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異父兄弟達
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母に一言断ってからホムラと共にキッチンへ。冷蔵庫を漁るも、めぼしいものは見つからない。
「テストの打ち上げ兼誕生日パーティで、昼から焼肉する予定でさぁ……みんなに買い物頼んでるから、家には何もないんだよな。母さんもうすぐ出かけて明日の朝まで帰ってこないし」
「……僕は今朝朝食を食べましたので、僕の分は必要ありません」
「大丈夫大丈夫、二人分の軽食くらい作れるって。ほむほむ包丁使える?」
「家庭科の授業で習いました」
「んー……うん、じゃあ大丈夫かな。食パンの耳切り落としてくれるか?」
八枚切りの食パンを四枚渡し、俺はハムとレタスと卵を冷蔵庫から出した。軽い塩味を付けた炒り卵を作りつつ、ホムラの様子を横目で見る。包丁の扱い方は教科書通りなので手を切る心配はなさそうだが、不慣れさが目に見えて分かる。
「耳切れたら半分に切ってくれ。三角形になるようにな」
フライパンに油を引き、切り離された食パンの耳に砂糖をまぶして揚げる。そうしつつホムラに円いハムを半分に切り、レタスをちぎり、食パンに挟むよう指示した。
「これはサンドイッチですね、見たことがあります」
「食べたことは?」
「ありません。値段と量が釣り合っていない気がして」
「まぁサイズで見るとそう思うかもだけどさ」
野菜と肉と穀物を一度に食べられる完全食なんだぞ、なんて適当なことを話しながら皿にサンドイッチと揚げた食パンの耳を乗せ、レイの部屋へと向かった。
「にーに、おかえりです」
「ただいま。アキ、ほらあーん」
「ん……? んんっ……! 甘い、です。美味しいです」
食パンの耳を一つアキの口に放り込み、机に皿を置いた。ホムラにハムサンドとタマゴサンドを一つずつ食べていいぞと伝え、セイカを抱き起こす。
「寝てるなぁ……起きて欲しいんだけど」
「だれー、です? ぼく、秋風・マキシモヴィチ・マールト、です。よろしくお願いします、です」
「そうそうほむらくん、アキは俺の異父兄弟だ」
「僕は狭雲 星炎です、よろしくお願いします」
「アキ、ほむら、せーか、弟」
単語だけの説明で理解してもらえただろうか?
「ほむーら? せーか、おととーです? おとーと、ぼく同じするです。ぼく、にーに、きょだいです」
「お兄ちゃん巨大じゃないぞー、兄弟な。ほむらくん、アキはハーフでさ、最近日本に来たばっかりでまだちょっと日本語が拙いんだ。話す時は簡単な単語使ってゆっくり話してやってくれ」
弟二人は今は放っておこう。人懐っこいアキのことだからホムラの反応が悪過ぎなければ仲良くしてくれるだろう。
「……セイカ、セイカ、起きてくれ。なぁ、セイカ」
床に座ってセイカを膝に乗せ、軽く揺する。キスをしたりくすぐったりしていると、彼は小さく呻きながら目を開けた。
「ぅ、ん……?」
「おはよう、セイカ」
頬を撫で、むにむにとつまむ。ボーッとしている様子のセイカに痺れを切らし、頬を少しだけ引っ張った。
「痛たっ……な、何」
「夢じゃないぞ、幻覚でもない。俺だ、鳴雷 水月だ」
「…………鳴雷? え……? えっ、こ、ここどこ。なんで鳴雷っ、鳴雷? え?」
「お前が寝てる間に攫ってきたんだ」
「は……?」
呆然としているセイカに気付いたホムラが傍に屈んだ。
「兄様、お目覚めになられましたか」
「ほむら!? お前っ、な……は? あぁ……ほむらが居るなら夢じゃないな、そんな夢見る訳ない」
何気に酷い発言だ。
「お腹すいてるだろ? ほら、サンドイッチあるぞ、食べるよな? セイカのためにさっき作ってきたんだ」
「……俺のために?」
ホムラに皿を取ってもらい、タマゴサンドをセイカの口元へ持っていく。セイカは素直にサンドイッチを齧り、その一口の小ささで俺をときめかせた。
「状況説明しないとだよな、セイカ。食べながらでいいから聞いてくれるか? あぁ……がっつくな、胃がびっくりしちゃうだろ」
