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デートの後に行く場所は
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心臓が跳ねる。鼻では間に合わず、口で空気を取り込む。肺が膨らんでは萎むのが分かる。脇腹が痛い。足がだるい。汗をかいたから髪が顔にべっとり張り付いて鬱陶しい。服の下も汗びっしょりで気持ち悪い。
「はぁ……はぁ…………ごめん、お待たせ」
疲れ果てた俺に驚いたのか、目を見開いている愛おしい彼氏に一歩ずつ近寄る。可愛らしい表情を見つめていると自然と微笑んでしまい、抱き締めると消毒液の匂いがした。
「…………鳴雷、どうしたんだよ」
「なに、が……?」
「いや……なんでそんな息切れてるんだよ」
「駅から、はぁっ……走って、きた……」
遡ること数時間前、ハルとのデートがあまりにも幸福で日曜日も同じように過ごしたいと考えていた。湖のほとりで日曜日のデートの約束を交わしそうになった。
「みっつん? やっぱお見舞い行く?」
「…………行きたく、ない」
「なんで~? 好きで行ってるんじゃないの~?」
「好きで、行ってるんだけど……セイカ、めちゃくちゃ不安定でっ、なんでもないことで怒ったり泣いたり、出てけって喚いたり帰らないでって喚いたり……正直、しんどくて」
「……その子のこと、好きなんだよね?」
「好き……なんだけど、ハルと居る方が楽しいから……」
「それは嬉しいけどさぁ~……その子と会うの一週間ぶりなんでしょ? 顔見たいよね、その子もきっとみっつんと会いたがってるよ。行かなかった方がみっつん後悔しちゃいそうだよ。しんどくなったらまた月曜日に俺が愚痴聞いたげるし、膝枕だってしたげるよ。一人で抱え込まなくたって……俺とかお見舞いに連れてってくれてもいいしさぁ……その子が落ち着いて、急に泣いちゃったりしないようになるまでの辛抱じゃん。一緒に支えたげよっ?」
「…………うん」
その後、公園に寝転がって早速膝枕をしてもらい、肉付きの悪い太腿の寝心地の悪さに萌えながら癒しの一時を過ごした。
日が落ち始めた頃、自宅に帰るというハルを見送り、病院に走った──という訳で今に至る。
「走ってきたってお前……」
「ちょ、ちょっと、待って……水、アキ、それくれ」
ベッド脇のパイプ椅子に座っていたアキはしぶしぶと言った具合の表情で炭酸ジュースを渡してくれた。病院の自販機で買ったのだろうか? 半分くらい一気飲みしてしまったし、帰る時にでも買って返してやろうかな。
「お前、今日……バイト、だったんだろ」
セイカには今日は急な仕事が入ったと嘘をついていたんだったな。正直にデート行ってましたごめんなさいと言ってしまいたい気分だが、それでスッキリするのは俺だけだ。嘘をつかれていたと知ったセイカは傷付くだらう、嘘を貫き通した方がセイカのためなのだ。俺は自分にそう言い聞かせた。
「……あぁ、バイトだった。何とか面会時間ギリギリに帰してもらえたよ」
「ふぅん……そっか、バイト大変だったんだな」
「セイカが恋しかったよ」
改めてセイカを抱き締める。細い身体は脱力しており、抱き返してはくれない。
「…………お疲れ様」
嘘をついているので労われると罪悪感が膨らむ。
「鳴雷……」
「ん?」
「…………俺も、その……こ、恋し、かった。鳴雷……が」
俺の腕の中で顔を赤らめたセイカを見て胸が苦しくなり、彼をより強く抱き締めた。
「ちょ、強……」
(あぁ~! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいでそセイカ様ぁ! かわゆいぃ……行きたくないとかセイカ様の相手しんどいとか言ってごめんなさいですぞ!)
