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プール開きの日
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日曜日を病院で使い切った翌朝、いつも通りの通勤通学ラッシュの電車の中で、俺はリュウの胸をまさぐっていた。
「……っ、ふ……ん、んんっ……!」
「声抑えろって」
先週イタズラで額に「肉」と書いたのだが、学校の中で鏡を見ることのなかったリュウはラクガキ顔のまま電車に乗って家に帰り、酷い恥をかいたらしい。
その怒りは土日を過ぎても収まることはなく、俺は許してもらうために痴漢プレイを──コイツ多分そんなに怒ってないよな? 好みのプレイをするために怒ってるフリしてたよな?
「ぁ、んっ……水月ぃ、ケツ触らんかったら痴漢ちゃうで」
「……ったく」
「ちゃんと痴漢やってぇやぁ、許したれへんで」
「…………次の機会あったら「中」って書いてやるからな」
カンナと合流するまで痴漢プレイは続き、リュウはすっかり発情してカンナと合流してからも俺の身体に擦り寄っていた。
「ち、かん?」
「してもらっとってん。ええやろ。もうちょい長ぅ大胆にしてもらいたかったんやけどなぁ」
「無理に決まってんだろ」
「せや水月、ハルとデート行ったんやんな。ヤったん?」
「普通にデートしただけだよ、夕飯前には帰った」
「なんやつまらんのぉ」
リュウは心底つまらなさそうにため息をついて俺にもたれた。電車内で俺は汗臭いサラリーマンの皆様に四方八方から押されているので、いい匂いがするリュウに密着されるのはありがたいことだ。
「そうだ、店長に相談してシフト変えてもらってさ、七月から水曜日休みになった。放課後デート出来るぞ」
「……! ぼ、く……と、して……く、れる?」
「当たり前だろカンナぁ~、どこ行くぅ? お家デートでもいいぞ」
「七月てもう三分の一は夏休みやんけ。普通休みにバイト増やさへんか?」
「夏休みは遊びまくる予定だから別でシフト弄ってる、連休も作ってもらったしな」
「ほーん……」
という話を後々合流したシュカにもした。
「七月からですか。分かりました、楽しみにしておきます。今週の土曜日は空いてますか?」
「あー……お見舞いやめたダメージ思ったより大きくてさ、休日はやっぱりセイカと過ごすことにしたよ。ごめんな。でも日曜日は二人きりにして、土曜日は他の彼氏連れてきていいってなったからさ、一緒にお見舞い行くか?」
「お見舞いですか……水月と一日中ヤりたかったんですが。考えておきます」
俺の誕生日の時にはセイカに会いたがっていた覚えがあるが、今回はあまり気乗りしていないようだ。時間が空いたせいで興味が失せてしまったのかな、シュカも結構な気分屋だ。
「それより今日は一時間目からプールですが、用意は持ってきていますよね?」
「もちろん」
先週の金曜日のホームルームに「来週から体育はプールになる」と教師に告げられ、もう少し前から日程を教えておいて欲しかったと思ったのは記憶に新しい。
「カンナは見学だっけ?」
「ぅ、ん」
「カンナの水着姿が見られないのは残念だなぁ。旧スク着たカンナが見たかったよぉ……あの股のくい込みと背中の露出具合が芸術品なんだよな旧スクは」
「ご、め……ね?」
俺の頭の中で女子用水着を着せられグラビアポーズを取らされているとも気付かず、カンナは俺を見上げて小首を傾げている。
「ぎゃんカワ……」
「プールかぁー、プールは好きやけど水泳は嫌やなぁ」
一時間目が水泳の授業なので教室には向かわず、直接プール横の更衣室に向かった。先に着いていたハルと合流し、水着に着替えた。
「みっつんやっぱ筋肉すごいね~、かっこい~」
「ありがとう。ハルは……なんか、目のやり場に困るな。ラッシュガードとか着ないのか?」
太腿の半分までの丈の、パンツ型のぴっちりとした黒い水着。男子のスク水の定番だ。観賞用として鍛え上げた肉体美を見せつけられるので俺が着る分には全く文句はないのだが──
「着ないよ~? 俺別に肌弱くないもん。あ、みっつんちゃんと日焼け止め塗ってきた~? 焼けちゃうよ~」
──ハルは、ダメだろ。ハルの水着は男子用じゃダメだろ!
