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買い物デートの約束
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勉強をしたいらしいホムラが俺の部屋へと戻った。俺は一人になったのをいいことにソファに寝転び、スマホを弄る元気も失くして目を閉じた。
「しんどそうね、水月」
「……今日はネザメちゃまのお家でしこたまヤりましたからな。しかもその後ワンちゃんと遊ばせていただいて……流石に疲れましたぞ」
そうだ、疲れてるんだ、だから心の疲労が溜まるのも早かったんだ。
「犬居たの?」
「はい、ボーダーコリーという犬で……ママ上知ってます?」
「初心者が手出して痛い目見る四天王の犬ね。頭良くて運動量がえげつない子でしょ? 垂れ耳で可愛い子よね」
「そんな四天王あるんですか……ママ上犬飼ったことあります? なんかちっちゃい頃に犬見た記憶あるんですが」
「私の彼女のじゃない? 確か居たわよ、犬連れてきた子」
会話なんてせずに休んでいたいと母に話しかけられてすぐの頃は思ったが、話しているうちに落ち込みがマシになってきた。
「ほぇー……ちなみにママ上犬派猫派で言ったら?」
「犬派ね。うちの社長がデカくて凶暴な雑種飼ってるんだけど、見てる分には一生懸命で可愛いわ。アンタは?」
「ワンコ系は一途で一生懸命なとこが魅力ですよな、駆け引きなしに突っ込んでくるのが萌え~でそ! しかしなかなか素直にならないニャンコ系がデレた時の達成感と萌えたるや!」
「……それ人間の話じゃない? 私もだけど」
セイカは犬系か猫系かで言ったら猫系になるのかな? 虐待や交通事故でボロボロになった野良猫と言ったところか。拾った俺にデレてくれたり、引っ掻いたりシャーッて鳴いたり? あぁ、なんだかさっきの不機嫌さも可愛く思えてきたな。
「メンタルリセットォオ! お風呂突入しちゃお」
「我が子ながら強いわ~……共倒れの心配はなさそうね」
着替えを抱えて脱衣所へ。すぐに脱いで突っ込んだりはせず、まず磨りガラスの向こうの様子を伺った。まぁ聞き耳を立てたところで聞こえてくるのはロシア語だろうから、あまり意味はないけれど。
《また、鳴雷に当たっちゃった。また酷いこと言っちゃったぁっ……分かってるのにっ、鳴雷が俺好きって、分かってるのにぃっ……手足のあるなしなんか鳴雷に関係ないって、分かってるのにぃ……》
やっぱりロシア語だ。ひっくひっくとしゃくり上げながら話している、アキに泣きついているようだ。
《ちゃんと薬飲んでるのにっ、鳴雷が他の男のとこ行ったりしてると不安になるし、イライラする……薬足りないのかな、寝る前の薬……明日の分も飲もうかな》
《薬とか関係なくスェカーチカの性格がねちゃねちゃしてるだけじゃね?》
《ひどい……》
《他の男とこ行ってたら寂しくてイライラするのは俺も一緒だぜ?》
《……じゃあ、これ普通?》
やり取りが続いている。啜り泣く声が落ち着いてきたように思える、真剣な話の最中かもしれないし突入はもう少し待とうかな。
《普通とか俺に聞くなよ、一番詳しくないジャンルだぜ》
《……そうっぽいな》
《ぽいって言われると嫌だな》
《性格ねちゃねちゃって言われた気持ちが分かったか》
落ち着いてきたようだ、そろそろ突入してもいいかな? あまり待っていたら出てきてしまうかもしれない。
《……そろそろ俺風呂出るわ》
《え~、もうちょい浸かろうぜ》
《じゃあお前はそうしてろよ》
《寂しいこと言うなよ俺も出る》
よし、突入しよう。磨りガラス越しに見たところ扉の前には居ないようだし、開け放っても大丈夫だろう。
「よし……俺も混ーぜ~てっ!」
服を脱ぎ捨てて浴室に飛び込むと、湯船に浸かっていた二人が驚いた顔で俺を見た。いい表情だ、唆る。露出魔の気持ちが分かってしまいそうだ。
《……混ぜろってさ》
《え~、俺達もう出るぜって言って》
「鳴雷……俺達もう出ようかって話してたんだけど」
「にーに、来るする、するなら、遅いするです」
