくと言うべきか、本題に入るタイミングで目的の服屋にも入った。俺はセイカの話を聞きながら視線は周囲の服に向け、セイカに似合うかを判断し始めた。

「──秋風は、さ、今すごく俺に懐いてくれてるじゃん。ロシア語話せるからってのが大きいんだろうけど…………俺なんかが素で好かれる訳ないし。話したらっ、どうなるんだろ。鳴雷を昔虐めてたって白状したら、他のヤツらみたいに俺を見る目変わるのかなっ、俺にベタベタ引っ付いてきてくれなくなるのかなぁっ……」

ハルはイジメの件を知ったらセイカを嫌悪し、それが分かりやすく態度に出ると前から分かっていた。シュカが対応を変えないよう心掛けるだろうということも、カンナが問題に関わりたくなさそうすることも、分かっていた。リュウがあそこまで冷静に対応してくれると言うのは予想外だった。歳上組は大人な振る舞いを見せてくれることも、予想の内だった。
しかし、アキは全く予測出来ない。弟なのに。

「どう……だろう。アキは正直……分からない。意外とドライなとこあったりもするし、そんなに変わらないかも……だぞ?」

「アイツ鳴雷が学校行ってたりデート行ってたりする間、しょっちゅう「まだ帰ってこないのかな」って言ってるんだぞ。鳴雷のこと大好きなんだよアイツ……なんか、俺ってもう薄汚れた大人って感じなのかなって思うくらいに、すっごい純粋に鳴雷が大好きで……寂しがりで…………我慢してるんだよ、ずっと一緒に居れないの、自分の言葉で話せないの、我慢してる……だから多分、ほぼずっと一緒に居れるようになって、普通に話せる俺に懐いてる」

アキが寂しがりなのも、真っ直ぐで純粋な子なのも、知っていた。なのに「意外とドライだから大丈夫」なんて、考えなし過ぎたかな……

「鳴雷のこと大好きな秋風が、俺が鳴雷に酷いことしたって知ったら俺のこと嫌いになるに決まってるっ……! それだけならまだしも、俺に懐いちゃった後でそんな話したら……多分、めちゃくちゃショック受けるよな。やだな、嫌われるだけなら俺しか損しないけど、秋風が傷付くの……やだなぁ。話してスッキリしたいなんて、俺の勝手だし、黙ってよっかなぁ……でも、誰かが話しちゃったら、余計……」

セイカはぶつぶつと呟きながら車椅子の上に蹲ってしまった。

「セイカ……顔上げて。えっと、アキの反応は正直分かんない。話した方がいいのか、話さない方がいいのかも……よく分からない。セイカがスッキリするのは大事だと思うんだよ、俺を虐めたこと夢に見て魘されたりしなくなるかもしれないし。でも、二人きりになること多いのに今関係悪化するのはちょっと、なぁ」

「うん……どうしよう」

「…………と、とりあえず、この服試着しないか?」

「……あぁ、服買いに来たんだったな。うん、着る……立たせて」

セイカの脇の下に腕を通して彼を立たせ、試着室に入らせた。俺が選んだ何着かの服を着てもらい、見た目や着心地が気に入ったものを選んでもらうつもりだ。

「部屋着なら半袖でもいいかと思うんだけど、どうだ?」

「うん、丈短い方が楽だし……でも外行くならやっぱり長いのがいいな。ぁ、これ着やすい……」

試着室の前に立ち、アキに俺達の過去を話すべきかについて考えつつセイカと話す。

「切れた先っぽ見られたくないってさ、どういう感覚なんだ? 俺どこも切れてないからよく分からないんだけど、なんで見られたくないんだ?」

「んー……単に、目立つから。袖があったらヒラヒラしててもあんまり見られないじゃん……」

欠損部位を晒していれば目立つのも、目立つのが嫌だという気持ちも分かるのだが、巨大テディベアを抱えて街を練り歩いていた事実がそれらの理解の邪魔をする。

「そっか、目立つの嫌かぁ、その気持ちは分かるなぁ……で、でもさぁセイカ、それならクマさんで目立つのはどうなんだ? 抱っこして歩いてたらかなり目立つと思うんだけどなー……」

「クマは鳴雷がくれた物で、鳴雷が貸してくれる服着てるから、鳴雷が俺のこと好きで気にかけて考えてくれてる証拠だから、見せびらかすくらいの気持ちで抱っこしてるぞ」

「あ……そうなんだ、なるほど……そっか、可愛いなぁセイカは」

過去のことなんて気にせずにずっとこうやって過ごしていきたい。アキに話すか話さないかを考えるのは、酷く疲れる。
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