「おっぱい丸出しじゃないか……! いいと思ってんのかそんなカッコして! ブラも着けなさいブラも!」
「え~何みっつんキモ~い」
女装男子のハルが何の躊躇もなく上半身裸で居るという異様な状況につい混乱してしまったが、この状況を異様と捉えているのは俺だけなのだと認識して落ち着きを取り戻した。
「俺男だよ~? そりゃスカート履くこともあるけどさ~、学校では女の子っぽいカッコしてないじゃ~ん」
確かにハルは俺達と同じ制服を着ている、スカートを注文していたりはしない。だが、時にはポニーテール、時にはツーサイドアップ、時にはハーフアップと様々な可愛らしい髪型を魅せ、授業中にメイクを始めることまであるのに、学校では『男』してますけど? という顔をするのはどうかと思う。
(いや男が男のまま髪伸ばすなメイクするなとか言いたい訳じゃないんですけどな)
一人称は俺だし、下着は男物だし、女の子扱いされたがる訳でもない。ただ自分に似合うからと女物の服を着ているだけで、それがハルだ。ハルが上半身裸で水泳の授業に参加するのは何も不自然じゃない。
「でもなんかダメぇ……ハルのおっぱい見ていいの俺だけなのぉ……」
「おっぱいおっぱい言わないでよマジでキモいんだけど」
「ガチトーンじゃん……ごめんなさい」
「リュウも上裸だよ、それはいいの?」
リュウは別に……と言おうとした口が固まる。リュウの胸を見て気付いてしまったのだ、女の子っぽいだけのハルが上半身裸でいることよりも、乳首を開発し終わっているリュウが上半身裸でいることのほうが問題だと。
「リュウぅ! おまっ、お前……そんなぷるっぷるの乳首晒すとか男子校舐めてんのか!」
「な、なんやの急に……」
「乳首だけおっぱいじゃないかこんなもん!」
「意味分からんこと言うな!」
俺がしたい羞恥プレイは他人に見られないギリギリを攻める類のもので、他人にジロジロ見られるようなのはしたくない。彼氏の恥ずかしい姿は俺だけが見たいんだと主張する俺の肩をシュカが叩く。
「何してるんですか、もう皆さんプールサイドへ行ってしまいましたよ」
気付けば更衣室には俺達四人しか居ない。他の生徒に奇声や奇行を見られなくてよかったと思うべきだろう。
「……お前はラッシュガード着てるのかよ!」
「は?」
シュカの上半身を包む黒い布を見て俺は思わず大声を上げてしまった。
「……っ、ふ……ん、んんっ……!」
「声抑えろって」
先週イタズラで額に「肉」と書いたのだが、学校の中で鏡を見ることのなかったリュウはラクガキ顔のまま電車に乗って家に帰り、酷い恥をかいたらしい。
その怒りは土日を過ぎても収まることはなく、俺は許してもらうために痴漢プレイを──コイツ多分そんなに怒ってないよな? 好みのプレイをするために怒ってるフリしてたよな?
「ぁ、んっ……水月ぃ、ケツ触らんかったら痴漢ちゃうで」
「……ったく」
「ちゃんと痴漢やってぇやぁ、許したれへんで」
「…………次の機会あったら「中」って書いてやるからな」
カンナと合流するまで痴漢プレイは続き、リュウはすっかり発情してカンナと合流してからも俺の身体に擦り寄っていた。
「ち、かん?」
「してもらっとってん。ええやろ。もうちょい長ぅ大胆にしてもらいたかったんやけどなぁ」
「無理に決まってんだろ」
「せや水月、ハルとデート行ったんやんな。ヤったん?」
「普通にデートしただけだよ、夕飯前には帰った」
「なんやつまらんのぉ」
リュウは心底つまらなさそうにため息をついて俺にもたれた。電車内で俺は汗臭いサラリーマンの皆様に四方八方から押されているので、いい匂いがするリュウに密着されるのはありがたいことだ。
「そうだ、店長に相談してシフト変えてもらってさ、七月から水曜日休みになった。放課後デート出来るぞ」
「……! ぼ、く……と、して……く、れる?」
「当たり前だろカンナぁ~、どこ行くぅ? お家デートでもいいぞ」
「七月てもう三分の一は夏休みやんけ。普通休みにバイト増やさへんか?」
「夏休みは遊びまくる予定だから別でシフト弄ってる、連休も作ってもらったしな」
「ほーん……」
という話を後々合流したシュカにもした。
「七月からですか。分かりました、楽しみにしておきます。今週の土曜日は空いてますか?」
