上 下
482 / 1,971

プール開きの日

しおりを挟む
日曜日を病院で使い切った翌朝、いつも通りの通勤通学ラッシュの電車の中で、俺はリュウの胸をまさぐっていた。

「……っ、ふ……ん、んんっ……!」

「声抑えろって」

先週イタズラで額に「肉」と書いたのだが、学校の中で鏡を見ることのなかったリュウはラクガキ顔のまま電車に乗って家に帰り、酷い恥をかいたらしい。
その怒りは土日を過ぎても収まることはなく、俺は許してもらうために痴漢プレイを──コイツ多分そんなに怒ってないよな? 好みのプレイをするために怒ってるフリしてたよな?

「ぁ、んっ……水月ぃ、ケツ触らんかったら痴漢ちゃうで」

「……ったく」

「ちゃんと痴漢やってぇやぁ、許したれへんで」

「…………次の機会あったら「中」って書いてやるからな」

カンナと合流するまで痴漢プレイは続き、リュウはすっかり発情してカンナと合流してからも俺の身体に擦り寄っていた。

「ち、かん?」

「してもらっとってん。ええやろ。もうちょい長ぅ大胆にしてもらいたかったんやけどなぁ」

「無理に決まってんだろ」

「せや水月、ハルとデート行ったんやんな。ヤったん?」

「普通にデートしただけだよ、夕飯前には帰った」

「なんやつまらんのぉ」

リュウは心底つまらなさそうにため息をついて俺にもたれた。電車内で俺は汗臭いサラリーマンの皆様に四方八方から押されているので、いい匂いがするリュウに密着されるのはありがたいことだ。

「そうだ、店長に相談してシフト変えてもらってさ、七月から水曜日休みになった。放課後デート出来るぞ」

「……! ぼ、く……と、して……く、れる?」

「当たり前だろカンナぁ~、どこ行くぅ? お家デートでもいいぞ」

「七月てもう三分の一は夏休みやんけ。普通休みにバイト増やさへんか?」

「夏休みは遊びまくる予定だから別でシフト弄ってる、連休も作ってもらったしな」

「ほーん……」

という話を後々合流したシュカにもした。

「七月からですか。分かりました、楽しみにしておきます。今週の土曜日は空いてますか?」

「あー……お見舞いやめたダメージ思ったより大きくてさ、休日はやっぱりセイカと過ごすことにしたよ。ごめんな。でも日曜日は二人きりにして、土曜日は他の彼氏連れてきていいってなったからさ、一緒にお見舞い行くか?」

「お見舞いですか……水月と一日中ヤりたかったんですが。考えておきます」

俺の誕生日の時にはセイカに会いたがっていた覚えがあるが、今回はあまり気乗りしていないようだ。時間が空いたせいで興味が失せてしまったのかな、シュカも結構な気分屋だ。

「それより今日は一時間目からプールですが、用意は持ってきていますよね?」

「もちろん」

先週の金曜日のホームルームに「来週から体育はプールになる」と教師に告げられ、もう少し前から日程を教えておいて欲しかったと思ったのは記憶に新しい。

「カンナは見学だっけ?」

「ぅ、ん」

「カンナの水着姿が見られないのは残念だなぁ。旧スク着たカンナが見たかったよぉ……あの股のくい込みと背中の露出具合が芸術品なんだよな旧スクは」

「ご、め……ね?」

俺の頭の中で女子用水着を着せられグラビアポーズを取らされているとも気付かず、カンナは俺を見上げて小首を傾げている。

「ぎゃんカワ……」

「プールかぁー、プールは好きやけど水泳は嫌やなぁ」

一時間目が水泳の授業なので教室には向かわず、直接プール横の更衣室に向かった。先に着いていたハルと合流し、水着に着替えた。

「みっつんやっぱ筋肉すごいね~、かっこい~」

「ありがとう。ハルは……なんか、目のやり場に困るな。ラッシュガードとか着ないのか?」

太腿の半分までの丈の、パンツ型のぴっちりとした黒い水着。男子のスク水の定番だ。観賞用として鍛え上げた肉体美を見せつけられるので俺が着る分には全く文句はないのだが──

「着ないよ~? 俺別に肌弱くないもん。あ、みっつんちゃんと日焼け止め塗ってきた~? 焼けちゃうよ~」

──ハルは、ダメだろ。ハルの水着は男子用じゃダメだろ!

「おっぱい丸出しじゃないか……! いいと思ってんのかそんなカッコして! ブラも着けなさいブラも!」

「え~何みっつんキモ~い」

女装男子のハルが何の躊躇もなく上半身裸で居るという異様な状況につい混乱してしまったが、この状況を異様と捉えているのは俺だけなのだと認識して落ち着きを取り戻した。

「俺男だよ~? そりゃスカート履くこともあるけどさ~、学校では女の子っぽいカッコしてないじゃ~ん」

確かにハルは俺達と同じ制服を着ている、スカートを注文していたりはしない。だが、時にはポニーテール、時にはツーサイドアップ、時にはハーフアップと様々な可愛らしい髪型を魅せ、授業中にメイクを始めることまであるのに、学校では『男』してますけど? という顔をするのはどうかと思う。

(いや男が男のまま髪伸ばすなメイクするなとか言いたい訳じゃないんですけどな)

一人称は俺だし、下着は男物だし、女の子扱いされたがる訳でもない。ただ自分に似合うからと女物の服を着ているだけで、それがハルだ。ハルが上半身裸で水泳の授業に参加するのは何も不自然じゃない。

「でもなんかダメぇ……ハルのおっぱい見ていいの俺だけなのぉ……」

「おっぱいおっぱい言わないでよマジでキモいんだけど」

「ガチトーンじゃん……ごめんなさい」

「リュウも上裸だよ、それはいいの?」

リュウは別に……と言おうとした口が固まる。リュウの胸を見て気付いてしまったのだ、女の子っぽいだけのハルが上半身裸でいることよりも、乳首を開発し終わっているリュウが上半身裸でいることのほうが問題だと。

「リュウぅ! おまっ、お前……そんなぷるっぷるの乳首晒すとか男子校舐めてんのか!」

「な、なんやの急に……」

「乳首だけおっぱいじゃないかこんなもん!」

「意味分からんこと言うな!」

俺がしたい羞恥プレイは他人に見られないギリギリを攻める類のもので、他人にジロジロ見られるようなのはしたくない。彼氏の恥ずかしい姿は俺だけが見たいんだと主張する俺の肩をシュカが叩く。

「何してるんですか、もう皆さんプールサイドへ行ってしまいましたよ」

気付けば更衣室には俺達四人しか居ない。他の生徒に奇声や奇行を見られなくてよかったと思うべきだろう。

「……お前はラッシュガード着てるのかよ!」

「は?」

シュカの上半身を包む黒い布を見て俺は思わず大声を上げてしまった。
しおりを挟む
感想 440

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...