二人とも微妙な反応だ。気まずくなると恥ずかしくもなり、その場に屈んでとりあえず股間を隠した。
「……出る、な?」
「あ、うん……あっ、待ってセイカっ……」
アキに支えられて湯船から出てきたセイカを呼び止める。屈んで彼を見上げているからか、既に皮膚に覆われて初めからその先なんてなかったかのように振る舞っている手足の先端がいつも以上によく見える。
「……ごめん」
この期に及んで何を言うか迷ってしまった俺に、セイカは先に謝った。
「鳴雷が……色々気遣ってくれてるのも、俺のこと好きでいてくれてるのも、分かってる……あった方がいいとか、ない方がいいとか、お前本当に考えてないんだもんな」
「あ……う、うんっ、俺は……言い方悪いけど、どっちでもいい……欠損フェチ満たせてるから今すごく満足してるけど、なくなった理由がアレだから……肯定しにくくってさ、ごめんな」
「…………俺は、なくてもいいって、言って欲しくて」
「いいよもちろん。好きだよ、その身体……もう少し肉つけて欲しいけどな」
「……頑張って太る」
「うん」
「…………寝ずに待ってるから、早く出てきて欲しい」
「出来るだけ急ぐよ」
セイカとアキが去った後、浴室に一人きりになったけれど、不思議とあまり寂しさは感じなかった。約束通り素早く頭と身体を洗い、湯船で身体を温め、風呂を出た。
寝間着を着てアキの部屋に急ぐ。目を擦りながらベッドで待っていたセイカを抱き締め、既に眠っているアキの頭をそっと撫でた。
「セイカ、明日一緒に買い物行こうか」
「……買い物?」
「うん、俺ちょっと欲しい物あってさ、買い物行こうと思ってたんだけど最近暑いから億劫でさぁ……デートってことなら行きたくなるじゃん」
「デート……俺と?」
「うん、セイカの服とかも買わなきゃな。俺の服じゃブカブカだろ?」
「…………うん」
俯いたセイカの顔を覗き込むと、嬉しそうに微笑んでいるのが分かった。
「二人?」
「二人でいいか?」
「……が、いい」
「二人で行こうか」
「…………楽しみ。鳴雷と、デート……俺ともデートしてくれるんだな」
くすくすと楽しそうに笑うセイカの手は俺の服をきゅっと掴んでいる。普段は俺がアキとこの部屋で、セイカとホムラは俺の部屋で眠っているのだが、今日はこの部屋で三人で眠ることになりそうだ。
「しんどそうね、水月」
「……今日はネザメちゃまのお家でしこたまヤりましたからな。しかもその後ワンちゃんと遊ばせていただいて……流石に疲れましたぞ」
そうだ、疲れてるんだ、だから心の疲労が溜まるのも早かったんだ。
「犬居たの?」
「はい、ボーダーコリーという犬で……ママ上知ってます?」
「初心者が手出して痛い目見る四天王の犬ね。頭良くて運動量がえげつない子でしょ? 垂れ耳で可愛い子よね」
「そんな四天王あるんですか……ママ上犬飼ったことあります? なんかちっちゃい頃に犬見た記憶あるんですが」
「私の彼女のじゃない? 確か居たわよ、犬連れてきた子」
会話なんてせずに休んでいたいと母に話しかけられてすぐの頃は思ったが、話しているうちに落ち込みがマシになってきた。
「ほぇー……ちなみにママ上犬派猫派で言ったら?」
「犬派ね。うちの社長がデカくて凶暴な雑種飼ってるんだけど、見てる分には一生懸命で可愛いわ。アンタは?」
「ワンコ系は一途で一生懸命なとこが魅力ですよな、駆け引きなしに突っ込んでくるのが萌え~でそ! しかしなかなか素直にならないニャンコ系がデレた時の達成感と萌えたるや!」
「……それ人間の話じゃない? 私もだけど」
セイカは犬系か猫系かで言ったら猫系になるのかな? 虐待や交通事故でボロボロになった野良猫と言ったところか。拾った俺にデレてくれたり、引っ掻いたりシャーッて鳴いたり? あぁ、なんだかさっきの不機嫌さも可愛く思えてきたな。
「メンタルリセットォオ! お風呂突入しちゃお」
「我が子ながら強いわ~……共倒れの心配はなさそうね」
着替えを抱えて脱衣所へ。すぐに脱いで突っ込んだりはせず、まず磨りガラスの向こうの様子を伺った。まぁ聞き耳を立てたところで聞こえてくるのはロシア語だろうから、あまり意味はないけれど。
