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大・脱・出
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抱き上げたセイカの身体は以前よりも軽い気がした。セイカを抱き締めたまま窓の外へ飛び出した瞬間、心臓がバクバクと早鐘を打ち始めた。
(ヤバいヤバいヤバいヤバいこれ誘拐でわ!? 深夜徘徊不良少年から誘拐犯まで一気にグレードアップしちゃうんですかわたくし!)
どうしよう、セイカ……やっぱり部屋に戻そうかな。戻すべきだよな。
「……鳴雷。鳴雷…………大好き……」
小心者な俺の迷いを断ち切ったのは、セイカが眠る寸前に行った俺の胸への頬擦りだった。彼が今の俺を幻覚か夢だと思っていようと、現実だと分かっていようと、俺の行動が誘拐だろうと、救助だろうと、どっちでもいい、もうどうでもいい。
「…………俺も大好きだよ」
俺のセイカが、もう二度と会えないのかとまで思ったセイカが、腕の中に居る。今はただこれだけでいい。
「鳴雷さんっ……! あ、あにさま……返してくださいっ」
「……飯も与えないんだ、お前の母さんセイカいらないんだろ?」
「それは、分かりません……ですが、兄様が急に居なくなっても気にしないなんてことはありえません。僕……僕っ、兄様が死んじゃうの嫌で、助けて欲しくて……そ、それだけ、だったんですけど」
窓の向こう、部屋の中でホムラは酷く震えながら泣いている。
「……痛いの、嫌です……こ、こわい…………兄様、居なくなったら……僕、何聞かれて、何、されっ…………ぼく、どうなるんですか……?」
何を言えばいい?
そんな震えるほど酷いことはされないよ。
トイレに行った隙に逃げたとか言えば?
君はセイカより大事にされてるらしいし大丈夫。
知らないよ、俺が大事なのは君じゃないから。
どれを言えばいい。
「…………………………おっ、おいで」
「え……?」
「……っ、おいで!」
ホムラはまごまごしている。彼の本心はやはりセイカと共に地獄に留まることではなく、その先が未知の場所だろうと逃げ出すことだ。
「来い!」
ビクッと身体を跳ねさせたホムラは俺の手を掴み、窓から転がり落ちた。彼は慌てて窓を閉め、身を屈めながら俺を家の裏手から道へと案内した。
「……靴貸すよ。えっと、とりあえず俺の家に来てくれ。言い訳は……帰りながら考える。まずはご飯食べないとな」
靴を脱いで靴下でアスファルトを踏み締める。ホムラは素直に俺の靴を履き、俺の後を着いてきた。
「鳴雷さん、駅に着いたら靴を交代しましょう」
「いいよ、ほむらくん履いてな」
「……しかし、不公平です」
「俺は慣れてるからいーの」
中学時代、セイカに靴を盗まれたり隠されたりすることがよくあった。靴下越しのアスファルトの感触は懐かしい。
「それよりほむらくん」
「はい」
三年弱の地獄のような日々を作り出したセイカが今、腕の中に居る。俺が贈ったテディベアを大事そうに抱き締めて、俺の服を着て、無防備な寝顔を見せている。今俺が突然復讐心を蘇らせて車道へ放り投げたらどうなるんだろう? どうにもならないだろう、轢かれて終わりだ。あぁ……なんて可愛い、どうしようもなく興奮する、たまらなく愛おしい。
「お昼何食べたい?」
そんな緩い質問が来るとは思っていなかったのか、ホムラは戸惑っているようだった。何も思い付かなかったのか、遠慮しているのか、彼はどうしても食べられないものをいくつか挙げた。
「辛いのがどうしても苦手で、ジョロキアなどを使った料理は食べられません。あと……食わず嫌いなのですが、いなごの佃煮などの昆虫食も、すいません」
「食える人のが少ないよ。そんな特殊なの出さないから安心して。あ、セイカ何食べるかな……セイカのアレルギーとか分かる?」
「兄様にアレルギー等はないはずです」
電車を乗り継ぎ自宅の前まで帰ってきた俺は、家の中には入らず庭に回り込んでアキの部屋の扉をノックした。
《合言葉を言いな相棒、なんてな。待ってたぜ兄貴》
「おはよう、アキ」
《……お土産付きとは気が利くねぇ》
