冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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最高に楽しいデート

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俺はパスタを、ハルはケーキを食べながら、何気ない話に花を咲かせる。

「そういえばさ~、りゅーに肉ってラクガキしてたじゃん。アレ結局何にも言わなかったね~」

「家に帰ってから気付いたみたいでメッセ何通も来たぞ、見るか?」

「え~、見る見る~……あははっ! めっちゃ怒ってんじゃ~ん」

自分から他の彼氏の話を振るくらいだ、嫉妬心もないのだろう。今デートしているという優越感のおかげかもしれない。

「ケーキ美味いか?」

「うん! このベリー超いい、また来たいなぁ~」

「来ようよ。次のデートでも、その次でも、放課後にちょっと寄ってもいいし」

「……うん!」

カミアのライブに行くためにダイエットしていた頃と比べたら随分血色がよくなった。全体的な肉付きも心配より欲が勝つレベルになってきたし、何より美味しそうに食べる顔がイイ。

「みっつん手ぇ止まってるけどそれハズレだった?」

「あぁ、いや、美味しいよ。ケーキ食べてるハルが可愛すぎて見とれてた」

「……もぉ~」

「撮ってもいいかな?」

「え……ぅ、い、いいけどぉ……」

スマホを向けるとハルは慌てて前髪を整え、緊張した様子でケーキを一口食べた。

「ふふ、カメラ意識しないで、自然にしてくれよ」

「無茶言わないでよぉ~……」

「でも緊張しちゃってる顔もいいなぁ、超可愛い。あ、耳見せてくれよ、三日月撮りたい」

「パスタ食べなよぉ~……」

普段よりもゆっくりと昼食を食べ、最高に楽しい時間を過ごした。

「はぁ美味しかったぁ、みっつん次どこ行く~?」

「行きたいところあるか?」

「ん~……特にないかなぁ~」

僅かに首を傾げての仕草がたまらなく可愛い、撫で回したい。

「じゃあ、近所に自然公園あるからそこ行こう、湖が綺麗なんだってよ」

「へ~、下調べとかしてた感じ~?」

「デートなんだから当然だよ、お昼も何件か良さそうな店見繕ってた」

「え~? じゃあ次のデートはその店連れてってもらおっかなぁ~」

ハルの機嫌がますます良くなった。下調べをしていたのは印象がよかったようだ、聞かれなければ見えない努力のままにしておくつもりだったけれど、ハルに対しては努力を見せた方がいいのかな?

「わ……! ホント広い湖~! すご~い、知らなかったぁ~」

アクセサリーや服などの店に対してしかアンテナを張っていなかったのだろう、容易に想像出来る。

「湖面キラキラ光ってる……えへへ、いい景色」

「背景にして撮ろうか。こっち向いてくれよ」

「は~い」

ハルは柵に腰掛けて俺の方を向き、微笑んだ。

「……ん、OK。いいの撮れたよ」

「見せて見せて~、ってか送ってぇ~。みっつんとも写真撮りたいなぁ~」

今度は俺も隣に並び、腕を組んで撮影。

「ねぇねぇこれSNS上げてい~い? みっつんの顔は隠すからさぁ~」

「いいけど、こんな恋人感ある写真上げたら燃えないか?」

「あはっ、大丈夫大丈夫~」

ハルは俺の顔と自分の顔の半分をスタンプで隠すと『彼氏と公園デート♡』という文を添えてSNSに写真をアップした。

「……大丈夫なのか?」

「俺が男ってことはみんな分かってるし~、前からこういう偽投稿やってるからぁ~、みっつんも友達だって思われるから平気~」

「なるほど……偽ってどんな感じで?」

「俺の男物の服床に置いて『彼氏がまた脱ぎ散らかしてる』みたいな~」

「へぇ……」

楽しいのかな、それ。

「あ、ねぇねぇみっつん。ボート乗ろっ、ボート」

「あぁ、手漕ぎとスワンどっちがいい?」

「え~、スワンはちょっと恥ずかしいよ~。手漕ぎ手漕ぎ」

手漕ぎボートを借りて二人で向かい合って乗る。当然、オールは俺が持って漕ぐ。恋人らしいことが出来ている喜びで胸が温かくなった。

「……な~んか気持ちいいねぇ、ゆらゆらして、涼しい風来ててさぁ~」

「そうだな」

ハルは優雅に楽しんでいるが、漕いでいる俺はなかなか辛い。

(水って結構重いもんなんですな……)