《また、鳴雷に当たっちゃった。また酷いこと言っちゃったぁっ……分かってるのにっ、鳴雷が俺好きって、分かってるのにぃっ……手足のあるなしなんか鳴雷に関係ないって、分かってるのにぃ……》
やっぱりロシア語だ。ひっくひっくとしゃくり上げながら話している、アキに泣きついているようだ。
《ちゃんと薬飲んでるのにっ、鳴雷が他の男のとこ行ったりしてると不安になるし、イライラする……薬足りないのかな、寝る前の薬……明日の分も飲もうかな》
《薬とか関係なくスェカーチカの性格がねちゃねちゃしてるだけじゃね?》
《ひどい……》
《他の男とこ行ってたら寂しくてイライラするのは俺も一緒だぜ?》
《……じゃあ、これ普通?》
やり取りが続いている。啜り泣く声が落ち着いてきたように思える、真剣な話の最中かもしれないし突入はもう少し待とうかな。
《普通とか俺に聞くなよ、一番詳しくないジャンルだぜ》
《……そうっぽいな》
《ぽいって言われると嫌だな》
《性格ねちゃねちゃって言われた気持ちが分かったか》
落ち着いてきたようだ、そろそろ突入してもいいかな? あまり待っていたら出てきてしまうかもしれない。
《……そろそろ俺風呂出るわ》
《え~、もうちょい浸かろうぜ》
《じゃあお前はそうしてろよ》
《寂しいこと言うなよ俺も出る》
よし、突入しよう。磨りガラス越しに見たところ扉の前には居ないようだし、開け放っても大丈夫だろう。
「よし……俺も混ーぜ~てっ!」
服を脱ぎ捨てて浴室に飛び込むと、湯船に浸かっていた二人が驚いた顔で俺を見た。いい表情だ、唆る。露出魔の気持ちが分かってしまいそうだ。
《……混ぜろってさ》
《え~、俺達もう出るぜって言って》
「鳴雷……俺達もう出ようかって話してたんだけど」
「にーに、来るする、するなら、遅いするです」
二人とも微妙な反応だ。気まずくなると恥ずかしくもなり、その場に屈んでとりあえず股間を隠した。
「……出る、な?」
「あ、うん……あっ、待ってセイカっ……」
アキに支えられて湯船から出てきたセイカを呼び止める。屈んで彼を見上げているからか、既に皮膚に覆われて初めからその先なんてなかったかのように振る舞っている手足の先端がいつも以上によく見える。
「……ごめん」
この期に及んで何を言うか迷ってしまった俺に、セイカは先に謝った。
「鳴雷が……色々気遣ってくれてるのも、俺のこと好きでいてくれてるのも、分かってる……あった方がいいとか、ない方がいいとか、お前本当に考えてないんだもんな」
「あ……う、うんっ、俺は……言い方悪いけど、どっちでもいい……欠損フェチ満たせてるから今すごく満足してるけど、なくなった理由がアレだから……肯定しにくくってさ、ごめんな」
「…………俺は、なくてもいいって、言って欲しくて」
「いいよもちろん。好きだよ、その身体……もう少し肉つけて欲しいけどな」
「……頑張って太る」
「うん」
「…………寝ずに待ってるから、早く出てきて欲しい」
「出来るだけ急ぐよ」
セイカとアキが去った後、浴室に一人きりになったけれど、不思議とあまり寂しさは感じなかった。約束通り素早く頭と身体を洗い、湯船で身体を温め、風呂を出た。
寝間着を着てアキの部屋に急ぐ。目を擦りながらベッドで待っていたセイカを抱き締め、既に眠っているアキの頭をそっと撫でた。
「セイカ、明日一緒に買い物行こうか」
「……買い物?」
「うん、俺ちょっと欲しい物あってさ、買い物行こうと思ってたんだけど最近暑いから億劫でさぁ……デートってことなら行きたくなるじゃん」
「デート……俺と?」
「うん、セイカの服とかも買わなきゃな。俺の服じゃブカブカだろ?」
「…………うん」
俯いたセイカの顔を覗き込むと、嬉しそうに微笑んでいるのが分かった。
「二人?」
「二人でいいか?」
「……が、いい」
「二人で行こうか」
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