「あー……お見舞いやめたダメージ思ったより大きくてさ、休日はやっぱりセイカと過ごすことにしたよ。ごめんな。でも日曜日は二人きりにして、土曜日は他の彼氏連れてきていいってなったからさ、一緒にお見舞い行くか?」
「お見舞いですか……水月と一日中ヤりたかったんですが。考えておきます」
俺の誕生日の時にはセイカに会いたがっていた覚えがあるが、今回はあまり気乗りしていないようだ。時間が空いたせいで興味が失せてしまったのかな、シュカも結構な気分屋だ。
「それより今日は一時間目からプールですが、用意は持ってきていますよね?」
「もちろん」
先週の金曜日のホームルームに「来週から体育はプールになる」と教師に告げられ、もう少し前から日程を教えておいて欲しかったと思ったのは記憶に新しい。
「カンナは見学だっけ?」
「ぅ、ん」
「カンナの水着姿が見られないのは残念だなぁ。旧スク着たカンナが見たかったよぉ……あの股のくい込みと背中の露出具合が芸術品なんだよな旧スクは」
「ご、め……ね?」
俺の頭の中で女子用水着を着せられグラビアポーズを取らされているとも気付かず、カンナは俺を見上げて小首を傾げている。
「ぎゃんカワ……」
「プールかぁー、プールは好きやけど水泳は嫌やなぁ」
一時間目が水泳の授業なので教室には向かわず、直接プール横の更衣室に向かった。先に着いていたハルと合流し、水着に着替えた。
「みっつんやっぱ筋肉すごいね~、かっこい~」
「ありがとう。ハルは……なんか、目のやり場に困るな。ラッシュガードとか着ないのか?」
太腿の半分までの丈の、パンツ型のぴっちりとした黒い水着。男子のスク水の定番だ。観賞用として鍛え上げた肉体美を見せつけられるので俺が着る分には全く文句はないのだが──
「着ないよ~? 俺別に肌弱くないもん。あ、みっつんちゃんと日焼け止め塗ってきた~? 焼けちゃうよ~」
──ハルは、ダメだろ。ハルの水着は男子用じゃダメだろ!
「おっぱい丸出しじゃないか……! いいと思ってんのかそんなカッコして! ブラも着けなさいブラも!」
「え~何みっつんキモ~い」
女装男子のハルが何の躊躇もなく上半身裸で居るという異様な状況につい混乱してしまったが、この状況を異様と捉えているのは俺だけなのだと認識して落ち着きを取り戻した。
「俺男だよ~? そりゃスカート履くこともあるけどさ~、学校では女の子っぽいカッコしてないじゃ~ん」
確かにハルは俺達と同じ制服を着ている、スカートを注文していたりはしない。だが、時にはポニーテール、時にはツーサイドアップ、時にはハーフアップと様々な可愛らしい髪型を魅せ、授業中にメイクを始めることまであるのに、学校では『男』してますけど? という顔をするのはどうかと思う。
(いや男が男のまま髪伸ばすなメイクするなとか言いたい訳じゃないんですけどな)
一人称は俺だし、下着は男物だし、女の子扱いされたがる訳でもない。ただ自分に似合うからと女物の服を着ているだけで、それがハルだ。ハルが上半身裸で水泳の授業に参加するのは何も不自然じゃない。
「でもなんかダメぇ……ハルのおっぱい見ていいの俺だけなのぉ……」
「おっぱいおっぱい言わないでよマジでキモいんだけど」
「ガチトーンじゃん……ごめんなさい」
「リュウも上裸だよ、それはいいの?」
リュウは別に……と言おうとした口が固まる。リュウの胸を見て気付いてしまったのだ、女の子っぽいだけのハルが上半身裸でいることよりも、乳首を開発し終わっているリュウが上半身裸でいることのほうが問題だと。
「リュウぅ! おまっ、お前……そんなぷるっぷるの乳首晒すとか男子校舐めてんのか!」
「な、なんやの急に……」
「乳首だけおっぱいじゃないかこんなもん!」
「意味分からんこと言うな!」
俺がしたい羞恥プレイは他人に見られないギリギリを攻める類のもので、他人にジロジロ見られるようなのはしたくない。彼氏の恥ずかしい姿は俺だけが見たいんだと主張する俺の肩をシュカが叩く。
「何してるんですか、もう皆さんプールサイドへ行ってしまいましたよ」
気付けば更衣室には俺達四人しか居ない。他の生徒に奇声や奇行を見られなくてよかったと思うべきだろう。
「……お前はラッシュガード着てるのかよ!」
「は?」
シュカの上半身を包む黒い布を見て俺は思わず大声を上げてしまった。
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