顔に出るほどではないが、想像よりもオールを動かす労力が大きい。俺は進行方向に背を向けているので時折振り返らなければならないのも面倒だ。

「……ハル? どうした?」

景色を眺めて楽しんでいたハルが俺の腕を見つめているのに気付いた。

「へっ? ううんっ、なんでも……あ~、やっぱ言おうかなぁ。みっつん引かないよね?」

「引かないよ。どうしたんだ?」

「みっつんのねぇ、腕……カッコイイなぁって。筋浮いてるのすごいな~って。俺の腕とぅるーんってしてるからさぁ」

ハルの細い腕には筋肉の存在は感じられない。

「腕……こういう男らしいの好きなのか? 怖くなったりしないか?」

「ん~……みっつんのだからかなぁ、怖くない。もし俺が今ボートから落ちちゃったとしても、その腕で引っ張り上げて、寒くないかとか言って抱き締めてくれるんだろうなーって思ったらさぁ……えへへ、カッコイイよ」

「……鍛えててよかったよ」

ボートの上で作られた甘い雰囲気はボートを降りても続き、俺達は手を繋いだまま公園を歩いた。

「これ、桜の木っぽいな。もう二ヶ月くらい前なら見れたかも」

「だね~。来年も来ようよ」

「……あぁ、もちろん」

自然と来年も関係が続いている想定で話してくれたのが嬉しくて、手を握る力が思わず強くなる。しまったと慌てて緩めたが、今度はハルの方からぎゅっと握り締めてきた。

「はぁ……幸せだし楽しいし、デート最高だな」

「ね~。もっと頻繁にしたいなぁ」

「うん……」

こんなに楽しく落ち着いた休日はいつぶりだろう。セイカの見舞いを始めてからは大変だった、安全なコードを一本ずつ選んで切っていく爆弾処理みたいな緊張感がずっとあった。

「なぁ、ハル……」

セイカのことは好きだし、彼と居る時間も幸せで尊いものだけれど、昔の記憶に苛まれながら不安定な彼の相手をするのは本当に大変だ。

「なぁに?」

見舞いと同じくらいの時間を過ごしても、疲れるどころか癒されるハルとの時間が、俺を誘惑する。

「……明日、空いてないか?」

「明日~? ん~、空いてるっちゃ空いてるかな~。なんで?」

「…………明日もデートしたい。ハルと、一緒に居たい。ショッピングでも、公園でも、ゲーセンでも……ハルと居られたら楽しいし、幸せだから、だからハルとっ……過ごし、たい」

「……嬉しいけどぉ~、お見舞いいいの~?」

到着時間がいつもと違うだけで泣いたこともあるセイカが、行くと言っていたのに行かなかったら……二週間顔を見せなかったらどんな反応をするか、怖くて想像も出来ない。

「……………………ごめん。ダメだよなやっぱり」

「ダメって……みっつんの好きにしたらいいけどさ~……もしかしてお見舞い行きたくないの~?」

「…………そんなことないよ」

「行きたくないなら行かなくてもい~よ。その子も嫌々来られてもいい気しないっしょ。明日も俺とデートしよっ」

ハルは小指を立てて揺らした。約束の指切りをしようということだろう。

「…………」

小指を絡めたらセイカの見舞いをすっぽかしてハルと楽しいだけの時間を過ごすことが出来る。明日も今日みたいに楽しく……それはとてもとても幸せな日曜日になるだろう。
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