旅行などの直前に急に行きたくなくなったことはないだろうか? アレと似ている。行く前は面倒臭くて嫌になるけれど、来てみると楽しいのだ。
(お見舞いサボってデートしてごめんなさいですぞ、バイトなんて嘘ついてごめんなさいですぞ! セイカ様ぁ……ふぉお、わたくしを見上げてらっしゃる、かわゆいゆいですな)
「鳴雷……痛いんだけど」
「ごめんなさいでそ!」
「でそ……?」
「あっ」
しまったと思うよりも先にセイカが笑った。
「……それ、懐かしい」
「気持ち悪いだろ……気を付けるよ」
「俺は好きだよ。変な話し方で、早口で話してるのを聞くの、好きだった。俺に楽しそうに話してくれるのなんか、お前だけだったから……すごく好きだったんだ、あの時間」
セイカはようやく俺を抱き返した。左手でシャツを掴み、右腕をぐりぐりと押し付けている。
「…………鳴雷、俺のこと好き?」
「へっ? あぁ、もちろん。大好きだよ」
「……やっぱり信じられない」
「えっ」
信じられないって「好き」がか? 確かに今の言い方は軽かったかもしれないけれど、そんなふうに言われるなんて……
「セイカ」
ちゃんと話そうと口を開くと、セイカは立てた人差し指を俺の口に押し当てた。喋るなと、そういうことだろう。視線で気持ちが伝わらないかとジト目をじっと見つめ返してみた。
「鳴雷……今日も俺、抱きたい?」
「い、いいのかっ? あぁ、すぐに! あっ……ご、ごめん、今日はローション持ってなくて」
ハルに外で手を出せるとは思っていなかったし、見舞いに来ようと思ったのもデート中だから、ローションは家に置いてきてしまっていた。
「いいよ、ガバガバなんだし……濡らさなくても入る」
「ダメだよ! 俺がセイカのお尻舐めっ、ぁー、面会時間もう十分もない……今日は無理かな。セイカ、明日まで気が変わらないでいてくれるか?」
「…………明日、来てくれんの?」
「もちろん!」
「……来なくていい。いや、来るなよ」
数分前に「恋しかった」と言ってくれたのに、数秒前にセックスをチラつかせたくせに、なんなんだ本当に、気分屋にも程がある。
「他の彼氏とデートでもしてた方が楽しいだろ」
「セイカ……前にも言ったけど、俺はセイカと居るの楽しいよ」
「…………嘘つき」
「嘘じゃない」
セイカは口を閉ざしたまま俯いている。
「……嘘じゃないよ、本当に……セイカと一緒に居たいから、少しでも長く顔が見たかったから、今日も走ってきたんだ。明日も来るから」
「………………来なかったら死ぬ」
「来るよ、生きて待っててくれ」
頬を撫でるとしっとりと濡れていた。病室の扉が開き、看護師が面会時間の終わりを告げる。
「すぐ出ます! じゃあな、セイカ、また明日。面会時間始まったらすぐに来るから、早まるなよ、待っててくれよ、必ず来るから」
「……うん、来てくれるの……信じてる。待つ……信じてる」
俺に言っているようにも、自分に言い聞かせているようにも聞こえる。やはり痛々しいセイカの頭を撫で、開いたままの扉へ向かう。
「ちゃんと信じてるからっ、もう疑ったりしないからっ、全部信じるからっ、鳴雷の言うことなんでも信じるからぁっ」
「あぁ、また明日! 寝たらすぐだよ、ばいばい」
縋るように言葉を投げてきたセイカに手を振り、扉を閉めた瞬間どっと疲れが溢れてため息をついた。
「はぁ……はぁ…………ごめん、お待たせ」
疲れ果てた俺に驚いたのか、目を見開いている愛おしい彼氏に一歩ずつ近寄る。可愛らしい表情を見つめていると自然と微笑んでしまい、抱き締めると消毒液の匂いがした。
「…………鳴雷、どうしたんだよ」
「なに、が……?」
「いや……なんでそんな息切れてるんだよ」
「駅から、はぁっ……走って、きた……」
遡ること数時間前、ハルとのデートがあまりにも幸福で日曜日も同じように過ごしたいと考えていた。湖のほとりで日曜日のデートの約束を交わしそうになった。
「みっつん? やっぱお見舞い行く?」
「…………行きたく、ない」
「なんで~? 好きで行ってるんじゃないの~?」
「好きで、行ってるんだけど……セイカ、めちゃくちゃ不安定でっ、なんでもないことで怒ったり泣いたり、出てけって喚いたり帰らないでって喚いたり……正直、しんどくて」
「……その子のこと、好きなんだよね?」
「好き……なんだけど、ハルと居る方が楽しいから……」
「それは嬉しいけどさぁ~……その子と会うの一週間ぶりなんでしょ? 顔見たいよね、その子もきっとみっつんと会いたがってるよ。行かなかった方がみっつん後悔しちゃいそうだよ。しんどくなったらまた月曜日に俺が愚痴聞いたげるし、膝枕だってしたげるよ。一人で抱え込まなくたって……俺とかお見舞いに連れてってくれてもいいしさぁ……その子が落ち着いて、急に泣いちゃったりしないようになるまでの辛抱じゃん。一緒に支えたげよっ?」
「…………うん」
その後、公園に寝転がって早速膝枕をしてもらい、肉付きの悪い太腿の寝心地の悪さに萌えながら癒しの一時を過ごした。
日が落ち始めた頃、自宅に帰るというハルを見送り、病院に走った──という訳で今に至る。
「走ってきたってお前……」
「ちょ、ちょっと、待って……水、アキ、それくれ」
ベッド脇のパイプ椅子に座っていたアキはしぶしぶと言った具合の表情で炭酸ジュースを渡してくれた。病院の自販機で買ったのだろうか? 半分くらい一気飲みしてしまったし、帰る時にでも買って返してやろうかな。
「お前、今日……バイト、だったんだろ」
セイカには今日は急な仕事が入ったと嘘をついていたんだったな。正直にデート行ってましたごめんなさいと言ってしまいたい気分だが、それでスッキリするのは俺だけだ。嘘をつかれていたと知ったセイカは傷付くだらう、嘘を貫き通した方がセイカのためなのだ。俺は自分にそう言い聞かせた。
「……あぁ、バイトだった。何とか面会時間ギリギリに帰してもらえたよ」
「ふぅん……そっか、バイト大変だったんだな」
「セイカが恋しかったよ」
改めてセイカを抱き締める。細い身体は脱力しており、抱き返してはくれない。
「…………お疲れ様」
嘘をついているので労われると罪悪感が膨らむ。
「鳴雷……」
「ん?」
「…………俺も、その……こ、恋し、かった。鳴雷……が」
俺の腕の中で顔を赤らめたセイカを見て胸が苦しくなり、彼をより強く抱き締めた。
「ちょ、強……」
(あぁ~! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいでそセイカ様ぁ! かわゆいぃ……行きたくないとかセイカ様の相手しんどいとか言ってごめんなさいですぞ!)