扉を開けたアキは俺の腕の中のセイカに驚いたのか目を軽く見開いていた。
「よっこいしょ。あー重かった……」
セイカを床に下ろし、クッションの上にタオルを敷いて枕代わりに使わせた。
「ほむらくん、既に気付いてるかもしれないけど、セイカと俺は友達じゃなくて、恋人同士だ」
「えっ!?」
気付いてなかったのか……頭が良いらしいけど、天然なのかな。
「うん……でな? 今母さんが家に居るんだけど、ちょっと問題があってセイカを紹介することは出来ないんだ」
「……そうですね、風潮は変わりつつありますが、受け入れるのが難しい方もいらっしゃると思います」
「ってことでセイカ隠すから、ほむらくん代わりに俺の彼氏として母さんに紹介されてくれない?」
「えっ……!? ぁ、同性愛が受け入れられないとかじゃなくて兄様が問題なんですか?」
「その理由は話すと長くなるからさ、とりあえず紹介されてくれ。アキの部屋にはご飯ないんだ、向こう行ってもらってこないと」
初対面の頃はもっとロボットっぽかったのになと思いつつ、少々表情が硬いだけの気弱で丁寧な美少年へと変貌したホムラを横目で見ながら玄関の扉を開けた。
(なんでしょうこの、無口キャラが人間味を帯びてって嬉しいやら寂しいやらみたいな……)
靴下を脱いで洗面台に投げ入れ、別の靴下を履く。
「……そりゃ破の可愛い感じとか、シンのじわじわ人間っぽくなってくるのも最高でしたが、やっぱり序のクールな感じとか好きですし、Qの「戻っとる!?」みたいな衝撃もなかなか」
「鳴雷さん……?」
「アニメで言えばやはり「三人目だから」の衝撃。あの関係がリセットされちゃった感じの悲しさというか絶望というかデストルドー」
「鳴雷さん、何のお話を……?」
「何の話と聞かれりゃそりゃ「何波派?」って話なんですが、私が好きなのは波じゃなくて流ですがって話な訳で……アニメの彼女が好きなんですよやっぱりねぇ? リアル女子には興味ないのにアニメだと割と女の子キャラも好きになるんですよな、いやそれでもエロい目では見れないんですが。つーか推しキャラとかってリアルだと関わりたくないタイプが多いことありません? これ全オタクに共感していただけると勝手に思ってんですが」
独り言を呟きながら洗面台で洗い終えた靴下を洗濯機に放り込み、ダイニングへ。
「ただいま、母さん」
「おかえりー。あ、こんにちは。水月の母です」
ホムラを見つけた母は俺の新しい彼氏だと思ったのかにこやかに挨拶をした。
「……鳴雷 水月様とお付き合いさせて頂いている星炎と申します。以後よろしくお願い致します」
丁寧な自己紹介を受けて母は一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐに「また面白い子を捕まえてきたわね」と笑った。
(ヤバいヤバいヤバいヤバいこれ誘拐でわ!? 深夜徘徊不良少年から誘拐犯まで一気にグレードアップしちゃうんですかわたくし!)
どうしよう、セイカ……やっぱり部屋に戻そうかな。戻すべきだよな。
「……鳴雷。鳴雷…………大好き……」
小心者な俺の迷いを断ち切ったのは、セイカが眠る寸前に行った俺の胸への頬擦りだった。彼が今の俺を幻覚か夢だと思っていようと、現実だと分かっていようと、俺の行動が誘拐だろうと、救助だろうと、どっちでもいい、もうどうでもいい。
「…………俺も大好きだよ」
俺のセイカが、もう二度と会えないのかとまで思ったセイカが、腕の中に居る。今はただこれだけでいい。
「鳴雷さんっ……! あ、あにさま……返してくださいっ」
「……飯も与えないんだ、お前の母さんセイカいらないんだろ?」
「それは、分かりません……ですが、兄様が急に居なくなっても気にしないなんてことはありえません。僕……僕っ、兄様が死んじゃうの嫌で、助けて欲しくて……そ、それだけ、だったんですけど」
窓の向こう、部屋の中でホムラは酷く震えながら泣いている。
「……痛いの、嫌です……こ、こわい…………兄様、居なくなったら……僕、何聞かれて、何、されっ…………ぼく、どうなるんですか……?」
何を言えばいい?
そんな震えるほど酷いことはされないよ。
トイレに行った隙に逃げたとか言えば?