躾を受ける前の犬のようにがっつくセイカの口とタマゴサンドの間に手を入れる。セイカがしっかりと咀嚼してから飲み込むのを確認したらその手をどかした。
「まず、セイカが退院する日……俺迎えに行ったんだけど、ほむらくんの方が早かったんだよな。ほむらくん学校休みだったのか?」
「あの日は期末テストがあり、いつもより早く下校しました」
「俺も期末テストだったんだけどなぁ……二時間だったのか?」
「はい」
ため息はつかないように気を付けながら、俺の膝の上で小さく収まっているセイカの頬を指の背で撫でる。
「で、俺セイカの家知らないからさ、迎えに行けずにいたんだ。病院でかなり粘ったんだけど個人情報がどうとかでさぁ……今通院なんだろ? 看護師さんに来る予定教えてもらってさ、待ってたんだ。でも夜中になってもセイカは来なくて……あの時はもう、セイカ死んじゃったんじゃないかって怖かったなぁ」
「申し訳ないことでございます。母様には伝えていたのですが、何故か兄様が外に出るのを許さず……」
「そこからはほむらくんのが詳しいよな?」
「はいっ、兄様はテディベアを──」
「そこは話さなくてもいいだろ。鳴雷、お母さんは将来のないゴミに飯食わせるのが嫌だった。俺は何日もほとんど食ってなかった、それだけだ」
テディベアを捨てれば食事を与えるという意味の分からない交換条件が提示されていたことは俺に伝えるつもりがないらしい、照れているのかな? 可愛い。
「ほむらがまずい水くれてたからそんなに弱ってはないけどな」
「まずい水って……」
「母様にバレないよう、母様が買い物に出かけた隙に、小麦粉や塩、砂糖など目測で減りが分かりにくい粉類を水に溶かして飲んでいただいていました。単なる水よりは栄養価が高いかと」
「ホントにまずそう……後でもっと美味いもん食わせてやるからなセイカぁ」
髪に顔を埋めるように頬擦りをしたが、セイカは左手で俺の顔を押し返した。
(塩対応萌え~)
今回俺は頑張ったんだぞと拗ねる気持ちもあるが、頑張ったからこそすげない対応に興奮する。興奮が強過ぎて苛立ちなんてほとんどない。毎日せっせと世話をしている猫が顔を踏みつけてくるようなものだ。可愛いし嬉しい。
「……しかし、そんなことでいつまでも兄様の身体が保つ訳もなく、兄様が弱っていくのが分かりました。母様に兄様の状態を報告しても母様のお言葉は変わらず、兄様がこのまま餓死してしまうのではないかと思ったその時……急に、外に投げ出されたような気がして、一瞬にして僕と世界が変わってしまったのです。母の叱責が、折檻が……途端に怖くなって」
ハムサンドを食べ終えたその手でホムラは自分の二の腕を強く掴んだ。
「…………身体が震えることも、言葉に詰まることも、今まではありませんでした。なのに今は怖いのが嫌で……兄様が死んでしまうのが嫌で……兄様が持っていらしたメモに書かれていらっしゃった番号に電話を致しました」
「……アレで覚えられたのかよ」
セイカとホムラいわく、退院時に迎えに来たホムラが荷物を片付ける最中、俺の電話番号をメモした紙を見たらしい。セイカはすぐにメモをホムラから取り上げたのだが、ホムラはその一瞬で電話番号を覚えたのだと。
「で、ほむらくんに電話もらって、住所教えてもらえたからセイカの家行ったんだ。その時はセイカ起きてたと思うんだけど」
「……分かんない。なんか鳴雷が家に居た覚えはあるんだけど、とうとう幻覚見えたのかなって……安心して眠くなって、幻覚って分かったのに安心するなんて俺ホントいよいよだなって笑えてきて…………気付いたらここに居た」
「その俺幻覚じゃないよ」
「…………うん」
「ごめんな、迎えに行くの遅くなって」
「うん……」
「約束守らせてくれ、一緒に暮らそう」
流れで「うん」と肯定してくれると思っていたけれど、セイカは何故か黙ってしまった。
「……セイカ?」
セイカはサンドイッチの最後の一口を食べ、しっかりと飲み込んでから俺の首に腕を回し、俺の耳元で小さく囁いた。
「………………二人になりたい」
