冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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短冊を書いて

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笹に短冊を五枚吊るす。セイカは最終的に「鳴雷と一緒に居られますように」と書き、ホムラは「二度と痛いことをされませんように」と書いていた。

(ほむほむの願いを叶えて差し上げる義理はありませんが、これ見るとちょっともう……どうにかしてあげたくなっちゃいますな)

自分の単純さに辟易しつつダイニングに戻ると、ちょうどインターホンがなった。

「やほやほみっつん、ケーキ買って来たよん」

「歌見の兄さんまだ来てへんやんな?」

「あぁ、集合時間遅めに伝えてあるから。あ、ケーキは冷蔵庫に入れておいてくれ」

歌見へのサプライズのためのケーキ購入はセンスのいいハルに任せた。ちなみに昼食の焼肉の食材購入は歌見とレイが担当している。

「カンナ、シャンパン運んだのか? 重かったろ。よしよし、お疲れ様」

「水月ぃ、俺しぐよりちょい多めにジュース買って運んできてんけど」

「豚の割にはよく働いたな、次は馬車でも引くか?」

「引くぅ……水月乗ってなぁ? へへ……」

腕にくっきりと残ったビニール袋の紐の跡を撫でてやりたいのに、それをやってもリュウは喜ばない。本っ当に厄介なヤツだ。

「あ、そうだ三人とも。短冊用意したから何か書いてくれよ」

「おー、そーいや今日七夕やったなぁ」

「はぁ~!? アンタ忘れてたの!? 俺の髪型見りゃ分かるっしょ!」

ハルの今日の髪型は独特で珍しいものとなっている。頭の上に髪の毛で輪っかを二つ作る、飛仙髻とかいう古代中国みを感じる髪型だ。

(あの輪っかなんでへにゃってならないんでしょう、針金でも入れてるとか? な訳ないですよな)

服もあまり見ないデザインだ。フリル満載のミニスカワンピのようなシルエットでありながら、胸元や柄などは着物のような……膝上まである長い靴下も足袋のような伸びない材質のようで、ガーターベルトらしき物で吊っているように見える。

「ん~? みっつん、目がやらしいなぁ」

「気付かれたか。いやぁ、なんかあんまり見ないカッコしてるから……可愛いな、和洋折衷って感じで」

「みっつんこういうの好き?」

ソシャゲのキャラっぽくてオタク的にはグッドだ。

「和ロリのドレスでね~、おろしたてなんだ~。えへへっ、みっつんが気に入ってくれてよかったぁ」

「さらぴん着てきたん? アホちゃう、今日焼肉やで」

「オシャレは我慢なの!」

その言葉はオシャレのために暑さ寒さを耐えるという意味だと思っていた、真新しい服が焼肉臭くなることを我慢する意味合いもあったとは知らなかったな。

「ファッションはTPOに合わせるものでしょう」

「じゃあアンタの服はTPOに合ってんの?」

「ええ、以前水月が制服のような服ばかり着てきてつまらないと言っていたのも考慮し、新しい服を着てきました」

シュカも新しい服を用意してくれたのか。申し訳ない気もするが、俺のことを想ってくれているようで嬉しいな。しかし、俺に飽きられないための服が真正面にデカデカと「風林火山」と書いている白シャツに単なるデニムとは……いや、何も言うまい。

「風林火山て書いとる」

「背中にも書いてますよ」

「なになに、疾きこと風の如し……あぁ、四文字熟語やない方。どこで売っとるんやこういう服」

「……リュウとカンナはいつも通りだな」

「おー、テストの打ち上げはコスプレパーティや言うてたやん? せやけど俺水月が注文してくれた服渡してもろてないし、こっちで着るんかな思て」

「ボンデージ着て焼肉は無理だな……あ、ハルがもうコスプレみたいな可愛い服着てきてくれたからさ、ハルが着るって言ったから注文しといたセーラー服、カンナ着るか? スク水もあるけどそれじゃご飯食べれないし、どうせならセーラー服からのスク水って流れが欲しいんだよなぁ」

「みぃ、く……が、着て……し、なら」

「俺が着て欲しいなら? あぁもう可愛いなぁカンナ。俺の部屋行こっか」

健気で可愛いカンナと共に私室に入り、昔の女子高生が着ていたと聞くセーラー服をベッドの上に広げた。シャツ白、リボンタイは赤、襟とスカートは青、基本的なセーラー服だ。

「コスプレ用のだから本物よりはペラペラなんだけど、まぁ透けたりはしないから安心してくれ。このセーラー服は関西襟、襟が直線的なのが特徴だ。ちなみに関東襟は襟が曲線的だ。札幌と名古屋にも独自のものがあるらしいが、アニメなんかで見るセーラー服は関西か関東のを元にしてることが多いよな。セーラー服にはファスナーがある物もあるらしいけど、これは普通のシャツみたいに被るタイプだ。靴下も一応セーラー服に合いそうな紺色のラインが横に二本入ったものを用意したぞ」

「……ゃ、くて……聞き、れ、ない」

早くて聞き取れない? なんてオタクに刺さるセリフを吐くんだ。相手が普段から暴言や毒を吐くハルやシュカならまだマシだったが、いつも可愛いばかりのカンナに言われると辛いものがある。

「…………恥ず、しぃ……から、着替え……とこ、見な、で」

「そんなっ! くぅ……ぅう、よし分かった。俺は外で待機しよう……」

カメラ入りのテディベアを持って部屋を出る。ダイニングの隅の棚に置き、画角を確認する。

「……ここでいいよな? レイ」

なんて話しかけても返事が来るはずは──スマホが鳴った。メッセージアプリの通知だ。チラリと画面を覗くと「いいっすよ」という文字が見えた。

(…………こわぁ)

夏に合うゾクゾクとした寒気に襲われた。

「ハルにはまた今度セーラー服着てもらうからな」

「あはっ、りょーかい。ごめんね~? 七夕だったらやっぱり七夕のカッコしたくてさ~」

「いいよいいよ。で、短冊書くか?」

「書く書く~」

ハルはペンを手に取ってすぐに願い事を書き始めた。

「出来た! どこに吊んの?」

「庭に笹用意してあるんだ」

「え? あっホントだやっば! すっご! え~わざわざ買ったの~? って造花じゃん」

「花じゃないけどな」

カミアのライブチケットが当選しますように、という願い事が書かれた短冊を持って庭へ出たハルは笹の葉をつまんで造り物だと見抜き、テンションを下げた。

「水月水月ぃ、俺も書けたから吊って。高いとこ吊ってぇな、その方が叶いそぉやし」

いつの間にかリュウも庭に出てきていた。子供っぽい動機で自分よりも背の高い俺に短冊を託した彼を可愛らしく思いつつ、願い事を読む。

「水月の椅子になりたい……?」

リュウに視線を向けると、純真そうな照れ笑いを見せてくれた。ギャップの激しいヤツだ。
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