旅行などの直前に急に行きたくなくなったことはないだろうか? アレと似ている。行く前は面倒臭くて嫌になるけれど、来てみると楽しいのだ。
(お見舞いサボってデートしてごめんなさいですぞ、バイトなんて嘘ついてごめんなさいですぞ! セイカ様ぁ……ふぉお、わたくしを見上げてらっしゃる、かわゆいゆいですな)
「鳴雷……痛いんだけど」
「ごめんなさいでそ!」
「でそ……?」
「あっ」
しまったと思うよりも先にセイカが笑った。
「……それ、懐かしい」
「気持ち悪いだろ……気を付けるよ」
「俺は好きだよ。変な話し方で、早口で話してるのを聞くの、好きだった。俺に楽しそうに話してくれるのなんか、お前だけだったから……すごく好きだったんだ、あの時間」
セイカはようやく俺を抱き返した。左手でシャツを掴み、右腕をぐりぐりと押し付けている。
「…………鳴雷、俺のこと好き?」
「へっ? あぁ、もちろん。大好きだよ」
「……やっぱり信じられない」
「えっ」
信じられないって「好き」がか? 確かに今の言い方は軽かったかもしれないけれど、そんなふうに言われるなんて……
「セイカ」
ちゃんと話そうと口を開くと、セイカは立てた人差し指を俺の口に押し当てた。喋るなと、そういうことだろう。視線で気持ちが伝わらないかとジト目をじっと見つめ返してみた。
「鳴雷……今日も俺、抱きたい?」
「い、いいのかっ? あぁ、すぐに! あっ……ご、ごめん、今日はローション持ってなくて」
ハルに外で手を出せるとは思っていなかったし、見舞いに来ようと思ったのもデート中だから、ローションは家に置いてきてしまっていた。
「いいよ、ガバガバなんだし……濡らさなくても入る」
「ダメだよ! 俺がセイカのお尻舐めっ、ぁー、面会時間もう十分もない……今日は無理かな。セイカ、明日まで気が変わらないでいてくれるか?」
「…………明日、来てくれんの?」
「もちろん!」
「……来なくていい。いや、来るなよ」
数分前に「恋しかった」と言ってくれたのに、数秒前にセックスをチラつかせたくせに、なんなんだ本当に、気分屋にも程がある。
「他の彼氏とデートでもしてた方が楽しいだろ」
「セイカ……前にも言ったけど、俺はセイカと居るの楽しいよ」
「…………嘘つき」
「嘘じゃない」
セイカは口を閉ざしたまま俯いている。
「……嘘じゃないよ、本当に……セイカと一緒に居たいから、少しでも長く顔が見たかったから、今日も走ってきたんだ。明日も来るから」
「………………来なかったら死ぬ」
「来るよ、生きて待っててくれ」
頬を撫でるとしっとりと濡れていた。病室の扉が開き、看護師が面会時間の終わりを告げる。
「すぐ出ます! じゃあな、セイカ、また明日。面会時間始まったらすぐに来るから、早まるなよ、待っててくれよ、必ず来るから」
「……うん、来てくれるの……信じてる。待つ……信じてる」
俺に言っているようにも、自分に言い聞かせているようにも聞こえる。やはり痛々しいセイカの頭を撫で、開いたままの扉へ向かう。
「ちゃんと信じてるからっ、もう疑ったりしないからっ、全部信じるからっ、鳴雷の言うことなんでも信じるからぁっ」
「あぁ、また明日! 寝たらすぐだよ、ばいばい」
縋るように言葉を投げてきたセイカに手を振り、扉を閉めた瞬間どっと疲れが溢れてため息をついた。
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