「分かった。アキ、ほむらくん、ちょっと外すぞ」
二人が気まずくならないかは心配だったが、今はセイカを優先したい。彼の望み通り二人きりになるため、彼を抱き上げてアキの部屋を出た。
「テストの打ち上げ兼誕生日パーティで、昼から焼肉する予定でさぁ……みんなに買い物頼んでるから、家には何もないんだよな。母さんもうすぐ出かけて明日の朝まで帰ってこないし」
「……僕は今朝朝食を食べましたので、僕の分は必要ありません」
「大丈夫大丈夫、二人分の軽食くらい作れるって。ほむほむ包丁使える?」
「家庭科の授業で習いました」
「んー……うん、じゃあ大丈夫かな。食パンの耳切り落としてくれるか?」
八枚切りの食パンを四枚渡し、俺はハムとレタスと卵を冷蔵庫から出した。軽い塩味を付けた炒り卵を作りつつ、ホムラの様子を横目で見る。包丁の扱い方は教科書通りなので手を切る心配はなさそうだが、不慣れさが目に見えて分かる。
「耳切れたら半分に切ってくれ。三角形になるようにな」
フライパンに油を引き、切り離された食パンの耳に砂糖をまぶして揚げる。そうしつつホムラに円いハムを半分に切り、レタスをちぎり、食パンに挟むよう指示した。
「これはサンドイッチですね、見たことがあります」
「食べたことは?」
「ありません。値段と量が釣り合っていない気がして」
「まぁサイズで見るとそう思うかもだけどさ」
野菜と肉と穀物を一度に食べられる完全食なんだぞ、なんて適当なことを話しながら皿にサンドイッチと揚げた食パンの耳を乗せ、レイの部屋へと向かった。
「にーに、おかえりです」
「ただいま。アキ、ほらあーん」
「ん……? んんっ……! 甘い、です。美味しいです」
食パンの耳を一つアキの口に放り込み、机に皿を置いた。ホムラにハムサンドとタマゴサンドを一つずつ食べていいぞと伝え、セイカを抱き起こす。
「寝てるなぁ……起きて欲しいんだけど」
「だれー、です? ぼく、秋風・マキシモヴィチ・マールト、です。よろしくお願いします、です」
「そうそうほむらくん、アキは俺の異父兄弟だ」
「僕は狭雲 星炎です、よろしくお願いします」
「アキ、ほむら、せーか、弟」
単語だけの説明で理解してもらえただろうか?
「ほむーら? せーか、おととーです? おとーと、ぼく同じするです。ぼく、にーに、きょだいです」
「お兄ちゃん巨大じゃないぞー、兄弟な。ほむらくん、アキはハーフでさ、最近日本に来たばっかりでまだちょっと日本語が拙いんだ。話す時は簡単な単語使ってゆっくり話してやってくれ」
弟二人は今は放っておこう。人懐っこいアキのことだからホムラの反応が悪過ぎなければ仲良くしてくれるだろう。
「……セイカ、セイカ、起きてくれ。なぁ、セイカ」
床に座ってセイカを膝に乗せ、軽く揺する。キスをしたりくすぐったりしていると、彼は小さく呻きながら目を開けた。
「ぅ、ん……?」
「おはよう、セイカ」
頬を撫で、むにむにとつまむ。ボーッとしている様子のセイカに痺れを切らし、頬を少しだけ引っ張った。
「痛たっ……な、何」
「夢じゃないぞ、幻覚でもない。俺だ、鳴雷 水月だ」
「…………鳴雷? え……? えっ、こ、ここどこ。なんで鳴雷っ、鳴雷? え?」
「お前が寝てる間に攫ってきたんだ」
「は……?」
呆然としているセイカに気付いたホムラが傍に屈んだ。
「兄様、お目覚めになられましたか」
「ほむら!? お前っ、な……は? あぁ……ほむらが居るなら夢じゃないな、そんな夢見る訳ない」
何気に酷い発言だ。
「お腹すいてるだろ? ほら、サンドイッチあるぞ、食べるよな? セイカのためにさっき作ってきたんだ」
「……俺のために?」
ホムラに皿を取ってもらい、タマゴサンドをセイカの口元へ持っていく。セイカは素直にサンドイッチを齧り、その一口の小ささで俺をときめかせた。
「状況説明しないとだよな、セイカ。食べながらでいいから聞いてくれるか? あぁ……がっつくな、胃がびっくりしちゃうだろ」
躾を受ける前の犬のようにがっつくセイカの口とタマゴサンドの間に手を入れる。セイカがしっかりと咀嚼してから飲み込むのを確認したらその手をどかした。