君はセイカより大事にされてるらしいし大丈夫。
知らないよ、俺が大事なのは君じゃないから。
どれを言えばいい。
「…………………………おっ、おいで」
「え……?」
「……っ、おいで!」
ホムラはまごまごしている。彼の本心はやはりセイカと共に地獄に留まることではなく、その先が未知の場所だろうと逃げ出すことだ。
「来い!」
ビクッと身体を跳ねさせたホムラは俺の手を掴み、窓から転がり落ちた。彼は慌てて窓を閉め、身を屈めながら俺を家の裏手から道へと案内した。
「……靴貸すよ。えっと、とりあえず俺の家に来てくれ。言い訳は……帰りながら考える。まずはご飯食べないとな」
靴を脱いで靴下でアスファルトを踏み締める。ホムラは素直に俺の靴を履き、俺の後を着いてきた。
「鳴雷さん、駅に着いたら靴を交代しましょう」
「いいよ、ほむらくん履いてな」
「……しかし、不公平です」
「俺は慣れてるからいーの」
中学時代、セイカに靴を盗まれたり隠されたりすることがよくあった。靴下越しのアスファルトの感触は懐かしい。
「それよりほむらくん」
「はい」
三年弱の地獄のような日々を作り出したセイカが今、腕の中に居る。俺が贈ったテディベアを大事そうに抱き締めて、俺の服を着て、無防備な寝顔を見せている。今俺が突然復讐心を蘇らせて車道へ放り投げたらどうなるんだろう? どうにもならないだろう、轢かれて終わりだ。あぁ……なんて可愛い、どうしようもなく興奮する、たまらなく愛おしい。
「お昼何食べたい?」
そんな緩い質問が来るとは思っていなかったのか、ホムラは戸惑っているようだった。何も思い付かなかったのか、遠慮しているのか、彼はどうしても食べられないものをいくつか挙げた。
「辛いのがどうしても苦手で、ジョロキアなどを使った料理は食べられません。あと……食わず嫌いなのですが、いなごの佃煮などの昆虫食も、すいません」
「食える人のが少ないよ。そんな特殊なの出さないから安心して。あ、セイカ何食べるかな……セイカのアレルギーとか分かる?」
「兄様にアレルギー等はないはずです」
電車を乗り継ぎ自宅の前まで帰ってきた俺は、家の中には入らず庭に回り込んでアキの部屋の扉をノックした。
《合言葉を言いな相棒、なんてな。待ってたぜ兄貴》
「おはよう、アキ」
《……お土産付きとは気が利くねぇ》
扉を開けたアキは俺の腕の中のセイカに驚いたのか目を軽く見開いていた。
「よっこいしょ。あー重かった……」
セイカを床に下ろし、クッションの上にタオルを敷いて枕代わりに使わせた。
「ほむらくん、既に気付いてるかもしれないけど、セイカと俺は友達じゃなくて、恋人同士だ」
「えっ!?」
気付いてなかったのか……頭が良いらしいけど、天然なのかな。
「うん……でな? 今母さんが家に居るんだけど、ちょっと問題があってセイカを紹介することは出来ないんだ」
「……そうですね、風潮は変わりつつありますが、受け入れるのが難しい方もいらっしゃると思います」
「ってことでセイカ隠すから、ほむらくん代わりに俺の彼氏として母さんに紹介されてくれない?」
「えっ……!? ぁ、同性愛が受け入れられないとかじゃなくて兄様が問題なんですか?」
「その理由は話すと長くなるからさ、とりあえず紹介されてくれ。アキの部屋にはご飯ないんだ、向こう行ってもらってこないと」
初対面の頃はもっとロボットっぽかったのになと思いつつ、少々表情が硬いだけの気弱で丁寧な美少年へと変貌したホムラを横目で見ながら玄関の扉を開けた。
(なんでしょうこの、無口キャラが人間味を帯びてって嬉しいやら寂しいやらみたいな……)
靴下を脱いで洗面台に投げ入れ、別の靴下を履く。
「……そりゃ破の可愛い感じとか、シンのじわじわ人間っぽくなってくるのも最高でしたが、やっぱり序のクールな感じとか好きですし、Qの「戻っとる!?」みたいな衝撃もなかなか」
「鳴雷さん……?」
「アニメで言えばやはり「三人目だから」の衝撃。あの関係がリセットされちゃった感じの悲しさというか絶望というかデストルドー」
「鳴雷さん、何のお話を……?」
「何の話と聞かれりゃそりゃ「何波派?」って話なんですが、私が好きなのは波じゃなくて流ですがって話な訳で……アニメの彼女が好きなんですよやっぱりねぇ? リアル女子には興味ないのにアニメだと割と女の子キャラも好きになるんですよな、いやそれでもエロい目では見れないんですが。つーか推しキャラとかってリアルだと関わりたくないタイプが多いことありません? これ全オタクに共感していただけると勝手に思ってんですが」
独り言を呟きながら洗面台で洗い終えた靴下を洗濯機に放り込み、ダイニングへ。
「ただいま、母さん」
「おかえりー。あ、こんにちは。水月の母です」
ホムラを見つけた母は俺の新しい彼氏だと思ったのかにこやかに挨拶をした。
「……鳴雷 水月様とお付き合いさせて頂いている星炎と申します。以後よろしくお願い致します」
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