「まず、セイカが退院する日……俺迎えに行ったんだけど、ほむらくんの方が早かったんだよな。ほむらくん学校休みだったのか?」
「あの日は期末テストがあり、いつもより早く下校しました」
「俺も期末テストだったんだけどなぁ……二時間だったのか?」
「はい」
ため息はつかないように気を付けながら、俺の膝の上で小さく収まっているセイカの頬を指の背で撫でる。
「で、俺セイカの家知らないからさ、迎えに行けずにいたんだ。病院でかなり粘ったんだけど個人情報がどうとかでさぁ……今通院なんだろ? 看護師さんに来る予定教えてもらってさ、待ってたんだ。でも夜中になってもセイカは来なくて……あの時はもう、セイカ死んじゃったんじゃないかって怖かったなぁ」
「申し訳ないことでございます。母様には伝えていたのですが、何故か兄様が外に出るのを許さず……」
「そこからはほむらくんのが詳しいよな?」
「はいっ、兄様はテディベアを──」
「そこは話さなくてもいいだろ。鳴雷、お母さんは将来のないゴミに飯食わせるのが嫌だった。俺は何日もほとんど食ってなかった、それだけだ」
テディベアを捨てれば食事を与えるという意味の分からない交換条件が提示されていたことは俺に伝えるつもりがないらしい、照れているのかな? 可愛い。
「ほむらがまずい水くれてたからそんなに弱ってはないけどな」
「まずい水って……」
「母様にバレないよう、母様が買い物に出かけた隙に、小麦粉や塩、砂糖など目測で減りが分かりにくい粉類を水に溶かして飲んでいただいていました。単なる水よりは栄養価が高いかと」
「ホントにまずそう……後でもっと美味いもん食わせてやるからなセイカぁ」
髪に顔を埋めるように頬擦りをしたが、セイカは左手で俺の顔を押し返した。
(塩対応萌え~)
今回俺は頑張ったんだぞと拗ねる気持ちもあるが、頑張ったからこそすげない対応に興奮する。興奮が強過ぎて苛立ちなんてほとんどない。毎日せっせと世話をしている猫が顔を踏みつけてくるようなものだ。可愛いし嬉しい。
「……しかし、そんなことでいつまでも兄様の身体が保つ訳もなく、兄様が弱っていくのが分かりました。母様に兄様の状態を報告しても母様のお言葉は変わらず、兄様がこのまま餓死してしまうのではないかと思ったその時……急に、外に投げ出されたような気がして、一瞬にして僕と世界が変わってしまったのです。母の叱責が、折檻が……途端に怖くなって」
ハムサンドを食べ終えたその手でホムラは自分の二の腕を強く掴んだ。
「…………身体が震えることも、言葉に詰まることも、今まではありませんでした。なのに今は怖いのが嫌で……兄様が死んでしまうのが嫌で……兄様が持っていらしたメモに書かれていらっしゃった番号に電話を致しました」
「……アレで覚えられたのかよ」
セイカとホムラいわく、退院時に迎えに来たホムラが荷物を片付ける最中、俺の電話番号をメモした紙を見たらしい。セイカはすぐにメモをホムラから取り上げたのだが、ホムラはその一瞬で電話番号を覚えたのだと。
「で、ほむらくんに電話もらって、住所教えてもらえたからセイカの家行ったんだ。その時はセイカ起きてたと思うんだけど」
「……分かんない。なんか鳴雷が家に居た覚えはあるんだけど、とうとう幻覚見えたのかなって……安心して眠くなって、幻覚って分かったのに安心するなんて俺ホントいよいよだなって笑えてきて…………気付いたらここに居た」
「その俺幻覚じゃないよ」
「…………うん」
「ごめんな、迎えに行くの遅くなって」
「うん……」
「約束守らせてくれ、一緒に暮らそう」
流れで「うん」と肯定してくれると思っていたけれど、セイカは何故か黙ってしまった。
「……セイカ?」
セイカはサンドイッチの最後の一口を食べ、しっかりと飲み込んでから俺の首に腕を回し、俺の耳元で小さく囁いた。
「………………二人になりたい」
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